ルイズと並んで教室に向かいながら、人修羅は今朝の礼を言う。ルイズは自分の使い魔が人間と同じ食事をとれるよう、わざわざ学院にかけあってくれたのだ。
初め人修羅の姿を見たとき、料理長のマルトーはひどく驚いた様子だった。それからすぐにシエスタを厨房の隅へ引っ張って行くと、あんな男はやめておけだとか、極悪人に違いないだのといった声が漏れ聞こえてきたのだ。
ほどなくして誤解が解け、温かい料理が目の前に並ぶ。空腹こそ感じていなかったが、久しぶりの食事は人修羅にとって感慨深く、食べ始めると手が止まらなかった。
リスの様に口いっぱいに頬張りながら、実にうまそうに料理を平らげていく姿を見て、最初こそいぶかしんでいたマルトーも、すぐに人修羅のことを気に入ってしまったのである。
「それくらい当り前じゃない。メイジは自分の使い魔に対して責任を持たなければいけないんだから」
得意げにルイズが言う。本人は澄ましているつもりなのだが、人修羅に感謝されたのが嬉しいのか、口角が持ち上がるのを隠しきれていない。
教室に着きルイズが扉を開ける。人修羅もあとに続こうとするが、ルイズは入ってすぐのところで立ち止まると、驚いたように後ろへのけぞった。
「きゃあ!何、何?!」
ルイズの頭越しに教室の中を覗く。見ればキュルケの使い魔、フレイムが猛然とこちらに向かって走って来ていた。今朝と同様にルイズを無視して人修羅の元まで来ると、手を咥えてぐいぐいと教室の中へ引きずり込む。されるがままに教室の後ろまで連れてこられ、ようやくフレイムが口を離す。そこには様々な使い魔が集まりこちらを見ていた。
“みんな、俺の友達の人修羅を連れてきたぞ!”
ふごふごと鼻を鳴らしながらフレイムが言う。
“でかしたの赤いの!王さま、シルフィあなたとお話しするのがずっと楽しみだったの”
窓から頭だけ教室に突っ込んで、青い竜が鼻をすり寄せてきたかと思えば、
“落ち着きたまえよ青いの。彼だって驚いているじゃないか”
巨大もぐらが澄ました様子で竜をいさめる。
“騒がしくてごめんなさいね。でも、みんなあなたとお話がしたかったのよ”
げこげことカエルがそう言うので、人修羅は別に構わないと返すと、その言葉を待っていたとばかりに、他の使い魔たちも人修羅へと殺到する。もみくちゃにされながら、銘々の言葉に耳を傾けていると、教室の扉が開き中年の女性が入ってきた。
「みなさん。授業を始めますよ」
どうやらこの授業を受け持つ先生のようだ。人修羅はしぃーっと人差し指を口に当て、周りの使い魔たちを見回す。喧騒が収まったのを確認し床に腰を下ろすと、他の使い魔たちも人修羅にならって座り始める。
「私は赤土のシュヴルーズ。これから一年、土系統の魔法を皆さんに講義します。皆さん春の使い魔召喚は大成功だったようですね。毎年こうやって新学期に様々な使い魔たちを見るのが、私とても楽しみなのですよ。おや、変わった使い魔を召喚したものですね、ミス・ヴァリエール」
人の好さそうな笑みを浮かべながら、シュヴルーズがルイズと人修羅を見比べると、教室のそこかしこで笑い声が上がる。
「ゼロのルイズ!召喚できないからってそこらの平民を連れてくるなよ!」
「ご覧になって、あの入れ墨。きっと罪人を金で買ったのよ」
シュヴルーズがすっと杖を振るう。すると今しがたルイズを馬鹿にした生徒たちの口元に赤土の粘土が現れ、その口を塞いだ。
「あなたたちはその格好のまま授業を受けなさい。生徒たちが失礼しました、ミスタ。さあ、あなたもそんなところに居ないで、こちらに来て椅子におかけなさい」
優しい先生だ。ルイズが手招きをするので、お言葉に甘えて彼女の隣の席に着く。人修羅が抜けたことで、一緒に座っていた他の使い魔たちもそれぞれ自分たちの主人のもとに戻っていった。
「先生に感謝しなさいよね」
と、ルイズが小声で耳打ちしてくる。
「魔法の四大系統はご存知ですね?ミスタ・マリコルヌ」
シュヴルーズが小太りの生徒を指してそう問いかける。
「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『 火』『 水』『 土』『 風』の四つです!」
「失われた系統である『虚無』を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知ってのとおりです。その五つの系統の中で 『土』はもっとも重要な……」
講義を続けるシュヴルーズの声を聞き流しながら、人修羅は今聞いた五つの系統について考える。“コトワリ”の違う世界では魔法の系統も人修羅の知るそれとは異なるらしい。
人修羅は失われた系統と言われる“虚無”が何故か心に引っかかったのである。どこかで聞いたことがある言葉なのに、思い出しそうで思い出せない。
虚無、虚無、と心の中で繰り返していると、特徴的なMっぱげが脳裏をよぎる。虚無の魔法……。杖の先からMっぱげを飛ばしたり、状態異常Mっぱげを付与したり……。
頭の中でマハヒカワダインなる言葉が爆誕したところで正気に戻る。いつの間にか隣に座っていたはずのルイズが壇上に上がり杖を構えている。教卓の上には小さな小石。周りを見回せば、他の生徒はなぜか机の陰に隠れている。
ルイズが小石に魔法をかけようとスペルを唱え始めると、人修羅はかすかな違和感を覚えた。それまで絶えずルイズから流れ込んでいたマガツヒが向きを変え、逆にルイズへと吸い上げられていくような感覚。マガツヒの逆流とでも言うべきか。
魔法が完成しルイズが杖を振るう。その刹那、教室が閃光に包まれた。
最後の机を教室に運び入れたところで、人修羅は一息ついた。ルイズの魔法が引き起こした爆発で、見るも無残な姿になった教室を、ようやく片付け終えたのである。当のルイズはと言えば、うつむいたままただ黙って煤で汚れた床に雑巾をかけていた。
「……わかったでしょ?どうしていつもわたしが馬鹿にされてるか」
ようやく口を開いたルイズがそんなことを言う。思えば召喚された際も、今日の授業が始まる前も、何人かの生徒が彼女にからかいの声をかけていた。
「いつも魔法の成功率0%。だから『ゼロのルイズ』。あんたのことを呼び出せたのも、きっと何かの間違いなのよ。わたしなんか、あんたのご主人様に全然ふさわしくない」
ふさわしいかそうでないか、この世界の価値観などわからぬ人修羅にはどちらでも構わぬことだった。人修羅にとってはルイズが自分を召喚してくれたことが嬉しかったし、感謝もしているのである。
この世界にはかつて失った、もう二度と手に入らぬと思っていたものが溢れている。それは暖かな日の光だったり、おいしい食事だったり、女の子にドギマギしたり、同じ年ごろの子と机を並べて授業を受けることだったり。自ら永遠に呪われる道を選んだ人修羅には、今の環境は過ぎた幸せなのだ。
「その上怪我までさせちゃうし……。本当、メイジ失格ね」
奇妙な違和感に気を取られ、完全に油断していた人修羅は爆発をもろに浴びてしまったのだ。爆発を受けた直後は少しばかり赤く腫れていたが、大した怪我でもなく、もうすっかり腫れもおさまっている。気にするなと、ルイズに召喚された事を感謝していると伝えると、それが余計にルイズの自尊心を傷つけたらしい。目に涙をため、唇を噛みしめてまた押し黙ってしまう。
どうしたものか。この状態では何を言っても逆にルイズを傷つけてしまう。かける言葉が見つからずにいると、ゆらりとルイズが立ち上がり、うつむいたまま教室を出て行ってしまった。今は追いかけない方がいいだろう。
一人きりになってしまった教室で、先ほどのルイズの魔法について考える。あの魔法は何なのか。最強のマガタマに守られた、傷つくはずのない人修羅の肉体に、わずかながらも傷を負わせたあの魔法は。
ルイズは魔法の失敗と言うが、果たして本当にそうなのだろうか。人修羅はあれによく似た魔法を知っている。そしてその魔法もまた、数少ない人修羅に傷を負わせることのできる魔法なのである。
もしルイズがあの爆発をただの失敗ではなく、一つの魔法として使いこなすことができたのなら。先ほど感じたかすかな違和感を思い出す。そこに何か、大きなヒントが隠されているような気がした。
人修羅を残し一人教室を出てきてしまったルイズは、あてもなく学院の廊下を歩いていた。
(何してるんだろ、わたし)
自分があまりにふがいなく、どうにも人修羅と同じ空間にいる事がつらかったのだ。怪我をさせた謝罪もしないまま勝手にどこかへ行ってしまうなんて、まるきり子供ではないか。かと言って今更戻って謝るなど、恥ずかしくてとてもできそうになかった。
図書館の前まで来て足を止める。このまま自室に戻って人修羅と鉢合わせても気まずい。昨日は手持ちの書物をいくら調べてもめぼしい情報はなかったが、図書館であれば自分の見れる範囲でも何かヒントくらいはあるかも知れない。ルイズは半ば逃避の様な気持ちで図書館に足を踏み入れた。
整然と並ぶ、頭上に何メイルも伸びる巨大な書架。レビテーションを使えないルイズは、この膨大な量の書物のほんの一部しか読むことができない。それでも、手に届く範囲から参考になりそうな本を見つけては、全体を軽く流し読む。すでに何冊かそうやって読んでいるが、やはり大した情報は載っていない。
(この本もだめね)
本を棚に戻し、次のものを捜していると、知った顔が前から歩いてくることに気付く。青い髪の小柄な少女。たしかキュルケとよく一緒にいる子だ。名前はタバサと言ったか。タバサはまっすぐ歩いてきて目の前まで来ると、ぽつりと一言ルイズに尋ねた。
「捜し物?」
「え、えぇ」
物静かなイメージがある彼女に突然話しかけられたものだから、ルイズはつい戸惑いがちに答える。特に親しいわけでもないし、てっきりそのまま横を通り過ぎるものと思っていたのだ。
「ちょっと使い魔のことを調べに」
タバサは表情を変えぬまましばらくルイズの顔を見つめると、不意にレビテーションを唱え頭上に飛んで行ってしまった。
(何なのよもう、変な子ね)
気を取り直して他の本を捜しに歩き出そうとすると、さっき飛んで行ったはずのタバサが、突然ルイズの目の前に着地した。
「きゃ!」
「手伝う」
見るとその手には何冊も分厚い本が積まれていた。そのどれもが、使い魔や亜人に関する専門書や学術書である。
「わたしも彼に興味がある」
「へ?」
意外な人物の意外な申し出に、ルイズはつい間抜けな声で聞き返してしまう。
「ちょっとタバサ~。あたしもう飽きちゃった。いい加減中庭でお茶でも……、ってあら、ルイズ」
そこに仇敵までもが加わった。
トリステイン魔法学院の学院長室。部屋の主であるオールド・オスマンは、手のひらに張りのある心地よい弾力を感じながら、真剣な顔つきで昨日受けた報告について考えていた。曰く、春の使い魔召喚の儀において、一人の生徒がとてつもなく危険な使い魔を召喚したと。それは人に似た姿をした、聞いたこともない種族らしい。
「オールド・オスマン」
ミス・ロングビルがオスマンに話しかける。
「なんじゃ?ミス」
「わたくしのお尻を撫でるのを、やめていただけますか」
二か月ほど前に雇い入れたこの秘書は、実に形のいい臀部を持っている。こうやって何か考え事をしていると、つい無意識のうちに手が伸びてしまうのである。
「今度やったら、王室に報告します」
「カーッ!王室が怖くて魔法学院学院長が務まるか!」
居直るオスマンをロングビルが蹴りまわす。頭を抱えてうずくまり、痛い、やめて、と懇願していると、コンコンと、扉をノックする音が届いた。
「入りなさい」
威厳を込めて来訪者に声をかける。すでにオスマンもロングビルも、何事もなかったかのように居住まいを正していた。
「失礼します」
扉を開け姿を見せたのは、昨日使い魔の件を報告してきた教師、コルベールであった。
「昨日の件でご報告がありまして……」
言いながら、コルベールが横目でロングビルを見やる。
「ふむ……。ミス・ロングビル。席を外しなさい」
オスマンがそう告げると、ロングビルが一礼して退室する。
「して、ミスタ。何かわかったかね?」
「確実な事はまだ何も。ただ、いくつかの書籍から気になる記述を見つけまして」
コルベールが二冊の本を取り出し、机に並べる。一冊は“始祖ブリミルの使い魔たち”そしてもう一冊は……。
「『アルビオン詩歌集』?意外じゃな。君が芸術に明るいとは知らんかったぞ」
「そうではないのです、オールド・オスマン。初め、私は彼が何か伝説級の使い魔に違いないと当たりをつけたのです。それでそちらの『始祖ブリミルの使い魔たち』を調べてみたのですが……」
コルベールがブリミルの使い魔に刻まれたとされるルーンが載っているページを開き、その横に昨日件の使い魔のルーンを書き写したという羊皮紙を並べた。
「ガンダールヴ、ヴィンダールヴ、それにミョズニトニルンのう……。どれも君のスケッチとは違うようじゃな」
「ええ。ですがこちらを見てください」
コルベールが“アルビオン詩歌集”の中から目的のページを見つけ、オスマンの前に置く。そこには“始祖の歌”と題された詩が載っていた。
───神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。
───神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。
───神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。
───そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……。
───四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……。
「アルビオンに伝わる非常に古い詩です。それには、四人目の使い魔の記述があります」
「彼がそうだと?」
「確証はありません。何せ『始祖の歌』にはその名が記されていませんから。ただ、他の三人の使い魔の記述。比喩表現かも知れませんが、言葉通りの意味で捉えるのなら、武器を操ったり、獣を調教したり、助言を与えたりと、どれも動物や幻獣にはできぬことです。私が思うに、始祖ブリミルの使い魔たちもまた、人間かそれに近い存在だったのではないでしょうか」
「ふむ。実際に『四人』と、人を数える単位で呼んでいるわけじゃからな。この詩の内容が創作でないのなら、君の考えは当たっているのかもしれんよ」
コルベールの説明を聞き終え、オスマンは深く息をついた。まったく、面倒なことになった。もしコルベールの言うように彼が伝説の使い魔で、それが学院の外、とりわけ王室にでも露見すれば、政争の道具にでもされかねない。当然それは彼の主人、つまりは学院の生徒にも累が及ぶ事を意味するのだ。
「この事は決して口外してはならん」
「は、はい!かしこまりました!」
とは言え確かめる必要はある。彼の力がどれほどのものか、本当に伝説の使い魔なのか。そのための仕込みを用意するべく、オスマンは思考を巡らせ始めた。
「正直言って、彼は異常よ。あんな禍々しい魔力、普通じゃない。初め見たときは恐ろしくて息もできなかったわ。あたしたち以外のボンクラどもは気付かなかったみたいだけど」
「今日は違った」
「そうなのよ。あたしも今朝会ったとき別人かと思っちゃったわ。いったい昨日のは何だったのかしら」
目の前の赤い髪と青い髪の凸凹コンビが人の使い魔を好き勝手言っているのを尻目に、ルイズはタバサが見繕ってくれた書籍を読み漁っていた。かなり専門的な内容なため、読み進めるのに苦労する。
「とくにあり得ないのはあのコルベールとか言う先生よ。あんなに危険な雰囲気をまき散らしてたのに、それに気づかないで能天気に彼に話しかけたりして」
実際は先に話しかけたのはルイズだし、ルイズ自身、初見で人修羅の実力を理解できなかった一人なのだが、それを知られるとこちらに話が飛び火しそうなのでそのことは黙っておく。
「そんな感じじゃなかったわよ。なんだかやけにあいつに気を使ってたと言うか、緊張してた感じだった」
コルベールのその様子を見て、ようやくルイズも自分がなにやら強力な使い魔を召喚したらしいと理解したのだ。
「どうだか。研究ばっかりしてるみたいだし、よほど亜人の使い魔が珍しかったってだけじゃない?」
キュルケの話に適当に受け答えしながらも、流し読みではあるがなんとか一冊読み終える。やはりと言うべきか、人修羅が何者かわかるような内容は一つも載っていなかった。
「ていうかあなた彼のご主人様な訳でしょ。なんで彼に聞かないのよ」
「っ、それは……」
明確な理由がある訳ではない。ただなんとなく嫌な予感がするのだ。言いよどむルイズに、これは理由を言いそうにないと見たキュルケは話題を変える。
「あたしとしては、彼が何者かより、どうしてあなたが彼を呼べたかの方が気になるけど」
それまで黙っていたタバサが、ルイズの顔をじっと見て言う。
「そもそもあなたが特別」
「わたし?」
「どうして爆発するの?」
タバサの言葉に頭がカァっと熱くなる。なぜ爆発するか。そんなものはいつも自分が魔法を失敗するからに決まっているではないか。
「……馬鹿にしてるの?」
声を震わせながら睨みつけるルイズをキュルケがたしなめる。
「落ち着きなさいよ、ヴァリエール。この子はそんな意図で言ったんじゃないわよ」
タバサはキュルケの言葉に頷くと、なおも続ける。
「普通は失敗しても爆発なんてしない」
少し冷静さを取り戻し考える。確かに他のメイジが失敗して爆発を起こすところなど見たことがない。自分が特別だから人修羅を呼び寄せた。だとしたら自分の魔法とは一体何なのか。そこでルイズの頭に、一つよぎるものがあった。
「ねえ、あなたたち」
「何よ」
「使い魔を召喚してから魔法を唱えるとき、自分の使い魔と繋がるような感覚を感じなかった?上手く言えないんだけど、使い魔から何かが流れ込んできて、自分の精神力と混ざり合って魔力が研ぎ澄まされていくような感覚」
キュルケとタバサが、訳が分からないといった風に顔を見合わせる。
「あたしはそんなの感じたことないわよ」
タバサはしばらく考え込み、一つの可能性を口にする。
「使い魔の中には、契約によって特殊な能力が目覚める種族もいる」
犬や猫など、元々人間の生活に密接した存在が使い魔となった場合、人語を操るようになるというのは有名な話だ。
「じゃあ使い魔として契約した亜人には、主人に力を分け与えるような能力が目覚めるってこと?」
「あくまで可能性の話」
「わたしのお姉さまが言ってたわ。得意な系統の魔法を唱えたとき、自分の中に何かが生まれて、それが体の中を循環する感覚があるって。わたしそんなの感じたことなかったけど、今朝の授業で錬金を唱えたとき、なんとなくそれに近いものを感じた気がする」
「へえ。じゃああなたの系統は土だったってこと?よかったじゃない、自分の系統がわかって」
心底そう思っているのであろう。キュルケが我が子の成長を喜ぶように、目を細める。
「そうじゃないの。あの爆発を起こしちゃったとき、漠然とだけど、自分の意思でそれをコントロールできるんじゃないかって、そう感じたの」
「『爆発』の系統?そんなの、聞いたことないわよ」
ルイズだってそんなものは聞いたことがない。だが確かにあのとき、人修羅から流れ込む何かと混ざり合った自分の魔力が、体内を駆け巡るような感覚を覚えたのだ。そのことを考えていると、
「おーい、みんな!ヴェストリの広場でギーシュが決闘をするって!」
そんな声が廊下から聞こえてきた。
「何やってんのかしら、あいつ。本当、男子ってそういうのが好きよね」
呆れながらキュルケが言う。
「相手はルイズが召喚した刺青の平民だってよ!」
続いて信じられない言葉が耳に届いた。本当に、何をやっているんだか。
「……ねえルイズ。これっていいチャンスじゃない?あたしたち、彼がどれくらい強いのか、実際には誰も見てないのよ」
確かにそうだ。人修羅本人も戦闘に自信があるようなことを言っていたが、それがメイジに対してどれほど通用するものなのか、見てみなければわからないのだ。
「……殺してしまうかも」
神妙な面持ちでタバサが言う。その言葉にルイズとキュルケは、さぁっと血の気が引いた。
「た、大変!すぐ止めないと!」
「ほらタバサ!あなたも急いで!本を戻すのは後でいいから!」
ルイズが先頭を走り、そのあとをタバサを引っ掴んだキュルケが追う。騒がしく言い合いながら、三人はヴェストリの広場へと駆け出した。