戦ってみてわかった。スルトを殺す事は不可能じゃない。
「えっ?」
何を驚く? スルトの治癒能力は他人から付与されたモノだ。本人はひたすらデカくて頑丈なだけだ。
だから、治るより先に殺し切れば問題はない。
「えぇ……?」
「それで死ねば確かに問題は無いけどさ、なら何さっきはやらなかったの?」
「あぁ、面倒になったのでありますね!」
その通りだ蘭丸。
「認めんのかい……」
一応補足するならば、無理やり寄って切り捨てた方が消費が軽いと思ったからだな。だから、ちょっと火に強い悪魔の写せ身に付け替えてから突っ込む。
「それなら蘭丸もご一緒するであります! なんか行けそうだったのでありますよ!」
心強い。
「今更ながらこの宇宙人は何でこんなに強いのさ」
「……蘭丸って宇宙人でいいのか?」
そうだ。センゴクジダイより日の本に居たランマル=モリの系譜が無いわけでは無い気がする蘭丸星の蘭丸だ。凄かろう。
「相っ変わらず、何言ってんのかさっぱり分からねぇ。俺がバカだからか?」
「理解できるのは脳みそに瞳があるとかの狂人だけだから、何も問題はないよ。うん」
失礼な事を言うな。俺はまだあそこまで啓蒙高くはあれて居ないぞ。
「はいはい」
とかなんとか言いつつ龍脈溜まりを探す。写せ身を扱う機材のある邪教の世界に赴くためには、龍脈溜まりから飛ばなければ行く事はできない。
……のだが、見つからない。不自然なほどに全く。
近場で死にかけていたヴァルキリーに尋ねるが、彼女も知らないとのこと。
困った。
「……それならば、この国の悪魔達、国津神に頼るのはどうでしょうか? 彼らは火に強くなる呪法を持っているのだとか」
「うぇ、国津神かぁ……」
知っているのかザコちゃん。
「ほら、私を担ごうとした天狗共。アイツらの大将だよ」
「なんか聞いたことあるわ。アマツカミとクニツカミって奴ら」
なるほど。つまりそいつらをぶちのめしてザコちゃんを頭に据えれば、ザコちゃん王朝の誕生になる訳だな。
「しれっと何押し付けようとしてんのさ」
いや、言ってみただけだ。ザコちゃん王朝という単語を思いついたので。
「愉快な奴め……」
などと言いながら笑みを見せるヴァルキリー。もうすぐ死ぬというのに、綺麗に笑うモノだ。
「アンタはこれからどうするんだ?」
「私はもう一度戦いに行きます。仲間の仇を討つ為に」
「そっか……頑張れよ」
そう言って最後の命を燃やして戦いに向かうヴァルキリー、その顔はとても楽しそうだった。
あんな風に死にたいモノだ。と素直に思った。
神田明神に向かって歩く。その辺りは秋葉原があった場所であり、魔界になった当時はノリに乗っていた電気街にはとても面白い気配が沢山ある。
例えばプリクラ。なんか風情があるし、何故か知らぬがジャックフロストが筐体に描かれている。あの雪精が自由なのか、このプリクラを作った方々が自由なのかどちらだろう?
例えばパーツショップ。残骸しか残っていない為全ては理解できてはいないが、それでもとても『ニッチ』な方面に特化しているのが伝わってくる。
現代の秋葉原とは趣が違うが、どちらも根にあるのは愉快なモノなのだろう。拝金主義が目に見えるかどうかの違いだろうか?
まぁいいや。
適当にしばき倒しながら先に進む。
すると、見慣れた石畳が見えてくる。少しずつ緑が増えてゆき、日本っぽい神聖な空気が伝わってきた。
「何用だ? 人の子よ」
国津神のタケミナカタがそう問いかけてくる。その問いに対して、スルトに近づくための呪法を教えてほしいと素直に告げる。
「怒れる巨人に手を出すか。愚かな」
返す言葉もない。スルトを治療してる奴を殺すには近づかないと難しかったのだ。スルトが雷に弱ければもう少し楽だったのだが……
「分不相応な事をするものではない。東京に帰り安穏と暮らせ」
とても穏やかな声で、そう語ってくる。それなりに良い神様なのだろう。多分。
と、こんな時に天気が変わった。
空から飛んできた火球を雷で吹き飛ばす。『戦ったら殺される』みたいな臆病さで苛立たせないで欲しいものだ。もっと魔王らしくどーんと構えていられないものか?
あ、どこまで話しただろうか?
「……何者だ? 貴様」
ベテルでナホビノをやってる者だ。……相棒は今メンテ中だが。
「これが……ナホビノッ⁉︎」
「ヒトにしか見えぬ⁉︎」
「人と悪魔が交われば、ここまでにッ⁉︎」
なんか素直に褒められてる。何故だ。
「アンタはどんな反応を期待してたのさ」
どんなのだろう?
などと気を緩めていたからこそ、その言葉は印象に残った。おそらく、聞き逃してはならない大切な言葉として。
「ライドウや共にいたあの少年のようだ」
と。
ライドウとは、東京が砂漠に落っこちる前にブイブイ言わせていた悪魔使いらしい。
今の俺に出来ることは、日本に古くからいる神様からすれば『あぁまたこんな事になったのだなぁ……』という風に感じるのだとか。似たような事をしてる奴らは沢山いたのだと。世界はやはり広い。
そんなライドウ だとかの方々は、しかし今では誰も生きてはいない。どんなに強くても人間であるから、『地球が無くなれば貴様は生きてはいられまい!』という感じになったのだとか。
どんなにヤバい生命体でも星ごと爆破すればみんな死ぬという銀河一のバウンティハンターのやってる事は正しかったのだろう、うん。
「なんか、シャギョームジョー? な感じ。どれだけ強くても、ダメな時はダメなんだね」
「てかさ、東京が魔界に落ちたって本当にヤバい話だったんだな。話としては分かってたけど、全然理解してなかった」
スケールの大きい話だからな。実際俺もよく分かってはいない。
東京が滅んだとい言う話だったが、なんだか東京以外が滅んだという解釈の方がしっくりくる。だが、それもどちらかと言えばという話で、この解釈も違うのだろう。
「なんかさ、東京以外を見ればはっきりしそうな話しじゃない?」
ザコちゃんの言葉にハッとする。俺は東京から出た事が無かったが、太宰はどうだ?
「あぁ、俺も俺も。てか、俺らの世代だとそんなもんじゃねぇか? 修学旅行なくなったし」
それにウチの高校って他県の奴らいないしな、と太宰は言う。
なんだか、今まで暮らしていた世界が急に狭っ苦しく思えてきた。ゴタゴタが終わったら旅行に行ってみよう。
そんな事をなんとなく考えていた。
「んじゃあ、俺はこの辺で。お前が戦ってる間に周りを調べて、スルトを治してる奴を見つければ良いんだな?」
ああ。もうちょい言うなら殺すところまでやってくれても構わない。お前ならやれるだろう。
「頑張りはするけど、お前見てると俺が強くなったって全く思えねぇんだよなぁ……」
そんな事を言った太宰は悪魔召喚プログラムの中にいる天使共に慰められている気がする。見た目美人であるのに同情の心すら芽生えるのは何故だろうか?
スルトの炎の結界を、貰った刀でスパッと切り裂く。日本刀など初めて振ったが、思ったよりうまくいった。蘭丸の動きを見ているからだろうか?
そうして炎の壁を越えた先には、炎の巨人スルトがいた。怒り狂った様子は見えず、むしろ静けさすら覚える。
その手にあるのは魔剣レーヴァテイン。炎がそのまま棒状になっているナニカだ。
言葉ではなくマガツヒでスルトの思いが伝わってくる。名前を尋ねられた。
言葉ではなくマガツヒで俺の答えを返す。己の名前と、アラマサというこの刀の名を。
いざ、尋常に!