最後の希望 ベテランウマ娘、8年目の地方転戦【完結】 作:兄萬亭楽丸
・筆者註
「閑話」は地方レース場での日常を題材にした、本編とは無関係の掌編エピソードです。
学生寮に併設されている売店では生徒・トレーナー・レース場職員に向けた各種軽食・文具・日用品・レース用の消耗品*1を取り扱っている。
売店は組合とは無関係の小売チェーン店舗が運営しているが、このチェーンは地方のウマ娘にとって貴重な娯楽を提供する、郊外大型ショッピングモールの系列店でもある。
このような形態は当レース場職員に限らず全国の地方レース場でままある事らしいが、なんだか生活そのものをこの会社に独占されている感覚がある。
食品類はにんじんパンなどの間食や栄養補助食品が主で、日毎の業務によって消費カロリーが大きく変動する私はよくお世話になっている。一方でこのチェーン店はレース関連のウマ娘の消費に対するノウハウが浅いのか、櫛をはじめとした尻尾ケア用品の品揃えが宜しくない。
特に練習後の尻尾を整えるためのリンスが自社のしょぼいプライベートブランド品しかない為、寮の大浴場で手入れに難儀するウマ娘をよく目にする。私も練習上がりに売店のリンスを使ってみたところ、櫛のノリがあまりにも違いすぎて絶句した。匂いも取ってつけたような感じがする強いもので、耐えられなくはないが不快だ。
尻尾の毛並みが気になりすぎてレースに影響が出ても嫌なので、リンスの個人購入に踏み切る事にした。
トレセン学園で一般的に使われているリンスを入手する手段はないか(元)トレーナーに聞いたところ、普段使っていたリンスはUmazonでも購入できるそうだ。遅い就職祝としてプレゼントする、と言われたのでご好意に甘えたところ、数日後には丸々一箱のリンスが届く。
…流石に一人では早々使いきれそうにないため、バルボアに一つ渡すことにした。
『姐さん!使ってみたけどツヤがいつものやつと段違いでした!中央のウマ娘はこんなの使ってるんですね!なんかむかついてきた!』
…快く受け入れてくれた。
『そうだ姐さん、これ他の子も欲しいって言ってますけど、まだ余ってます…?』
『…私もいただいていいですか。お金なら払うので…』『私もー☆ひと瓶おいくらですか☆』
学園生徒はUmazonでの購入が認められていない為、こういった外部の商品を手に入れる手段に乏しい。一方で入手手段が判明してからの広がりはとてつもなく早い。
ひとまずもう一箱、追加購入した。
…到着した頃、購入希望者は学園全生徒の2割に達した。
「個人の生活に踏み込むのは良くないとは思いますが質問があります。最近寮にUmazonの箱がよく届いていますが、もしかして尻尾用リンスを購入されてますか?…いえ、規則違反などではありません。ただ、売店から"リンスの売上が格段に落ちた"と泣き言を言われまして…」
…後日、売店がリンスのラインナップを追加することでことなきを得た。
【登場人物】
・(元)トレーナー
「私」のトゥインクルシリーズ時代の担当。当時新人の彼は彼女が初の担当だった。G1級の実力はあれど中々勝てない担当を支え続けた一方、G1タイトルを取らせられなかった自責の念に耐えかね心身の体調を崩す。
卒業に伴う契約解除後は同僚らの勧めで数ヶ月間休職、後に未契約ウマ娘を中心に指導する教官として復職した。翌年にはトレーナーに復帰する予定。
「私」とは喧嘩別れではないため、卒業後も頻繁に連絡を取り合っている。
本名は「三船」。独身。