まだまだ駄文ですが、見ていってもらえると嬉しいです。
「ねえ、俺のおっぱい触ってよ、おっぱい」
朝、登校してきた俺が教室の自分の席に座ったとき、そんな言葉を耳にした。
薄薄分かってはいるが、その声がした方向に目を向ける。案の定、言ったのはこのクラスの一人である甘草奏だった。
普通に考えれば、健全な男子高校生がいきなり自分の胸に触れなどと言うはずは無い。甘草にもそれは当てはまるはずだ。
ではなぜ、甘草はそんなことを言ったのか。それは.....彼が変人だからと、いうしかない。
一年のときから彼とは一緒のクラスであるが、彼はそのときからたびたびこのような奇行を繰り返している。具体的にいうと、その場の空気をぶち壊す発言や行動などだ。容姿はまあまあイケメンな彼がそんなことをしたときは、非常に驚いたものである。
でもまあ、彼が『お断り5』に任命されてからは、俺も周りの人間も彼の奇行には慣れ始めていったのだが。
『お断り5』と聞くと、なんだか『LEVEL5』みたいで超能力使えるだとか始めは思ったものだが、実際はそんな名誉あるものでは無い。
お断り5は、容姿は優れているものの性格や行動にアレな部分が多く、恋愛対象としてはナシと判断された鼻つまみ集団のこと。5の意味は強さとかではなく、男女5人ずついるという意味。
つまりこれに任命されたりでもすれば、学校の生徒からはずっと冷ややかな視線を浴びるはめになり、平和な学園生活を送ることは不可能になるということだ。
もしガラスの心を持つ俺がこれになったりでもすれば、その日の晩に自殺するだろう。絶対に任命されたくないという意味も含めて、『お断り』なのかも知れない。
「.....もしかして、私にあなたのパイオツを触れと言うのかしら、甘草くん?」
「いや.....似たような事は言ったが別にパイオツとは.....」
「パイオツって言ってない? おかしいわね、私にはたしかにパイオツって聞こえたんだけど。パイオツなんて単語、絶対聞き間違えないと思うし.....ああ、パイオツって言ったのが恥ずかしくて隠してるのかしら? パイオツはそんなに卑猥な言葉じゃないと思うけど。そもそもパイオツっていうのは.....」
甘草の意味不明な発言に対し、さらに話をややこしくするような回答をする女子。彼女の名は雪平ふらの。もう分かると思うが、彼女も『お断り5』の一人である。
白みを帯びた美しい髪と非常に整った顔立ちで容姿はまさに完璧といえるほどなのだが、遠慮なく毒舌を吐きまくるドSっぷりとまったく下ネタを躊躇しない性格のせいで『お断り5』の一員となってしまった。
「お前もうパイオツって言いたいだけだろ!」
「認めるわ。でもほら、甘草くんにも無性にパイオツって連呼したくなる時があるでしょ?」
「ねえよ!」
「なんでないのよ!」
「なんで俺怒られてんの!?」
俺は今までこの二人のやりとりを何度も見てきたが.....正直、息が合いすぎだと思う。次々と出てくる雪平のボケを全て突っ込むあたり、甘草には芸人の血が流れていると言わざるを得ない。というか、もうこの高校辞めてその類の学校に通ったほうが俺的には良いと思う。お前が突如する奇行は、きっとテレビに出ればウケる一発ギャグになるはずだ。
「.....ん?」
甘草の将来を考えながら彼らの漫才を眺めていると、ふと何かを叩いたような音がした。俺は周囲を見渡すが、そんな形跡は見当たらない。
何の音だったのか不思議に思いながら周りに目をやっていると、ふと窓に何か違和感を感じた。俺は通り過ぎた視線を窓に戻してみる。
.....いた。明らかに俺のクラスの女子が一人、ガラスの向こう側から窓を叩いている。
「甘っち、おはよー!」
「うおおっ!」
彼女の声で、窓側で話していた甘草はようやくその存在に気付いた。
「とうっ!」
そいつは特撮のヒーローみたいな掛け声をあげながら、教室内に華麗に着地する。
「お前.....なんつーとこから入ってくるんだよ」
「はは、生活指導の先生が昇降口に待機してたから、壁よじ登ってきましたあっ!」
そう言って、彼女―――遊王子謳歌は甘草にウインクした。
艶のある黒髪ロングと穏やかな顔立ちに加え、抜群のスタイル。外見は文句なしではあるが、彼女もまた『お断り5』の一人であった。
彼女の特徴はよく言えば天真爛漫、悪く言えばただの小学生。発想が自由奔放すぎるのに加え、一日中騒がしいのだ。今回のように常人外れな行動をすることもしばしある。
これでも彼女は大企業UOGの社長令嬢らしいし、もう少しその自覚を持って行動すべきだと俺は思う。
「お、ふらのっちもおはよー」
「おはよう、遊王子さん」
遊王子が来たことで、いつもの三人組がここ二年一組に集結した。甘草に雪平に遊王子、この『お断り5』の三人の会話はえげつないものがある。彼らが揃うのを見ると、教室内の生徒たちはざわめき出した。
「やっぱりやばいよな、あの三人組」
「うん.....『お断り5』だからね。また何かしでかすに決まってるよ.....」
「こいつらのせいでこの二年一組が周りから批判を受けるはめになるんだから、ほんと勘弁してほしいぜ」
ひそひそと陰口を叩くのはとても気に入らないが、俺も思うことはあった。
この二年一組には、神の悪戯か何だかしらないが『お断り5』が三人もいる。この三人がいつもしでかすもんだから、周りからは残念クラスと呼ばれるようになってしまったのだ。始業式のとき、名簿の二年一組の欄にこの三人の名前があったときはまさかとは思ったが、よもや現実となろうとは.....
「はあ.....」
思わずため息をついてしまう。と、同時に予鈴のチャイムが鳴った。
「もう時間か」
あの三人組を眺めていたせいか、かなり時間が経ってしまったらしい。
めんどくせえと思いながらも、俺は教科書類を机の上に準備した。
最後の授業を終えるチャイムが鳴り響き、教室に漂っていた緊張感が消える。生徒たちは自分の鞄に素早く荷物を入れ、颯爽と駆け出していった。部活か、それとも彼女との約束か、きっとそんなものだろう。そういう俺は部活にも所属しておらず彼女も居ないので、のんびりと教室を出た。
さて、今日はどうやって暇を潰そうか、とか考えてながら歩いていると昇降口ですでに外靴に履き替えた雪平と遭遇した。
今日は一度も話してなかったので、さよならの言葉ぐらいは言っておこう。
「じゃあな、雪平」
「あら、今日は全然絡んでこなかったわね、南雲くん。あなたがいつも言っている×××ジョークには少し期待してたのだけど」
学校終わりだってのに、こいつはまだアクセル全開のままだった。
「そんなこと、俺が一度でも言ったことあるか?」
「もちろんあるわ。確か、国語の授業中のときだったかしら。あなたはいきなり立ち上がって○○を.....」
「伏字にしなきゃいけない用語ばっか使うんじゃねえよ!」
あら、それは残念ねと言わんばかりに物足りなそうな表情を浮かべる雪平。どんだけ下ネタが言いたいんだお前は.....
一応、この雪平とは中学校からの仲なのだが、昔はこんなキャラじゃなかった。いかにも初心で可愛いらしい感じだったと思うのだが.....一体どうしてしまったのか。
彼女が『お断り5』になってしまったのも、俺にとっては残念でならない。
「お前、中学校のときはこんなキャラじゃなかったよな?」
「う.....き、気のせいよ」
そう言って、雪平はさっさと帰ってしまった。この話題をするといつも雪平は誤魔化してしまうので、聞こうにも聞き出せない。
ま、そこまで知りたいわけじゃないけどな。
俺は上靴を脱いで外靴に履きかえると、学校を後にした。
帰り道、俺は夕日に照らされながら一人のんびりと歩いている。
あまり人がいないこの時間帯に、赤く染まった空を眺めながら静かに歩くのは嫌いじゃなかった。
夕日を眺めたせいか、ちょっと切ない気持ちになりながら俺は自宅にたどり着く。
相変らず、家の窓からは光が無い。サラリーマンが一人暮らしを始めたばかりのように、この家からは生活感を感じなかった。
まあ、それも仕方ないことだ。なんせこの家には俺一人しか住んでいないし、よくある暖かい家庭などは存在しないのだから。
「.....」
寂しくないと言えば、それは嘘になる。だが、すでにこの生活を始めてもう五年経つ。いい加減慣れろよ、と自分自身に言い聞かせる。
「.....はっ」
あまりにも、馬鹿馬鹿しかった。
もう過去には囚われないと決めたのに、何やってんだよ。
思わず苦笑いしながら、俺は扉を開けた。
「スピー」
「.....」
とりあえず、扉を閉める。
おかしい、女の子が玄関で寝ていた気がする。でも、俺の知り合いだったとは思えない。しかもそれ以前にここは俺の家だ。知り合いだろうが、俺の家に入れるわけがない。
まさか.....疲れすぎてとうとう二次元と三次元の見分けがつかなくなったか。まったく、どれだけ疲れてんだよ俺。今日は早めに寝なきゃいけないな。
もう一度、扉を開ける。
「スピー」
「.....」
また閉める。
やっぱりまだ幻想が見えるな.....。ゴスロリの格好をした美少女が俺の玄関で寝てるなんて、そんなわけがない。
俺は自分の頬を叩いて意識がしっかりあることを確認すると、再び扉を開けた。
「スピー」
うん、これ夢じゃねえな。
改めて、俺は玄関で眠る彼女をまじまじと見つめた。
金髪ロングに加え、チビのくせにやたらと胸が発達している。まさに美少女と呼べる存在ではあるが、俺にはまったく面識がなかった。
「誰だよ.....お前.....」
このまま寝かせておくわけにもいかないので、俺はゆさゆさと彼女の体を揺らした。
「おーい、起きろー」
「ん.....ふああ」
彼女は大きな欠伸をしたあと、目の前にいる俺の存在に気付いた。
「奏さん.....じゃないですね、あなたはだれですか?」
「いや、それは俺の台詞なんだが.....」
「わたし? わたしはショコラといいます」
ショコラと名乗った彼女は、笑顔を此方に振りまいてくる。頭にある一本の髪の毛がピンと動いて反応した。アホ毛、というやつだろうか。
「ここは俺の家だ、なんでここにいる」
俺は基本回りくどいのは嫌いなので、いきなり核心に迫った。
「どうやら奏さん家とまちがえちゃったみたいです、てへ」
そういって、ショコラは可愛く舌を出した。
おいおい、素で家を間違えるなよ。小学生でも自分の家ぐらい分かるぞ。.....あれ? それでも俺の家は鍵がかかってるし、入れるはずはない。じゃあ.....
「お前、どうやって俺ん家に入った?」
「とくしゅな粘土でかたをとって、業者にあいかぎをいらいしました」
こんな美少女の口から飛び出すとは思えない、衝撃の台詞だった。
「誰かーここに不法侵入した不審者がいますー! 警察を呼んでくださーい!」
俺はすぐさま扉を開けてそう叫んだ。さすがに焦ったのか、ショコラは慌てて俺の口を塞ごうとする。
しかし残念だったな。その行動は読めていた。
俺はすばやく玄関から離れた。靴を履いていないショコラが遅れることは明らか。この隙に俺は携帯を取り出し110番にコールする。
ふっ、俺の家に不法侵入してしまったことを後悔するんだな。貴様はこれから一生豚箱で過ごすがいい!
「あ、すいません警察の方ですか。今、ここに不審者が.....」
そこで、俺の口は止まった。なぜなら、俺のクラスメイトが不思議そうな顔で此方を見ていたから。
ようやく靴を履き、追いかけてきたショコラがそいつの名を口にした。
「あ、奏さんじゃないですか、おかえりなさいっ!」
「た、ただいま.....」
目の前にいたのは、同じクラスの甘草だった。だが、俺にとってはただのクラスメイトである甘草とはあまり面識がなく、学校以外で会うのは初めてだった。
「.....」
なんだろう.....凄く気まずい。例えるなら、彼女とデート中の男友達とばったり出会ってしまったぐらい気まずい。
携帯から警官の声が聞こえていたが、俺は無意識のうちに通話を終了させていた。
「奏さんっ、今わたしはけいさつにつーほーされ、大ピンチにおちいっています。たすけてください!」
「警察に通報って、お前何したんだ?」
「奏さん家とまちがえてあのひとの家にしんにゅうしちゃいました」
「この馬鹿野郎!」
さすがは芸人甘草。声を張り上げることを忘れないお前のこと、尊敬するぜ。
「奏さんからもらったかぎがかぎあなに入らなかった時点で、ちょっと不思議にはおもっていたんですけどね」
「言い訳は後で聞くから、とりあえず謝れ! えーっと.....」
甘草は此方に目線を合わせたが、その後の言葉が出てこない。まあ、俺はクラスの中では地味なほうだし、名前を覚えてもらえなくても仕方ないだろう。
でも、お前とはすでに一年間一緒のクラスだったんだけどなあ.....
「南雲 昴」
「そう! .....南雲さんに謝れ」
いや、確かにさん付けしたい気持ちは分かるけど、学年一緒だよ。
「ごめんなさい、南雲さん。おわびに奏さん家で夕食をごちそうしますから」
「お前作らねえだろ!」
「そんなことより、早くいきましょう。もうおなかペコペコでしにそうです」
「お前が食いたいだけかよ!」
会話が一段落ついたところで、甘草は再び此方に目を向ける。
まだ互いに少しぎこちないが、彼は言った。
「ショコラもそう言ってるし.....夕食、食べにこないか?」
まさか初対面同然の俺を食事に誘うなんて、思いもしなかった。しばらくの間どう返事しようか戸惑ったが、決めた。
「じゃあ.....遠慮なく」
そういうことになった。
「まじか.....」
俺は甘草の家の前に着くなり、思わずそう漏らしてしまった。
周りと比べるとかなり大きめな一軒家で、想像以上に裕福な家庭であることには少し驚いた。しかし、俺が思わず声を漏らしてしまうほど驚いたのは、そのことではなかった。
「お前の家.....俺ん家の隣かよ」
一年間も気付かなかった衝撃の真実ぅ!
どれだけ俺が外に出ていないかがよく分かるな。
「なるほど。だから私は家をまちがえたんですねっ」
「いや、それでも間違えねえし.....」
まあ遠慮なく入ってくれ」
そう言って甘草は俺に向かって手招きした。
最低限のマナーとして自分の靴を揃え、俺は家の中にお邪魔する。
家の中はかなり小綺麗な感じで、とても手入れが行き届いているのが見てとれる。
ソファーに座って待つよう指示されたので、俺は大人しく従った。
「もしかして.....甘草が夕食作るのか?」
「まあ、今までずっとそうしてきたからな。自分で言うのも何だが、料理には自信があるから任せてくれ」
「奏さんのりょうりはおいしいですから。期待してだいじょうぶです」
料理が出来てイケメン.....女子からモテない理由がないだろう。本当、何であんな奇行を繰り返すのかますます理解できないな。
しばらくすると、テーブルに料理は運ばれてくる。ハンバーグにスパゲティ、オムライスに加えラーメンまで.....
「.....ちょっと多すぎないか」
一時間もかかっていたのはそのためか。でも、こんなにたくさん食べられないんだが.....
「ああ、それはこいつが全部食べるから」
そう言って、甘草はショコラを指差した。
あんな小さいやつが、こんなにたくさんの料理を? そんなバカな。
「おいしそうです~。いただきまーす!」
料理が全てテーブルに並ぶと同時に、ショコラはそれらに食らいついた。
もの凄い速度で口に放り込むその食べっぷりは、圧巻だった。
「早く食べよう、南雲。こいつが全部食べそうだし」
「ああ.....そうだな」
俺たちもさっさと席につく。
「いただきます」
まずさっそく、ハンバーグを一口。
「.....うまい」
「そ、そうか。ありがとう」
改めて、俺は彼を理解することができなくなった。こんなうまい飯が作れてイケメン。絶対にモテるはずの彼が、なぜ女子から嫌われる行動ばかりするのだろうか。
どうしてもそれが気になって、俺は思わず聞いてしまった。
「なあ.....どうして毎日あんな奇行ばかりするんだ? あんなことしなけりゃ、絶対にモテるってのに」
「う.....そ、それは」
何やら言いたくなさそうな様子の甘草。まあ、甘草の行動に何か理由はあるだろうし、問い詰めるのは野暮だったか。
「いいんだ。何か言いにくい事情があるんだろう? そこまでして聞きたいことじゃ.....」
そこで、俺はある異変に気付く。
甘草がまるでこの世の終わりみたいな表情で、わなわなと震えていた。何やらぶつぶつと独り言を話していて、様子が変だ。
「どうした、甘草?」
「い、いや。だいじょう―――っ!!」
今度は突然頭を抱え出した。
「お、おい。本当に大丈夫か?」
あまりにも苦しそうなので救急車を呼ぼうとしたとき、甘草は言った。
「ごめん.....南雲」
「.....え?」
突然の言葉にまったく理解ができていない俺に向かって、彼はこう口にした。
「今日から貴様は我の下僕第二号だ! 我が呪いを解除するため、貴様の魂を全て捧げろっ!」
.....この甘草の選択で俺の平和な日常は崩れ去ることになるのだが、今はまだ知る由もなかった。
今俺が思ったことと言えば――――
「はあ? 何言ってんのお前」
それだけだった。