最後の希望 ベテランウマ娘、8年目の地方転戦【完結】 作:兄萬亭楽丸
『…姐さん。少し頼みたいことがあるのですが』『あはは…☆』
晩飯時。
いつもより機嫌の悪いブラインドフュリーと、その後ろで困った顔をしているデボチカ。フュリーに何か後ろめたさを感じているようだ。
『姐さんのお部屋って、相当広いんですよね☆…えーと、そのー。お菓子とか、欲しくないですか、なーんて…』
レースに向けた調整がピークを迎えている為直ぐには食べられないが、どうもデボチカのお願いは要領を得ない。
お菓子と部屋の広さには何か関係があるのだろうか?
『…デボチカさん、先週の休みにショッピングモールに行かれたらしくて。ゲームセンターのクレーンゲーム、ありますよね。そこでデボチカさん、景品の駄菓子をたくさん取ったみたいで』
『スーパーやコンビニに
『あきれるほどに。』
『取りすぎて店員からやんわり止められる程度に』
『私はお菓子全く食べませんし、デボチカさん一人で食べるのも限界です。同室の子に食べてもらってもなかなか減らなくて…』
スマホに映った写真には、デボチカの寮自室、ベッド半分を埋め尽くす大量の段ボールが写っていた。
当レース場生徒の寮は基本的に8人部屋。二段ベッドは部屋の片方一列に並んでおり、個人に与えられたスペースは各部屋に備え付けられた鍵付きロッカーとベッド上の空間のみである。
※二段ベッドと表現したが一般家庭で使われるようなものではなく、イメージとしては長距離フェリーや寝台列車の個室に近い。またそれぞれの部屋は比較的高く作られているらしく、ベッドに座った状態で腕を上げるくらいのスペースは余裕であるようだ
備え付けのロッカーは遠征用キャリーケースが入るほど大きいものであるとはいえ、流石にこれほどのおびただしい荷物に対応するほどのスペースはない。
また、練習用シューズや勝負服などはトレーナー室に預けている子も多いが… この感じではトレーナー室に置くことは断られたようだ。
後輩の頼みを無下にするわけにもいかず思案していたが… この日珍しく外回りだった代表がやって来た。
『…あっ、代表さんこんばんは☆お仕事ですか?』
「デボチカさん、こんばんは。市議会に出席していました。以前から進めていた、寮の増設工事の許可がようやく下りることになりましてね」
『寮の増設!?☆』
トレセン学園は理事長が出費を惜しまない人物らしく、本人の裁可を仰げば比較的スムーズに新規設備の導入やイベント開催ができるようだ。
(社会人になって改めて考えると、トレセン学園の生徒会は理事長のワンマンぶりを抑えるための機関なのではないかと思えてきた…)
一方で地方レース場の多くは自治体公営のため、施設の増改築には自治体や市民の認可が必要なのだ。
「今の寮が建って25…もうすぐ30年になりますが、建設当時より学園の生徒も増えかなり手狭になってます。デボチカさんやフュリーさんも不便に感じているところがあるかもしれません。それで新しい寮を建てて受け入れる生徒数を増やしたり、今の寮を4人部屋にする代わりに広い個人スペースを設けよう… そういう話になりました」
『えっ☆☆☆ほんとですかすごい!そ、それっていつ建てはじめるんですか!?あした!?明後日!?』
『そんなすぐ建つものではないと思いますが…』
「建設開始は…そうですね、
「市議会の内容はネットでも見れますし、生徒の皆さんに伝わっても問題ない情報なのでお話ししますが…」
…簡単に言えば、今は"意見を聞いた結果、自治体にはこの施設が必要だと分かったので、建設をしよう"、という結論が下りた状態である。*1
これからは建設候補地を決めることになる。今回は寮の近隣になるはずなので比較的すぐに済むと思われる…が、建設に向く地盤がなかったりする場合は別の場所を探さないといけない。そうなると、当然ながら期間は伸びる。
並行して、自治体・必要とする業者(ここではレース場)・専門家と会議を行い、寮に必要な大まかな機能などをすり合わせる必要がある。
例えば「何人規模の寮にするか」「防火設備などの法律上必要な設備は抜けていないか」「決めた予算で足りるか」… 様々な専門家と相談しながら、
この間に新たな問題が浮上すると(例えば自治体の要望で付けてほしい設備が増えた、など)、これまた打ち合わせが増える。
ここまで議論を進めてようやく、施設の詳細設計や建設を担当する業者の選定に入る。
予算や期間などの条件を提示してもらい、最も良い条件を提示した業者に建設を依頼するのだ。(いわゆる入札)
施設の内装や電気設備などの詳しい設計については、自治体などと改めて議論を行うこともあるらしい。
いざ寮の建設が始まるとなると、レース場近隣には当然工事関係の車両が出入りすることになる。
工事場所によってはレース場の駐車場が使えなくなったり、公道をふさぐことになるかもしれない。当然これらの手続きも必要だ(こういった手続きは工事業者が行うようだ)
いざ工事が始まるとしても、生徒たちの授業やレース、ウイニングライブの邪魔にならないような工事スケジュールの打ち合わせも必要になる。
…これらの手続きがすべて終わってようやく、本当にようやく、
学生では想像がつかないかもしれないが、基本的には施設の建設そのものより建設に関する手続きのほうが長い… とのこと。
『寮が広くなったら段ボール全部置けると思ったのに…☆ 流石に完成より私が卒業するほうが早いよね…へへへ☆』
『…私は今年度で卒業しますから、デボチカさんは寮の完成まで卒業を延期されては?』
『ヤダー☆卒業するより先にハタチになっちゃう☆』
…二人の目の前には、成人でトレセンを卒業した
【主な登場人物のヒミツ】
・「私」
後輩に一番ウケるのは「年を取るにつれ、ある時期から急に太りはじめる話」。
・ゴーンザウインド
家事全般が余りにも下手なので、ドリームトロフィーリーグ引退を期に料理教室に通い始めた。
・ロッキンバルボア
小さい頃の将来の夢は、ペットショップで働くこと。
・デボチカ
勝負服は白一色だが、好きな色はオレンジ色。
・ブラインドフュリー
実は、独学でタップダンスを学んでいる。
・マリアークラレンス
皆のイメージを壊さないように、間食はトレーナー室の中で行う。