最後の希望 ベテランウマ娘、8年目の地方転戦【完結】   作:兄萬亭楽丸

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閑話:バレンタイン小話

『トレーナー!!!見てこれチョコ!作った!』

『ん、そうか、バレンタインか…………バルボア!?これ作ったの!?上手だな!?』

 

フェブラリーステークスに向けた練習が忙しくすっかり忘れていたが、世間はバレンタインデー。

当レース場併設の学園は娯楽の幅に乏しい陸の孤島だが、トレーナーや友達同士での手作りチョコの渡し合いは規模は小さいものの例外なく行われている。

 

トレセン時代、不器用故に盛り付けが下手くそな私は同輩のミス・ダービー(ゴーンザウインド)に仕上げのトッピングを頼んでいた。

一方彼女は料理そのものが致命的にダメで、担当トレーナーもこの時期は苦労したらしい。

…一度好奇心で調理役と盛り付け役を交代したことがあったが、結果については語るまい。今ではいい思い出である。

 

 

 

レース明けの休日。すでにバレンタインは過ぎているが、まだまだショッピングモールでは関連商品を取り扱っているようだ。

練習にかまけて代表とトレーナーに送るチョコのことを全く考えていなかったが、せめて何か渡して感謝の気持ちを伝えたい。

(手作りではなく買って済ませようとするあたり、社会人になったなあとしみじみ思う)

 

トレーナーへのプレゼントにはネクタイを添えることにした。

東海ステークスを見に来たトレーナーのネクタイがかなりくたびれていたからだ。

 


 

学園内では"一応"チョコの受け渡しは禁止になっている。しかし授業時間外などに渡す分にはまったくお(とが)めはない。

元々校則を制定した時分では友チョコ文化は存在せず、トレーナーと担当ウマ娘の交際関係も今ほどは(おおやけ)にするのは難しい時代であったからだろう。

今では寮の売店では義理用のお菓子や普段目にしないようなそれなりに高いチョコを売っているし、食堂勤めの社員が主催する形でチョコ作りの体験会も行われている。

 

時代の流れに校則が追い付いていない一例ともとれる。

そもそも、学園には生徒会のような活動組織が存在しない以上、校則に異議を唱える手段は大きく限られる。

生徒会が存在しないため、文化祭・体育祭といった学園行事も行われない。企画運営を補助する組織がいないからだ。

校則に関しては思うところは皆あるものの、学園全体を思う程の信念のある学生はトレーナーやレーススタッフを目指すためトレセンに転属したり、そのまま専門学校に進学することが多い。

 

ごく一部の重賞を狙うようなウマ娘を除けば、実情として地方レース場併設の学園は一種の就職予備校に近い。

末端の地方レース場でも小学生以下を対象にした提携アカデミー組織などは最低限確保されている一方で、文武両道に長けた子を育てる土壌は整備されていないのが現状だ。

 


 

『…スタン。バレンタインデーのプレゼント届いたよ。わざわざ二つもありがとう。レース明けだし無理しなくてもよかったんだが、正直嬉しい』

『そういえば、今のトレーナーさんには何かあげたのか?お年を召されてる方だし、こういう抹茶のやつなら喜んでくれると思うんだが』

 

…トレーナーには悪いとは思いつつ、実は送ったチョコの片方はもともと代表にあげるつもりだったことを打ち明けた。

普段お世話になっているが代表には中々添えるプレゼントが思いつかず、年齢的に抹茶系のチョコであれば喜ばれるかと思ったが…

 


 

『担当を前に大変失礼とは思っていますが…今食べるのは控えてまして、お気持ちだけ受け取らせていただきます。甘いものは好きだったのですが、…………健康診断の結果が、大変、(かんば)しくなくてですね…』

 


 

『あ、あー… そんな御年か…』

代表もトレーナーもかなり無理をされているので、身体を労って欲しいものである。

 




【主な登場人物のヒミツ】


・「私」
料理のレシピで分からないことがあると、理解するまで完全に硬直するらしい。
・ゴーンザウインド
料理のレシピで分からないことがあると、自己解釈で物事を進めるらしい。



・ロッキンバルボア
小学生時代は家で料理を手伝っていた為、それなりにお菓子作りもできる。
砂糖と重曹だけで作れるお菓子「カルメ焼き」を飽きるまで作っていたらしい。

・デボチカ
トレセン学園時代、春の感謝祭でメイド喫茶的な奴をやっていたらしい。
そのおかげかチョコペンの扱いが上手。

・ブラインドフュリー
作るのは好きだが、チョコは後味があまり好きじゃないらしい。



・マリアークラレンス
バルボアからの話を聞くに、彼女トレーナー共に行事そのものを失念していたらしい。
2月~3月末は中東遠征中でそれどころではなかっただろうが、仮に遠征が無くてもチョコは作らないだろうな、とバルボアは邪推している。




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