突然の事だった。
空が凶々しい紅色に染まり、土台である『偽物の東京』は不安定になり、その不安に惹かれて悪魔が現れた。
そんな異変が起きてからものの数分で、東京はもう滅びかけている。話は聞いていたが本当に東京はズタボロだったのだな、なんて事を思った。
それはそれとして、今マスターデュエルで昇格戦なんだが。
「アンタは本当に……」
「して、どうするでありますか? アオガミ殿はまだ治ってないでありますよ」
戦えるには戦えるがアオガミが居ないと移動に時間がかかるからな。かといって今からベテル本部に行っても邪魔だろう。
ひとまず悪魔の入り口になってる辺りで戦っていようと思う。蘭丸はどうする?
「義を魅せざるはなんとやら、でありますよ。蘭丸も行くであります」
ありがとう。
「……ねぇ、私には聞かないの?」
ザコちゃんはもう俺の下僕だから……
「くたばって私を自由にしろよクソやろー」
そんな軽口を叩いたザコちゃんは、特に不快な顔はしていない。
ならばちょちょいと皆殺しにしようか。殺しても良い悪魔どもを。
目の前に、ベテルの職員だった人がいる。下半身がなくなっていたので食われたのだろう。
近くに女の人が転がっている。頭がなかった。
少し遠くに命乞いをしている男がいる。腕がなく、顔は蒼白だ。もうすぐ出血多量で死ぬ。
学生寮から駅前まで2分しか経っていないのにコレだ。人間は脆弱がすぎる。ナホビノになって良かったと割と本気で思った。
こんな状況を作った悪魔達を、マハジオで焼き払いながら。
「強くはないけど、多いよコイツら!」
「出所を抑えねば手が回らないでありますよ! 様子見は無理であります!」
同感だ。だが出所は無数らしい。連絡が来た。
各地の結界をちゃんと守ればマガツヒ不足で粗方死ぬらしいから、防衛に回れと。
「どんくらい守ったら良いのさ! めちゃくちゃ死ぬよ! 私たちもマガツヒ切れて殺されるって!」
「そうであります! それに餓死する前に人を喰われればマガツヒは補えるでありますよ!」
なので、蘭丸は手当たり次第に悪魔をやってくれ。結界は俺とザコちゃんが居ればなんとかするさ。
「ッ! 承知したであります!」
一刻を争う現状を鑑みて、蘭丸は空を駆ける。
死体を一瞥してから結界の基点である浄僧寺へと向かう。
ちょうど良いところに空を飛ぶ悪魔が居たので、
俺は悪魔召喚プログラムのレクチャーを受けたのだから。
快く足になってくれた空飛ぶ馬の妖精ケルピーくんにちゃんとトドメを刺してからお寺に降り立つ。
そこでは、スーパーイケメンウルトラ坊主である悟劫さんが悪魔と殴り合っていた。
手が足りなさそうなので、バチバチと電撃をかましつつ、遠くから魔法を撃とうとしていた悪魔を蹴り砕く。
「少年か! 助かる!」
そう言いながら堕天使アンドラスの遺体を盾に悪霊レギオンの首を捥ぐ坊さん。やっぱウルトラ坊主だ。
残り数体はザコちゃんの疾風魔法で細切れになった。ひと段落だろうか?
「……そのようだ」
一息つきながら魔石で回復を行う坊さん、俺も一応ソウルドロップという魔力が回復する飴を舐めておく。ザコちゃんの視線が痛いので普通の飴を投げ渡した。
「ベテルに現状は伝わっているか?」
それなりに。急いでいたので見落としてるかも知れないが、結界があれば悪魔は餓死すると聞いている。だから守れと。
「そうだ。だがそれだけではない。本来この東京の結界はこの程度の悪魔に抜けられるモノではない。東京があいまいになっているからこそ、対悪魔結界は日々強化されていたのだ」
大物が居ると?
「そう考えるのが妥当だろう。まだ東京にでてきては居ないだろうが、そやつを仕留めねば何も終わらぬよ」
……魔王軍とかいう負け犬連合だろうか。奴らの手勢は偉そうにしている割に小物ばかりだったが
「そこまでは解らぬ」
「負け犬連合って言い方は……合ってるわ」
とはいえ、今蘭丸が暴れ回っている。大物が居るとしてもそのうち死ぬ。
「過信が過ぎるのではないか?」
蘭丸は殺しに関しては天才的だ。結果的に殺せれば手段は選ばなないし、それを実行できる強さも汚さも、諦めない気高さもある。
それでも無理だったなら、俺たちなりを使うだろうから。
「……修羅、であるか」
蘭丸星人の普通の精神性だろう。その思考に躊躇いはなかった。宇宙は広いらしい。
「修羅の民、蘭丸星人か……この世は広いと思っては居たが、宇宙も見ればさらに広いのだな」
さて、一息ついた所でおかわりだ。
やってきたのはそれなりの悪魔たち。凶鳥アンズーと鬼女ラミアがなかなかの数で来た。
「あの2種には電撃は効かぬ。気を付けろ」
なら殴り殺せば良い。
「道理だ!」
そんな肉弾戦をかまし始めた俺たちを見てザコちゃんは言った。
「いや、蘭丸のこと修羅とか言えないでしょこの人間ども」
爪で切り裂こうとしてきたアンズーを捕まえて首を折り、電撃を撃ってきたラミアは持ってるアンズーの爪で切り裂いた。
これで全部だろうかと見渡すと、不意に『覚えのある』モノを感じた。
上空を見ると、空がバリバリとガラスのように割れている。その割れた穴からは黒いものが無理やりに出てきていた。
呪い、恨み、怒り、そういったマイナスの感情が塊になっているようなその悪魔を見る。
その名は『邪神ラフム』黒い触手が塊になっているように見えるヤバいのだ。
アレが大将首だろう。仕留める為に電撃を放つ。通りは普通だ。
「ふん」
そして、普通に手傷にすらならなかった。
「ヒトの子程度に、我をどうにかできるとでも?」
「うわ、体力が多いヤツだよ。めんどくさ」というザコちゃんの呟きには同意するが、一応話は通じるらしい。
ここで死ぬか、逃げてから死ぬか、帰ってからいつか死ぬか、好きに選んでくれ。
「笑わせる!」
その言葉と共に呪殺を飛ばしてくるラフム。相応に強い力だ。長丁場になるだろう。
そう思い防御を高めようと闇障石を起動させようとした。
しかし、手元に石はなかった。
買い込んだ石はまだ残っていた筈だと思ったその時ようやく思い出す。
俺は今、ナホビノではないのだと。
「何やってんのさアンタはぁ!」
ザコちゃんに庇われて致命傷は受けずに済んだ。しかし道具を取り出す事が出来ないのは致命的だった。
ナホビノとして当たり前のように使えた『どこからともなく道具を取り出す』事。自分より強い悪魔を殺せたのは力以外で戦っていたからである。
従って、今の俺は力しかない状況でこの魔神と殺し合わなければならないのだった。
「おっけー分かった。手元にあるヤツは何?」
ザコちゃんはさっぱりと理解して現状を確かめようとする。しかしあるのは人間に戻った時に手元に残していたモノだけ。ソウルドロップと、魔石と、
「りょーかい」
隣の坊さんに目配せをする。『正気か?』というような目が痛い。さっきまでイキリ倒していたのにやる事がやる事だからだ。
「何を企んでいるかは知らんが、生かしてはおかぬ!」
まぁ、コイツの性格は理解できたのできっと無駄ではないだろう。そう思い幾度となく命を救ってくれた必殺のアイテム『くらましの玉』を使って戦いから逃げるのであった。
「少年、策はあるのか?」
浄僧寺の中に逃げ込んだ俺たちは、息を整えながら作戦を立てようとする。
疲れた頭ではさして良案は浮かばないのだが、それでも方針はひとつだ。
増援が来るまでおちょくって、アイツの魔法でやってくる悪魔を殺させる。
結界を守らなくてはならない以上、隠れ続ける事はできない。ラフムを相手にしながら他の結界を壊そうとする奴らは相手にできない。
必要な事だけを考えたら、実現可能なのはコレだけだった。
「……死ぬ気か?」
「違う違う。この馬鹿はそんな深く考えてないよ。あのラフムってヤツをおちょくりたいだけ。後から理屈付けてそれっぽく言い訳してるんだよ」
失礼な。おちょくりたいだけじゃない。ちゃんと殺したいと思ってるぞ。
「なお酷いわ」
そんなやり取りを見て坊さんが「こんな人物が、ナホビノなのか……」と項垂れているように見えたのが印象に残った。