ナホビノと蘭丸とザコちゃん   作:気力♪

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ナホビノくんたちは(なるべく無事に)帰りたい!

 東京砂漠を迷い歩くと、いつしか開けた場所に出た。

 

 そこは大戦時に陥没したのか、周囲より明らかに低い位置にあり、積もった砂はかつての東京を完全に覆い隠している。

 

 現代人感覚だったのならサンドボードの名所だ! と喜んだのだろうがそこらの砂を掘り返せば何かの死体が見えるのは明らかなのはわかっている。

 

 ので、適度に掘り返して使える道具を探していこう。あ、良いものを見つけた。

 

「……墓暴きって言わないかなぁ?」

「暴かれるような守りをしている方が悪いのでありますよ。お墓を作ってくれる主人や友の大切さが身に沁みるでありますよ」

 

 とはいえ明日は我が身だ。全滅はしないように気をつけよう。

 

 

 拾ったサンドボードを足に付けて、砂を降りていく。道中見かけた悪魔にボードの動きを見せつけてから高値で売りつけたので完全に黒字だ。元手は拾い物だけだし。

 

 そして砂の坂を降り切ると、砂煙の向こう側にある建物が見えてきた。

 

 あの特徴的な屋根の形は忘れられるものじゃない。国会議事堂が見えた。

 

 周囲にいるのは天使だろうか? 羽を持った人形悪魔がピシッとした姿でそこにいる。

 

『ちゃんとしているが故の異物感』というのだろうか。こんな混沌な世界ならば天使も相応にグレているのがイメージに合うのだけれども、その様子はない。

 

 真っ直ぐ過ぎるほどに真っ直ぐだった。

 

 

「……そこの悪魔、止まれ」

 

 天使がこちらを認識した事でピリつく空気、強くはないが、頼りになる空気がする。

 

 とはいえ敵対する気はなく、きちんと『太宰ユウイチロウ』の友人だと答える。天使にこちらに連れて行かれたのだが、無事なのか? と。

 

「太宰……あぁ、彼か。今は奥にいる。我々の庇護下にあり、無事だとも」

 

 それは何よりだ。彼に会いたいのだが通してはくれないか? 俺ともう一人は彼を探して旅をしてきたんだ。

 

「……信じられんな。悪魔の戯言など」

「そして、もう一人とはどこに居る? 貴様の連れているソレは人ではあるまい」

 

 蘭丸を人扱いしないとは……見る目のある奴め

 

「え、何でそこで『やりやがるぜコイツ』みたく思ってんの?」

 

 何故なら蘭丸は蘭丸だ。数え方は知らないが一人二人とは数えまい。宇宙の神秘、ランマニウムがうんたらかんたら! 

 

「最後までちゃんとしなって、ランマニウムがよく分かってないのは伝わったから」

「ちなみに、蘭丸達を数える単位はありますが、この宇宙の言語で説明できそうにはないであります」

 

 ……と、話が逸れた。アオガミ、連絡はついたか? 

 

『あぁ。位置情報を伝えたのでもう一刻ほどでやって来る』

 

 まぁ、そういう事だ。

 

「手勢を引き連れると?」

「あー、一応言っとくけどこれからやってくるのは本当の『人間』だよ。日本の悪魔使いだって」

「……しかし」

「あの建物に偉い奴とか居るんでしょ? ちょっと連絡しておけばアンタの責任は無くなるんじゃないかな? ルールの中でちゃんとしました! って」

 

 ザコちゃんのその言葉に理があるとしたのか、手下のエンジェルに言付けをして飛ばしていった。

 

「それじゃあ、少し休もっか」

「ちょうどそこに龍脈点もありますからね」

「貴様ら、居座るのか……」

「いいじゃん、ちょっとくらい」

 

 少し申し訳ない気はするが、どのみち選択肢はないので諦めて欲しい。

 

「……なんと?」

 

 お前が拒否した場合の話だ。悪魔の力を身に付けたばかりで、俺は調子に乗っているぞ。

 

「人外に、魔道に堕ちる下衆が私を脅すと?」

 

 もし交渉が拗れてしまったら、だ。アンタがちゃんとしてるなら、判断は誤らないとは思うが。

 

 誤ってくれた方が、暇つぶしにいいんだ。

 

「そこまで暴れたいのならば辺りの悪魔でも殺せば良いでしょうに」

 

 なるほど、そうしよう。

 

「……え、そうするの?」

「マガツヒも貯めておきたいですし、構わないとは思いますが……また迷う事になりそうでありますよ」

 

 今度は大丈夫だろう、遠くには行かないのだし。

 

 

 

 そんな訳でそこらの悪魔をしばいて回っていると不意にメガネくんから連絡が来た。

 

 なにやら、急ぎの用事らしい。

 

『大丈夫か⁉︎生きているな⁉︎』

 

 生きている。一体どうした? 

 

『……今議事堂前に着いた。確認だがキミはまだ天使は殺していないな?』

 

 殺していない。死んでいるのか? 

 

『軒並みな……僕は先に議事堂の中に行ってみる。太宰が心配だ』

 

 ……わかった。死なない程度にな。

 

『なるべく早く来てくれ』

 

 そんな連絡を貰った俺は二人と目を合わせて砂の山を飛び降りる。

 

 議会へと向けて、()()()に。

 

 


 

 爆ぜるような風の音が聞こえる。

 

 議事堂の中では戦闘が行われているようだ。片側は間違いなくメガネくんだ。仲魔に指示を出しているのだろう声が聞こえる。

 

 もう片方は女性の声。やけに愉しげだ。

 

「まだ終わりではないだろう?」

「当っ……然だ!」

 

 瞬間、脳内にメッセージが響く。

 

『衝撃と電撃、呪殺は効かないが火炎はよく通る。後は任せるぞ』

 

 メガネくんはボロボロの身体のままに風障石を起動させる。ザン属性をカットする障壁で守りを固めて、死にかけのマーメイドを固定砲台として最後の一撃を放つつもり

 

()()()()()

 

「……なるほど、面妖な手を思いつくものじゃな」

 

 そうしてマーメイドのスキル『嵐からの歌声』が放たれた時に俺たちは着弾した。

 

 屋根を突き破って、天井から。

 

「蘭丸、シュトローム!」

「喰らいなよ、火炎の秘石!」

 

 俺の炎魔法と二人の攻撃が重なり女悪魔に着弾する。

 

「蘭丸、参上であります!」

「怪我は治すよ、有料でね!」

 

 支払いはマッカで頼む。欲しい写せ身があるんだ。

 

「……ああ!」

 

 その言葉と共に奥に向かって駆け出すメガネくん。手札は完全に使い切ったのだろう。ここにいても邪魔なだけだ。

 

「……お主、ナホビノか?」

 

 直撃しても全く応えていない女悪魔、紅い綺麗な着物の彼女は愉快そうにそう尋ねてきた。

 

 それを肯定すると上品に、しかし愉しげに笑い出す。なにかおかしな事でもあったのだろうか? 

 

「いや何、主も先程の小僧も誠に面白き男よなと思っただけよ」

 

 なら見逃してはくれないか? 俺たちはここに居る友人を探しに来ただけなんだ。貴方とやり合う必要はない。

 

「しかし、戦わぬ必要もなかろうて」

 

 それもそうか。理由もなく殺し合うのが悪魔だからな。

 

 お互いの間の空気が割れる感覚がある。辺りのマガツヒの握り合いは僅かに負けた。

 

 マガツヒを取り込んだ悪魔の姿が変わっていく。女性の形は残したまま、蛇が大きくなっていく。

 

「我が名はジョカ、貴様らの名は?」

 

「ユート。ナホビノだ」

「蘭丸は蘭丸でありますよ」

「……え、私も? アマノザコだよ」

 

 さぁ、全身全霊で殺し合おう。

 

 この場の全員は、自然と笑みを浮かべた。

 


 

 ジョカの巻き起こす嵐を抜けて俺の光剣がヒットする。薄皮一枚切り裂いた。

 ジョカの後頭部から伸びる蛇の体が俺の体を打ち付ける。直撃。左肩から吹き飛んだ。

 

「喰らいすぎだよ! ディアラマ!」

 

 アマノザコの魔法が俺を癒す。しかし引くわけにはいかない。近接攻撃が届く距離から離れれば風の魔法で塵にされる。

 

 1秒先が見えない綱渡り。正直とても楽しい。

 

 俺が注意を引いている間に近づいた蘭丸が渾身の太刀でジョカを狙う。ランマニウム光が輝くその刀身が鱗を切り裂き肉を抉る。まだ浅い。

 

 その傷を狙って炎魔法を撃ち込む。焦げるような音が聞こえる。

 

 通ってはいる。ただシンプルに威力が足りてない。

 

 鱗を裂けても、肉を焼けても、(いのち)までは届いていない。

 

 だから、威力をより高めた一撃を撃ち込まなくてはならない。マガツヒを使った大技を。

 

「……時にランマルよ。貴様は何故にこやつと共に居る? 貴様がナニかは分からぬがナホビノと共にある理由もあるまいて」

「蘭丸がユート殿と共に居る事には……さしたる理由もないでありますよ!」

「故もなく走狗と成るとはな!」

「今は身軽でありますからに! 戦う理由は友人であるだけで事足りるのでありますよ!」

 

 嬉しい事を言ってくれるものだ。

 

 ……よし、算段は着いた。アマノザコ! 

 

「はいよ! 蘭丸、こっち!」

「了解であります!」

「ここで下がってどうとなる!」

 

 防御を固めたザコちゃんの後ろに蘭丸が引き下がる。そこに追撃でジョカが蛇の体を向けてきた。

 

「いっ……たいなぁ!」

 

 そして、その攻撃に対してアマノザコのカウンター『天逆撃』が発動する。自身を攻撃してきた敵を呪うスキルだ。

 

「この程度の呪いなど!」

 

 とはいえジョカは強大な悪魔。呪いは無効化されて有効なダメージにはならない。

 

 だが、足をほんの少し緩める程度には驚かせられた。

 

 その間隙に蘭丸が作った太刀をジョカへと向ける。太刀は飛翔してジョカの速度を緩める。

 

 チャージはこれで間に合った! ブチ抜け、『至高の魔弾・改』! 

 

 

 

 自身の魔力ではなくマガツヒを使って放つ事で最高クラスの技を再現したマガツヒ技。これはジョカの魂に届き得る一撃ではあった。

 

 だが、命を終わらせるほどの一撃ではなかった。楽しかったがここまでのようだ。

 なら、蘭丸とザコちゃんの生きる目を探すために命を捨てていこう。

 

 とか思っていたら背筋に氷柱が突き刺さるような悪寒を覚えた。

 

 一人の男が、ジョカの側に現れたのだ。

 

 

 軍帽とマントを着込んだ男だ。おそらくはジョカの主だろう。強い力と精神を感じる。

 

 目の前の男は、自らを八雲ショウヘイと名乗った。

 

 悪魔の尽くを滅ぼす、人間だと。

 

 


 

「ジョカ、遊びすぎだ」

「すまんの八雲。力に溺れた下種かと思えばなかなか面白き者たちでな。興が乗ったのだ」

「ベテルの走狗にしては見どころはあるが、な」

 

 ……お前達は、何故ここを襲った? 

 

「知れた事、悪魔どもが生きているからだ。人の世に仇なす害獣は殺す。おかしな事か?」

 

 いや、おかしくはない。悪魔は性根が人間とは違う以上、先制攻撃で絶滅させるのは理解できる。

 

 ならば、人間はお前の敵ではないんだな? 

 

「さてな」

 

 一応伝えておく。今この議事堂には東京から迷い込んだ奴がいる。ソイツは見逃して欲しい。天使に攫われてここに来ただけの奴なんだ。

 

「……貴様自身を見逃せとは言わぬのか?」

 

 見逃してくれるのならば、ありがたい。だが理由もなくお前は敵に塩は送らない。そんな気がする。だから俺は、お前の腕一本は持っていく。

 

「……良いだろう、貴様も見逃すことにしてやる」

 

 ……理由は? 

 

「これから多くを殺す貴様を泳がせておけば悪魔狩りの手間が省ける。その程度だ」

 

 そんな言葉と共に八雲は去っていく。側にジョカを連れて。

 

 

 どうにか生き延びた、か。

 

「無事か⁉︎」

 

 奥からメガネくんの声が聞こえて来る。側には学生服に黄色の帽子の男。太宰がいた。

 

 なんとか生きている、と彼に伝える。

 

「生きているなら今はいい。こっちに来てくれ、ターミナルを見つけた。あれを使えば僕達は帰れるぞ、僕達の東京に!」

 

 それから程なくして俺の初めての魔界体験の終わった。メガネくんの起動したターミナルで俺たちは東京に帰ることができたのだ。

 


 

 そして、俺は今殺されかかっている。

 目の前にいる天使『アブディエル』によって。

 

「ナホビノの禁を破った者を、神の秩序は許しはしない」

 

 そう、無慈悲に言い捨てられて。

 


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