『少年、今の出力は高水準で安定している。多少の無茶は効く筈だ』
心の中で頷き、マガツヒの剣を作り出す。今、目の前の3柱は俺の一挙手一投足に注視している。
つまり、蘭丸が暴れる時間だ。
「いくであります!」
刀に乗って飛翔する蘭丸が3柱を小刀ビットで切り刻む。スルト、イシュタルにダメージを与えつつアリオクの耐性をチェックした。
「見えた! 斬撃はちゃんと通るよ!」
ザコちゃんの指示にニヤリと笑い、蘭丸はアリオクに一直線へ進路を変える。
使える刀が一つ増えただけなのに自由度が段違いだった。あぁ、貰ったアラマサ(故)よ、いい仕事だ。
蘭丸の突撃によりアリオクは串刺しになり、そのまま浮いている小刀を手に取った蘭丸の殺意あふれる一撃を受けた。
「サマリカーム」
そして、『そこで死ぬ事』を前提とされたイシュタルの蘇生魔法によりアリオクは蘇り、全方位に氷結魔法をぶっ放した。
蘭丸の回避は間に合ったが、余波で手足が凍り動けない。
そこを、スルトは見逃さない。レーヴァテインに全力を込めた斬撃、『ブレイブザッパー』を放とうとした。
そう、ようやく俺から目を逸らした。
『
無数のマガツヒの矢を解き放つ。ナホビノの力であり、万能属性の広範囲攻撃だ。
蘭丸を襲うスルトの足を止め、アリオクの体勢を崩し、イシュタルの腕を吹き飛ばす。
そして、四肢が凍れども蘭丸は蘭丸である。当然に追撃をかまそうとして、即座に踵を返した。
イシュタルのマガツヒが高まったが故に、だ。
「なんであんなぴんぴんしてんのさ⁉︎」
ザコちゃんが悲鳴を上げながら蘭丸を回復する。イシュタルは高めたマガツヒを回復に使い、向こうも立て直しをした。
結果としてはお互いにノーダメージ。仕切り直しだ。
「根性ってだけじゃないよね、あのタフさ」
ザコちゃんが呟く、根性の割合の方が高いとは思うが、しかし仕掛けはあるだろう。この城そのものが奴らの電池というなら、話は早いのだが。
「消耗戦は、避けたいでありますな」
そう、そこなのだ。
目の前の3柱は全身全霊のヤケクソだ。全てのリソースをここに注ぎ込んで一発逆転を狙っている。
そういう連中は時間をかけて心を折るのが楽ではあるのだが、それは補給と退路があってのこと。
ここは敵の本陣。こちらも消耗戦に付き合って集中力を切らせば、仕込まれた罠に食いちぎられる。
「臆したか? ナホビノ!」
アリオクの声が響く。この状況で臆さない奴っているのだろうか? と思いながらあたりを探る。ぱっと見で不自然なモノはない。
よし、場を荒らして様子を見よう。そんな雑な考えから再び『神矢来』を放つ。
防御、あるいは回避されろくなダメージにはならないのは分かっている。だが何かしらヒントは得られる筈だと考えたが、やはり無駄に終わった。
「甘いぞ、ナホビノ!」
矢を弾いたアリオクが全身する。剣から放たれる『渾身剣』は俺をしっかりと捉えた。
技を放った後の隙は消せず、直撃を貰ったが致命傷ではない。そしてアリオクは蘭丸の斬撃を防いだが敵陣までに押し返された。
そして、スルトが炎を解き放つ。部屋全体を消し炭にするような凄まじい火力だった。
ザコちゃんが火障石により防壁を貼ったが、それはアイテムでギリギリで防げただけ。
敵は、イシュタルによって回復されていた。
俺たちが手傷を負って、また仕切り直し。
周辺に変化はなし。マガツヒの流れも変化はない。
ならば、とイシュタルを狙う事を考える。
そこで『イシュタルを瞬殺する事が難しい』という経験がその考えを否定する。
先程駅前で戦ったイシュタルは信じがたい生き汚なさを発揮した。命の全てを一撃で吹き飛ばさなければ、殺す事はできない。
そんな大技は当然潰される。命ごと。
「あらあら、そんなに悠長にしていて良いのかしら?」
その言葉と共に俺たちの動きが鈍る。デバフ魔法のマハスクンダだ。
『逃げる』という事が頭に浮かんだ瞬間にコレとは、本当に強かな奴らだ。
「戦力で勝ってても戦術と戦略で負けてるよ! どうすんのさ!」
そういう時の定石は決まっている。ユニット性能で敵の考えを越えれば良い。
まずは、下がった能力を上げる。マガツヒを高めて大技を使う。
妖精の悪魔の写せ身より学んだ力、『妖精王の宴』。
自分達の能力を極限まで強化する能力だ。
これにて下がった能力は戻り、僅かな間とはいえ能力は倍増した。
だがそれは切り札を先に切ったという事。『これを防ぎ切れば勝ちだ』と考えているのが分かる。まさしくその通りだ。
防ぎきれれば、の話ではあるのだが。
蘭丸と俺が同時にスタートを切る。
敵の3柱は纏まって防陣を組んているので、一撃では殺せはしない。
だからまずは、数を叩き込んで崩す。
「ッ⁉︎」
まずはアリオクが反応する。飛ばしたマガツヒの斬撃は剣で防がれた。そのまま俺は加速する。
次にスルトに刀が直撃した。蘭丸の飛ばした小刀ファンネルの一つだ。蘭丸はそのまま加速する。
次にイシュタルに斬撃が当たる。俺の飛ばした斬撃だ。速度そのままに俺は連中に回り込む。
次にアリオクとイシュタルに刀が直撃する。蘭丸の飛ばした小刀だ。蘭丸は俺とは逆方向に回り込む。
「捉えられないッ⁉︎」
「此奴ら、嵐を作る気か⁉︎」
嵐とは面白い表現だが、そんなに間違ってはいない。
アオガミが思い出した技、『荒神螺旋斬』それは敵を螺旋の中に閉じ込めて切りまくる乱撃技。しかしあの3柱を止めるるほどの拘束力はない。
蘭丸が使えるようになった技、『
つまり、蘭丸の小刀が拘束力を補い、俺の乱撃が蘭丸の隙を潰す。これが!
「マガツ・蘭丸・ストリィィイム!」
二重荒神大連斬!
「技名揃ってないッ⁉︎」
ザコちゃんの声が響く。技名はお互いに今決めたのだ。これから協議の末になんやかんやする!
「ふざけた態度をッ!」
「アリオク! 防ぐ事だけに専心せよ!」
もうスピードは十分に高まった。止められるものなら止めてみろ! 蘭丸の刀ファンネル以外では止まらんぞ!
と、ここでスルトが二柱を庇い出す。先程のゴジラサイズではなくなったが十分に巨体であるため、かなりの刃をその身で遮断できている。
だから、先にスルトを仕留め切る。
高まったスピード全てを破壊力に変えた一撃をスルトに叩き込む。それは圧縮された嵐であり、ナホビノの渾身の一太刀だ。
ダメージを多く受けていたスルトはその一撃をその身で受けた。アリオクとイシュタルには大きなダメージはなかった。
そしてスルトはその身を二つに分け、火の粉すら残せない死体になった。
「耐え切ったぞ!」
「アリオク、ぶちかましなさい!」
アリオクとイシュタルは、残ったマガツヒ全てをアリオクに集め、『禍時:蛮行』を引き起こす。それは魔王のマガツヒによって技の威力を倍増させる奥義だ。
そして、アリオクの氷が放たれる。
その魔法の位階は、『バリオン』
『マハブフバリオン』という全てを凍つかせる絶技が、マガツヒによって高まった力で放たれた
……かに、思えたのだろう。
「獲った! であります!」
アリオクの魔法は結実する前に霧散した。
蘭丸の大技が直撃してアリオクが死んだからであり。
そして、
最高位階の魔法を扱うには、アリオクの力はほんの少し足りなかった。だからあらゆるやり方で自らを強化して盤石にしていた。
その強化の一つが剥がれ落ちた故に、蘭丸の一撃の着弾に間に合わず、アリオクは息絶えたのだ。
「……ッ⁉︎」
息を飲むイシュタル。そしてその体にザコちゃんの使った『封技の秘石』が直撃する。これでイシュタルは回復の技を扱えない。
動きを止めたイシュタルの首を、『逆凪』にて吹き飛ばす。これで終わりだ。
まだ死に切れていないアリオクの魂が、語りかけてきた。
「貴様、いつのまに我らの集魔陣を……?」
集魔陣というのは奴らがマガツヒを集めていた呪法の事らしい。ならば答えは簡単だ。
『誰か』がそれを止めたのだろう。
この戦場に居るのは俺たちだけではない。
なら土地のマガツヒを使いたくなる奴もいるだろう。
そういう事じゃないか?
などと適当に答えを返す。『実際はなんとなく奴らのマガツヒが減ってるなー』というくらいの緩い判断基準だったのだが、格好つかないので言わないでおく。
「そんな、コトで……」
とはいえ本当に驚いた。お前ほど強い悪魔がチームプレイで戦ってくるとは思わなかった。やはり絆というものは馬鹿にならないのだな。
だから、誇って死んでいけ。
その言葉にアリオクは、怒りと後悔と、そしてほんの少し別の表情を浮かべて死んだ。
とりあえず、これでひと段落だ。
東京をなんとかする方法とか、蘭丸を宇宙に帰す方法だとか、他にも色々含めて探す余裕は産まれるだろう、きっと。
そんな風に、先のことを考えられた。
「……ユート殿?」
蘭丸とザコちゃんが、不思議な目で俺を見る。何かあったのだろうか?
「……なんか、アンタから優しい感じがした」
「いつもは少し無理をしている気がしてたでありますよ。若干でありますが」
「まぁその若干の時点で違和感バリバリなんどけどね。キャラじゃないからやめない? 正直似合わないよ」
失敬な、俺ほどに優しく穏やかで公明正大な美少年はそういない。
そんな冗談を交えた雑談をぐだぐだとしながら、魔王城を後にした。
ターミナルを用いて、東京に帰ってきた。
蘭丸とザコちゃんは妖精の森に行っている。
『ちょっと探し物のついでに自室に帰ろう』なんて考えながら電車に乗ったら、なんとびっくり寝過ごした。加えて言うならそもそも乗る電車を間違えていた。
こりゃまたやらかしたなぁ、と電車から降りようとしたその時。
目に入る全ての人々がヒトではなく、目に映る全てのモノが偽りで、目に映る全ての世界は
17年前、東京は魔界に落ちた。そして秩序の神がそれを元に戻した。
だから現代の東京はおかしいのだと思っていたが……
果たして、
「そんな当たり前の事を疑問に思うな、貴様は仮にも人間なのだから」
恐るべき悪魔召喚士八雲ショウヘイの声がした。
彼は、超然とした目で俺を見た。
「これが今の世界だ。悪魔に迎合され、現実を見ないゴミ屑の人形どもしか居ない。故に、全てに価値はない」
彼の言葉が、響く。
「俺は天使も、悪魔も、人形も、尽くを滅ぼしてヒトの世を取り戻す」
彼はそれ以上何も言わなかった。その滅ぼす尽くの中身には、俺の想像と同じものが入っているから。
東京以外についてはそこそこにオリ設定です。