ひび割れる音がした。
砂色の景色。
そんな厳しくも寂しい何時も通りの光景に、亀裂が入った音だった。
「―― ! ―― たぞっ!!」
「あの ―― を! 遂に、俺らが ――!」
甲高い音。かちどき。
真ん中で爪をかかげた生き物がそれらに応え、ぐっとツノを突き上げた。
また甲高い音が鳴る。ずぅっと、鳴り続ける。
とても嬉しそうな音。楽しそうな音だ。
だけれども、自分の身体は重く鈍く。この身を持ち上げることすらも出来なさそうだ。
……力を入れた脚が、ずるりと滑る。腹が地面に押し付けられて、痛い。無理だ。もう、瞼を閉じてしまおうか。
「―― おい! こっちだ! 見てみろ、コイツ!?」
こちらへ近づいてきた音がする。目は開けない。開かない。
いつしか囲まれていたようだ。日を遮る影が、たくさんある。
「密漁ヤロウはこっちも目当てだったか。折角の一騎打ちだったってのに、後味の悪い……」
「道理で、王国側から単独を指名しての依頼が来たわけだ。まぁそれを逆手にとって、彼が名を挙げるための『狩猟』に仕立てさせてもらったがね」
「さて。コイツ……どうする?」
「どうするって……なぁ」
困惑の音。怪訝な音。害意の音が周りを囲む。
けんけんがくがく。力の入らない身体でただただ音を享受していると。
それらに割り入る静かさが、ひとつ。
「……ん、旦那?」
「―― 留め置け」
ちゃきん、と音がした。
澄み渡っては遠くまで響く、耳に残る音だった。
「お、おい。剣は構えなよ。いくらあんただって、丸腰じゃあ……」
「大丈夫だ。私にも相手にも、敵意は無い。この白刃は英雄の名を冠した。私の恋人が、そうと
最後に近づいたその生き物は歩みを止めず、そのまま寄って来ると……あたたかな手で自分の背を撫でた。
見たことの無い種類の獣だが、と前置いて。
「先のイッカクは孤高の竜だ。これは近縁ではあるまい。だとすれば、親が
さする指先に爪は無い。
堅くもなく、しっとりと汗ばんでいたが、不快にも感じない。
ちょうど目線の高さで腰の剣が揺れて、白く綺麗に輝いている。
「私は……私達は、むやみやたらに奪ってはならない。あくまでこれは『狩猟』なのだから。……これから『ハンター』という生業を名乗り、盛り立ててゆこうとするならば、この一線は越えてはならぬよ」
落ち着く声音で諭しながら、生き物は地面に膝を着く。
後ろの生き物たちを遠ざけると、鞄を漁り、自分の口元にいくつかの果実を落としてくれた。
太陽の様に黄色いの。花の様に赤色の。
そして、見たことの無い。鮮やかな、目に焼き付く、なんだこれは! ―― 頭上の空をかき集め輝かせた様な美しい色をした、果実。
「お前が肉と草のどちらを食むかは判らぬが。大型の獣らが喉を
「お優しいこった。……では、これは
「達者でな。とか僕らが言うのもまぁ、違う気はするな。ただ、もしも再び相対するのが『狩猟の場』だったなら。その時には運が悪かったって事でひとつ、宜しく頼みたいね」
「にしても獣、か。もっと妥当な呼称はないものか……いや、その辺りは俺らが決めるこっちゃあねぇか……」
音が遠のいてゆく。日が沈んで、身体の熱が抜けてゆく。
再びはっきりと目が覚めた時。自分はぽつねんとひとり、いつもの砂と
それから詳しくは覚えていない。ここはだだ広く、風が吹いては乾いた、厳しい地だ。ただただ生きてゆくことに必死だった。
……でも、それでも。
起きた瞬間にかぶり付いた果物の風味と苦さと。
初めて知った「青」という色の鮮烈な美しさと。
その生き物達が優しかったことだけは、覚えている。
――
――――
……それから幾つもの昼と夜、熱さと寒さとが過ぎ去って。
自分は今、ようやっと、その生き物の傍に立っていた。