ラフムを見る。使う技は主に呪殺属性、荒っぽい性格でプライドが無駄に高い。怒りで頭が茹っているからという訳でなく、シンプルに性格が不細工なのだろう。
アギを打ち込み、怯ませる。こちらに気付いたラフムはすぐにマハムドオンを放ってくるのですぐさま方向転換。悪魔の群れに突っ込んで、壁にする。
そして坊さんがラフムに一撃を加えてから俺はまた隠れる。坊さんは守りを続けてザコちゃんは坊さんの回復。
そう長い時間は経っていないと思うが、それでももうネタ切れだ。
ラフムを煽るにはザコちゃんのボキャブラリーでは足りなかったらしい。
「この、羽虫共がぁ!」
そう言って、怒りに任せてマガツヒを高めるラフム。大技が来るッ!
『滅びのシルト』
その波動は坊さんの貼った闇障石と同じような結界を無視し、俺たちに大きなダメージを与え、かつ足を動かなくさせた。
そして、二発目をチャージされる。この
マガツヒを高め、全ての力を攻撃に注ぎ込む。
俺の放ったアギラオ、ザコちゃんのジオンガ、坊さんの菩薩掌を全て直撃で貰ったラフムは。
「その程度かぁ!」
と高らかに吠えた。避けることはしていない。マガツヒを高めているからだ。ダメージは致命傷には届いていない。体力が高く、この攻撃では足りなかったのだ。
つまり、俺たちの勝ちである。
「遅くなってすまない、少年」
構わない、と答える事すらなくナホビノに戻る。これで、奴の動く前にもう一度技を出せる。
高めたマガツヒのまま、麁正連斬を。
「グッ⁉︎」
手応えあり。魂まで届いた。
ヤツはもう、虫の息だ。
「ふざけるな、ふざけるなぁ! 我が、我はまだ死ねん! 死んでたまるか!」
その最後の咆哮は結界の穴から更なる悪魔を引き込んだらしく、更に悪魔がやってきた
それを見る事なく一目散に逃げ出すラフム。追撃に行くには目の前の悪魔達は強く、俺たちは消耗している。背を向ければ殺される程度には。
だから、先に目の前の悪魔に対処してした。
してしまった。
『少年、ベテルからの通信だ。……先程逃したラフムが、学校に侵入したと』
嫌な予感がした。根拠はない。ただラフムを見て覚えていた既視感と学校という単語が繋がりかけただけ。
「行くが良い、ここは拙僧が何とかしよう」
悟劫さんはそう言って俺を送り出す。感謝の言葉を告げて、俺は学校へと駆ける。
そして、多くの見知った制服を見た。
白い花柄は赤く染まり、胴体が欠けていたり、頭が割れていたりと様々だ。
ゲラゲラと笑う悪魔達がいた。
殺しを、力を楽しんでいた『力のある側』の奴ら。あの様子に鏡を見ている気持ちになる。
とりあえず皆殺しにして先に進む。そして、校舎に空いていた穴から校内に入る。
「ヒィッ⁉︎」
怯えていた奴は、太宰だった。戦う気力はもう無いのだろう。邪魔だから逃げろと告げて進む。
「クソっ! どうして僕はッ!」
傷だらけで憤っていた奴を見る。敦田だった。戦う力はないのだろう。邪魔だから逃げろと告げて進む。
そして、たどり着いた。
ラフムがいた。ラフムは、ごく自然体だった。
ラフムの側に樹島サホリがいた。その目は曇っているようで、しかし今までよりも自然だった。
樹島、と声をかける。
「……あぁ、アンタか」
ラフムと共にこちらを向く樹島。『よくもやってくれたな』と二人から伝わってきた。
「アンタが、ラフムを呼び出したの?」
「違うわ。コイツは私を探してたの。私がコイツを心のどこかで求めていたみたいに」
それは、復讐の為か?
「復讐……まぁそうかも。ずっと私だけ辛かった。ずっと私だけ痛かった。もっと人間らしく生きたかった。だから全部が憎かった」
曇った目で、そんな事を宣う。
「それも全部、私が弱かったから。私に力が有ればよかった。全部殺して、勝てるくらいの力があれば私はよかったの」
強ければ、アイツと並び立てると?
「……本当ムカつくわねアンタ。けど、多分その通り。タオみたくなりたかった。タオに頼られたかった。タオに好かれたかった。そんな馬鹿な事を考えてた……けど、気付いたんだラフムと繋がってようやく」
どんな事に?
「アイツは、
そう言って教室の隅を指差す。そこには倒れている磯野上がいた。近くには、腹に大穴が空いている女生徒が一人、頭から血を流して倒れている生徒が一人いる。
やったのは、樹島だ。
「もう全部が馬鹿みたいで笑うしかないでしょう?」
その言葉に、肯定で返す。
それはそれとして、ラフムはこれからどうするつもりなんだ?
「我は、サホリと共に復讐を果たす。我を貶め、サホリのような強者を縛る悪法を作った神を地に落とし、我の世界を創り上げるのだ!」
そうか。
薄っぺらいな。
「何?」
それは単に嫌いな奴を殺したいってだけだ。ごちゃごちゃ飾るな。
「貴様ッ!」
「その通りじゃない。
ついでに言うなら、樹島は新興宗教に嵌った奴みたくなってるぞ。事実を色眼鏡で歪めてる。
「……何?」
そこの奴は確かに日和見のクズ女だが
クズなりに、本気でお前の事を親友だと思っていた。嘘だらけでも、そこだけは否定させない。
「……やっぱ、アンタってタオの事好きでしょ」
死んでほしいくらいには嫌いだよ。
自然とマガツヒが高まっていく。樹島はラフムの触手に掴まれ、ラフムは今までと別次元の力を放っている。
そこに『見つけたぞ、悪魔め!』と天使達がやってくる。
天使の方を見る事なく『滅びのシルト』で消し飛ばしたラフムがいた。
そして、その余波からこの体は人間を守っていた。アオガミはどうやら反抗期だったらしい。
『少年、誰に向けて言い訳をしている?』
と、俺の位置を見て樹島は動揺し始めた。
「……え、嘘。なんで? 私アイツまで殺す気は無かったよ?」
「あの女は、貴様の敵だったぞ」
「そうだけど、違う、違うのそれは。え、違うよ、私は……どうして?」
「サホリ、私の声に従え。貴様は貴様の心に正直に動いただけだ。何も間違ってはいない」
その言葉を皮切りに、ラフムと樹島の魂がズレていく。先程まで一つにしか思えなかったモノが、分たれていた。
「嫌、離して! ラフム、離して!」
「貴様が我を使い、貴様が行ったのだ」
「違うの。私は、私は!」
「サトミだけは、絶対に恨んでは無いんだから!」
俺の後ろで倒れ込み、まだ息のあるラクロス部のサトミさん。彼女は樹島の学園生活を破壊した元凶であり、樹島を憎んですらいたが。
同じ部で道を同じくした戦友だったのだ。
「おのれッ! 我に歯向かうか人間が!」
「黙って! アンタだって私を人形にしようとしたクセに!」
次の天使達が窓から見えた。
旗色が悪いと思ったラフムは、樹島を連れて魔界へと消える。
この辺りは今、東京が不安定になっているのだろう。ナホビノである俺なら追いかけて行けそうだ。
「ユート……くん……」
虚な目をした磯野上が俺に言葉を投げる。
「サホリを……助けて……」
そんな言葉に、返す言葉は一つだった。
「お前がやれ」
回復の水、神霊水を生み出し磯野上にふりかける。傷は治ったし、マガツヒはそのうち貯まる。
あとは蘭丸についてだが、もうすでに魔界にいるようだ。魔界側からあのランマニウムとかいう力を感じる。
「……ねぇ、私も行って良いよね」
ザコちゃんが珍しい事を言う。ぐだぐだ逃げようとすると思ったのだが。
「なんか、モヤモヤするんだ。だから」
そんなザコちゃんに「ありがとう」と告げて、魔界へと踏み込むのだった。
肩にベテルの聖女様をお米様抱っこしながら。