愛に溺れる静寂、驚愕する暴食、何もしない大神 作:スーパータヌキ
オラリオから遠く離れたとある村の早朝、静かな森の中で何やら剣と剣がぶつかり合う音が響き渡っていた。
一人は顔に多くの傷の痕がある大男、彼は身の丈程もある大剣を片手で軽々と持っていた。
一人はまだ少年と言っていいほど幼い少年。二振りの剣を持ち、果敢に男に攻撃を仕掛けていた。
少年が二本の剣を手に男に攻撃を仕掛け、男が軽々とそれを受け流していた。受け流される度に少年は悔しそうな表情をしながら再び攻撃を仕掛ける。
男はその姿を見て少し微笑みながら再びひょいと受け流す。
「はあ……はあっ……まただめだった……」
「いや、確実に上達している。筋力的にも相手に近づく時の速度も今のベルの身体的に考えればかなり強い方だ。もっと自信を持て」
「うん……ありがとう、お義父さん……」
少年は汗を滝のように流しながら、汗一つかいていない父親に話しかける。
すると、毎日ベル達に手紙を届けてくれる恰幅のいいおじいさんがやってきて
「おお〜〜〜いお前さんたち〜〜手紙じゃぞ〜〜」
「あっ!! おじちゃん!! いつもありがとうございます!!」
「ベルお主も中々やりおるの〜〜アイズちゃんからじゃぞ〜」
手紙をザルドとベルにいくつか渡し去っていった。
「ふむ……アイズか……ベル、もしかしてその子に気があるんじゃないか?」
唐突な父親の質問に顔を真っ赤にしながらベルは、
「………………うん」
少しずつ耳までも赤くしながらそう答える。
そんな愛おしい息子の姿を見ながらザルドは、
(アルフィアにバレたらアイズとやらが殺されかけん……これは秘密にしとかなくてはな……)
そう固く誓った、のだが……
「朝から鍛錬か、流石ザルドの息子と言うべきか?」
そのバレてはいけない存在であるアルフィアが、やってきてしまったのだ。
「ああああアルフィア!?!? お前、この時間帯はまだ本を読んでいる最中じゃないのか……?」
「読み終わったのでな、……ん? ベル? その手紙は誰からのだ?」
アルフィアの目線はベルの持つ手紙、ザルドは意識が遠のくのを感じた。これがバレればアルフィアは荒れる。恐らく相当荒れる。
一度、
ちなみにアルフィアが暴走した際、二次災害として村が半分えぐれ、次の日からはザルドはタダ働きを余儀なくされた。
だがそれが今バレそうである。ザルドはこの時だけはみっともなく泣いてしまいたくなった。現実逃避して何も考えたくなくなった。
だがそうもいかなかった。アルフィアの暴れっぷりを知っているベルはこの手紙をどうやって隠そうか真っ青になりながら必死に考えていたからだ。
生粋の漢でありながら、最強と呼ばれたファミリアの幹部だったザルドが取った策は、
「べ、ベル!! いずれお前は英雄になる為オラリオに行くんだろうが、今のお前ならある程度はやれるはずだ!!」
アルフィアとベルの間に割り込み、話を全く別の話題に切り替えることだった。
素早くザルドの意図に気づき、ベルは
「う、うん!! ありがとうお義父さん!!」
話に乗っかり必死に手紙の存在をはぐらかす。
だが、次の瞬間アルフィアから思いもよらぬ発言が飛び出したのだ。
「…………ん? ベル、お前はオラリオには行かせないぞ?」
「「えっっっっっっ??」」
ベルとザルドはその発言を聞き、呆気に取られる。そして、
「おいどういうことだアルフィア!! ベルの夢をお前は知っている筈だ!!」
「お、おかあさん!! 僕、夢の為にどうしてもオラリオに行きたいんだけど……」
ザルドは若干キレながら、ベルは悲しそうにアルフィアに反論する。それに対しアルフィアは、
「ええい煩いぞ!! ベル!! 食事の時間だ!! 行くぞ!!」
まるで話を聞かずにそのまま家に戻ってしまった。
手紙は誤魔化せたが新しい問題も生まれてしまったとザルドは頭を抱える。
そしてこれからアルフィアに詳しく話を聞かねばと決心し、その場で困惑していたベルを連れて家に戻るのだった。
〜〜〜〜〜〜
ザルドは深夜にアルフィアとベルの今後について話し合うように求めた。アルフィアは渋々それを承諾し、話し合いが始まった、のだが……
「ベルはオラリオには行かせない、冒険者になるなんてもっての外だ。これが私の考えだ」
いくら説得してもアルフィアは揺るがなかった。
アルフィアはオラリオに行く事も、ベルを冒険者となる事も認めていなかった。
柔らかいソファの上で手を組みながらアルフィアは私は絶対にゆるがないぞ、という目でザルドを見る。
だが、アルフィア自身は気づいていなかった。そしてザルドは気づいてしまった。
アルフィアの手が若干震えているのを、ザルドは気づいてしまったのだ。
「アルフィア……まさか、ベルにあのスキルが発動するのを恐れているのか……?」
「っっっ! ……ああそうさ、長年このスキルによって苦しみ、肉親すらも殺されたのだから恐れるのも当然だろう……?」
アルフィアの妹であり、ベルの本当の母親であるメーテリア、彼女はアルフィアも発動したとあるスキルによって命を落としている。
彼女は沢山の人々から愛される美しい娘だった。ヒステリックで有名な女神のヘラでさえ、彼女を愛していた。勿論アルフィアも彼女を愛していた。
アルフィアは長年そのスキルに苦しんでいたが、とある事がきっかけでそのスキルは消滅した、だが……
「オラリオに行けばきっと主神となる神物と出会いステイタスを刻むのだろう……そうすればきっとあのスキルが発現する。私の時のようにスキルが消滅させる事は恐らくできない。そうすればベルもあの苦しみを……そんなの、耐えられないんだよ……」
ほんの少しだけ鼻声になりながら、ザルドにそう訴える。
アルフィアがスキルの影響で血を吐きながら苦しむ姿をザルドは知っていた。その為、ザルドは何も言い返す事が出来なくなってしまったのだ。
ザルドもベルにそんな目に合わせたくはない。何よりもベルを愛していたが故にザルドは迷った。そして決心した。
「それでも……! 俺は、ベルをオラリオに行かせるべきだと思うんだ」
「っっっ!?!? 何故だっっっ!? お前はわかっていないのか!? 私が苦しんでいた姿を忘れたとでも……」
「違う!! 忘れたわけではない! ベルの、息子の夢の為だ!!」
「…………? どういう、事だ?」
ザルドが決心したこと、それはベルがザルドに絶対に言わないでと約束されていた事をアルフィアに伝える事だった。
「ベルのもう一つの夢は!! アルフィアを、
「!!!!」
「いつも守られてばっかりだから僕もいつかお義母さんを守りたいと、ベルはいつもそう言っていた! これがベルの夢なんだよ!!」
ベルの夢であり、真っ直ぐな思いを知ったアルフィアは僅かに涙を流す。
「……どうしても怖いというのなら、俺達の目が届く今ステイタスを刻むのはどうだ?」
「…………?」
「どこの誰ともわからない神にやらせるよりは幾分マシな筈だ」
アルフィアは何度も頭を抱え、何度も呻きながら
「……わかった……やってみよう」
ベルにステイタスを刻む覚悟を決めたのだった。
〜〜〜〜〜〜
雲ひとつない晴れの中、ベルは遂にステイタスをその身に刻むことになった。アルフィアは心配で仕方がない様子で何度もウロウロしていた。
今回ステイタスを刻む神はゼウス、立候補者にヘルメスやエレボスなどがいたがアルフィアによってゼウスが刻むことになった。
ゼウスにした理由はもし失敗してあのスキルが発現した時、神威でどうにかしてもらうためらしい。ちなみにゼウスはそれを聞いて真っ青どころか真っ黄色になっていた。
「…………よし! ステイタス刻むぞ!!」
「………………ベル……!!」
「アルフィア、緊張するのは分かるが俺をつねらないでくれ、とても痛いすごく痛い」
そしてベルにステイタスが刻まれた。その結果
ベル・クラネル
レベル1
力 I 0
耐久 I 0
器用 I 0
敏捷 I 0
魔力 SSS 3000
〈魔法〉
なし
〈スキル〉
【英雄憧憬】
・
・早熟する。
・英雄へ憧れる思いがあり続ける限り効果持続。
・思いの丈により効果向上
【守護者】
・誰かを守ると決意した際、ステイタスが大幅に強化
・守る対象が多ければ多いほど効果向上
このような結果になった。
「…………えっ……」
ザルドは驚愕した。才能の権化と言われたアルフィアの甥であり息子だからかなりやばいことになりそうとは思っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。魔力の量だけレベル違いだし、あと恐らく相当強力なスキルを2つも発現させている。
特に英雄憧憬というスキルには早熟する、という要素がある。恐らくステイタスの上昇に関わるスキルだろうとザルドはそう考察し、自らの息子が恐ろしくチートだと認識する。
アルフィアはスキルが発動していない事に対して安堵していた。ザルドは叫びたかった。もっと見る所があるでしょと。
貴女の息子やばいくらいチートですよと。
自分の息子が才能に溢れている事に喜ぶべきか困惑すべきかザルドはわからなくなっていたが、ザルドは考えるのを辞めることにした。
「とりあえず、良かったな……なあ、アルフィ……ア?」
「お、おおおお…………っっ……魔力が高い……これなら私との特訓を増やせる口実がもっと作れるぞ……強くなる為に一緒に座禅とか色々できるぞ……」
「アルフィア?」
「とりあえずザルド魔法でぶっ飛ばして」
「アルフィア!?!?」
「ジェノス・アンジェラス使えばザルドは倒せるかな……」
「アルフィア!?!?!? ちょっ、ちょっと!?」
「そしたらベルをもふもふしたり色々できるぞ!!」
「アルフィアァァァっっっっっ!?!?!」
物騒な事を立て続けに言っているのを聞いてしまったザルドは焦りまくる。そしてアルフィアの眼光が自分に向いている事を察したザルドはこれから自分の身に起こる事を正しく理解する。
「…………ベル」
「ど、どうしたのお義父さん……?」
「今日ちょっと帰りが遅くなるから、晩飯の用意をしておいてくれ」
「えっ」
「【ジェノス・アンジェラス】」
「じゃあ頼んだぐおおおおおおおっっっっ!?!?」
ザルドは次の瞬間、星になった。
突如として発動された強力な魔法とそれにより遥か彼方へ吹っ飛んでしまった父親、という状況に置かれている事に気づいたベルは驚愕する。
「さ、ベルよ? 早速私と修行をしようか」
「いやでもおかあさん? あの、おとうさんは……」
「ベル? 」
「あっはい…」
そしてベルは母親と若干強引ではあるが、修行をする為に歩き始めるのだった。
天気はびっくりするほど晴れていて、まさにベルの物語の始まりに相応しいとアルフィアは思いながら、
「見ているか、メーテリア……お前の、いや、私達の息子が今進み始めたぞ……」
今は亡き妹に伝えるようにそう呟く。
「ここからは、お前だけの物語だぞ、ベル」
アルフィアはそう言って静かに笑った。振り返ったベルも笑った。
ザルドも吹っ飛びながら笑った。
物語の始まりを告げる風がアルフィア達を通り過ぎた。
そしてこの時、ベルの英雄譚の始まった。
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