蹴り飛ばされていた妖精王オベロン、蹴り飛ばしていた王妃ティターニア。強さ的にもティターニアの方が強いあたり、カカア天下なのだろう。
「ユート殿ー!」と元気に走り寄ってきた蘭丸によると、なんとあのオベロンたる悪魔はミヤズちゃんを口説こうとしたのだとか。見る目があるのは褒めてやるがその首はいずれ落とす。
「なんだか、すいません……」
しゅんとした様子で謝るミヤズちゃん。なんとも可愛らしい。愛らしい、素敵だ。
だがそれはそれとしてこんなにも悲しませたオベロンの首は落とす。なんなら晒す。
「夫が失礼を」
「いえ、こちらこそ申し訳なく……」
「とりあえず今は皆の治療をどうにかするでありますよ。急ぎで必要な物資は魔石と包帯でありますね?」
それなら在庫がある。これで足りるだろうか?
「ええ、十分です。重症の者にはまた別のモノが必要ですが一先ずは」
出先で見つけたなら拾っておく、何が必要なんだ?
「黄金のリンゴが必要となります。きちんとした人間の方にはきちんとした薬が必要なのですよ」
きちんとしてなければ魔法とかでいいのだな。
「うん、覚醒した人は回復魔法とかの効きが良いんだって。ベテルで教えてもらった」
なるほど。悪魔は死んでも蘇らせれるからな。リカームとかで。
「意外と便利でありますよね、悪魔とは」
「そうだよ。まぁ悪魔は悪魔で色々あるんだけどね」
それと、申し訳ないが後ろの連中を森に置いてくれないだろうか? もう一人魔界で遭難してる奴がいる。そいつをどうにかしてから帰る手立てを考えたい。
「ええ、構いません。ナホビノのアナタと敵対する気は今のところありませんもの」
「まぁ帰る手立てを整える必要はないと思うんだけれどもね。東京もうダメみたいだし」
……そんなものなのだろうか?
「ベテルの皆は頑張ってる。だからきっと大丈夫」
……まぁいいか。
蘭丸、これからラフムという悪魔の所に行く。手を貸してくれないだろうか?
「申し訳ありませぬユート殿、今この妖精の森を離れる訳にはいかないのでありますよ」
なるほど、防衛か。
「はい。ユヅル殿がこちらに来るまでは蘭丸が守ると約束したのであります」
いや、構わない。アオガミとザコちゃんがいれば割と何とかなるからな。
「……え、私のことそんなに信頼してるの? すごい複雑なんだけど」
それに今回はコイツが同行する。回復はできるから、死にはしないだろう。
「……うん。任せて」
「なるほど、頼りにするでありますよタオ殿。ユート殿をよろしくであります!」
妖精の森を離れ、東京砂漠を歩いていく。
太宰から聞いた方向へ行くと、血の跡がちらほらとあった。赤い血であり人のマガツヒの感覚がある。これは太宰のモノだろうと思ったが、違う気もする。これは太宰とメガネくん両方のモノだろうか? かなりのマガツヒが流れ出たようだ。
「……ッ⁉︎急がなきゃ!」
そう走り出そうとする磯野上を抑え、感覚を研ぎ澄ませる。
太宰がきちんと戦っている所を一度しか見た事はない。しかし、その一度の戦いだけで奴は『しぶとい』ということは信じられる。
敦田とは魔界で一緒だった。奴は力は強くないが、呆れるほどに『したたか』だった。負傷し、逃走したのは事実だとしても、この痕跡を残してるのは理由がある筈だ。
「だとしても、二人が死にそうになってたら⁉︎急がないと!」
だから、ちゃんと位置を把握した。どうにも『マガツカ』に囚われているらしい。
最短距離で跳んで行くぞ。
「うん、分かった!」
「そこで躊躇いなく抱きつくんだから不思議な関係だよねーホント」
ザコちゃんを掴み、磯野上を抱え、ナホビノの跳躍力で真っ直ぐ行く。このあたりは『妖獣バグス』という空飛ぶグロいぬいぐるみがいるので足場には困らない。
そうして、マガツカの中に突っ込んだ。スーパーヒーロー着地をしたいところだが、あれは地味に体を痛めるのでやめておいた。
中には死にかけの太宰を守る『天使パワー』に『邪龍バジリスク』と『幽鬼ピチューシャ』が群れをなして襲っていた。パワーは当然死にかけているが、しかし全ての攻撃を防いでいる。太宰は死にかけの体を無視してパワーの治療に集中している。
そうして耐え続けている目的は何かある。そう考えて獣の気配を感じた。
そして、『行くぞ』という鋭い殺意が乗った合図が聞こえた気がした。周囲の悪魔は太宰に惹かれて気付いていない。だから、背後からバジリスク達に対して『轟雷』を叩き込んだ。電撃に弱い奴らはこのナホビノの雷に焼かれ、ピチューシャは耐えていたが俺とは別方向からの炎に焼かれて灰になった。
炎を放ったのは、『妖精カハク』そのサマナーは敦田ユヅル。
「やっと……来たかよ……!」
「すまない、カハクの回復まで時間がかかった。もっともハヤタロウはまだ倒れているからこれ以上は難しい。大物は頼めるか?」
ああ。と頷いて剣を構える。
このマガツカの主は『邪神バフォメット』。黒い山羊のような姿で、炎を従えている悪魔だ。
理性もなく吠えるバフォメット。その体は傷だらけだ。太宰と敦田は相当にコイツを追い詰めていたようだった。
放たれるのは火炎魔法マハラギオン。強大な炎で周り全てを焼き払うつもりだったようだが、この程度は問題ない。アオガミが修理された事で基本性能が上昇し、力は強くなったのだ。ナホビノとしての俺たちの力を完全に出力できるほどに。
「秘剣『逆凪』」
メギドの光と同じ性質の剣をバフォメットに叩き込む。ガードして耐えようとするも、そのガード越しに魂を消しとばした。
「それなりに使えた」と、そんな感想を呟きながらマガツカが蓄えていたマガツヒを吸収する。
「良いところを持っていかれたな」
敦田が息も絶え絶えながらも軽口を叩いてくる。トドメだけ貰うのは美味しいところだけ取っているようで、とても良い気持ちだったと言っておく。
そんな俺に苦笑を返しながら磯野上を見る。
戦いの中で迷いなく太宰の所に駆け寄って、その治療を進めていた。
まだ動ける敦田に、ラフムと樹島は何処だ? と直球で尋ねてみる。
その言葉に驚きの表情を見せてから、シナガワ駅の方を指差す。だが、こうも付け加えた。
「樹島は、もう悪魔に呑まれている。ラフムの意志のままにマガツヒを渡していたよ。……こうは言いたくはないが、樹島を助けるのは二の次にしてラフムの討伐を優先して欲しい。いくらキミだとしても、迷えば死んでしまうんだ」
脇腹を抑えて、そう言葉を紡ぐ。樹島を見つけ、助けようと駆け寄り、ラフムに一撃貰ったそうだ。
そこから太宰に助けられてこのマガツカに逃げ込み、戦いながら回復を試みた。そういう経緯だったそうだ。
俺たちが痕跡を見つけたら助けに来てくれる、と。
俺たちが来なかったのなら、ハヤタロウ達他の仲魔も回復させて万全でこのマガツカを攻め落としたと。
こんな『回復するまでの囮をやれ』という話を受けた太宰も、言った敦田もかなりイカれている。サマナーとはこういう連中なのだろう。
そんな二人でもラフムには手も足も出なかった。樹島のマガツヒでラフムは強くなり、ラフムの奪うマガツヒで樹島は強くなる。もう、止まらないと。
「大丈夫。サホリはラフムに負けないし、ユートくんならラフムをやっつけられる。私はそう信じてるから」
そう、磯野上が言う。太宰の治療は終わったようで、パワーが太宰を抱えている。その表情はどこか誇らしげだった。
「……分かった。僕も君たちを信じる。だが、決して死なないでくれ。学校で死んだ彼らに加えて君たちまでも失ったら、僕もミヤズも悲しむから」
そこでミヤズちゃんを持ち出す貴様は本当に良い性格をしている。そんなことを言ってしまってもいいだろうか?
空気が冷たく痛々しい。シナガワ駅の奥に引きこもっているラフムが理由だろう。
磯野上は言葉を発さない。流石に緊張しているのだろう。ザコちゃんはビビりつつも自然体だ。強敵相手でも心が折れないのは仲魔として心強い。
俺は何か懐かしさを感じていた。アオガミもそうだった。これから戦う敵に、目に映るラフムと樹島という
今が、ナホビノとして戦う時だと。
ソウルハッカーズ2が8/25日に発売!思ったより早くてびっくりしました。
#FEのスタッフさん達らしいのでゲームとしては面白くなるでしょうね。現代受けするデザインにして客を釣って『コンテンツの密度』で沼に引き込むつもりだろうとか勝手に思っています。
と、私信でした。