今回はいつもより少しだけ長くなりました
いつになったら書きたいスケルツォの場面をかけるのやら……
それではどうぞ!
「えーと………な、なんだろう、これ」
キリトの困惑したような言葉に黒エルフのお姉さんがようやく反応を見せた。腰を屈めて、黒い革手袋に包まれた両手で大切そうに袋を拾う。そっと胸に抱き、あんどしたように長々と息を吐く
「……これでひとまず聖堂は守られる……」
そうひそかな声で呟くと袋を腰のポーチにしまい、こちらを見る
「…………礼を言わねばなるまいな」
黒と紫の鎧を鳴らして一礼し、黒エルフのお姉さんは言葉を続けた
「そなたらのお陰で第一の秘鍵は守られた。助力に感謝する。我らが司令からも褒賞があろう、野営地まで私に同行するがいい」
クエストが進行したらしく彼女の頭の上の<?>マークが点灯する……どうやら通常と違い彼女は生きたままだが、キャンペーン・クエストは一応正常に進行しているようだ
「それじゃ、お言葉に甘えて」三3三
「………」
「ユーマその受け答えだと……」
俺が返事をしてそれに対してミトが俺に何かフォローに入ろうとしようとした所で彼女の口が開く
「よかろう、野営地は森を南に抜けた先だ」
クエストログが進行し、彼女の頭上の<?>マークが消えて代わりに視界左側に5人目のパーティメンバー加入を告げるメッセージが流れて新しくHPバーが追加で表情される。どうやら彼女はキズメルと言うらしい………本当にNPCだよな
しばらく歩き深い霧の中で翻る何本もの黒い旗が視界に入ったのは、移動を開始してからわずか15分後の事だった
「……思ってたよりあっさり着いちゃった……」
とフィリアが言うと前に居たキリトが微妙な角度で頷いているとさらに前に居たキズメルが少し自慢そうに言った
「野営地全体に<森沈みのまじない>が掛けてあるゆえ、そなたらだけではこうも容易く見つけられはしなかったぞ」
「へぇ……おまじないって魔法のこと?でもこの世界に魔法は無いんじゃないの?」
「あのなアスナ、それは……」
先ほどのミトのようにアスナにフォローを入れようとするとまたしても空振った
「…………我らのまじないは、とうてい魔法とは呼べぬものだ」
先ほど歩いている間に聞いたのだが本来NPCはプリセットされた反応しか出来ないはずらしく、先程の俺の言葉に反応出来たのに驚いたらしいが、この感じだと普通と違うNPC………例えばAIなんかが搭載されているのかもしれない
「言わば、古の偉大なる魔法のかすかな残り香……。大地から切り離されたその時より、我らリュースラの民は、あらゆる魔法を失ってしまった……」
へぇーアインクラッドの設定ってそんな事になってるのか……何て考えているとミトが驚いた表情になっていたので邪魔にならないように小声で喋る
「どうした?」
「いえ……βの時はアインクラッドの設定を聞いた事無かったから驚いたのよ」
「そうなのか?単純にβの時にキズメルを生かした状態じゃなかったから聞けなかっただけじゃない?」
「そうなのかしら………」
俺の言葉にミトはまだ腑に落ちないような感じだ。本サービスで設定を追加でもしたのかな?……そう思いながら野営地へと足を進める
濃霧の奥に翻る漆黒の旗に近づいていくと、あるところで霧が嘘のようにはれ、急激に視界がクリアになり目の前に左右に細長い柱が立っており、黒地に角笛と片刃刀が染め抜かれた旗が柱の天辺で微風にたなびく。そして、2本の柱の前には、キズメルよりやや重武装の……と言ってもプレイヤーの基準に照らせば軽装の範疇だが……ダークエルフ衛兵の姿があった。細身の薙刀をこれ見よがしに立てる彼らに向かって、女騎士はすたすた歩み寄っていく。周りの皆は若干緊張しているらしくアスナがキリトに話しかける
「……まさかと思うけど、この野営地で戦闘になったりはしないよね?」
「そのはず……だよ。こっちから彼らに斬りかかったりしなければ。いや、その場合もクエスト中断と追放くらいで済むんだったかな……」
「アラタ、絶対試すなよ?」
「いや、試さないから」
そう軽口を叩きながら足を進めると、幸い衛兵たちは、じろっと胡散臭そうな視線を向けてきたものの、何も言わずに俺達を通してくれた。狭い谷は少し歩いた先で急激に広がり、直径50メートルはあろうかという円形の空間を作っている。そこに黒紫色の天幕が大小合わせて20近くも張られ、優美な外見のダークエルフ戦士たちが行き交うさまは、なかなかに見事な眺めだ
「へぇ……ベータの時の野営地よりだいぶデカいなあ……」
キリトが俺達にしか聞こえないボリュームで呟くと、アスナが訝しそうにキリトを見る
「前と場所が違ってるの?」
「ああ。でもそれは異常なことじゃなくて、こういうキャンペーン・クエスト関連のスポットはたいていインスタンスマップだから……」
「いんすたんすマップ?なんだそれ?」
俺が歩きながら首をかしげるとミトが小声で説明してくれる
「簡単に言えば、クエストを受けてるパーティごとに一時的に生成される空間ってわけ、これから私たちはダークエルフの司令官と話してクエストを進行させるんだけど、そこに同じクエストをやってる他のパーティが来ちゃったりしたら具合が悪いからね」
「なるほどな、つまり俺達は一時的にこの野営地に転移してる状態……ってわけだろ?」
俺の言葉にミトはうんうんと頷きながら感心するような表情になる
「そういうこと」
その後の色々とイレギュラーな展開らしいダークエルフ先遺部隊司令官との面談は、平穏な雰囲気のうちに無事終了した。もっとも、キズメルより強いはずの彼と戦闘になったりしたら、俺たちはあっけなく秒殺されただろうけど。司令官はキズメルの生還と翡翠製のカギの奪還を大いに喜び、俺たちに結構な額のクエスト報酬となかなかの性能の装備アイテムをくれた。しかも装備は幾つかの選択肢から選べるという親切仕様だ。俺とミトはキズメルがつけていたのと似たブレストプレートを選びアラタとハチは<エルブン・ガーダー>なるシールドを残りの4人はパラメータが上がるアクセサリーを選んだ。その後俺達の名前の発音を微調整するシークエンスがあり……
「そなたたち、私のことはキズメルと呼んでくれ。……それでは、作戦に出発する時刻はそなたらに任せよう。いちど人族の街まで戻りたいのなら近くまでまじないで送り届けるが、この野営地の天幕で休んでもかまわん」
へぇー……って事はタダでここで寝泊まり出来るのか……なんて考えている俺とキリトの思考を、ミトとアスナはきっちり看破したらしく。やれやれ、とばかりに軽く肩を上下させてから、キズメルにアスナが答える
「それじゃ、お言葉に甘えて天幕をお借りします。お気遣いありがとう」
「礼には及ばぬ、なぜならば予備がないゆえ、私の天幕で寝てもらわねばならんからな。8人では少々手狭だが我慢してくれ」
「いえ、ありがたく使わせていただき………8人?」
そこでアスナはびたっと活動を停止した。
キズメルが言葉の続きを待っているようで、やむなくミトが後を引き取る。
「ありがとう、なら遠慮なく使わせてもらうわ」
「うむ。私はこの野営地内にいるので、用があればいつでも呼び止めてくれ。それでは、しばし失礼」
そしてキズメルは一礼すると、食堂のほうに颯爽と歩み去っていった。アスナはそこから更に3秒ほどフリーズしていたが、やがて体ごと俺に向き直ると、表情を3パターンほどに変化させてから言った。
「さっきの取り消して、主街区までおまじないで転送させてもらうのは可能?」
どうやら答えを知ってるらしいβテスター組みの3人が若干申し訳なさそうにしていて、キリトが口を開く
「えっと……もうムリ」
キリトが言うには野営地それ自体と同じように、キズメルの天幕もβ時代から比べるとかなりのグレードアップを果たしているらしく、持ち主は「8人では手狭」と言っていたが、俺たち全員でも楽々横になれそうなほどの面積がある……が
「……おい……これどうすんだよ…」
そう呟いたのはハチで、確かに人数的には広さがあるが、男5女3の比率なので寝る場合、ある程度配置を考えなきゃいけないわけだ……沈黙を破ったのは意外にもアラタだった
「とりあえずカゲ先輩とフィリアは隣同士でもいいだろ?んで……えーと………あとは……」
アラタが言葉を詰まらせたので俺が助け船を出す
「俺とミトも隣でいいぞ?」
俺の言葉にミトはほんのり頬を赤らめる……可愛いな
「……なら、中央の柱を起点にして円形に並んで寝れば良いだろ……アスナはフィリアとミトに挟めば大丈夫だ………ですよね」
アスナの圧に押されたハチが敬語を使いながらそう言うと若干機嫌が悪そうにしながらもそれなら良いかと言うような表情になりハチはほっと一息をついた
この空気に耐えられなかったのかアラタが話題をかえる
「そ、そういやこのクエスト、黒エルフと森エルフのどっちが正義でどっちが悪とかそういう話しじゃないよな?」
「あ、ああ、そのはずだ。基本設定がβの時と一緒なら、もうちょっと上の層にあるらしい<聖堂>って場所の中になんか凄い力のあるアイテムが封印されてて、それを巡って黒エルフと森エルフが争ってるって、感じだ」
「へぇ、んじゃあさっきの葉っぱの袋に入ってた鍵がそれか?」
「そうそう。全部て6個あって、層をまたいであちこちに隠されてるから、それを集めてくのが大筋だよ」
最後はフィリアがそう答えて締めくくると、何か疑問に思ったのかアスナが口を開く
「……ってことは森エルフに味方してあっち側のストーリーを進めるプレイヤーもいるってことよね?」
「へ?……うんそういうことになるけど……」
そこまで聞いて俺もアスナが危惧する所を理解する……とそこで同じく察したらしくミトが説明を始める
「ああ……アスナは私たちがこのままクエストを進めると、森エルフサイドのクエストを進めてるプレイヤーと……」
「……敵対することになるんじゃないかな、って思ったの」
自分の言葉に眉をひそめるアスナを安心させようとしてか、キリトは笑顔を作っていった
「大丈夫、そうはならないよ。特定のmobを何匹倒せとか、特定のアイテムを何個集めろとか、そういうクエストは他のプレイヤーと競争になることもあるけど、この手のストーリー進行型クエストはプレイヤーもしくはパーティごとに、ええと、独立した、その……」
一応ネットゲーム初心者のアスナや俺にどう説明したか迷っているようだが俺は理解できたので口を開く
「なるほど、この野営地みたいなもんだろ?幾つかのパーティが別箇にストーリーを進行させて、それぞれに違う結末がある……みたいな?」三3三
「そうそう、そういうこと。だからアスナが危惧してるような事は起きないよ」
「ふうん………」
そこまでキリトが言いきりアスナが一応納得したように頷いたところでカゲ先輩が声を上げる
「とりあえず飯にしてもいいか?腹減っちまった」
「食堂いこっか、カゲ君……2人も来る?」
そう言いアラタとハチを見ると同じく腹がすいていたようで2人共「行きます!」と答えてカゲ先輩たちは天幕を出て行った
「……そんな腹減ってたのかな?」
「さぁ?……私たちも行く?」
ミトがそう言いながらアニールサイス+7をストレージにしまう
「んー……俺は少し休憩してからにするよ、眠いし。カゲ先輩たちが戻って来るまで寝とく」
「そっか……大丈夫?」
俺がそう言うとミトは心配そうに俺を見る
「多分、大丈夫一応側にいてくれると助かる」
「了解、じゃあ私もアイテム整理してから寝ようかな」
「OK、んじゃお休み」
俺はそう呟き所定の位置に寝転がりそのまま目をつぶり寝始める……思っていたより疲れていたようで俺はそのまま眠ってしまった
私がユーマの側でアイテム整理を始めるとキリトが意外そうな表情を見せていたのに気付いたので声をかける
「……何?」
「いや、ユーマって確かあまり人前だと寝なかったはずだけど……」
私の訝しげな表情にキリトはそう答える
「少し前までそうだったみたいよ?でもユーマが言うには私が側にいると眠れるらしいわ」
「へぇー……」
「ふうん……」
私の言葉にアスナとキリトはニヤニヤした表情になっていた
「……何よ」
「いや何、仲良いなぁ……って、ユーマって確か眠りが浅かったはずだけどそこまですんなりと寝るってことはそういうことだろ?」
「そう言うことって何よ……」
私がそう言うとアスナは目を光らせながら口を開ける
「何か強化詐欺の後からなーんかやたら距離感が近かったし、私が買い物に誘っても断られる回数増えたなって思ってたけど、さっきのアラタ君とユーマ君の会話の時のミトの表情で確信したわ……ミト、ユーマ君と付き合ってるでしょ」
アスナの言葉に私は両手をあげて降参のポーズをとる
「……降参よ、ええ、ユーマと付き合ってるわ」
「やっぱりね、空いた時間にデートとかしてたんでしょ?」
この手の話が好きなアスナが詰め寄ってくる
「そうね、と言ってもユーマは私と一緒にいるだけで幸せだって言ってくれるから私の行く所に着いてきてくれてるだけだけどね……結局最後は宿で一緒に寝るだけだし」
「へぇ……ってちょっと待った」
私の言葉にキリトがストップをかける
「何よ?私何か変なこと言ったかしら?」
「いや、最後に変なこと言ったぞ……」
私の言葉にキリトは口元をひくつかせながらそう言った………変なこと?
「……!?//」
先ほどの自分の言葉を思い出しそこで自分の失言に気づく
「ミ、ミトもしかしてユーマ君と……」
「違うから、そういう意味じゃないから!//」
アスナが頬を赤くしてそう聞いて来たので慌てて訂正をする
「いやでも寝たって……」
「ただ一緒に寝るだけよ!//……って言うかユーマそう言う知識無いみたいだし……そういうところは同じ男のキリトが知ってるんじゃ無いの?」
いきなりふられたキリトはビクッと体を震わせる
「え!?お、俺!?い、いや確かに学校でそういう話になったとき、ユーマはよくわかって無いような表情はしてたけど……って」
とそこでキリトは言葉を切り少し悩む表情になる
「どうしたのキリト君?」
「あー……えっと、その……よく考えたらまずこっちでそういう事出来るのかなぁって」
キリトの慎重に選んだ言葉に私は平静をなんとか取り戻し答える
「出来るみたいよ?メニューのかなり深いところにそれを出来るようになる項目があるのよ。フィリアがβ時代に見つけたって言って私に教えてくれたわ」
「え?って事はフィリアもカゲ君と……//」
そこまでアスナが言うとキリトが言わなくていい事を口走る
「……アスナってえーと……たしか……耳年増だったか?っていうやつなのか?」
キリトの言葉にアスナの顔が一気に真っ赤に染まる
「………キリト君のバカー//」
「うお!タンマタンマ!悪かったって!ここ圏外たがら!落ち着けって」
目の前でじゃれているアスナとキリトを横目に私はユーマの顔を覗くと何も聞こえていないのか起きる気配がない
「……本当、私に心ゆるしてくれてるんだなぁ……」
そう呟きながら私はユーマの頭を撫でる
To be continued……
最後はミト視点で若干ギャグ風味で終わらせてみました……これあってんのか?これ?頭の中では話の流れを組み立てれるけど上手く描けてる自信が無い……それではまた次の話で!