ナホビノと蘭丸とザコちゃん   作:気力♪

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水も滴る(心汚い)人魚様!

 プラプラと東京砂漠を歩いていく。

 

 相変わらず遠くに見える東京タワー以外にランドマークは見当たらないが、大きさからみて近づいてきたのだろうと思う。なにせ自分以外に人間を見つけたのだから。

 

 まぁ、砂漠に打ち上げられた人魚を助けようとしているとかいう妙な状況なのだけれども。

 

「しっかりするんだ!」

「……ああ、大丈夫よあなた。楽になってきたから」

 

 なんだかやらかしそうなそいつをちょっと睨むと、何となく空気が変わったのを感じた。やる気だったなあの人魚。

 

「人間でありますね。知り合いでございますか?」

 

 

 クラスの面白優しいメガネくんだ。それなり程度に話すな。

 

 

 などと若干のぐだぐだが起きた後に、彼はこちらに向き直ってきた。

 

 彼の名前は敦田(あつた)ユヅル。この東京砂漠に入り込むきっかけになった一人であり、個人的に崇めている後輩の兄である。真面目で誠実で、しかし意外と冗談が通じる現代風の優等生だ。

 

 

「君は……そうか、君もここに来ていたんだな」

 

 残念ながら帰り道のわからない迷子だが、なんとか生きている。そっちは無事なのか? 

 

「ああ。僕はもともと悪魔と戦う資質を買われていて、対抗するための術を身に着けていたんだ。悪魔召喚プログラムという」

 

 ハイテックでハイカラなのだな。俺は雰囲気でデビルマンもどきになったというのに。

 

「時に、こちらの人魚殿はどうなされたのでありますか? 介錯が必要ならば行いますが」

「あぁ。こちらは”マーメイド”という悪魔だ。襲われている所を見かけてしまってな」

「へぇ、人間にもいい奴ってのはいるんだね。どっかの誰かとは違って」

 

 心外だぞ。メガネくんを一般的な人間と一緒にするな。俺を見れば分かるだろが、人間というのはもっと小賢しく自分勝手なのだから。

 

「ところで……彼女たちは?」

「あ、蘭丸は蘭丸であります。ユート殿とは迷子仲間でありますよ」

「私はアマノザコ。こいつといるのは……危険から目を離さないため?」

 

 ザコちゃんや、別にちゃんとした事情と説明と手切れ金があればザコちゃんを殺すつもりはもうないぞ。俺は。

 

「とはいえザコ殿は蘭丸たちの手の内を知っているでありますから。それなりの対処はするでありますよ」

「血も涙もないこいつらと組んだのが間違いだったよ……」

「……なんだか愉快な事になっているのだな、君は」

 

 生きているというのは案外楽しい事みたいだぞ。今まで気にした事はなかったのだけれど。

 

 

 

 とりあえずメガネくんと情報のすり合わせをする。

 ここは『魔界』で『東京』らしい。十八年ほどで砂漠になったそうだが、街にある遺物を見た限りでは十八年前の東京を元にして作られた異世界である。とは彼の言葉だった。

 

 しかし人間の拠点となるような場所は見当たらず、善玉悪魔の根城も見当たらない。あいも変わらず八方塞がりだった。

 

 

「所で、太宰は一緒ではないのか? トンネルからこの世界に入ったのなら近くにいても不思議では無いのだが」

 

 太宰……ヘタレ動画配信者である太宰ユウイチロウの事は遠目に見た。砂漠に入ってすぐの、何もする気が無かった時に。

 

「無事だったのか?」

 

 白い羽と衣の天使っぽい悪魔に連れていかれた姿だったが。正直アイツの命は連れて行った悪魔次第だろう。取って食うような空気ではなかったのが救いかもしれないが。

 

「ならばその天使の根城を探すべきだろう。僕は予想が正しければ、その天使達は僕に力を与えてくれた組織とパイプがあるんだ」

「……天使に守ってもらってるーって感じなの?」

「そうだ。日本では今退魔の力がある者達が少ないんだ。だから悪魔から守る為に天使の力を借りていた」

「その天使という方々は信用できるのでありますか?」

「正直思うところは僕にもある。だが天使の力も悪魔の力も借りなくては日常を守りきれないというのが実情なんだ」

 

 そういう話は後でいいだろう。俺は興味ないし。

 

「アンタはブレないね」

 

 ブレられるだけの芯がないからな。俺は雰囲気で生きている! 

 

「そこは威張る所じゃないって」

 

 

 で、そっちのマーメイドは何をしでかしたんだ? 自分より強い悪魔に突っかかるタチじゃあないみたいだが。痴情のもつれ? 

 

「さっき見つけたばかりだから僕にも分からない。マーメイド、話してくれるか?」

「……は、はい」

 

 あ、こいつ声と表情を作りやがった。と俺とザコちゃんは気づいた。悪魔でも女の強かな恐ろしさは健在なのだな。

 

「私たちマーメイドの集落はとある悪魔に呪われてしまったのです。奴は水を汚染し、水に依存する私たちの魂に呪いをかけました。そして、その呪いに耐えられなかった者は心を壊されただ暴れるだけの存在へと堕ちてしまったのです……」

「……その、呪った悪魔というのは?」

「彼のモノの名はパズス。4枚の羽と獅子の顔を持つ邪神の一柱です。私は仲間の為にパズスを仕留めようと協力者を求めていましたが、その交渉が上手くいかずに襲われていました。そこをユヅル様に助けていただきました」

 

 そうなのか。頑張ってくれ。

 

「いやいや! 君は協力するべきとは思わないのか⁉︎」

 

 思わない。

 なにせ、報酬についての言質を何一つ取ってない上、パズス側の思惑も分からないのだ。リスクが大きくてリターンはあまりないような事をしても誰の得にもならないと思う。

 

「それに、そのマーメイドもあんまり信用できる感じじゃないからね」

「そうか……マーメイド」

「何? ユヅル」

 

「君は、何を差し出すことが出来るんだ?」

「……私自身の力を込めた、写せ身を」

 

 ならば引き受けよう。タダで使おうとしていたその性根は気に食わないが、ちゃんと払うモノを払うのなら問題はない。どうせ帰り道のわからない迷子なのだから。

 

「アンタ前言撤回早いよね。1秒前の言葉に責任を持ってなさそう」

 

 一応、責任の生まれる言葉はなるべく使わないようにしている。

 

「一応嘘は吐こうとしてはいないのでありますね」

 

 バレると面倒にしかならないので嘘は言わない方が楽だ。俺にはこの前吐いた嘘の内容を覚えていられる自信はないのだから。

 

 


 

 閑話休題。

 

 ユヅルとマーメイドを連れて、マーメイドの集落へと向かっていく。

 

 道中で知り合ったアナーヒターという悪魔は言った。水を基点にした呪いなら、術者を倒してからアナーヒターの神水を混ぜれば解除できると。そしてフレーバー付きの水はとても良いモノだと。

 

 フレーバー付きの水は水じゃなくてジュースだろうが! と激闘があったが、それでも彼女は強い悪魔で水の神様のために力は信じられるだろう。思想がまったく合わないが。

 

 

 そして、目の前の敵を見る。

 

 空高く羽ばたく悪魔の名はパズス。これまで見てきた悪魔の中で最も強く、恐ろしい敵だ。

 

 悪魔と合体した人間として、ナホビノとして、俺は悪魔を殺してきた。力に振り回されてたり、力を振り回したりと好き勝手に。

 

 ただそれは、自分より弱い相手にしか行っていなかった。自分より強い悪魔に立ち向かう理由はなかったし、強い相手もあまりいなかった。

 

 パズスは、明らかに今の俺よりも強い。それが分かるからこそ身体がすくんでしまいそうになる。

 

 だが、その恐れはすぐに消える。

 

 隣の蘭丸(宇宙人)は、ギラリと歯を輝かせて構えを取る。

 隣のアマノザコ(悪魔)はイヤイヤながらも身軽に動けるように構えている。

 

 目の前の敦田ユヅル(人間)は、気高い心で勇気を叫んでいた。

 

「パズス! お前に奪われた彼女達の日常を、返して貰う!」

 

 言葉にならないほどにパズスは逆上し、ユヅルへと雷撃を叩き込もうとする。しかしその雷は壁によって阻まれた。

 

 彼の手にあるのは、“雷障石”。雷を無力化するバリアーを貼る使い捨ての道具だ。

 全力の攻撃を撃たせる為に囮になり、明確な隙を作り出す。彼の勇気が、流れを俺たちの手番に引き戻したのだった。

 

「くたばれ、パズス!」

 

 マーメイドの氷の魔法がパズスの羽を凍らせる。

 

 心は自然と『戦うためのモノ』に切り替わっている。恐怖だとかはもうどうだっていい。目の前の敵を始末する。

 

 凍ったパズスの羽を俺とザコちゃんの雷魔法で切り落とす。これてもう奴は自由に空中を飛ぶ事ができない。

 

「クッ貴様らのような雑魚に我が負けるものか!」

「あなたがどれほど強いかは知りませんが……死ぬ時はあっさり死ぬでありますよ」

 

 パズスに向けて流星が流れていく。空中で落下しかできないパズスを確実に殺すために、刀に足を乗せて飛んでいく蘭丸。放たれた一太刀は深く鋭くパズスを切り裂き、その身を上下二つに切り分けていた。

 

「力が強いからって戦いに強い訳じゃないんだよね。ホント魔界ってヤダわ」

 

 違いない。今回はとりあえず殺される側にいなかった事を喜ぼう。

 


 

 アナーヒターの神水によってマーメイド達の呪いは解かれた。

 マーメイド達は理性を取り戻し、心を持って談笑を始めている。

 

「良かったー! コレでまた人間を惑わせるね!」

「うんうん! 人間共が私たちの歌に魅入られて身投げするのってすっごく滑稽だよねー!」

「あの間抜けな顔はいつ見ても面白くて癖になる!」

 

 なるほど

 

「分かってはいたのだがな、彼女達とて所詮は悪魔だとは」

「して、舐められっぱなしというのは癪に触るでありますね」

 

 よし、ちょっと懲らしめておこう。誰がとは言わず、そうなった。

 

 

 

 たった数分でマーメイド達の意識は変わった。人間を惑わしたりするのは変わらないだろうが、それはそれとして人間にあっさりと潰される恐怖は残ったのだろう。敗北者の目をしている。

 

 つまり彼女らはおとなしくなり、世界はちょっとくらい平和になったのだろう。うん。

 

「……ねぇ、サマナー? 私これから酷いことするよ? どうする? わからせる?」

「君は何を倒錯しているんだ!」

 

 尚、敦田ユヅルは一部の性格の悪魔に目をつけられたそうだった。ケッ、イケメンは違うぜ。

 

 

 

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