「大丈夫⁉︎」
悪魔との戦闘がひと段落し死体から物を漁ろうとしていると後ろからうるさいのが来る。
どうにも心配している様だった。被弾はあまりしていないのに不思議なものだ。
「え、アンタ
俺は今物理攻撃に対して耐性を持っている。オニの写せ身でなんやかんやしたのだ。
「……まぁ、邪教の世界のアレは意味わかんないよね」
言われるがままにピアノを弾いたりしたらなんか良い感じになるのだ。
「……でも、怪我してない?」
魔力がもったいないだろう。その辺のマガツヒなり傷薬なりで治る。
「なら、良いけど」
しかし、結構な人間が魔界に居るようだ。新しめな鞄だの学生証だのがちらほらある。
悪魔にとってほかの人間は餌くらいだと思っていたのだが。
「んー、多分だけど交換用じゃない? 狙いの人間を楽に手に入れられるかも知れないし」
そうでなければ食えば良いのか。
「……ひどい」
ああ、酷いな。
なにせ、全く意味がない。結局殺し合うのだから。敵に力を与えかねない者を生かしておくなど百害あって一理なしだ。
「いやいやいや、アンタ人間の事忘れてない?」
忘れていない。これから抱えきれない人間を見つけたらきちんと殺していくとも。
「何で⁉︎同じ学校に居たんだよ⁉︎」
逆に聞くが、同じ学校に通ってた真っ当で弱い人間を引き連れられるのか?
どうせ守れず死ぬなら、殺した方が早いだろう。
「それは、違うよ……君の中で正しい理由があっても、それは違う」
とはいえ安全な場所を確保できればその限りではない。この辺りの力のある奴を下僕にしよう。ザコちゃん、心当たりは?
「んー……この辺りだと妖精かな? 妖精王オベロンとそのお嫁さんのティターニア。悪魔の中では比較的まともなんじゃないかな? お菓子持ってくと色々交換してくれたし」
ならそちらの方に行ってみるとしよう。樹島の行方についても聞けるかもしれない。
「……サホリ」
では、アオガミ。
『聖女タオの防衛能力は高い。10人程度なら支障はないと思われる。この付近の人間の気配は5つ、全員拾って行けるだろう』
了解だ。10人目以降は切り捨てる。
「それって、私が守れってコトだよね」
そうだ。お前が守りたいなら、お前が命を懸けろ。
「……上等だよ、やる。これでも子供の頃から聖女だったんだから」
その返答をとりあえず信じて、周囲の人間を探索し始めた。
「それはそれとして、ちょっと言葉が足りないと思うんだけど」
「あー、つんでれ?って奴?」
やめろ貴様ら、殺すぞ。
「なぁ、夢だよなコレ⁉︎そうだよな磯野上⁉︎」
「……ねぇタオ、私たち友達だよね? 守ってくれるよね?」
「………………なんでまだ生きてるの?」
近くの悪魔を殺したりしたものの、案外あっさりと生徒の回収は進み、残りは一人だ。1人気絶しているし、1人は多分心が死んでいるが。
「大丈夫。私たちがいるから」
そんな彼らに『見知った顔』であり『善人』の磯野上タオはまささく救いの手に見えたのだろう。重いパニックにはならずに着いてきている。混乱している男子生徒とて、肩には気絶しているやつを抱えているのだから。
というかアイツメンタル強いな。
『理解が追いついて居ないのだろう。故に言われるがままに動いていると推測される』
指示待ち世代の日本男子も捨てたものじゃないのだな。などと考えていると前方から戦闘音が聞こえる。
「俺が、俺がぁ!」
血反吐を吐くような声がする。声の主は太宰イチロウ。先程学校に置いてきた気がするのだが、立ち直って魔界に来たようだ。
戦っているのは狼男。魔獣『ルー・ガルー』
素早い動きで駆け回り、太宰の操る悪魔を切り刻んでいく。
太宰の足元には、女生徒が一人。なんともわかりやすい場面だ。
「ハァッ!」
分からないのは、なぜ太宰があれほど高位の
とはいえルー・ガルーも強力な悪魔のようで、天使ももうすぐ死ぬだろう。
「……お願い、助けてあげて」
そんな場違いな言葉が背中からかけられる。何を言っているのか分からない。なぜアイツに情けをかけるのだろう?
「太宰くんは仲間だよ⁉︎人間なんだよ⁉︎」
……あぁ、そういう事か。と納得する。どうにもベテルの聖女様には太宰イチロウが死にかけていると見えるようだ。
「あ、ホントだ。エグい事するねあの太宰って奴」
やっていることはシンプルだ。耐え抜いて、敵が息切れしたところで致命の一撃を入れるということ。
ルー・ガルーがもう引き返せないタイミングまで引き込んでから『宝玉』でパワーを治療する太宰。そして直撃を耐え、高めたマガツヒのままに『メギド』の光をルー・ガルーへと叩き込むパワー。
……あ、仕損じてる。トドメ貰お。
氷結魔法ブフーラをギリギリ逃げる足を残して居た奴に叩き込む。野暮なことをしてしまった気がするが、あの機動力の敵を生かしておきたくはないのだ。
「……来てたのかよ、お前」
来ていた。磯野上が治療の術を使う。息が整うまで休め。
そう言うと、ホッと一息ついた後で
「……だけど、樹島が危ねえんだ」
なら、少しの間そっちは頼む。コイツらを安全な場所まで送るまで。
「分かった……一応、樹島はあっちに向かったよ。黒い、ラフムって悪魔に捕まってる。今にも死んでるかも知れねぇ」
「太宰くん……」
「悪い、言い過ぎた……怪我、直してくれてありがとな」
それにしても何があった? そこの天使といい誑かされたのだろうか?
「敦田の妹が、俺を庇って悪魔に攫われちまったんだよ」
その言葉から湧き上がる殺意を抑える。悔いているのだから、あの子の安否次第だ。
「ミヤズちゃんが?」
「あぁ……それでさ、自分が本当に小さく思えちまって。だから後先考えねぇで魔界にやってきて……アブディエル様に、力を授けられたんだ」
なるほど、悪魔の誘いに乗った訳か。
「アブディエル様は正しさを信じる事を教えてくれた。そりゃおっかないところもあるさ。けど俺はアブディエル様の正しさを信じたいって思ったんだ」
その目に曇りはなく、しっかりと今と前を見つめている。
「だから、戦うって決めたんだ。お前みたいに強くなくても、あの子みたいに」
それで、ミヤズちゃんは?
「お前と居た蘭丸って奴と妖精の森に行ってる。怪我した奴らの治療とか、助けが来るまでの避難とかそういうのを助けてくれないかって頼みに行ってる」
せんきゅー蘭丸ふぉーえばー蘭丸。奴はやはり素晴らしい蘭丸だ。
と口に出しそうになるのを抑えながら、了解したと告げる。交渉がどう転ぶにしても妖精の森に居るのは確かなようだ。後ろの荷物共を置いていくついでに『オハナシ』しに行こう。
「体力も魔力も戻った。俺は行くぜ。お前は皆を頼む」
すぐに向かう。それまで死なないようにしろ。
「おう」
そうして、妖精の森へと足を進める。
東京の跡地にできた複雑な廃墟迷路を抜け、天然なのか破壊の跡なのか分からないの洞窟を抜けると大きく美しい森が見えた。
そして、そこには地味目な見た目ながらも気高く輝かしい心を感じさせるメガネ美少女と性別不定形宇宙人たる蘭丸が、妖精王に傅かれている姿があった。
尚、次の瞬間オベロンは嫁さんに蹴り飛ばされていた。