最後の希望 ベテランウマ娘、8年目の地方転戦【完結】   作:兄萬亭楽丸

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エピローグ:Stand By Me【後】

 

──市営バスをご利用いただき、ありがとうございます。次は"レース場南"、西都レース場・ローカルシリーズ開催日は次の"レース場正門前"からお降りください…

 


 

一週間にわたる関東出張を終え、西都レース場への帰還を果たす。

事務所は週末の"サマーレジェンドカップ"に向けた準備で慌ただしい。

 

 

 

出張の終了と業務報告を終えた私はタイムカードを記帳し、練習用グラウンドに向かう。

既に陽が落ち切っていることもあり殆どの生徒は練習を終えたようで、グラウンドに向かう私とすれ違うように寮や食堂に向かっていく。

残るのは週末のレースを控え追い切りを行う数名のウマ娘、書類・情報端末を片手に彼女らを見守るトレーナー達だけだ。

 

その中に一人見慣れた後姿が見える。整えられた髪型が、一人周囲の中で浮いているように見えた。

他のトレーナーに交じり情報のやり取りをしていた彼は、私に気付くと真っ先に向かってきた。

 

かつての私のトレーナーだ。

 

 

 

 

「…"嫁さんが来たから構いにいってやれ"って話を打ち切られてしまった」

先輩トレーナーらの(いじ)りに苦笑いしつつ食堂に向かう。惚気話(のろけばなし)にはおおよそ合わない場所だが、今の私達にはここくらいがちょうどいい。

 

彼は引き続きトレセン学園でサブトレーナーを務めている。新年度になって、彼も新たに一部のウマ娘の指導を請け負う立場になった。引退式典での告白が各所に知れ渡ったこともあり、生徒やレース場関係者からは公認カップルのような扱いを受けている。

…といってもトレーナーが来た目的はデートではない。あくまでトレセン学園に所属するトレーナー(指導者)としての正式な業務である。

 

 

 

「本人や親御(おやご)さんとも話をして、日取りも決まった。週明けから数年ぶりの担当持ち(専属トレーナー)になる」

 

"西都皐月賞"・"西都ダービー"を勝った、西都レース場次代のG1候補であるラショウエフェクト。

この度彼女の中央(URA)移籍が決まり、彼が移籍後の担当トレーナーになることに決まったのだ。

 

 

 

ラッシュ(ラショウエフェクト)を担当するチーム"ギリアム"の担当は、彼女に対して先輩・バルボア並の潜在能力を見出している。バルボアは事情があって西都一筋(ひとすじ)で走ることを望んだらしいが、ラッシュは対照的に中央転戦を望んでいた」

「そこで運よくスタンの引退ライブに来ていた俺に、チーフトレーナーから話が来た。ありがたい申し出だったが、双方こういった経験に乏しくノウハウは無い。両陣営慎重を期して、体験入学、情報交換を重ねた」

「気になっていた大舞台での走りも、"JDD(ジャパンダートダービー)"でよくわかった。URA・南関東勢に交じって4着… ダート路線の主戦場・2000なら十分やれるだろう」

 

「そしてこの週末(サマーレジェンドC)が西都所属では最後のレースになる。陣営としては、気持ちよく勝たせてURAに送り出したいだろう」

 

 

 

トレセン学園から毎年各地方レース場への転属があるのとは逆に、地方から中央への転属には幾らか制約がある。

所属元でトップクラスの能力があったとしても、当然ながらトゥインクルシリーズでも活躍できるとは限らない。転属したトレセン学園で中々成果を出せずに元居た地方に戻す、といったことはレース場・スタッフ・ウマ娘本人全てが不幸になりかねない。

そういったことを極力なくすため、ローカルシリーズからの転属には高いハードルを設けている。競走能力の他にも学力試験等を設け、競走生活外でもトレセン学園への適性があるかを見極めるためだ。

 

それでもラショウエフェクトはその試験をパスした。そこに至るまでには、レースとはまた別の努力があったことは想像に難くない。

 

本人のことを詳しく知っているわけではない。バルボアやデボチカのように西都に残ってG1タイトルを目指すという選択肢もあったかもしれない。インタビューなどの発言を聞く限りは、彼女らに対するあこがれは相当あるのだと思われる。

それでもトレセンへの転属を選んだのは… 並々ならぬ決意ゆえだろう。

 

 

 

「…縁に恵まれたんだろうな。正直、スタンと共に"日本ダービー"に出た時よりプレッシャー掛かってるさ。俺が何かしたわけでもなく、こんな素質ある子を任されて『G1の夢を見させてくれ』って頼まれて。何より託された子が、スタンに劣らない才能を持ってるのが恐ろしくてたまらないんだ。…でもそれ以上に"俺がやらなければならない"という使命感に燃えている」

「この子に夢を見させてあげるのが今の俺の使命だ。もしダメなら…トレセンを去るくらいの覚悟でいる」

 

トレーナーの瞳は、かつての私とクラシック三冠に挑み始めたときの様な輝きを取り戻していた。

 

「私」と叶えられなかったG1勝利の夢を彼女を通して叶えることで、いくらかでも私に対する罪滅ぼしをしたいようにも感じた。

…だがそれ以上に、才能あるウマ娘を託された、トレーナーとしての本能が上回っているのだろう。

 

トレーナーにこれだけの決意をさせるほどに至った彼女(ラショウ)に内心嫉妬(しっと)しながらも、私のG1勝利の夢を果たせずに苦悶(くもん)していた当時から立ち直ったトレーナーの姿を見れたのが嬉しかった。

 

 

 

 

 

"そういえば、ダービー(ゴーンザウインド)()()()()ですって"

「ああ、トレーナー仲間からもその話が回って来た。向こうはチームを率いてるから、既に育休取った後の割り振りも考えてるそうだ」

ゴーンザウインド(Gone The Wind)

主な勝ち鞍:日本ダービー・宝塚記念・天皇賞(秋)

 

合同引退ライブを最後にメディアの表舞台からは姿を消したが、「私」等同世代を走った仲間とは普通に連絡を取り合っている。翌年春、無事ウマ娘のママになった。

…ママになってからは『スタンもトレーナーと身を固めなさいよ』と余計な茶々を入れられることも増えた。

 

 

"私達も()()()()考えないといけないときが、来るのかもしれない"

「…でもその口ぶりは、どうでもいいようにしか聞こえないな」

 

心が通じあったとはいえど、少なからず九州・関東を隔てた今の関係が好ましい恋愛関係であるとはお互い思っていない。いずれ家族として結ばれることを望んでいる以上、どちらかが地元で働くことを諦めもう片方の許で暮らす必要があるだろう。

 

しかし、今の私達にそのような選択を獲る気持ちは微塵もなかった。

 

"昔から、お互い大事な問題は後回しにする性質だと思う"

「トレセン卒業の時もそうだったな。結局俺が転属を口に出せたのも二十歳過ぎてからで…」

 

 

 

それでもお互いがそれぞれの場所で、ウマ娘の競走に携わる立場として今を楽しんでいる。

そして、競走に携わるお互いを愛している。

 

今は、それだけで十分だった。

 

 

 

「その、なんだ。頻繁に会いには行けないが、これからも見守っていてくれ。 …ラッシュのことも、俺のことも」

 

"大丈夫。離れていても、気持ちはずっと(そば)にいるから"

 

 

 

三船将敏(Masatoshi Mifune)

ラショウエフェクト(Rasho Effect)

主な勝ち鞍(西都時代のもの):初夢ユースカップ・西都皐月賞・西都ダービー

 

恵まれた体格とバルボアに劣らぬスタミナを武器に、バルボア以来の西都クラシック二冠を成し遂げた"バルボア2世"。"サマーレジェンドカップ"こそ中央勢に屈し2着に終わったが、移籍後はダートオープン競走"太秦S"(うずまさステークス)等を連勝、シニア級"フェブラリーS"で移籍後初のG1デビューを果たす。

後に芝方面に転戦。陣営初のG1勝利となったのは「私」が生涯走ることのなかった"ジャパンカップ"であった。

 

 

 


 


 

ローカルうまとめ@ローカルシリーズ情報

@local_series_umatome

【本日の開催情報】西都レース場・夏の名物G3"サマーレジェンドカップ"が開催。

ロッキンバルボア以来となる地元クラシック二冠、ラショウエフェクトが圧倒的人気。ブエナビスタクラブ・レンシャメイジンら中央重賞組に力を示せるか。

2年前の王者であるバルボアは西都G1ウマ娘3名によるトークショーに出席。

 

『ハーイ、皆さんこんにちはー!司会のビクターレフュージちゃんでーす!本日は西都レース場所属のG1ウマ娘三名に、本日の"サマーレジェンドカップ"の展望などについてお伺いします!よろしくお願いいたします!』

 

G3"サマーレジェンドカップ"当日。

引退ライブ以来久々となる、勝負服を(まと)ってのトークショー出演。

 

 

 

『…勝負服新しくした?』

舞台袖で私の腹を触るバルボアを軽く小突く。

 

彼女の察した通り、今の勝負服は三代目。引退で運動に割く時間も体の代謝も落ちたため、二代目(現役時代)の勝負服は多少腰元がきつくなった。

箪笥(たんす)の肥やしにするには別にそれで構わないが、今日の様に勝負服を着用する仕事が頻発(ひんぱつ)するため、どうしても新調の必要があったのだ。

 

 

 

『スタンさん無事引退されて、私初めてイベントで同席するんですけどいやもう本当に社会人としての風格が身について、おめでとうねぇ… あ、デボチカさんとバルボアさんね。ちょっとこれ台本にある以上司会のおばさんどうしても聞かないといけないんだけど、二人が今回出走しない理由を聞かせてもらえる?』

 

『資格試験の関係でちょっと夏は出走おやすみしてまーす。でも来月の"スプリンターズS"には問題なく行ける予定です☆』

『去年ちょっと出れなかったですし今年こそ出走したかったんですけど、レース場の偉い人から"強いから出禁"って言われちゃいまして…』

 

バルボアの発言には多少の含みがある。

 

JDD明けの一昨年、熱中症で出走を取りやめた昨年とは違い、彼女(バルボア)は既にG1レース三勝。片田舎のG3レースに出るには有り余るほどの実績がある。

彼女の出走は初の重賞タイトルを狙いたいウマ娘にとって途方もない障害となり、他地域や中央から参戦してくれるメンバーの出走回避を招きかねない。

レースも興行の一つである。折角の大一番とはいえ、彼女がレースを回避させられるのは仕方ないだろう。

 


 

『…では、サイン入りグッズ抽選会は以上!当選者の皆さんおめでとうございます!それでは最後にバルボアさんから大事な報告があるとのことですので、私たちはいったん脇に退きましょうか!』

 

 

 

『…えー。あー、あー。 はい、ロッキンバルボアでーす』

『なんか、みんなの前でこういう発表するのって"西都ダービー"以来なんですけど…』

 

バルボアは、後ろに控える担当に確認を取る。トレーナーは無言で(うなづ)く。

2年前の時分と比べると、二人も随分とたくましくなった。

 

彼女は小さく息を吸い、西都ダービーのインタビューを思い起こさせる大声を張り上げた。

 

 

 

 

アメリカの"BCクラシック"に、挑戦します!

 

 

 

 

 

観客席一面を覆う困惑の声。この西都という地からは到底出ないであろう、アメリカという単語。

それを理解した観客からの声は、徐々に感嘆の声に代わっていく。

 

 

 

『うわぁ… おばさんマジで驚いたわ、本当におめでとうね!? あ、じゃあ担当トレーナーが詳しい説明してくれるらしいからマイク渡しますね!』

あっ、ありがとうございます…ロッキンバルボア担当の三木です!"BC(ブリーダーズカップ)"に出走する経緯について、説明する時間を頂こうと思います!』

 

『まずバルボアは今年2月の"フェブラリーS"を勝利いたしましたが、こちらの副賞の一つとして、"BCクラシック"の優先出走権があります!しかし米団体から補助金が支給されるとはいえ、海外遠征の手続き諸々(もろもろ)に詳しい人物が西都には居らず、統括団体のNAUさんにもそういった経験のある方は現状居られませんでした!』

『そのため海外遠征は端からないものとして考えていました、が!この度姐さ… ラストスタンディンさんの伝手(つて)により、海外遠征経験のあるダービーウマ娘のゴーンザウインドさんからURAの海外遠征制度についてご教授いただく機会を頂きました!』

 

『またゴーンザウインドさんの他にも代表・淀川前代表をはじめとする多くの関係者の助けもいただきまして、既にBC出走を表明しているマリアークラレンスさんの遠征メンバーに同行し、URAからのサポートを全面的に受けられることになりました!』

 

 

 

私達がトレセン学園に出向いた理由の一つは、この海外遠征に関する手続きの詰めであった。

URAとしては、当初彼女の海外遠征に対しては一切話をしてこなかった。所属団体が別である以上、過度な干渉はできないからだ。しかしNAU所属といえど出走資格を得ているウマ娘に頼まれた以上は、それを無碍(むげ)にするような組織ではない。

それでもゴーンザウインドをはじめとする事情通の助けが無ければ、今日このような宣言をすることはなかっただろう。

 

 

 

『レースは11月でまだ先のこととなりますが、未知の舞台に挑むバルボアの応援をよろしくお願いします!!!』

 

 

 


 

『ラショウちゃんはトレセン移籍で、バルちゃんはアメリカかー☆ 秋の重賞組がさびしくなるね…』

 

本日開催のすべてのレース・ライブが終わり、観客は祭りの終わりとラショウエフェクトらの旅立ちを惜しむようにレース場を後にする。私たちは関係者室で差し入れを頂きながら、レースのハイライトを眺めていた。

 

正直(しょーじき)BCクラシック、怖い。レース当日を想像するだけで泣きそう』

『でもバルちゃんらしいって思う☆』『えー!?』

『トレーナーと相談してからちゃんと決めたんだよね。デビューしたての頃は遠征怖いって言ったのに、わざわざアメリカまで行くわけないもん』

 

 

 

『"BC"行くこと決めた一番の理由はさ、クラレンスなんだ』

『あー』

 

 

 

『トレセン行ったときにオグリキャップさんと話してさ』『宣材取った日のやつだね☆』

『カサマツ時代の思い出とか、タマモクロスさんとかライバルの話も沢山聞いた。現役時代からずっと故郷(カサマツ)のこと考えて走ってたんだと思う』

 

『でもさ、私は人見知りだし、レース中はそういったこと考える余裕全然なくてさ。"中央に勝つ"ってあいまいな事しか言ってなかったなって。じゃあ何考えてるんだっけ、ってなった』

『トレーナーと姐さん、二人のことだけだった』

 

『ちゃんとレースに出れるようになってからはトレーナーの為にG1を獲ろうってなって、去年の東京大賞典では姐さんの為に何としても、って思いで走った』

『それでいざG1獲ったらなんだか変に落ち着いちゃってさ。"フェブラリーS"勝った時はいつもの感情の高ぶりが無くって、変に客観的に自分を見ちゃってた』

 

『そうして色々考えてたら、次の目標がなんとなく出てきた。"1対1でクラレンスに勝ちたい"って』

 

『たぶん… 世間的にはさ、この秋は南部杯とかJBCとかの()()勝ち目のあるレースに出て、出来るだけG1タイトル積み重ねる方が色々いいんだと思う。でも、クラレンスを追って世界に喧嘩を売る方が、なんか自分らしいんじゃないかって… そう思った』

 

 

 

バルボアの米遠征の意向について、私も今日までは詳しくは知らなかった。しかし、彼女らしくていいと思った。

 

確かに経営側としては海外遠征は痛手だろう。国内他地方への出走と異なり、検疫(けんえき)や時差ボケ慣れのため少なくとも数週間の現地滞在が必要だからだ。

渡航費、検疫所や現地学園への滞在費、通訳等スタッフの人件費等…。団体による補助金などのサポートは受けられるがとても全額は(まかな)いきれない。

しかしこういった事項の決定権を持つ現代表がそれ(海外遠征)を許可したというのは、バルボアの決断に打算的なもの以上のものを感じたから… だと推測している。

 

…そして代表が長年作り上げ後任に譲り渡した西都レース場という団体が、その決断を取れるだけの予算を捻出(ねんしゅつ)できるほどになったから、だと。

 

 

 

『バルちゃんがローカルシリーズでやりたかったことはG1を獲ることじゃなくて、お世話になった人に恩を返すことじゃないかな』

『お世話になった人…』

 

 

 

『勝手な意見だけど、バルちゃんは"東京大賞典"でもうみんなに恩返し出来てると思うよ。たしかにG1ウマ娘になってからのバルちゃんはなんか憑き物が落ちたように変わったと思うし、その理由は心の中でなにか踏ん切りがついたからなんじゃないかなって思う』

『だから、バルちゃんとトレーナーさんの思う、好きな道を走ってほしい。今しかできない事って沢山あるからね』

 

 

 

『それにね』

『いまこんな風にテーブルを囲んでる友達が世界の頂点を獲った姿、一度見てみたいもん☆』

 

デボチカ(Devochika)

主な勝ち鞍:高松宮記念、阪急杯・黒船賞(G3)

 

高松宮記念勝利後も変わらず、芝ダート・競走の格を問わない全国各地への出走を積極的に行う。

これは「重賞級の実力はあるが、本来大舞台のプレッシャーを楽しめる子ではない」

「G1の栄誉に(こだわ)るより本人の裁量で予定を決め自由に走らせ、競走生活でしかできない貴重な体験をさせたい」

といった"キューブリック"トレーナーの方針に依るものである。

 

今年度で学園を卒業、選手活動を継続するための西都レース場就職試験を受け合格。

翌年からは学園寮スタッフに配属、2代目・西都レース場職員兼任ウマ娘として活動を続けることに。

 


 


 

 

 

 

 


 


 

 

 

 

 

11月初旬。

アメリカ北東部ペンシルバニア州。フィラデルフィア・パークスレース場。

 

 

 

 

 


 


 

『…うん。着替えは終わってもうすぐパドック。連絡するのはこれが最後になると思う。今クラレンスも来たから、スピーカーフォンにするね』

『あ、もしもしお姉様。ご挨拶は手短に…ロッキーの勝負服について、一つお伺いしたいのですが』

 

 

 

"ああ、それね。バルボアが望んでたから、私の勝負服を仕立て直してもらった"

 

『…勝負服新しくした?』

 

 

『いでででででで、待って待って待って』

『ちょっと聞きたいんだけど、前着てた勝負服って、まだ捨ててない、かな』

 

 

 

『この場に来れなかった姐さんと一緒に走りたかったから貰っちゃった』『………』

 

『トレーナーもだけど、姐さんが居なければ今日私はこの場に立ってないと思ってる』

『出来る事なら憧れの姐さんと一緒に、クラレンスと走り続けたかった』

 

『だからこのスーツは …姐さんの分まで背負って走ることの決意表明』

 

 

 

『そう… ですか』

『共に走る相手としては彼女の甘えた思いを正したいところですが…いいでしょう。私が走り続けるのは、未知のライバルと戦い続けたい、そして共に走った無数のライバルの気持ちを背負いたいから。勿論その中には… お姉様も含まれています』

 

『お姉様の分まで走りたい気持ちは同じですから』

 

 

 

"この場でいうことじゃないけど…、なんか、お互い気を遣わせたね"

『あ、なんかしんみりしちゃってごめん!?』『お互い悪気はないので…』

 

 

 

"…まあ。仮に私が現役全盛期の能力があっても、貴方たち二人と今日の舞台に立つことは、できなかったはず"

"それでも二人が今でも私のことを慕ってくれている。それだけでも西都で最後まで現役を続けて、よかったと思っている"

 

 

 

"ロッキンバルボア。マリアークラレンス。"

" …楽しんできて"

 

 

 

 

 

『それじゃあ姐さん。 …(そば)で見守って欲しい』

『次は表彰台で。…どちらかが、必ず』

 

 

 


 


 

 

──アメリカ最大級の重賞祭典メインレースにしてダート最強の座を争う"ブリーダーズカップ・クラシック"。今年は出走ウマ娘の辞退が相次ぎ9名での開催ですが、出走メンバー全員がG1ウマ娘。層の厚さは例年屈指といっていいでしょう…

 

──昨年王者ブラッドレーレガシー、今年の米クラシック二冠マモー。10月の前哨戦を勝ちあがったイギリス代表カリオストロゴート…日本からは昨年"BCディスタフ"を制覇した聖母・マリアークラレンス、NAU所属としては初のBCクラシック参加となるロッキンバルボアの2名が出走します…

 

 

 

私は慣れ親しんだ自室で、画面に映る二人の姿を見守っていた。

 

外からは後輩たちの黄色い声がそこかしこから聞こえる。きっと私のように、寮のあらゆるテレビ画面に集まっているのであろう。

 

 

 

 

 

出走メンバーには現地アメリカのG1レースを多数勝った怪物が多く揃う。初めての遠征や左回り好走のデータが少ないこともあり、彼女らと相対するバルボアの評価は決して高くない。

 

バルボアは9番ゲートに向かう。大外。本人にとっては都合のいい枠番だ。

少数名でのレースということもあり、過剰なマークは取られないだろう。見知らぬライバルとの競り合いを無視して前だけを見ていればいい。

そしてバルボアが都合よく先頭に立てば、今回共闘関係にあるクラレンスもペース配分が容易になるだろう。

 

 

 

 

 

中継では一瞬、ゲートに入ったバルボアの背中が大写しになる。

 

後ろから見てもきっちりと固められたスーツのショルダーライン。それとは対照的に、本来ダートを走るに合わない(えり)は既に跳ねた砂で汚れている。

 

バルボアが見ていた私の背中はこんな姿だったのか。

私にどれだけの希望を感じて、勝負服を借り受けたのだろうか。

 

 

 

2年前の秋、JBCクラシック。共に逃げを打ち、共に走った際の彼女の背中を思い出す。

世界最高峰の舞台で晒した背中からは、あの時の緊張・(おび)え・(あせ)りはすっかり消え失せている。

 

本当に、大きくなった。

 

『それじゃあ姐さん。 …(そば)で見守って欲しい』

 

 

 

 

 

私が傍にいる( Stand By Me )

 

 

 

 

 

決戦のゲートが開く。

ロングズートスーツを羽織ったウマ娘が、世界の強豪を振り払って先頭に立った。

 

 

 

 

 

マリアークラレンス(Maria Cralence)

主な勝ち鞍:BCディスタフ・ドバイワールドカップ・チャンピオンズカップ

URA最優秀ダートウマ娘(2年連続)・NAUグランプリダートグレード競走特別賞(2年連続)

 

ロッキンバルボア(Rock'in Balboa)

主な勝ち鞍:東京大賞典・フェブラリーS・帝王賞、西都ダービー

NAUグランプリ年度代表ウマ娘

 

 

 

 

ラストスタンディン(Last Standing)

勝ち鞍:帝王賞、弥生賞・オールカマー・東海S、新潟記念・マーチS

NAUグランプリ特別表彰

 

 

 

 

 

"希望"は途絶えることなく、夢は続いていく。

 

 

 

 

 





完結に寄せて

長らくの応援、誠にありがとうございました。
ご感想・ご質問等積極的にお返事していきたいと思いますので、書き込みいただけると幸いです。

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