最後の希望 ベテランウマ娘、8年目の地方転戦【完結】   作:兄萬亭楽丸

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閑話:図書準備室

レース場整備がいつもより早く終わったある日、スタッフに使い走りを頼まれた。

学園の図書室に過去数週間分の新聞を運んでほしいとのことだ。

 

各種レース場に併設する学園は一般の中高一貫校のような中等教育機関でもあるため、当然ではあるが各教科を学ぶための副教室も存在している。

ウイニングライブ練習室として常時開放されている音楽室・レース映像研究会が定期的に開催される視聴覚室は、設備の充実度だけならトレセン学園にも匹敵する。

一方、理科室・家庭科室など直接ローカルシリーズに関わらない科目についてはトレセン学園や通常の学校と比べるとかなり割りを食っている。

実験器具などの古い設備の買替えが進んでいないのもあるが、元々の教室が狭すぎるのだ。

 

これは図書室も例外ではなく、部屋の広さはどちらかといえば広めの休憩室で、読書スペースも大きな机が二つ並んでいるだけ。*1

図書委員も常駐はしているものの書籍の貸出を行っていないこちらでは、図書室の施錠管理といった役割が強い。

蔵書はレーススタッフ・トレーナー資格受講のためのテキストや各種法令に関する本、各地方のレース場の重賞レース記録といった実用的なもののみ。

現代はスマホなどの娯楽が充実しているため、そういった方面の書籍が増えることも今後ないのだろう。

 


 

「あっ、新聞…。スタッフの方ですネ。」

室内では図書委員と思しき生徒がただ一人、資格勉強らしきものを行っていた。

こちらが一瞥するとテキストを閉じ、ゆっくりと立ち上がる。おそらく膝を痛めているのだろう。

 

よくよく思えば、新聞を持ってきたはいいが図書室内に新聞の保管スペースがない。切り抜きでもするのだろうか…?

 

「…新聞はココじゃなくて、隣の準備室に置いてるんですヨ。鍵開けますね。」

 


 

図書準備室はあくまで蔵書の保管のためのスペースといった感じだが、想像と違い丁寧に手入れしてあった。

 

何より目につくのは、学園出身の子達が重賞を取った新聞記事が額をつけられ、壁いっぱいに飾られていることだ。

その中にはまだ比較的新しい、バルボアがジュニア重賞を取った際の記事も飾ってあった。

 

「聞いた話ダト、何十年も前から重賞とった子の新聞記事をこうやっテ額に飾ってるんですよ。スペースが足りなイから、大昔のはアソコみたいにアルバムにして直さざるを得ないンデスが…」

図書委員が指し示す先を見ると、私の生まれる前と思しき年代のアルバムもあった。

 

「偶に、偉い人……レース場の方の偉い人ガ来てですね、記事を眺めて帰るんですよ。玄関にG1のトロフィーとか記事はありマスし皆話題にしますけど、G2G3はたくさんあるから、みんな忘れてしまいますから。」

 

「偉い人、凄いですネ。昔の生徒が取った重賞、全部覚えテるんですよ。昔話もよく聞きます。例えばあそこの子は電車で切符をなくして、レースに出れなくなるところだったトカ…」

 

「でも、やっぱりG1取らせてあげれラナイの、いつも後悔してます。トレーナーとか、ウマ娘本人の実力とかもあるかもしれないけど、運営団体の長としてできていないことが多すぎる…ッテ。」

 


 

図書委員はスマホで開いた出走データと届けた新聞を交互に見やると後輩の重賞勝利の記事を見つけ、額装の準備を始めた。

 

 

 

「ワタシはもう競争引退したから取れないデスが、取れるといいですネ、G1。」

 

*1
偶にここでボードゲームの集まりが開かれるとか。




【登場人物】


・ヘイデン(Heiden)
高等部所属。アメリカ出身。学園に6人しかいない図書委員の一人(図書委員は日替わりで図書室に常駐する役割のため、競走現役のウマ娘がなることはない)。
中等部時代に中央デビューしたが朝日杯FS前に股関節・膝を痛め長期離脱。完治に一年以上掛かることになり、キャリア形成のため競争契約解除、トレーナーになることを決断。
その後、ローカルトレーナー実習生として当レース場に生徒兼サブトレーナーとして派遣。現在は並行してトゥインクルシリーズトレーナー資格取得のため勉強中。
終に着ることのなかった勝負服は、妹スミソニアイヤー(Smithsonian Year)に受け継がれることになる。
勝ち鞍:札幌ジュニアステークス(G3)※中央時代のもの



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