最後の希望 ベテランウマ娘、8年目の地方転戦【完結】   作:兄萬亭楽丸

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ラストガール・スタンディング

『…お電話、変わりました。ラストスタンディン、です』

 

「……もしもし。お辛い中、御対応感謝します。マリアークラレンスです」

 

「賛辞の言葉はまた後程述べさせてください、まもなく最終第12レースが発走します*1。それが終わりしだい…(おおむ)ね一時間後にはライブが始まります。負傷した場合のウイニングライブ参加について、スタッフから説明が来たかと思います。私が伺いたいのは、貴女にライブ参加の意思があるかということです」

 

『ライブには…出たいです。ですが多くの方に、ご迷惑をおかけした手前、決断に時間が、欲しいです……』

 

「…….お気持ちに整理がつけば(よろ)しいんですね。では出てもらいます」

「人生の先輩に対し恐縮ですが、G1の先輩としてお言葉いたします。ウイニングライブは、ファンの皆様から得た想いを感謝の気持ちとしてお返しする場であったはずです。…脚がどうだろうと。声があります」

 

「それと、G1ライブのセンターの方には、サイリウムの色ですとか、ごくごく簡単な演出についての指示権が発生致します。担当トレーナーの方には先ほどお話しまして、許可を取りました。私が演出指示を代行します」

 

『…わかりました。お願い、します』

 

「それでは、担当トレーナーの方に代わってください。…まずは涙をお拭きになって、一時間後笑顔で会えますように」

 


 

ご挨拶が遅れました。マリアークラレンスと申します。

 

…"帝王賞"の結果については、語るまでもないでしょう。

ラストスタンディン(マフィアのお姉様)さんがゴール手前で競ったロッキンバルボアさんを差し切り。初のG1タイトルを手にしました。

 

しかし、そのお姉様当人がレース中に負傷されたとあり、ロッキーさんもお姉様のご対応で心を痛められているご様子でした。

そのため、御二方と関係者のご負担をなんとしても軽減しようと、演出指示権をお譲りいただいた次第であります。

 

 

 

指示権を得ようと思った理由は単純です。

 

ムカついたからです。

 

 

 

私は作戦でも負け、決め手勝負でも負けました。私の未熟さを痛感すると同時に…素晴らしい勝利でした。

 

怪我は仕方ありません。お姉様方の陣営の苦しみは痛いほどにわかります。

ただこの素晴らしい勝利に対し、当人・観客が心を曇らせた状態でのウイニングライブを行うことは許せなかった。

 

私の行動原理は単純です。

ライバルが、勝ち負け以外で悲しむ姿は見たくない。ただそれだけです。

 


 

 

『……控室戻った。もう素でいいよ、嘘つきクラレンス』

 

「わかりました…」

 

 

 

「ハァーーー………!つかれた…どっと疲れた…」

『疲れたも何も、どうせ床に寝て通話してるでしょ…電話で連絡してるのも勝負服脱いでるからで』

「はいはい否定はしません…その嘘つきクラレンスから、切る前に一つ言わせて」

 

「ライブでもその元気、お姉様に伝播(でんぱ)するくらい全開でいて頂戴。2着、おめでとう」

 


 

「皆様、ラストスタンディンさん及び担当トレーナーの指示により、3着の私が演出指示を行います。よろしくお願いいたします」

 

ウイニングライブの開催にあたっては、歌唱者の緊急事態に対したマニュアルも用意されています。

 

例えば歌唱対象が負傷者である場合、着座もしくは椅子に座る形での歌唱が認められています。

ですが、私とトレーナーさんの判断のもと、2着3着とも着席しての歌唱にしました。偽善ですが、せめて私も彼女の痛みを分かち合いたいと思ったからです。

 

本当はバックダンサーの皆様(4着以下の皆様)全員も歌唱する形にしたかったのですが、相談の上ストップがかかりました。

 

『あ、待って。そもそもウチ(大井)は16名全員歌唱に()える音響設備がないんよ。イベントブースから融通すればいけるかもだけど…』*2

『出走者全員でのコーラスは有馬で経験があるが、順位に関係ない声量や歌唱技術の偏りが出る。その上メインボーカル3人が着座する以上、メインの声量は落ちる。バックダンサーはダンスに徹した方がいい』*3

 

…正直、私も内心感情を抑えきれていない感じがありました。

そんな私に対し、(ことわり)を示して抑えてくださったバックダンサーの方々には頭が上がりません。

 


 

愚考ですが、マフィアのお姉様はおそらく相当な完璧主義を持たれているのではないかと推測しています。

 

自分の実力に自信があったから、(こだわ)りを捨てきれなかった方。

それでも拘り続けてきた目標のためには全てを投げ出す覚悟があり、実際に投げ出された方。

 

その覚悟のため、私と同じような偽りの外面(そとづら)をどこかに抱え、競走生活を行っていたのだとおもいます。

あらゆる責任を有耶無耶(うやむや)にし、はぐらかしてきた私ですら周囲の思いに応えなければならない、という気持ちはあります。

それが長年現役を続けられているお姉様の場合… おそらく私では耐えきれないほどの思いがあったからこそ、お姉様本人の意思とは別の()()として今日今まで現役の前線に立っているのだと思いました。

その思いを昇華するために、何としても、ウイニングライブを成功させたい気持ちがあったのでしょう。

 

 

 

悲しい方だと思います。そして、その重すぎる思いに報いた素晴らしい方だと思います。

 


 

ライブまで10分を切りました。

本日のセンターは、慣れないおぼつきではありますが無事松葉杖をついた状態で舞台袖にやってきました。

 

 

 

「……見違えましたね」

『…ご迷惑を、おかけしました』

 

 

 

「…賛辞がまだでした。この度は"帝王賞"、誠におめでとうございます。お姉様が満足するウイニングライブではないかもしれません。ですが…お姉様に何としても、ウイニングライブでセンターにいて頂きたかったのです」

「それはお姉様の長年の努力が…"傷を痛がって投げ出す程度の思い"ではないと思ったから」

 

『…本当に、ありがとうございました。どこかで、恩を返させてください。それともう一つ、私の我儘(わがまま)を聞いてくれますか』

 


 

 

どうか全力で射抜いてよ 瞳で私を

焼き付けていこう それは約束の進化系

 

傷を痛がって投げ出す 程度の思いじゃない キミは目撃者だよ

YES... UNLIMITED IMPACT

 

見せてあげる EVOLUTION

GO AHEAD... 未来DAYS!!!

 

 

 

ライブ終わりの挨拶で、お姉様から立った状態で一礼させてほしいとお願いされました。

バルボアさんが足元に置いた松葉杖を手渡します。

片手にマイク片手に松葉杖といういびつな姿勢ではありますが、力強く語りました。

 

『…ウィナーズサークルで、言えなかったことが、ありました』

『まだ、恩返しは終わっていません。もう(しばら)く、私は戦い続けます。 …次は、万全の脚で、G1のセンターに立って見せます』

 

 

 

拍手、歓声は、最後まで鳴り止むことはありませんでした。

 

 

 

「UNLIMITED IMPACT」。

きっと、この歌はお姉様のための歌だったのでしょう。少なくとも、今日だけは。

 


 

『秋のアメリカ遠征について、一から考え直そう。決して他のメンバーを舐めていたわけではないが…流石にここでも勝てないとは思わなかった。このままでは本番の"BCクラシック*4"も徒労に終わりかねない』

 

「私もそう思ってた。勝利のためならなんだってする、トレーニング計画から何まで、全て疑ってほしい。この夏を傷を舐め合うだけの夏にはしたくない」

『計画を立てるのに三日欲しい。夏は厳しくなるぞ』

「判った。合宿始まるまでに必要なものがあったら別途連絡して」

 

 

 

「…………それと、週末まで全休でいい?取材も全部拒否。人助けしすぎた。聖母つかれた」

 

『……まあ、今日はよくやったよ』

 

 

 


 

ローカルうまとめ@ローカルシリーズ情報

@local_series_umatome

【世代最後の希望、悲願のG1制覇!】

大井レース場開催のG1“帝王賞”を勝利したのは西都レース場所属のラストスタンディン!

トゥインクルシリーズ9年目にして社会人ウマ娘史上初、本人も念願のG1初勝利を成し遂げました!偉業達成、本当におめでとうございます!

 

 

 

ローカルうまとめ@ローカルシリーズ情報

@local_series_umatome

【次走予定】昨日のG1“帝王賞”制覇のラストスタンディンは都内病院での検査の結果、全治3週間の足首内反捻挫と診断。ロッキンバルボア(同2着)と共に次走は未定だが、中期目標として11月のJBCクラシックを目指し調整を行う予定(西都レース場公式発表より)。

 

*1
"帝王賞"は第11レース。

*2
トヨギクチハミザケ、7着

*3
ハマートゥフォール、5着

*4
11月初旬に開催される、アメリカウマ娘レース界最大のダート競争。




【登場人物】


・ラストスタンディン



未だ、彼女の競走生活に区切りはついていない。



勝ち鞍:帝王賞、弥生賞・オールカマー・東海S(G2)、新潟記念・マーチS(G3)




名前の由来は、ブルース・ウィルス主演のギャング映画「ラストマン・スタンディング(  LastMan Standing  )」。
またLast Standという単語自体が「最後の砦」「生き残り」などの意を指す。
FPSゲームなどをはじめとする多人数対戦型ゲームで、最後の一人になるまで戦う形式のゲームもラストマン・スタンディング形式と呼ばれる。



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