気分的にはとても長い間、実時間では半日の間俺は魔界で旅をしていた。
それは道を見て「あ、あそこミマンさん居そう」という思考の汚染などさまざまなモノを残したが、そこは今はどうでも良い。
問題なのは、自分が学生であるという事。
そして、魔界に行った時に学生鞄を落っことしてきた事だ。
なので、俺は、致し方なく
学校に何一つ持たずに手ぶらで登校するのだった。
「……なんか適当なカバンとかなかったの?」
面白いカバンはこの前譲ったばっかりなんだ。
「しかし、蘭丸が学生に紛れていても気付かれないモノなのでありますね。制服は着ているのでありますが」
「なんか、……ハイセンスな服だよねソレ」
学ランに白い百合の花柄がちょっとどうかと思うくらいに張り巡らされているこの服か? 服としては好きだ。学生服としては死ねと思うが。
「え、そうなの?」
着こなしの苦手な奴が着ると、悲しい事になる。
「まぁ、うん。大体の人達は似合ってない感じするね」
当然だが、この学生服は生徒には蛇蝎の如く嫌われている。普通の人にはダサいし、白の花柄はカレーだとかソースだとかが目立つのだ。
しかしここの学食は何故かカレーうどんが信じ難いほどに美味い。しかも安い。
だから、学校にエプロンを持っていく人間は多いし、なんなら紙エプロンを売り捌いてた奴もいる。
「おはよ……う?」
「……蘭丸さん、アマノザコ、どうして君たちがここに?」
と、ぶらぶら登校しているとメガネくんと磯野上が話しかけてきた。
奇妙な事を言う、学生服を着て学校の方に歩いているのだから理由は一つだろう。
カレーうどんを食べに行くのだ。
「勉強しろ」
と、『ふざけて蘭丸とザコちゃんを連れ歩いていたらなんか行けそうだった』朝の登校はここまで。着替えた蘭丸とザコちゃんにいくらかのお金と携帯を渡して別れる。
今日は学校が終わり次第魔界に行く予定だ。頑張るぞー。
と、靴を履き替えて校内に入った所であるモノを見た。
一見いじめに見える複雑な人間関係現場だ。
隅に押し込まれているのはかつてラクロス部でぶいぶい言わせていた樹島サホリ。怪我でラクロスができなくなったのだったか。
押し込んでいるのはラクロス部の連中とその友人達。
それなりに有名になってしまった学校のイベントだった。
とはいえ校門から見える範囲でやらかしているのは不味いのですこし首を突っ込もう。
学校支給品のタブレットをおもむろに取り出し、音量を最大にして動画の録画ボタンを押す。
「……あん?」
ラクロス部の友人がこちらを見る。それに対して『続けて構わない』とだけ告げてタブレットを見せびらかす。
「チッ……シラけた。行くよ」
ラクロス部だった者が友人を連れて去っていく。ある意味いつもの光景だった。
「……何よ、ヒーロー気取り?」
樹島はいつも通りに、強気な態度を崩さない。このいじめっぽい問題をややこしくしている原因の一つだ。
とりあえずいつも通りに言う。
あのまま続けていれば樹島のサービスシーンが撮れたかも知れなかったので、つい録画していた。だが私は謝らない。
その言葉を聞いて初めて俺の方を向く樹島、明らかに態度が変わるのが見える。
「……気持ち悪いんだけど」
気にしないでくれ、ネットにばら撒いたりはしないとも。
「自分の際どい動画撮られてて気にしない奴は居ないでしょ」
と、文句を言いながらタブレットを奪い、録画を消去してくる。
などとやっていると、背後からトタトタと愛らしい足音が聞こえてくる。
「あの! 樹島先輩、大丈夫でしたか?」
「……何?」
「あ、いえ、その……樹島先輩とあの人達が居たって聞いて……」
「何もなかったわよ」
と、ぶっきらぼうに言い捨てる樹島。貴様、心配してくれている彼女になんて事を! という怒りを飲み込んでおく。
「それじゃ、行くから」
「あ、はい。あとおはようございます樹島先輩」
そんな彼女に丁寧にお辞儀をする彼女を背に樹島は階段を登っていく。だが、くらりとして足を踏み外して転びかけていた。
何をしているのかお前は
「……足を踏み外しただけ」
恥ずかしかったのか周囲を一瞥してから歩き出す。相変わらず改善の見込みはないようだ。
「あの、先輩。ありがとうございました」
と、(俺に向けて!)ぺこりと頭を下げてくれた彼女を見る。
彼女の名前は敦田ミヤズ。メガネくんの妹のメガネ女子であり、多分女神である。いや、魔界に女神はゴロゴロしていたから、超女神とかそのあたり。
彼女は穏やかだが勇気があり、誰かのために駆けつける優しさがある。素晴らしい女性だった。
俺は特に何もしていない。と告げる。そんな俺をみて可愛らしく笑顔を見せてくるあたりこの娘は本当に素敵だ。
とはいえ流石に現実の身近にいる人間をガチ推しするのは彼女の日常に影響が出かねないので同士諸君と共にその心は隠しているのだが。
「あの、樹島先輩は本当に大丈夫でしたか?」
大丈夫だった。今回はラクロス部の連中も一緒だったからな。
「良かった……いえ、いじめは良くは無いんですけど、それでも何事もなくて良かったです」
樹島がもうすこし弱ければ簡単に終わる事なのに、難しい話だ。
そんな事を話してから自分の教室に向かう。悪魔になったし魅了魔法とかその辺でどうにかできないか? と考える程度には面倒ないじめっぽい現場だった。
樹島サホリのいじめっぽいアレコレは非常に面倒な事になっている。
まず、樹島はラクロス部でぶいぶい言わせていた。自分にも仲間にも厳しく、友情よりも、その場の楽しさよりも、勝利を目指して励んでいたガチガチのガチ勢として。
しかし、樹島は事故にあった。その後遺症で以前のようにラクロスができなくなってしまった。それが始まりだ。
樹島はラクロスが好きで、ラクロスに命を懸けていた。だからラクロスができなくなった事に心が折れて『なにもしなくなった』
それに、現ラクロス部の連中はキレた。彼女達は鬼みたいな樹島の事は嫌いだった。しかし選手としての樹島は尊敬していた。だから、今までの憎しみを叩き返した。『早く戻って来い』とかの気持ちが含まれていたソレで。
しかし樹島は立ち直らなかった。というか、立ち直れなかった。彼女は選手にはもう戻れない。ラクロス部の連中の言葉が重かったのだろう。
ここで、部外者が入ってきた。
人間、叩かれている奴なら叩いて良いとか、強い奴の仲間になって弱い奴を叩きたいとかそういう思いがある。だから、本人達以外にはあんまり伝わっていないその叱咤激励(というには言葉が汚いソレ)は周りには
ラクロス部の奴らは樹島の煮え切らない態度に怒っていたし、言動はエスカレートしていった。樹島は、より腐っていった。
そして便乗して樹島を害する連中が増えてきた。
樹島は性格がキツく、妥協を許さない。結果でねじ伏せていたこれまでと違って今の樹島には何もない。だから、彼ら彼女らからすれば殴りやすかった。
誰かが先に殴っていたから、自分もやって良いんだ。そんな理屈で。
最初にいじめの現場を抑えた動画を撮った時、樹島は言った。
「絶対にやめて」と。
いじめにすれば、主犯格にはラクロス部の連中がなる。そうしたらラクロス部の活動が止まってしまう。そんな理由を、言外に込めて。
だから、樹島の現状はいじめではない。誰が認めても樹島自身が認めない。そんな意地だけは、守り通していた。
「はい、小テスト終わり。隣の奴と交換して答え合わせなー」
教師がそんな事を言い、隣の席の人間と答案を交換する。
しまった、赤ペンがない。貸してくれ。
「……私も持ってないわよ」
なんと、ならば前の席のサトミさん頼む。
「……汚さないでよ」
と、赤ペンを
こんな関係性だから、ややこしいんだよなと
隣の席の樹島と、前の席のラクロス部のサトミさんを見て思う。
まぁ、深く関わる気はないのだが。
そんな感じで、その日は過ぎていった。
校門で蘭丸が手を振っている。「ユート殿ー!」と。手を振りかえしてそちらの方に行くと、「あの、ユートくん」と後ろから嫌な声が聞こえた。
磯野上タオだった。
「おやタオ殿、先日は助かったでありますよ」
「ううん、気にしないで蘭丸ちゃん」
「……あれ、蘭丸って女だったっけ?」
「蘭丸は蘭丸でありますよ?」
ザコちゃんの質問に蘭丸が答える。すると皆の頭の中は疑問符で埋まる。蘭丸だなぁ……
「で、何か用なの?」
「あ、うん。学校の事で話があって」
「で、ありますか」
壁にでも話していろ、と言いたいのだが。
「……なんでそんなに辛辣なのなかぁ? まぁ、うん。サホリのこと」
「ならば、あちらの喫茶店に行きませぬか? 先日教えてもらったのですが、とても美味しいケーキを出すそうなのであります。無論我々に訊かれたくないのならば席は離すであります」
「ありがとう蘭丸ちゃん。ちょっと重い話になっちゃうけど、ソレでも良いなら蘭丸ちゃん達にも聞いてほしいな」
と、我々は2階にケーキ屋のある寺近くの喫茶店に向かうのだった。
そして、ケーキを味わっている半裸の紅い坊さん『悟劫』と再会するのだった。……先日はマッカの換金ありがとうございました。
樹島サホリのいじめ関係はだいぶ作者の主観が入っています。ご了承下さい。
原作で階段の前で堂々とやってる理由をこじつけたらこんな風に解釈できたのです。隠さないで堂々と糾弾する人達と、隠れて傷付ける人が混ざっていそうだなぁと。