その少年は、笑顔を失ったーーーー。
父親がおらず、物心付く前に母親が飛行機事故で亡くなってしまった。少年は当時、母親の妹である叔母に預けられており、事故に合わずにすんだのだが、母親を失った少年の心に傷を負った。そんな自分を、母の妹である叔母が引き取ってくれた。叔母と二人で見る向日葵畑が、少年は大好きだった。叔母のおかけで、少年は太陽のような笑顔を浮かべるようになったーーーーだが、少年の心に、更なる傷が刻まれた。
叔母が、病死したのだ。
少し前まで元気だった叔母が、突然に体調を悪くし、そのまま帰らぬ人となった。
ショックを受ける少年にとどめを刺すような言葉が、少年の耳に入り、心を傷つけた。
「お気の毒に・・・・」
「まだ若いのにな・・・・」
「あんな子を引き取ったから、疲れてたのね・・・・」
「母親処か叔母まで死んでしまうとは・・・・」
「疫病神よ。あの子がいると皆死ぬのよ・・・・」
「やめろ。聞こえるぞ・・・・」
「だって、気味が悪いわ・・・・あんな恐ろしい子供、引き取りたくないわよ」
「私達まで殺されてしまうわ・・・・」
葬儀に来ていた親戚や参列者から、心無い言葉の数々が、少年の心に大きく深い傷を作っていった。
後に、養父となる漫画家の男性『結城才培』がこう語った。
「ひでぇもんだったぜ。大の大人がよってたかって幼い子供にあんな言葉を吐くなんてよ。あんなのは漫画の中だけかと思ってたがな。まぁ、その後は大変だったぜ。いや、そんな肥溜めのような連中じゃねぇーーーー女房を止めるのがな・・・・」
養母となるファッションデザイナーの女性『結城林檎』は、叔母の小学校からの親友だった女性だ。
「アンタ達! よってたかった子供になんて事を言うのよ! アンタ達みたいな人でなし共が、あの子が大切にしていた甥っ子を侮辱するんじゃないわよっ!!」
養母は少年を中傷している参列者達を片っ端から殴り、叩き、蹴り、投げ、荒ぶる鬼神となっていた。
才培は妻を抑えながら、ちゃっかり参列者達を蹴ったりしていたが。
「アンタらみたいな人間のクズ共に、この子を任せられないわ! この子は私達が引き取るっ!!」
そうして少年は、『結城夫妻』に引き取られ、夫妻の娘である『結城美柑』の兄となった。
しかし、少年は自分の性を変えなかった。それは亡くなった母親と叔母との絆でもあるからだ。結城家の人達は少年の気持ちを汲んで、それを了承してくれた。
少年は自分を引き取り、家族として扱ってくれる結城家の人達に感謝し、笑顔を見せるようになった。
そして中学二年となった春頃ーーーー少年の日常が変わった。
遠い宇宙の『デビルーク星』からやって来た、王女『ララ・サタリン・デビルーク』。
その妹の『ナナ・アスタ・デビルーク』と『モモ・べリア・デビルーク』。
宇宙最強の殺し屋『金色の闇<通称ヤミ>』。
ヤミの妹『黒咲芽亜<通称メア>』。
ヤミとメアの生みの親『ティアーユ=ルナティーク』。
宇宙の闇医者『御門涼子』。
他にも王家の親衛隊隊長の『ザスティン』と他二名。
と、地球で言えば異星人達と出会った。
彼女達ーーーー主にララが引き起こす騒動に少年だけでなく、少年のクラスメート『西連寺春菜』と『古手川唯』まで巻き込まれ、ドタバタな日々を過ごしていた。
そして、中学最後の文化祭で、少年は歌合戦の出し物で、歌を披露した。
「♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」
その歌声に多くの人達が拍手喝采をあげた。そして少年の目の前に、ある人物が現れた。
「ブゥゥゥラボォォォォォォォォォォォォッ!! ユーの歌声はまさに太陽の如く熱く! 高く! そして眩しい輝きと可能性に満ちた歌声デェェェェェェェスゥっ!!」
そのハイテンションで怪しさ全開の人物は、『シャイニング早乙女』。
かつての国民的アイドルで、『早乙女プロダクション・社長』で、アイドル育成学校『早乙女学園・校長』だった。
少年・・・・一十木音也は、早乙女学園への入学が決まり、ララと春菜、唯も入学し、早乙女学園での生活が始まったーーーー。
◇
そして、入学して暫して、仲間にも恵まれながら月日が経ち、寮生活をしていた音也は土日の休みで、ララと一緒に実家の結城家に戻っていた。
「お兄ちゃん。今日の夕飯はヤミさんも呼んで、皆でタコ焼パーティーをするから、ヤミさんを迎えに行って」
「ああ、いいよ!」
その日の夕方。夕闇が世界を支配する時間帯。
美柑に頼まれ、ヤミを迎えに向かった音也は、日が暮れ始めた公園に立ち寄ると、ソコで驚くものを見た。
「ヤミ?!」
「っ、音也っ!? 何故ここにっ!?」
何と、ヤミが鋭い牙や角を付けた巨大な熊のような異形の怪物と戦っていたのだ。
ヤミは腕をハンマーに変えて、怪物を殴り飛ばし、距離を取って音也と合流した。
「ヤミっ! 一体なんなのコイツ! 別の星の異星人?!」
「イエ、おそらく異星人ではありません。気をつけてください音也。向こうに〈時空管理局〉の魔導師がいます」
ヤミに言われ、そこに目を向けると、少し離れた地点で、夜 時間となり、暗がりで顔は見えないが、変な衣装と杖、あんな格好をしているのは、『北都』の〈時空管理局〉の魔導師か、コスプレイヤーくらいだろう。
「何で『北都』の管理局が、『東都』に来ているんだろう?」
「それは分かりません。私も一十木家に向かっている途中、この怪物が突然現れて襲いかかってきたので、迎撃していました。そうしていたら、何故か管理局の魔導師までやって来たのです。おそらく、あの怪物の持っているカプセルが目的のようですね」
怪物の方を見ると、小脇に円筒のカプセルを2つ抱えていた。管理局の魔導師達はあれを取り戻そうとしているようだ。
「音也、ここは危険です。魔導師達もこの暗がりでは音也の顔は見られていないはずですから、逃げてください」
そう言ってヤミは両手を刃に変えて構える。人間と変わらない姿だが、身体の大半がナノマシンで構成されているヤミは自分の身体を変化させる事ができるのだ。
宇宙最強の殺し屋であるヤミであれば、そうそう遅れは取らない。正直、自分よりも全然強いと言うことは、音也も十分分かっている。だがーーーー。
「そんな事、できるわけないだろう!」
「なっ! 音也! あなたに何かあれば、美柑やプリンセス達が悲しみますよ!」
「それはヤミでも同じだよ! ヤミが傷つけば、美柑もララ達も悲しむに決まっているよ!」
「しかし・・・・!」
「俺だって、ヤミを守りたい! もう大切な人達を失うのはイヤなんだよっ! だから、俺にも翼をっ!!!」
音也が叫んだその時、怪物が抱えていたカプセルが、内部から光輝きだした。
「な、なんだ・・・・!」
「これは一体・・・・?」
『バ、馬鹿な! まさかここにいるのかっ!? 〈ライディーン戦士〉がっ!?』
熊のような怪獣、〈超魔バーサーカー〉も、驚いたような声を発したその時、カプセルが内部から破裂したように砕けると、中にあった『1枚の羽』が、音也に向かって飛んでいった。
ー魔導師sideー
「な、何が起こっているの?!」
「この光は?!」
《なのはちゃん。フェイトちゃん。聞こえとるか?》
時空管理局の魔導師、高町なのは。10年前から管理局の魔導師として素晴らしい実績を積み、『不屈のエースオブエース』と呼ばれる優秀な魔導師。
もう1人はフェイト・T・ハラオウン。管理局の執務官として素晴らしい実績を持つ魔導師。
二人に通信をしているのは八神はやて。若くして新たに設立された『機動六課』を設立し、その部隊長を勤める魔導師。
三人とも、幼い頃からの親友で、管理局でも数の少ない高ランク魔導師で、管理局の三大美女とも呼ばれる、美貌も実力も兼ね備えた魔導師だ。
だが、それだけの実力者達が一部隊に集められ、しかも友人関係で集められたとあれば、管理局内部から嫌な視線を集めてしまう。
それでも強引に機動六課を設立したのは、来るべき『脅威』に対抗する為だった。
今回は新人魔導師のティアナ・ランスター。スバル・ナカジマ。エリオ・モンディアル。キャロ・ル・ルシエと相棒のフリード。フォワード陣の初任務であった。
東都から北都への護送任務で、レリックと呼ばれる古代文明の遺産〈ロスト・ロギア〉と、“Eランクの〈ロスト・ロギア〉”を護送する簡単な任務だったはず。
最初は『ガジェット』と呼ばれる、『ネウロイ』と違った敵対勢力が現れたが、簡単に倒す事もでき、フォワード陣達の初任務も成功したように見えた。いざとなれば、なのはとフェイトが出れば問題なく終わるとさえ思っていた。
それが、突如現れた異形の怪物が現れ、レリックとEランク〈ロスト・ロギア〉を持って逃げ出したのだ。
なのはとフェイト、高ランク魔導師の二人が取り戻そうとして魔法で攻撃するが、二人の魔力弾は怪物の身体にバリアの膜でも張られているのか、まるで見えない壁に阻まれているのか受け付けなかった。
そうして追撃しているうちに、東都の住民街の公園で追い付いたと思えば、その場にいた、幼い頃のフェイトに容姿が似た女の子と、怪物が交戦していたのだ。
しかもその少女は、自分達の魔法が通じなかった相手と、手を刃や盾にしたり、髪の毛を刃に変えて戦いをし、怪物と互角に渡り合っていた。
得たいの知れない怪物と少女をどうしようかと思っていたら、何やら一般人の少年らしき人物が現れ、少女と何やら話をしていた。避難するように声を発しようとしたその時ーーーー。
突如として、Eランク〈ロスト・ロギア〉が、光を放ち始めた。
「はやてちゃん、あれって一体・・・・?」
《分からへん。せやけど、《八神部隊長!》 っ! どないしたんやシャーリー?!》
《〈ロスト・ロギア〉の反応が高くなっています!》
《何やて!?》
《現在、EランクからDランクに、いえCランク、Bランクにまで上がっています!・・・・いや、まだ上がり続けています!!》
「「《なっ・・・・!》」」
ロングアーチであるシャーリーからの報告を聞いて、はやてだけでなく、なのはとフェイトも驚愕した。
〈ロスト・ロギア〉の反応が高いと言うことは、それだけ危険性の高い物であるからだ。
なのは達が怪物に目を向けるとーーーーカプセルに入っていた〈ロスト・ロギア〉が、カプセルを砕いて飛び出すと、一般人の少年の元に飛んでいった。
ー音也sideー
音也の目の前に、 『一枚の羽』が輝きながら浮いていた。
「・・・・・・・・」
呆然と見つめる音也は、思わずその羽に手を伸ばすと羽から鋭い眼が開き、音也の頭に、自分と同じ声が響いた。
≪翼を求めるか?≫
「えっ?」
≪お前はあの魔獣、〈超魔〉と戦う宿命を背負うことになる。それでも、お前は翼を求めるか?≫
「・・・・欲しい。大切な家族を、大切な皆を守る! それが俺の望みだっ!」
≪ならば、この翼ーーーー〈ゴッドフェザー〉をその手に取れ! そして私と一つとなり、〈ライディーンイーグル〉となるのだっ! 一十木音也っ!!≫
「〈ライディーンイーグル〉・・・・!」
音也は〈ゴッドフェザー〉をその手に掴んだ。
そして、〈ゴッドフェザー〉が太陽と見間違えんばかり目映く光輝いた。
≪叫べ! 超者・降臨とっ!!≫
「ーーーー超者・降臨っ!!」
音也がそう叫ぶと、左手の甲に〈ゴッドフェザー〉が一体化し、瞳から光が放たれた。
〈ゴッドフェザー〉から血管のような管が音也の腕から全身に伸び、衣服が破れ、その身体が鋼に覆われた。
「うおおああああああっ!!!」
凄まじいまでの力の奔流が全身の、細胞の隅々にまで流れ込んでくる感覚に、音也は叫びをあげる。
鋼が全て弾け飛ぶと、音也の姿は変わっていた。
ーなのはsideー
「な、なにこの光っ!?」
「これって・・・・!」
「「「「っ!!!??」」」」
なのは達も、突然一般人らしき少年が光り出し、手で目を覆うが、その時、なのはもフェイトも、フォワード陣も、映像で見ていたはやてやロングアーチも、光の中で良く見えないが、光の中にいる人影を見て、驚愕した顔になった。
何故ならソコにはーーーー。
「て、〈天使〉・・・・!?」
その場にいた誰かが呟いた。
背中に光輝く翼を羽ばたかせるその姿は、美しくも神々しいその姿はまさにーーーー聖書やおとぎ話に出てくる〈天使〉のようだった。
《ロ、〈ロストロギア〉反応、『Sランク+』・・・・!》
シャーリーの言葉に反応する者は、1人も居なかったーーーー。
ー???sideー
「むっ?」
古風な少年は、寮の部屋で書道をしていると、左手が疼いたのを感じ、渋面を作って見据える。
自分にとって、“姉との絆”を引き裂いた忌むべき翼をーーーー。
ー???sideー
「ん?」
「どう致しました『・・・・』様?」
「いや、何でもないよ『・・・・』」
伊達男な少年は、バルコニーでお付きのメイドが淹れた紅茶を飲んでいると、左手が疼いたが、自分には関係ないと言わんばかりに気にしないでいた。
ー???&???sideー
「っ、『・・・・』ちゃん。今・・・・」
「あぁ。俺も感じた・・・・」
自主トレをしていた小柄な少年と、そのトレーニングの手伝いをしていた少年の親友である大柄の少年も、左手の疼きを感じていた。
ー???sideー
「・・・・っ!」
「『・・・・』くん。どうしました?」
「いえ、何でもありません。次の現場に行きましょう・・・・」
クールな雰囲気の少年が、車を運転するマネージャーにそう言うと、自分の左手を見て、ため息を吐いた。
“今の自分”には、余裕がないのだーーーー。
ー???sideー
「・・・・・・・・」
機動六課隊舎の屋上で、ソレは夜空を見上げ、これから始まる運命を見据えながら・・・・。
「・・・・にゃぁ」
と、一声鳴いた。
ーーーー今、新たな伝説の翼が羽ばたいた。