「人修羅!こっちはわたしたちで何とかしてみせるから、あんたはそっちのゴーレムをお願い!」
ルイズの言葉に頷き、人修羅は背後に迫るゴーレムに向き直った。動きこそ緩慢だが、先ほど受けた一撃の威力は馬鹿にならないものだった。いつの間に殴り飛ばしたはずの拳も再生している。
ゴーレムが拳を振りかぶり、人修羅の頭上めがけて勢いよく振り下ろす。人修羅はそれを後ろに跳躍してかわすと、全速力で懐に入り込み、片足を思い切り殴りつけた。ゴーレムの足がすねのあたりから弾け飛び、支えを失った巨体が大きく傾く。ゴーレムがその巨体を支えようと地面に両腕を着くと、激しい振動が体を襲う。今度はその腕の一本を殴りつけた。腕の支えを失い、その巨体が倒れ込んでくるかと思ったが、ついさっき殴り飛ばしたはずの脚はすでに再生しており、その両足でゴーレムが立ち上がった。
「奴は土がある限り際限なく再生しやがる。あれをどうにかするにゃ、術者の精神力が切れるまで何度でも壊しまくるか、再生しようがないほどの損傷を一気に与えるしかねえみてえだな」
なんとも馬鹿げた再生力だ。まるでどこぞのご立派な悪魔のようである。いかに人修羅の攻撃力が高くても、所詮は拳。これほど体積が違うと一点を攻撃したところで焼け石に水だ。人修羅は背に差したデルフリンガーを引き抜くと、その刀身に魔力をこめる。
「な、なあ魔人。なんかすげえ嫌な予感がするんだけど、何する気?」
その言葉を無視し、デルフリンガーを頭上に掲げると、一気に地面に振り下ろした。
「ぎゃあああー!」
デルフリンガーの悲鳴と共に、刀身から発生した熱波が衝撃波となってゴーレムに襲いかかる。表面の土が激しく吹き飛ぶが、壊しきるには程遠い威力だ。
「ばばば、馬鹿野郎!俺はそんな使い方するようにはできてねえんだよ!」
たしかに魔力の通りが悪いのか、期待したほどの破壊力は得られなかった。仕方なく、またデルフリンガーを背負い直す。
「まったく、危うく使い手に会う前に存在が掻き消えちまうところだった。今の技、今後俺で使うの禁止ね」
今の一撃が決定打にならなかったことで、人修羅の中にわずかに焦りが生じる。早く倒してルイズたちの元に駆け付けなければならないというのに。人修羅は横目でもう一体のゴーレムと戦っているルイズたちを見る。あちらでは片足を失ったゴーレムが地面に倒れ伏し、ギーシュを咥えたシルフィードが慌ててゴーレムから離れていくところだった。
その直後、強烈なマガツヒの逆流が人修羅を襲った。今までのようなかすかな違和感などではなく、はっきりと体感できる規模で、人修羅のマガツヒがルイズへと流れ込んで行く。
「おい、魔人!しっかりしろ!」
デウフリンガーの呼びかけと同時に、体に横殴りの衝撃が走り思い切り吹き飛ばされた。地面を転がり衝撃を逃し、ゴーレムに視線を戻す。どうやらあの巨大な腕で薙ぎ払われたようだ。
「大丈夫か!?」
昨日の特訓でメイジの危険性を認識したばかりだというのに、なんという体たらくだろう。少し油断しただけだとデルフリンガーに返事をし、今度こそ一撃で片を付けるべく“気合い”をいれる。
あのゴーレムは動きこそ遅いが、巨体ゆえの足の長さで移動自体は早い。大きく殴り飛ばされたことで距離が開いたのは好都合だ。人修羅は体の前に左手を突き出すと、その腕に右手をそえ、力をこめた。その手のひらにまばゆい光の粒子が集まっていく。
足を止めた人修羅に、追い打ちをかけるべくゴーレムが迫る。だがまだだ。限界まで引き付けて確実に仕留めなければ。ゴーレムが人修羅の眼前で立ち止まり、腕を持ち上げる。それが振り下ろされる瞬間を見計らって、デルフリンガーが叫んだ。
「今だ、魔人!」
合図と同時に、人修羅が手のひらのエネルギー体を射出した。輝く光弾と化したそれはまっすぐ胴体を貫き、轟音と共にゴーレムの体が四散した。同時に少し離れた位置で大きな爆発音が轟き、爆風が吹き荒れる。音の方向を振り向くと、巨大なクレーターの前にルイズが杖を構えて立っていた。どうやらあちらも片付いたようだ。
人修羅がルイズたちの元へ駆け付けると、ルイズもそれに気づき人修羅へ駆け寄ってくる。
「どう、人修羅!こっちはわたしたちだけでゴーレムを倒してみせたわ!」
褒めて褒めてと言わんばかりに、期待のこもった眼差しでルイズが人修羅を見上げてくる。まるで子犬だと思いながら、人修羅はその頭をよしよしと撫でてやった。すると、ルイズが顔を真っ赤にしながら怒り出す。
「こっ……、子供扱いしないでよね!」
そう言ってぷいっとそっぽを向いてしまった。どうやら対応を間違えたらしい。これでは犬と言うより猫か。それはそれとして、まだフーケの姿が見当たらない以上、敵の増援がないとも限らない。人修羅が四人に警戒を促す。森の茂みが音を立てて揺れ、一同に緊張が走った。
「周辺にフーケの姿はありませんでしたわ」
そう言いながら姿を現したのは、周囲の見回りから戻ってきたロングビルだった。
「ゴーレムは簡単な命令であれば自立して動くことができるからね。僕たちとゴーレムが戦っている間に、フーケ本人はとっくに逃げ出していたのかもしれないよ」
ギーシュが私見を述べる。彼自身も好んでゴーレムを使うだけあって、その指摘は的を射ている気がした。ロングビルが、タバサが抱きかかえている“破壊の杖”に顔を寄せ、まじまじと見つめる。
「これが『破壊の杖』ですか。変わった形をしていますわね」
ロングビルに、人修羅が杖ではないと教える。彼らが“破壊の杖”と呼ぶ物の正体は、今はすでに滅んだ人修羅の世界の武器───ロケットランチャー───であった。
「杖じゃない?じゃあ、これは一体何なんですか?」
大砲のような物だと答える。宝物として学院に保管されていた以上、この世界では非常に珍しい物なのだろう。おそらく一度使ってしまえば、弾頭を補充するのは極めて困難だろう。つまり、実質使い捨ての武器ということになる。
「……あんた、どうしてそんな事知ってるの?」
ルイズが疑問を口にし、じっと人修羅を見つめる。どう答えるべきか。かつて滅んだ高度な文明を持った世界があり、自分はその世界の出身だ。そう答えれば、当然じゃあお前は何者なんだという事に話が及ぶ。どの文化圏であろうと、悪魔などと言う存在が歓迎されるはずがない。いずれは打ち明けなければならないが、それにはもう少し、お互いの信頼関係を深める必要があった。今日会ったばかりのロングビルが聞いている今はなおさらだ。
「あなたはこれの使い方をご存じなのですか?」
答えに窮していると、都合よくロングビルが質問を投げかけてきたので、自然な流れで話題を切り替える。人修羅は自分は知らないと答え、加えて、無理に使おうとして下手に触るべきでもないと忠告した。先ほど大砲のような物と伝えたが、その弾頭についてるいるのは爆弾だ。下手に弄り回して暴発でもしたら目も当てられない。
「暴発!?……そうですか、……はぁ」
人修羅の答えを聞いたロングビルが、なぜか残念そうにため息をついた。フーケを捕まえることは叶わなかったが、ともあれ一行は“破壊の杖”を取り戻すことに成功した。
「みな、ご苦労じゃった。よくぞフーケの手から『破壊の杖』を取り戻してくれたのう」
オスマンが笑みを浮かべながらねぎらいの言葉をかける。魔法学院の学院長室には、無事帰還した人修羅たち一行の姿があった。
「フーケには逃げられてしまいましたけど……」
悔しそうにルイズが言う。
「よい、よいのじゃ。君たちが無事に帰ってきてくれただけで十分じゃ。それにこうして『破壊の杖』も戻ってきた。それだけでも大手柄というものじゃよ」
オスマンの後ろに控えるコルベールの手には、人修羅たちが取り返した“破壊の杖”ことロケットランチャーが握られている。
「さて、なにかと騒動はあったものの、今夜は『フリッグの舞踏会』。主役はもちろん君たちじゃ」
それを聞いて生徒たちの顔が輝いた。どうやら何らかの催し事があるらしい。
「フーケの騒ぎですっかり忘れてましたわ!」
キュルケが今にも飛び出して行きたそうにそわそわし始めると、その様子を見たオスマンがにっこりと笑みを深めた。
「早速用意してきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」
一行がオスマンに一礼し、舞踏会の準備をしに退室しようとする。
「そうそう、ミス・ヴァリエールの使い魔君とミス・ロングビルには話があるのでな。少し残りなさい」
ルイズがいぶかしむようにオスマンを見やるが、人修羅がすぐに追いつくからと声をかけると、「それじゃあ後でね」と言い残し、他の三人と連れ立って退室していった。それを確認したコルベールが扉に近づき、内側から鍵をかける。
「さあ、二人ともソファに掛けるといい」
オスマンが着席するよう促す。その間もコルベールは、まるで退路を阻むかのように扉の前に陣取っている。どうにもきな臭い雰囲気だ。ロングビルもその気持ちは同じらしく、表情に緊張が滲むのが見て取れる。こうして睨み合っていても埒が明かないので、人修羅が言われた通りにソファに腰かけると、ロングビルもおずおずとその隣に腰を下ろした。
「お主たちもご苦労じゃったな。ミス、彼の戦いぶりはどうじゃった?」
「わたくしは周囲の見回りをしていたので直接は見ていませんが、生徒たちが四人がかりで倒した巨大ゴーレムを、たったの一人で相手取ったと聞いていますわ」
「ミスタ・人修羅、今の話は本当かね?」
人修羅が頷いてみせると、オスマンはさも愉快だといった様子で笑い声をあげた。
「ほっほっほ、いやまったく恐ろしいものじゃな君は。フーケは巷ではトライアングルクラスの土メイジだと考えられているがの、そのクラスのメイジが作り出すゴーレムとなると、正面から戦えばスクウェアクラスでも倒すことは難しい。普通はそんなものは相手にせず術者を倒すのが鉄則なのじゃよ。それを生身で、たったの一人で倒してしまうか」
今の質問に何の意味があるのか。二人を部屋に残らせた真意をいまだ掴めずにいると、オスマンが語りだした。
「『破壊の杖』……。あれは儂の恩人の形見でな。杖と名付けてはみたが、実際のところはあれが何なのかまるで見当もつかぬ。何らかの武器である事は確かじゃが、使い方すらわからんのじゃ。あれを盗んだところで、買い手なぞつかぬよ」
そう語るオスマンのローブが蠢いた。ローブの下に何か入り込んでいるようだ。それはオスマンの腕を伝い手の先へと移動すると、袖から顔をのぞかせた。
「おお、モートソグニル。お前も彼に挨拶がしたいか」
モートソグニルと、大層な名前で呼ばれたそれは、真っ白なハツカネズミだった。
「この子は儂の使い魔、ハツカネズミのモートソグニルじゃ。魔法学院の長ともあろう者なら、もっと立派な幻獣でも従えていると思ったかね?たしかにこの子を使い魔にしたとき、周りの者は随分と儂の事を馬鹿にしたものじゃよ。じゃがな、召喚のゲートというのはお互いが最も必要とする相手の元に開くものじゃ。儂にとって、この子以上に優れたパートナーはいない」
オスマンがロングビルを見やる。
「のう、ミス。お前さんもメイジなら、元貴族ならわかるじゃろ?民衆は常に清廉潔白な為政者を求めるが、そんな者はそもそも権力の座に上り詰める事なぞできやせん。いかに高貴な生まれであろうと、どれほどの富を手にしていようと、愚鈍な者は瞬く間に引きずり降ろされる。老獪な貴族連中と渡り合うには、結局のところ一番大事なものは情報なのじゃよ」
そこまで語り終えたオスマンの目が、すっと細めらる。
「……子供たちを養うのに金が要るじゃろう?」
その言葉を耳にした瞬間、ロングビルの顔が憤怒に歪んだ。
「このっ……変態じじい!!ネズミを使って手紙を盗み見たね!?」
しとやかな女性とばかり思っていたロングビルが突然口汚くオスマンを罵るところを目の当たりにし、人修羅はあっけにとられた。
「失礼な。普段は女性に対してそんな無粋な真似はせんよ。ただ、お前さんは近づいてきたときからどうにも怪しかったからのう」
ロングビルが眼鏡をはずし脚を組むと、いかにも不遜な態度でソファの背もたれに身を沈めた。
「最初から私がフーケだとわかって雇い入れたわけかい。まったく、喰えないじじいだね」
話についていけていなかった人修羅も、ようやく理解が及んだ。土くれのフーケの正体は、今まさに人修羅の隣でふんぞり返っているロングビルその人だったのだ。今思えば、一人だけフーケの隠れ家を知っていたり、戦闘中に姿を消したりと、彼女の言動には怪しいところが多かった。
「まさか、怪しいとは思ったが、最初はさすがにお前さんが巷を賑わせている土くれのフーケとまではわからんかったよ」
オスマンは一度言葉を切ると、声を潜めた。
「トリステインの衛士連中は木偶の集まりにすぎん。もし、ある日を境に土くれのフーケがぱったりと犯行をやめてしまったら、奴らは手掛かりを失い、その正体を掴むことは永久にできん。そうは思わんかね?」
「……目的は何だい?」
「君に新しい仕事を頼みたいのじゃよ、ミス・ロングビル。ミスタ・人修羅は慣れない土地で何かと不便をしているじゃろう。君には通常の業務のかたわら、昼夜を問わずそんな彼を補佐し、この学院での生活の支えになってやってほしいのじゃ。もちろん、その分の給金は上乗せしよう」
つまり聞こえはいいが、この男は公然と人修羅に監視を付けると言ってきたのである。それも人修羅本人が聞いている目の前で。たしかに喰えないじじいである。
「わざわざ使い魔の坊やにもこの話を聞かせたのは、私への脅しのつもりかい?」
「儂の事は出し抜けても、彼を裏切るのは恐ろしかろう?」
オスマンが悪びれもせずに笑みを浮かべて答える。
「もし断ると言ったら?」
オスマンがちらりと扉の方へ視線を向けた。その視線の先を追うと、いつしかコルベールの手には杖が握られ、その先をロングビルへと向けていた。その表情からは、いかなる感情も伺い知ることはできない。
「儂としては手荒な真似はしたくないんじゃがな」
「……本当に、喰えないじじいだね」
「まあ、そう邪険にせんでくれ。さっき給金を上乗せすると言ったじゃろ」
言いながらオスマンが、みっちりと中身が詰まったいかにも重たそうな革袋を取り出し、ロングビルの目の前に置いた。
「受けてくれれば、月々の給金にそれだけ上乗せしよう」
中身を覗き込んだロングビルが、思わず息を飲む。しばしの沈黙の後、ロングビルが顔を上げ、輝く瞳をオスマンに向けた。
「……謹んでお受けいたしますわ。オールド・オスマン」
そう答えた彼女の顔には、惚れ惚れするほど美しい微笑みが浮かんでいた。
アルヴィーズの食堂に併設されたホールでは、すでに多くの生徒たちが舞踏会を楽しんでいた。遅れて駆け付けた人修羅は、大皿に適当につまみを拝借すると、早々にバルコニーに上がって手酌でワインを空け始めた。
きらびやかに着飾った生徒たちの中に、自分のようなむさ苦しい格好の者が混じるのもはばかられる気がしたのだ。“破壊の杖”を奪還し、そのまま学院長室へ直行したものだから、今の人修羅の格好は鎧姿のままである。いつもの上裸姿よりははるかにましではあるが、それでも非常に浮いていることには変わりはなかった。
つまみをかじりながらちびちびとワインを飲んでいると、不意にデルフリンガーが話しかけてきた。
「なあ、魔人。……おめえ、なんでそんなぴんぴんしてやがる?」
質問の意味がわからず、人修羅が思わず聞き返す。
「あの娘っ子が魔法を使うとき、おめえは生命力でもって足りない分の精神力を肩代わりし、同時に魔力を増幅させる。理屈は聞くなよ。俺だって、全部を思い出したわけじゃねえ。とにかくお前さんが娘っ子と結んだ契約ってのは、そういうもんなのさ」
デルフリンガーのもたらした情報は人修羅にとっては初耳であったが、妙に納得できるものだった。やはりルイズが魔法を使うたびに感じていた違和感は、気のせいなどではなかったのだ。人修羅はそれをマガツヒの逆流ととらえたが、たしかにそれは人で言うところの生命力と言い換えてもいいかもしれない。
「娘っ子と契約している限り、おめえはその命を徐々にすり減らしていく。あのゴーレムを吹っ飛ばした魔法は中々の規模だったぜ。本来なら、すでに衰弱が始まっててもおかしくねえ」
だが人修羅は、そもそもルイズとの契約によって、常に彼女からマガツヒの供給を受けているのだ。ある悪魔は、『悪魔は死せず学ばぬ魂を持つ』と言っていた。マガツヒの供給を受け続けている限り、悪魔が老いや衰弱で死ぬことはまずあり得ないだろう。同時に、ゾウシガヤに積み上げられた、おびただしい数のマネカタの亡骸を思い出す。もし自分が人の身のままルイズと契約し、ただ一方的にマガツヒを搾り取られ続けていれば……。
人修羅はデルフリンガーに他の使い魔も同じように生命力を吸い取られるのか質問した。
「いや、そんな事はねえ。お前と娘っ子の間に結ばれた契約は、他のどの使い魔とメイジとも違う、特別なものだ」
それを聞いて安心した。自分の事を友と呼んでくれたフレイムや、やけに自分になついてくれているシルフィード、その他多くのルイズのクラスメイトの使い魔たち。彼らが主人のためにその命を投げ打つ心配はないようだ。
オスマンの話では、召喚のゲートはお互いが最も必要とする相手の元に開くという。ルイズがマガツヒの供給を受けられぬ動物や幻獣ではなく、悪魔である人修羅を呼び出したのは、必然なのかもしれない。
そのとき、背後でかたりと物音が響いた。振り返るといつからそこに居たのか、青白い顔をしたルイズが立っていた。声をかけようと人修羅が立ち上がると、ルイズが背を向けて走り去る。その瞬間人修羅は察した。今の話を聞かれたのだ!人修羅はすぐにルイズの後を追って駆け出した。
真っ白なドレスに身を包んだルイズを、鎧姿の人修羅が追う。すれ違う生徒たちが、そんな二人に好奇の眼差しを向ける。ルイズは小さな体躯に反して思いのほか足が速く、なかなか追いつけない。だが所詮は少女の体力、しばらく追いかけていると徐々にその速度は落ち、ついには足を止めてしまった。いつの間にか二人はヴェストリの広場まで走ってきてしまっていた。すでに周囲に他の生徒の姿はない。噴水の前でうつむくルイズの背中に、人修羅は声をかけた。
「……ごめんなさい」
その声は震えていた。人修羅が誤解を解こうと、正面に回り込み顔を覗き込んだ。その表情を見て、人修羅は思わず言葉を失った。ルイズは深い悲しみに顔を歪め、その双眸からはぼろぼろと涙がこぼれていた。
「わたし馬鹿みたい……。あんたから何かが流れ込んできてることも、そのおかげで魔力が増幅してるってこともわかってた。それがあんたの命を削ってるって事も知らないで……!魔法が使いこなせたって一人で浮かれて……!」
その先はもう言葉にならなかった。ルイズはついに声を上げて泣き始める。人修羅はルイズを抱きしめると、あやすように頭を撫で始めた。今度は昼間のように振り払われることはなかった。しばらくそうして、少しルイズが落ち着いたのを見計らって人修羅が語りだした。誤解なのだと。普通の人間なら生命力を奪われるかもしれないが、自分に限っては常にそれが供給され続けているので問題ないのだと。
ルイズが人修羅の胸を押しやるので、腕の力を少しといてやる。ルイズは濡れた瞳で、まっすぐに人修羅の目を覗き込む。
「……あんたは何者なの?」
人修羅は一瞬躊躇したが、すぐに考え直す。いつかは話さなければいけない事だ。ルイズの瞳をしっかりと見据える。互いの視線が絡み合い、人修羅はただ一言だけ告げた。
悪魔だ、と。