寺の近くのカフェで飲み食いしている我々は、平然とザコちゃんにもスイーツを出すマスターに驚きつつも会議を始めた。
議題は、“樹島サホリをなんとかしたい』だ。
よし、解散。
「諦めるの早くない?」
そうは言うが、もう転校させるくらいしか無いと思うぞ。樹島にその財力がないのは置いておいて。
「それは……そうなんだけどさ」
と、黙る磯野上。
この女の嫌いな部分はキリがない。根本的に嫌いなのだから何をしても嫌に思えてしまうのだから当然なのだがそれはそれ。
具体的解決策を持たない事、それがこの女の嫌いな点の一つだったりする。
磯野上は『都合の良い人間』だ。誰かの為に誰かの敵になる事をしない。状況の改善のために現状の破壊を企てないし、かといって明確なルールの元に異端の排除も行わないどっち付かず。
だから、本題に入る為に回りくどい言い方をする。
まぁ、先に嫌いだという結論ありきで考えた事にすぎないのだけれど。
「けど何とかしないとサホリ、潰れちゃうよ」
「……差し出がましいが、口を挟まんでも?」
と、優雅にケーキを食べていたエクストリーム坊主がやってきた。横でこんな話をされていたらやはり気になったのだろう。
「え……はい、大丈夫です」
「うむ。その樹島という女子はどうなりたいのだ? 聞けば、苦境にあっても善意にも悪意にも流されていないとの事だが」
負けたくないという事しか考えてないと、俺には見えた。
「……負けたくないなら、私を頼ってよ」
人気者のお前に怪我を理由に近づいたクズ女になりそうな事が、負けだと思ってるんじゃないか?
「冷たく言うんだね」
他人事な上に馬鹿らしい話だからな。
「サホリの事よく見てるよね、君は」
こんな馬鹿らしい話を思いつく程度には嫌でも目に入るんだよ。隣の席だからな。
「その馬鹿らしい話だと、サホリにとっては何が勝ちなの?」
本人にそれが分かってないからぐだぐだ長引いてんだろうとは思う。
外野が話してどうにかなる話でもないんだが、なんでこんな話をしてるんだか。とコーヒーを一口飲む。あ、美味しい。
「なら、どうしたらいいのかな?」
俺が知るか。お前がやりたいんだろうが。
「ちょっと、そんな言い方は酷くない?」
「ううん、良いの。けど……『要らない』って、言われてても?」
お前は樹島にいい顔がしたいから手助けしようとしてるのか? 優しい人だと思われたいから気にかけている素振りを見せているのか?
「違う!」
なら要らないとか邪魔だとかくたばれとか言われても問題はないだろ。その程度で悩むな、絡んでくるな、さっさと行け。
「……うん、ありがと! 行ってくる!」
その言葉を残して磯野上は店を出て行った。ばびゅーんと音を立てていそうな程に超特急で。
「タオ殿と仲が良いのでありますね」
「口では『嫌いだー!』って言ってるのって照れ隠し? ツンデレってやつ?」
いや、嫌いだ。二度と目の前に現れないで欲しい。
「え……コイツ、本心で思ってるんだけど。目が怖いしマガツヒが冷たい」
「なんと」
「……昨今の若者は複雑怪奇な心をしているのだな」
不愉快な話は置いておこう。せっかくの奢りなのだから……あの女ァ!
「あ、レシート忘れてったね」
奢らせるつもりだったのに奢らされた。許せぬ。
……お坊さん、マッカの換金を願いたく。
「この程度なら私が持とう。一応今後ここの店を贔屓にしてくれる事を条件にさせて貰うがな」
わかりました。この喫茶店の豚になります。
「そこまでせんでも良いわ」
イケメンスーパー坊主に感謝をし、浄僧寺へと参拝をしてからベテルの本拠地へと歩いていく。
なんだか、周りの視線が妙だ。蘭丸の容姿に見惚れるのはわかる。ウチの高校のクレイジー制服に目がいくのはよくわかる。坊さんによると悪魔は見えないらしいからザコちゃんも問題はない。
なのに、とても見られている。
「ふむ、監視ではないでありますね。見てる事を隠してはないですし」
「どっちかというと、怯えてる? アンタなんかした?」
いや、別に。いつも通りだ。
とはいえ邪魔されることはなかったの視線は無視し、道中でお菓子やジュースを買ったりとかしながら歩いていく。
すると、結界に踏み込んだ感覚があった。自分の力より弱い者を近づかせないエストマとかいう魔法みたいな奴だ。
「あれ、悪魔いない?」
「……で、ありますね。誰かが戦ってるでありますよ」
よし、首を突っ込んでみよう。ベテルは地球防衛軍みたいなモノだそうなので、きっとベテルのテーマソングとか歌ってるのだろう。混ざってこようと思うのだ。
「え、なんでテーマソング?」
知らんのか? 地球防衛軍は戦場で歌うモノなのだ。
「そういえば蘭丸星防衛軍もよく歌っていたであります」
これはR.D.FとE.D.Fのコラボフラグでは……?
まぁいいや。
視界の端に悪魔が見える。魔界での初戦闘の相手だった妖鬼ダイモーンだ。あ、今炎に弱いんだったわ。
「写せ身は便利でありますよね。見た目はただの悪魔の写真でありますのに」
ザコちゃんは写せ身をいつになったらくれるのだろう。天逆撃使いたいのだが。
「アンタに渡すと酷い使い方されそうだからやだ」
酷い使い方か、確かにザコちゃんはサイズと性格が問題なだけで見た目は良いからな。酷い使い方は割と思い浮かぶ。
よし、ザコちゃんの写せ身を量産出来るように頑張ろう。
「一枚だって渡さないっての」
視界にダイモーンが電撃で撃ち落とされているのが見える。だが使い手の魔力が低いようでさほどダメージは受けていない。
丁度いいし、トドメは貰おう。そうれ電撃をくらえー
と、雑にマハジオを当てて、そこに蘭丸が斬り込んで終わらせる。うむ、雑魚だった。
「あ、戦っているのはベテルの方でありしたよ。太宰殿も一緒であります」
「……えっと、どゆこと?」
ただの通り魔だ、気にしないでくれ。あ、コイツ魔石持ってたわやったぜ。
「ナチュラルに死体から剥ぎ取りしてやがる。……現実だと、グロいんだな」
で、どうしたんだ? 半殺しにして交渉をするんだったのなら謝るが。
「……いや、助かった。現場研修って事でこの人と一緒に来たんだけど、眠らされちまってさ」
「おーい、寝てると殺しちゃうよー」
ザコちゃんがその人に治療魔法をかける。ディアムリタという回復と毒などの治療を一緒にする魔法だ。
それを受けたその人は、ザコちゃんを見て「うわぁあああ⁉︎」と錯乱して銃口を向けた。
いや、流石にそれはあかんだろう
ライフルみたいな大きな銃をさっと奪い、ストック部分で一発殴る。ちょっと小突く程度で。
すると、なんか死にかけた。
「……いや、治したヤツを殺さないでよ」
「ユート殿、ザコ殿の為に殺そうとした……のではないでありますね」
そういえばちょっと怒った。それで手加減が効かなかったのかもしれない。ナホビノパワーで回復しておこう。
そんな思いから傷を治す『神霊水』を生み出そうとしたら、出てこない。あれ?
「あ、アンタ今アオガミと合体してないじゃん」
「そういえばそうでありますね」
アオガミとの合体は以外と大事だったのだな、と改めて思う一幕だった。
ところで、何をしているんだ? バイトなのだろうか。
「いや前にも話したろ。東京を守る為に、正しい事の為に頑張りたいんだって。だから悪魔使いの訓練してんだよ」
面白そうだな。どんな事を学んでるんだ?
「アプリとかマガツヒの使い方とかだよ」
とか話していると、いかにもな集団がやってきた。重武装のフル装備、軍隊っぽい方々だ。
「離れろ! 悪魔ぁ!」
「あいつはまだ生きてるぞ! 助け出せ!」
「ベテルを舐めるなよ!」
どうやら、さっき殴ったこの人(気絶中)とバイトの太宰を助ける為に軍隊が来たらしい。大変だなー。と他人事のように思う。
何故か銃口がこっちを向いていて、なぜか俺に敵意が向いていて、何故か悲壮な覚悟が伝わってくるが。
……面倒だし、殺して良いだろうか?
「いや駄目に決まってんだろ! おかしいと思えって!」
だがこの流れだとどうせ殺し合うんだぞ? だったら先に手を出したほうがスッキリしないか?
あと、総理大臣を殺そうとしたとか悪魔ポイント高そうだし。
「あーもう! 分かった、分かったから! 悪ノリで人の命を賭けんな馬鹿野郎!」
とかなんとか言いながらベテルの人を持って軍隊に寄って必死に説得を始めた。
曰く、『頭がおかしいだけでちゃんと人間なのだ』と。その言葉を聞いて渋々と銃口を下げた軍隊さんはなんかもう駄目な人だなぁとしか思えない。太宰がまともに見える程にだ。
力の差を考えたら、あの人たちでは俺たちの誰一人として殺せはしないのに、だ。
騙し討ちとか、暗殺とか、毒殺とかそのあたりを狙わないと勝てない奴に警戒を抱かせてどうするのだろう。そんな当たり前の事を考えて、『そういうベテランはみんな死んでた』という事を思い出した。
東京はよく滅んでいないなー。
「あのチョーカンってのが強いからじゃない? 割とアイツだけでどうにでもなるでしょ」
「確かに強い方でありましたね」
そして、めちゃくちゃ警戒されながら俺はベテル本部へとゆくのだった。
ベテルは、ある程度ちゃんとした組織だ。ターミナルみたいなヤバげな施設を使うには事前に連絡して、ルールの中で利用しないといけない。単純に危ないので。
また、ターミナルの管理ができる能力者も限られている。あの意味不明テクノロジーを調整する技術者とか、もし悪魔がやってきた時に殴り倒す戦力とか。
だから、いつでも利用できるモノではないのだ。
そう、ベテルの吹けば飛ぶような軍隊モドキのプライドの為だけの事情聴取に巻き込まれて、閉鎖する時間に間に合わなくなったりするくらいには、利用に厳格だった。
これは、怒っていいんじゃないか?
「まぁ、そもそもの話がユート殿があの方を半殺しにした事だったり、ザコ殿を野放しにしてた事だったりと故のある事でありますから」
「私コイツとは絶対契約しないつもりだったんだけどなぁ……」
そうは言うが、悪魔との契約とかなんか怖いじゃないか。
「私だってアンタとの契約は怖いっての!」
「しかし契約とは名ばかりでありましたな。約束事をきっちり契る事が契約だと思っていましたが」
なんとなくマガツヒを渡して、何かをしてもらう。そんな感じだった。
「マガツヒは元から貰ってたし、コイツからの召喚に呼ばれるなんて面倒が増えただけなんだよね」
「なるほど」
まぁ過ぎた事をぐだぐだしても何も始まらないんだ。アオガミの見舞いにでも行ってみよう。見舞い品は駄菓子のラムネでいいだろう。多分あいつ好きだし。
「なぜラムネ? ……あぁ、売店に一つコーナーが立っているのでありますね」
「この丸いヤツもお菓子なの? 美味しいかな?」
甘くてシュワっと弾けるぜ。
初めて本部に来た時に見た研究員の人を捕まえてアオガミの所へと向かう。
SFちっくな『ケーブルがたくさんついていて謎の液体に満たされたポッド』の中でアオガミは眠っていた。改めて見てみるとボロボロの魂をしていたのがわかる。
記憶喪失になって、体も魂もボロボロで、それでもアオガミは俺を助けてくれた。
けれど、アオガミに助けられる前から俺はアオガミと
「……あぁ、君達か」
ふと、声をかけられる。そこにいるのはベテルの長官の越水さん。いつも通りに淡々と、そこに居た。
「アオガミの治療は順調だ。数日も経たないうちに完治するとの事だ」
「へぇ、良かったじゃん。たまにアオガミが抑えてくれないとコイツ駄目だからね」
「良好な関係を築けているようで何よりだ。魔界から帰還した神造魔人アオガミはベテルの希望であり、そのアオガミが最も力を振るえるのは君といる時なのだ。アオガミの為にも軽挙妄動は控えて欲しい」
とりあえずザコちゃんと契約は結んだ。あと、普段は力を抑えていれば良いのか?
「そうだ。アオガミと同化した事で覚醒した君の力は果てしない。もう少し慣れれば東京程度なら2時間程度で滅ぼせてしまう程だ。学生である君に言う言葉ではないかも知れないが、学生気分で生きるのはやめてくれ」
面倒だ。
「力のない者たちの安寧の為に、法の神がルールを作ったのだ。力のある君のような者が割を食うのは、まぁ仕方のない事ではある」
などと話していた時、ふと気になった。
アオガミの顔は、越水総理によく似ていると。まさか総理大臣は悪魔だったのか?
「……さてな。否定の言葉は言えるが、それに証は立てられない。人を模す悪魔は多いからな」
まぁ、今の適当な日本のままなら総理が悪魔でも構わないのだが。貴方が気に食わないなら人でも悪魔でも殴りに行くヤツは出るのだし。
「……ならば、殴られないように努力するとしよう」
そんな話をしていたら長官が蘭丸の事を訝しげに見始めた。何か蘭丸の顔についているのだろうか?
「いや、森蘭丸とはこのような人物だったのだろうか? とな」
「蘭丸は蘭丸でありますよ」
「蘭丸星からやってきた宇宙人、だっけ?」
そうだ。蘭丸の中の蘭丸、謎の蘭丸Xを決める戦いへの参戦を許されたほどの凄まじい蘭丸だ。
「ユート殿、照れるでありますよ」
と、事実を述べただけなのに長官は複雑な顔をしていた。不思議だ。
そんなこんなで、何かありそうで何もない一日は終わった。
アオガミが居ないと微妙に弱くなっているので、さっさと治ってほしいものだと思いながら。