最後の希望 ベテランウマ娘、8年目の地方転戦【完結】   作:兄萬亭楽丸

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シスター・アクト

…お父様お母様、三女神様、未熟な私を導いてくださるトレーナー、いつも感謝しております。

 

 

 

お初にお目にかかります。私の名前はマリアークラレンス。

私に運命を感じてくれたトレーナーと共に獲得した二つめのG1タイトル"JBCクラシック"。レースを終え、これから勝利者インタビューに臨むところです。

周囲からは"聖母"と呼ばれ、私の名が報道に出てくる機会も増えてきました。過ぎた二つ名ではありますが、皆の期待を裏切らないよう今後も精進していきたいと思います。

 

 

──この度は勝利おめでとうございます。まだ気が早いですが、次走はどのように考えていますか?やはり年内3つめのG1タイトル(チャンピオンズC・東京大賞典)を狙いにいくのでしょうか?

「……特に考えておりませんが、トレーナーの指示に全て従うつもりです。私は名誉のために走っているわけではありません。偽善と取られても仕方ないですが、思いゆくまで強い相手と争い、走り続けたいだけです」

 

──ナイーブな質問ですが、ゴール直前にロッキンバルボア選手と接触があり、バルボア選手が失格になりました。負傷などはありませんでしたか?

「…簡易検査を受けましたが問題ありませんでした。今後についてはURA公式の裁定に全て従います。ただし選手・関係者に過度な非難が及ばないよう、何卒お取り計らいをお願いいたします」

 


 

「…トレーナー。着替え、大丈夫ですか…?」

『もう大丈夫だ。既に記者の方にはライブまで面会を断っている』

 

「ありがとうございます…」

 


 

 

 

ハァーーーーーッ………

 

 

 

 

「勝負服だと寝転がれない!トレーナー!これハンガーかけて!!!」

『…目の前で脱ぐな。せめて下着は隠せ!』

 

「…何よみんな肩ぶつかったくらいでシュンとして!そりゃちょっと痛かったけど!アタシが怪我なかったから別にいいじゃん!ロッキー?の皆さん葬式状態じゃない!」

『仕方ないだろう!?G1ウマ娘である以上、もう自分だけの身体じゃないんだ!それに俺だって相手方を心配してるんだよ!』

 

「たしかにアタシが怪我したらとても辛いけど、そういうサダメってコトでしょ?タックルならともかく、食ってかかるくらいの闘争心ある子がフォーム乱れるなんてある程度読んでたんだけど!?」

『あのなぁ!?パドックであれだけ揉めてたし、故意の可能性だってあったんだぞ!?』

「そんなことあるわけないでしょ!心配するのは怪我ないアタシよりロッキーさん側よ!これで向こうの競争人生に影響出てみなさいよ!可哀想すぎるわ!それに聖母のイメージ的にもよくない!…靴下脱げない!脱がせて!」

 


 


 

…皆様、お見苦しい姿を見せ誠に申し訳ありません。

 

 

 

お父様お母様、三女神様、猫被りの私を導いてくださるトレーナー、いつも感謝しております。

私の本性は怠惰の極みであり、辛うじて走る楽しみが有るからトレセン学園で何事もなく面目を保てているだけでして、もしトゥインクルシリーズが無ければ何も目的もなく食って寝て過ごしていたであろう、ほとほと他者からすれば迷惑なウマ娘なのであります。

 

この本性をお父様お母様に見抜かれた結果、全寮制の小学校でこのぐうたらを叩き直されました。お陰で外面(そとづら)が身に付き、無事トレセンでの学生生活に溶け込めております。感謝しております。

 

卒業の際は周りより走るのが速いという軽はずみな理由でトレセンに進学したものの、これと言った目標も理念もない私。やはり確固たる信念がないと能力も身に付かないのか、選抜レースでの結果はさほど振るいませんでした。

後に私を念入りに調査してくれていたトレーナーからスカウトを受け、二つ返事で契約。その時は特に考えがあるわけではなく、一刻も早くレースに出たいだけでした。

ただ私の怠惰な本性は見抜けなかったようで、バレた時はお互い契約解除も覚悟しました。その際のトレーナーの顔は生涯忘れられません。

 


 

しかし、トレーナーの手腕は本物でした。私が固まったバ群から抜け出す能力がないことを考え、先行策ではなく大外からの(まく)りを提案してきたのです。その為にシューズのメーカーを変え、蹄鉄の重量比を変え、腕の振り方を変え…

鍛錬の成果はすぐに出ました。追込の走り方が身についてからはとんとん拍子で勝ち出し、ジュニア級でまさかの地方重賞勝利。クラシック級での活躍は言うに及ばないでしょう。

 

ただ、周りが名前に掛けて聖母だのなんだの言い始めたのもこの頃ですが。お陰で世間様に対しては謙虚なキャラクターを突き通さないといけなくなって、内心嫌気がさしている次第です。人前では今のように寝転がることすらできません。

 

イヤ、でも、今の私が好き放題できるのはトレーナーのおかげです。感謝します。これだけは本当に。

 


 

JBCクラシックに話を戻します。

 

私への進路妨害で失格になったロッキーさんは…おそらく残っても心に傷を負うからでしょう、ライブ前に帰郷されました。

(おおやけ)に団体を介すよりは堅苦しくならないと判断し、彼女と同郷のマフィアみたいな勝負服のお姉様((筆者註: ラストスタンディンのこと))経由でお互い会話の場を設けたいと言う話をさせていただきました。

しかし、JBCクラシックの後はチャンピオンズカップ、東京大賞典。年が開ければ年度代表ウマ娘の各種表彰・取材。学力試験も控えていたため、とても場を設ける余裕はありませんでした。

 


 

──快挙!クラシック級にして三つのダートG1を勝利、"年度最優秀ダートウマ娘"の称号に相応しい!そこでっ!この機会に海外へ挑戦する気持ちはないだろうか!勿論!URAも全力でバックアップする所存だ!

 

年明け、表彰の場で海外遠征を奨励(しょうれい)されましたが、これは大人の事情も含まれているかもしれません。

私が取ったG1はいずれもローカルシリーズ管轄・地方開催。そのうえ、中央開催の貴重なダートG1のチャンピオンズカップでは醜態を晒してしまいました。

私をURAのダート代表として世界の実力者とも対等に戦えることを期待していると同時に、このままでは地方荒らしの悪名が広まりかねないと懸念して助け舟を出したのでしょう。

 

海外の強いウマ娘と共に競えますし、もとよりトレーナーの出走計画を全面的に信頼しているので断りはしませんでしたが…遠征の手続きが大変億劫(おっくう)です。

正直地方荒らしで十分構わないのですが、トレーナーはその辺りもしっかり考えてらっしゃるから従います。従いますとも。

 


 

「…トレーナー、理事長が言ってた海外レースっていつ?G1シーズン?」

『2月末にサウジアラビア*1、調子次第では3月末にドバイ*2といった感じだ。検疫や現地調整のことも考えて、遅くとも1週間前には現地入りする感じだな…』

 

「…もう来月!?じゃあ今月末の"川崎記念"は!?ロッキーとの再戦は!?」

『スケジュール的に厳しくなるから見送りだ。それにロッキンバルボアは出走登録自体していないな…』

 

「それロッキーさんに説明の機会取れないじゃん!やだよなんか逃げてるみたいで!早くコンタクト取ろ!ね!」

『そういうことはソファに寝転がりながら言うものではないと思うけどな!?』

 


 

紆余曲折を経てウマ娘・トレーナーによる面談の機会を得ることができまして、御二方にトレセン学園まで足を運んで頂きました。

(此方から出向くつもりでしたが、謝る側が出向くのがスジなので仕方ないですね)

 

 

 

『…改めまして、ロッキンバルボアの担当です。謝罪の機会を改めていただけましたこと、感謝します』

『遠路お越しいただきありがとうございます。今後また同じレースで走る可能性がある以上、此方としても(わだかま)りを無くしたいと考えていましたので』

 

今回はURAに対する問題解決のアピールが主で深い因縁があるわけではないため、話し合い自体は円満に終わりました。

だけど、トレーナーに連れられたロッキーさんの身体はレース時より二回りも小さく見えました。

それも、以前見せたように不貞腐れていたり、尖っているわけではなく、見えるもの全てに怯えている…そう思えました。

 


 

…二度に渡り、私と先頭を争ったあの覇気はどこに行ったのだろう。

 

 

 

…彼女は、私に何かを感じ、感情を剥き出しにしてきた"彼女"なのだろうか?

 

 

 

…彼女は、空想上の私をライバル視してまで倒そうとした"彼女"なのだろうか?

 

 

 

…こんなに怖がり、今でも涙を堪えているようなちっぽけなウマ娘一人に、私は余計な心配をかけていたのか…?

 

 

 

…ムカついた。

 

 

 


 

 

 

「顔を上げろ、ロッキー!!!!!!!」

 

 

 


 

『!?』

 

「謝罪したんだからもうJBCクラシックの件はおしまい!もうウジウジする理由はない!!!」

「第一、あの時はあんなに地方の意地だ地方の意地だ言っておいて!!!!ごめんなさいの後に挑発の一言も言えないその弱気は何!?アァ!?」

 

『……………は、はぁ…』

 

「いい!?正直に言うわ!私がJBCクラシックであなたの失格をある程度(かば)ったのは、"聖母"だからじゃない!ただ私にも非があったから!」

「それと、ジャパンダートダービーで戦って強い相手だと思った!そのあなたとまた全力で、蟠りなく再戦したかったから!分かる!?」

 

「トレーナー!年間出走予定!秋までに国内G1、あったよね!?」

『…ああ、5月の"かしわ記念*3"か、6月末の"帝王賞"』

 

「それ!……いい、ロッキー!?わたしは確かに"聖母"だし、"中央の代表"!けどね、周りが勝手に呼んでるだけ!私の本性はこれ!!!勝ちたいだけの、あなたと同じただのウマ娘!!!」

「地方代表なんでしょ!?私に喧嘩売りたいなら、また走りなさいよ!それに、私は全力のあなたと!もう一度競い合いたい!!!

 

『………!!!』

 

 

 

「ハァーッ… ハァーッ…」

「………失礼しました、育ちの悪いところをお見せしてしまい申し訳ありません。 只今のご乱心は、ご内密にお願いします」

 

 

 

『ふふっ…』

 

「あっ!?ロッキー!!今笑った!?笑ったな!?」

『…突然怒鳴られて、一人で告白されて!反応に困るんすよこの嘘つきシスター!』

「うそ、つき…ですって!?」

『なんなら今喧嘩売ってやるよ、嘘つき!ニセモノ!いい子ちゃんシスター!!!』

 

『落ち着けバルボア!』『落ち着けクラレンス!』

 


 

…あれから2ヶ月。

 

 

 

私がドバイで現地トレーニングを行う中、ロッキーさんからG3"マーチステークス"を勝ったとメッセージが届きました。

 

レース映像で一瞬映った顔つきは、"地方の代表"として私に牙を剥いたそのままの顔でした。

 

*1
メインレースとなるサウジカップはダート1800m。レースの設立はごくごく最近。

*2
メインレースとなるドバイワールドカップはダート2000m。過去にアグネスデジタルの他、スマートファルコンとエイシンフラッシュが出走している。

*3
船場レース場開催、1600m。帝王賞の優先出走権を得られるレースでもある。近年ではアグネスタキオンに縁のあるウマ娘が勝利している。




【登場人物】


・マリアークラレンス
本人は怠惰の極みと言ってはいるものの、ダンス練習や勉強など(おろそ)かにできない物事は理解しておりしっかりこなすし、寮同室の子にも完璧なお姉さん扱いされている。
トレーナーに甘えっきりではあるが、本性を出せないストレス故のものなので今ではある程度許容されている。ただトレーナー室にUmazonで布団を送りつけた際はこっぴどく怒られた。


・クラレンスの担当トレーナー
トレーナー学校時代にできた初めての元カノがこんな感じだったので、対応には慣れている。


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