愛に溺れる静寂、驚愕する暴食、何もしない大神   作:スーパータヌキ

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愛に溺れる静寂、驚愕する暴食、何もしない大神

 これは、もしかしたらあり得たかもしれない一つの可能性の物語であり、幸せな家族の物語でもある。

 

 

 〜〜〜〜

 

「嗚呼ベルよ、お前は何故そんなに可愛らしいのだ?」

 

「アルフィアお義母さん? それ今日でもう70回目だよ?」

 

「知らぬ、お前が可愛いのが悪い」

 

「ナンデッッ!?!?」

 

 迷宮都市オラリオから遥か遠方にある、とある村の道の上に彼らはいた。

 

 一人は白い髪に赤い目を持つベルという名の幼い少年、

 

 一人は少年と同じ白い髪に気だるげな雰囲気を漂わせている美しい容姿を持ったアルフィアという名の女性、

 

 そしてこの平和な田舎の一本道に一番似合わない厳つい肉体を持ったザルドという名の大男、

 

 アルフィアとザルドがベルの手を握り、全員が幸せそうに歩いていた。

 

「ザルドお義父さん!! 今日お義母さん会うたびに可愛いって言ってくるのちょっと怖いよ!! なんとか言ってよ!!」

 

「無理だ、諦めろ、俺がアルフィアを止められると思ったら大間違いだぞベルよ?」

 

「なんでドヤ顔でそんな事言うの!?」

 

「ベル可愛いけどちょっと煩いぞ?」

 

「な、71回目……」

 

「今日だけで100回行きそうだなベル?」

 

「そんなぁ……」

 

 少年は驚愕し、大男は考えるのを止め、女性はニッコニコの笑顔だった。そんな彼等の後ろ姿は幸せな家族そのものだった。

 

「まあ、許してやってくれベル。今日は俺達がお前に初めて出会った日でもあるし、お前の母親でありアルフィアの妹の命日なのだから……」

 

「……確か7年前、だよね? 黒龍を討伐したお義父さんとお義母さんが、お爺ちゃんと一緒にいたお母さんを訪ねてここに来たのは……」

 

「ああ、そうだなベル、私はあの時実の妹を失い、そしてお前というかけがえのない存在と出会ったんだ。だから可愛いと言い続けるのも仕方のないことなんだわかるな?」

 

「それでも71回は多すぎると思うなぁ!?」

 

「ツッコんだら負けみたいな所あるぞベルよ?」

 

「いやナンデ!?」

 

「あっそうだ、今度ヘルメスとエレボスがこっちに来るみたいだぞ?」

 

「えっ!? アルフィアお義母さん本当!? やったぁ!! また面白いお話、聞かせてくれるかなぁ……」

 

「喜んでいるベルかわいいマジ天使永久保存したいそうだ氷漬けにするかいやそしたらベルのかわいい声が聞けなくなるそれはまずいさぁどうするアルフィア考えろ考えるんだアルフィア」

 

「アルフィア、ステイ、ベルが怖がっている」

 

 静かな一本道の上に幸せそうな声と驚愕の声が響いていた。

 

 

 〜〜〜〜

 

 次の日、ザルドはキレていた。ものすごくキレていた。

 

「…………」

 

「アルフィア、これはどういうことだ?」

 

「……………………」

 

「何で女児用の服を買ってきたんだ!?!?」

 

「ベルに着せるからに決まっているだろう!!」

 

「ベルは男だろうが!!」

 

「いいや女だ!! 女の子だ!!」

 

「えっ!? …………えっ!?」

 

 机の上に置かれた大量の衣服、それらは明らかに女児用の服であった。もちろん誰も着ることは出来ない。サイズはベルにピッタリだったりするのだが。

 

「いやいやいや、おかしいだろ!? ベルに女装しろってのか!?」

 

「似合うだろ!? 可愛いだろ!! 文句あるか!?」

 

「文句しかない!!」

 

「…………ゴスペ」

 

「やめろ!! 殺す気か!!」

 

 しれっとえげつない魔法を発動しようとするアルフィアに戦慄しながらザルドはなんとかアルフィアを納得させようと説得を試みる。

 

「ベルは男の子だ。あんなに可愛らしい見た目をしているが、男らしい夢も持っているし、俺とのトレーニングでかなり力も技術もついている。そんなベルに女物の服を着せるなんて酷いと思わないか?」

 

「貴様いつの間にそんなことを!! ベルと二人っきりでトレーニングなんて羨ましいぞ畜生!! ぶん殴ってやる!! ていうか私は何でもできるから私が教えた方が効率的に教えられるに決まっている!!」

 

「これだから才能の化け物は……天才だからって何でもはできないだろうし、大剣を使いたがっているベルを育てるのなら俺の方が向いているだろうが!!」

 

「ぐうぅぅぅぅぅっっっ!?!? ゴスp」

 

「だからやめろって!!!!」

 

 若干叫び合いになってしまったザルドは頭を落ち着かせ、説得を再開する。

 

「ベルとのトレーニングは後で決めるとしてだ、やっぱりベルの父親代わりとしてはかっこいい服を着させてやりたいんだよ、わかってくれないか?」

 

「…………ふふっ」

 

「どうしたアルフィア? 笑うところあったか?」

 

「いや、7年前のザルドを知っている私からするとな? 父親の代わりになろうとしていると少し感慨深いものがあるな、ってな?」

 

「それはアルフィアだって同じだろう。まさかベルに会ってママと言われただけでお前の病気のスキルが消し飛ぶなんて考えもしなかったぞ?」

 

「ぅっっっ……」

 

「ベルにママと言われた時のお前すごかったぞ? 特にニヤケ具合g」

 

「【福音(ゴスペル)】!!!!」

 

「グァァァァァァァァァァァッッッッ!?!?!?」

 

 えげつない音と共にザルドは吹っ飛んだ。そしてその音に驚いたベルが部屋に飛び込み、

 

「どうしたの一体何の音!? ってエ?? 何この女の子用の服は……」

 

「ベル」

 

「…………嘘でしょ??」

 

「着ろ」

 

「やっぱそうなんだね!? なんで!?」

 

「着ろ」

 

「イヤだァァァァァァァァ!!!!」

 

 その後、女装をして顔を真っ赤にした少年とニッコニコの美女が写真を取っている姿が村中で見られたという。

 

 

 〜〜〜〜

 

「よし二人共揃ったな?」

 

「ああ、それで一体話とはなんだゼウス?」

 

「アルフィアちゃぁ〜〜ん? お爺ちゃんって呼んでくれてもイインダゾ??」

 

「……ゴス」

 

「アルフィアステイ、ゼウスそれ喰らったら死ぬ」

 

 すっかり日は沈み、暗くなったある時、ザルドとアルフィアは大神であるゼウスに呼ばれていた。

 

「要件は唯一つ、ベルの誕生日だ」

 

「もう用意なら完了済みだ、解散!!」

 

「チョッ、ちょっとまってザルド!! まだ話すことあるから!!」

 

「チッ……何なんだ一体……早くベルの寝顔を見たいというのに……」

 

「それで話したい事とはなんだ? まさかベルのプレゼントを運ぶ馬車になんかあったのか?」

 

「いや、そんな事じゃない。ベルは8歳になるだろう? そこで儂は二振りの剣を渡そうと思うんだ」

 

「なるほど……もしや、その剣の切れ味を見ろと?」

 

「まぁ、それもあるが……一本はベルの父親の形見の剣渡すつもりなんだが……もう一本はザルドとアルフィアが作って欲しいんだ」

 

「何?」

 

「私達は鍛冶アビリティを持っていないから無理だと思うぞ?」 

 

 

 基本的に武器を打つ時には鍛冶アビリティが必要になる。そのアビリティの位が高ければより強い剣を打てるのだが、持っていなければどんなに良い素材でもあまり強くない剣が出来てしまうのだ。

 

「正確にはデザインと名前だな、二人に決めてほしいんだ。今度ヘルメスとエレボスが来るのもそのデザインをヘファイストスに渡すためなんだ」

 

「あのヘファイストスの武器か? ベルには強すぎる気がするのだが……」

 

「まぁそこらへんはうまくやってくれって頼んどいたし大丈夫サ!! さあザルド、アルフィア!! デザインと名前を考えるんじゃ!!」

 

 ザルドとアルフィアは早速デザインを考えることになったのだが……

 

「どうする? 俺は何一つ考えつかないんだが……」

 

「剣身はザルドの大剣を普通の剣サイズにしたやつにすればいい、柄に私とザルドのイニシャルをこっそりギリギリわからない所に書いてもらえば私は何一つとして文句はないさ」

 

「だとするなら……問題は名前だ」

 

「ベルの好きな英雄の名前を組み込むのはどうだ、ザルド、ベルの好きな英雄といえば……」

 

「アルゴノゥトとエピメテウスあたりか……うーむ、どうすべきか……」

 

「……ここは一つ、こうしないか?」

 

「…………? …………!!! なるほどな……その手があったか!!」

 

「よし、決まりだ!!」

 

 

 そうして遂に、ベルの誕生日がやってきた。

 

 〜〜〜〜

 

「ベル!! 誕生日おめでとう!!」

 

「輝夜さん! それにリューさん!! こんなに素敵なものを沢山くださってありがとうございます!!」

 

「ベル、誕生日おめでとうございます」

 

「折角の機会ですし、日本刀の使い方でも教えて差し上げましょうか?」

 

「リューさん!! ありがとうございます!! 輝夜さんも、今度教えて下さい!!」

 

「はいっ!! ベル!! これ天才美少女の私が選んだものだから大切にしてね!!」 

 

「アリーゼさん!! ありがとうございます!!」

 

「ウッフフフフ!! ほんっとにかわいいわ!! ウサギみたい!! 連れて帰りたい!!」

 

「こらこら、アルフィアさんが睨んでいますよ」

 

「あっ!! アストレア様!! こんにちは!!」

 

「はい、英雄譚を何冊か見繕ってきたから是非読んでみてね?」

 

「わぁ……! ありがとうございます!!」

 

 ベルは幸せそうにベルの誕生日パーティーに来た人に話しかけていた。その頃ザルドは

 

「ぬぉぉぉぉぉぉっっっっ!!! おいミア!! オッタル!! あともう少しで全部用意できるぞ!!」

 

「全く……ベルの誕生日でもなければひっぱたいてやってるとこだよ!!」

 

「案外……悪くないものだ……」

 

 ベルの好物をミアとオッタルと共に大量に作っていた。

 

 〜〜〜〜

「おおベル、ここにいたのか?」

 

「あっ!! ヘルメス様にエレボス様!! こんにちは!」

 

「ほんっとにベルくんと声そっくりだよなぁエレボス? 声帯取り替えてくれない?」

 

「うっわグロ……そういうの今じゃなくて良くないか?」

 

「あはは……」

 

「ほらヘルメス、ベル引いてるよ、あっそうだベル、もう沢山貰ったかもしれないけど、英雄譚とベルが欲しがってた珍しいモンスターのドロップアイテム、持ってきたよ」

 

「わあ……ありがとうございます!! エレボス様!!」

 

「さあてベルくん? 今回旅の神である私ことヘルメスが用意したのは……ジャン!!」

 

「わぁ……!! もしかして、世界中の写真ですか!?」

 

「大正解!! 私ヘルメスとエレボスが実際に見て取ってきたんだ!!」

 

「こんなにすごいものを……ありがとう、エレボス様! ヘルメス様!」

 

「喜んでくれて何よりさ! あっあとな? フレイヤ見かけたら絶対にアルフィアのところに逃げるんだぞ?」

 

「?? わかりました……」

 

 〜〜〜〜

 

 その後、全員でザルド達が作った料理に舌鼓をうち、何故か酔っ払ったオッタルとミアの腕相撲に全員で盛り上がり、幸せな時間が流れていった。

 

 そして夕方になり彼らは迷宮都市に帰っていった。また会いに来るとベルにそう言って。

 

「ベル、楽しかったか?」

 

「うん!! とっても楽しかったよ!!」

 

「そいつは頑張ったかいがあったよ。さてベル、お前に今回の誕生日では最後になるプレゼントを渡そうと思う」

 

「えっ?」

 

「私達が用意した、武器だ」

 

「ええっ!!? お義母さん、本当に!?」

 

「一本はお前の本当の父親の形見の剣、もう一つは私達がデザインして、名前も考えた、読んでみろ」

 

「……プリマヴェーラ?」

 

「……わたし達にとって大切な意味が籠もっているんだ、大切にしてくれよ?」

 

「……うん!! ありがとう!! お義父さん、お義母さん!!」

 

「ああ、喜んでくれて何よりだ、なあアルフィア?」

 

「フッ、そうだな」

 

「さあベル、帰ろう、俺達の家へ!!」

 

「うん!!」

 

 そう言って彼等はまた、歩き始めた。

 

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