この東京砂漠を進み始めて(気分的に)数日経った。時計の類は役に立たず、日のようなモノが出てから沈むまでの時間は絶対に24時間じゃない。だから正確な時間は分からないのだ。
まぁ、とりあえず生きてるのでどうにでもなるのだけれども。
「魔石の融通、ありがたし」
「構わないでありますよネコショウグン殿。毒の対策を教えて頂きましたから」
「毒ってか、アイツの毒の息の対策だよね。まぁシンプルなモノなんだけどさ」
ネコショウグンは、ヒュドラが暴れていたのを遠目で見た事があるらしい。それによるとヒュドラのブレスは2つ。炎のブレスと、
どちらも直撃すれば大ダメージを受けざるを得ないだろうが、あくまで炎と呪いでしかない。なので対応する壁を作れば無効化できるのだ。
炎を防ぐ壁、呪いを防ぐ壁、どちらもギュスターヴが仕入れている商品の中にある。よって、ギャスターヴの財布がまたしても潤うのだ。流通を一手に引き受けるとこんなにも恐ろしい稼ぎができてしまうとか、羨ましくて仕方ない。
やはり金の流れるシステムを作る奴が最強なのだ。不労所得万歳。
「なんだかどうでも良い事を考えていないか? 君は」
もちろん考えているとも。目の前の困難からは積極的に目を背けなければ。英単語の小テストとか。
「それで期末前に一夜漬けするのでは効率が悪いとは思うのだがな……」
その辺は良いだろう。どうでも。
「……僕の力が足りずにヒュドラの相手を任せてしまって本当にすまない。可能な援護はするつもりだが、毒は防ぎ切れないのだから」
たまたま俺がアオガミと合体して強くなってただけだ。敦田が強かったら俺はもちろんお前に寄生したとも。なので次はなんか上手いこと頑張ってくれ。
「要求がふわふわ過ぎるぞ……」
よし。蘭丸、ザコちゃん、行こう。
「了解でありますよ!」
「治療はしてあげるから、適当にね」
東京砂漠を歩いて進み、東京タワーを眼下に捉える。
そこはかつて強大な悪魔達がぶつかり合った戦場跡。よくもタワーが原型を残しているモノだと感心するしかない。
ふと、俺と同化しているアオガミの記憶と混ざる。
彼は、まだ道路が多少残っていたこの辺りで神の軍勢の一員だったようだ。二十年前だとかの事か?
そこでアオガミはあの悪魔を見ていた。鬼のような、悪魔のような顔をした6枚羽の悪魔。あるいは堕天使。
明けの明星ルシファー、そんな化け物だ。
彼は創造神を倒したと言った。彼は、神のルールを破壊したと言った。
天使は戯言だと言ったが、それが本当だとは 俺/アオガミ は理解していた。
そんな事が、昔あった。
『少年、私は……』
その辺りは後で聞く。今は目の前の敵をぶちのめす。
「力に自信があるというより蘭丸達を眼中に入れていないだけでありますね。そこにいたからと八つ当たりをしてるだけですね。正直苛立つでありますよ」
「悪魔ってさ、大事な所に傷が付くとああなるんだよ。良くも悪くも情報でできてるから、欠けた部分を探してひたすらもがくしかない。……本当に辛いよ」
マガツヒをチャージして、強大な呪いのブレス『蛇毒の息』を放つヒュドラ。それを闇障石にて防ぎ、反撃を開始する。
まず、中距離かマーメイドの写せ身より引き出し身につけた力、氷結魔法『ブフ』を撃ちまくる。ブレスを吐き出す頭を凍らせて敵の反撃の手を止める。
そして一つ手を止めれば蘭丸はそれを逃がさない。縦横無尽に駆け回り、刀を煌めかせて命を削っていく。
「無理やり動いてくるよ! 炎と首に気をつけて!」
そして、蘭丸と俺の攻撃ターンを止めないのがアマノザコだ。小さな手傷は軽い回復魔法で癒され、大技の予兆を逃さず教えてくれる。
強さ、凶悪さで言えばパズスよりも格段に上の筈なのに負ける気が全くしない。噛み合っているというのはこういうのを言うのだろう。
そうして戦いを有利に続けていくと十分なマガツヒが溜まる。ここが決め時だ。
「いくであります!」
「やっちゃうよー!」
『禍時:会心』は貯めたマガツヒを使って自分達の力を最大限発揮できるようにする大技だ。野良悪魔のどいつもこいつもが奇襲のついでに使ってくる基本技でもあるのだけれども。
まぁ、それはどうでも良いか。
マガツヒを消費して、マガツヒ技を起動させる。使うのは当然、『禍時:会心』。さぁ行くぞ!
「蘭丸、シュトラール!」
「吹き荒れろ、ザンマ!」
『麁正連斬……!』
『禍時:会心』の影響下では全ての攻撃が『会心の一撃』になる。これまでの戦いでダメージを負ったヒュドラを仕留めるに十分なモノに。
そして全ての攻撃が通り、酷くあっさりとヒュドラは崩れ落ちた。
「なんだか、弱くない?」
「で、ありますね」
「あ! 私たちが強すぎたのか! そりゃ頭のおかしいの2人と私だもんね!」
「……しかと首は落としました。体が散っているのも見て取れます。殺したのでありますよね」
手応えはあった。仕留めた筈だ。だが、違和感が拭えない。
瞬間、地響きが鳴る。
巨大な岩で出来ているかのような巨人がこちらに向けて走ってきていた。
その速度は速くはないが、力強かった。
「……ッ! アレは大戦の時に暴れてた悪魔だよ! 国津神のオオヤマツミ! なんでこっちに⁉︎」
「まさか、ヒュドラを追ってでありますか!」
「アイツから逃げてた事忘れてたんじゃないよね! あの蛇!」
まずい、俺たちのマガツヒは空だ。オオヤマツミが動けている所から致命傷は受けていない。ここで戦えば殺されるッ!
「目を閉じろ!」
なので、素直に逃げることにする。幸いにもオオヤマツミが見えた段階で動いていた奴がいた。敦田は『くらましの玉』という閃光弾のような道具を起動させていた。なのでスタコラサッサと逃げてしまおう。
東京タワーの、向こう側へと。
「いやー、危なかったねー……」
「こんな危機一髪は不要でありますよ……」
「全くだ。目的地も決めずに走ったせいでここが何処かもよく分かっていないぞ。まぁこれから何処に行くかの目処も立ってはいなかったんだが」
あ、それならばアオガミから少し話があるらしい。
『……18年前に天使はナガタチョウ、旧国会議事堂を拠点にしていた。君たちの友人だという少年が連れ去られるとしたらそちら方面だと思われる』
「なるほど、それはありがたい情報だ。天使が居るのならそこから世界を渡る情報を得られるかも知れないんなだから」
「私の探しモノも進展あると良いんだけどねー」
「ザコ殿も進展があると良いでありますね」
「……なんか手がかりが近くにありそうな気はするんだけどね」
とりあえずは今何処に居るのかを調べる事から始めようか。
そんなこんなで、ヒュドラ討伐はひと段落したのだった。