俺のクラスには『変人』が三人もいる   作:Mt.Fuji

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遅くなりました。第三話です。
やっぱり雪平は可愛い。


第三話 とある友人の秘密を知りました

 

 

五月七日火曜日。

この日の夕方、俺は甘草の家にお邪魔していた。理由は、今日神から届いた『ミッション』とやらの作戦会議をするためだ。

 

 

≪雪平ふらのを笑わせろ 期限 五月八日 (水)≫ 

 

 

ちなみに、『ミッション』の内容はこれである。このメールを見て思ったことはというと.....

 

「あいつ、笑うのか?」

 

この一言だった。

 

「俺は笑っているところ、見たことないな」

 

甘草は普通にそう言った。

.....やばいな。俺もあいつが笑っている姿は高校に入ってからはみたことねえ。しかし、だからといってできないでは済まされないだろうな。どうやら神の言っていることは本当だし、失敗したら俺にも呪いが掛かってしまう。やるしかないだろう。

 

「とりあえず.....どうやって笑わせる?」

 

「それを聞きたくて今日南雲を呼んだんだけどな....」

 

それぐらい自分で考えてくれよ.....一応お前に届いたものなんだからさ。

生憎だが、俺も雪平を笑わせる方法は思いついていない。普通の人ならまだしも、あの雪平が相手だとなおさらだ。

いきなり難関な『ミッション』に憚られ、早々に手詰まりになっていたときだった。

 

「ただいまですっ」

 

このタイミングでショコラが帰ってくる。

 

「おかえり。お邪魔してるよ」

 

「おお、昨日ぶりですね。昴さん」

 

俺はショコラと軽い挨拶をかわす。

.....もうすでに普通に彼女とは接しているのだが、果たして友達と思っていいのだろうか? ついこの間まで友達がいなかった俺からすれば、判断いたしかねるものである。

 

「お前.....どこ行ってたんだよ。それにその荷物はなんだ?」

 

「ふっふっふ.....気になりますか、奏さん?」

 

そう言って、ショコラは背負ってものを下ろす。

ドンと大きな音を立てて降ろされたのは、パンパンに膨れ上がったリュックだった。

 

「これには、ふらのさんを笑わせるためのグッズが入ってます。奏さんたちのために、いちにちかけて、あつめてきましたっ」

 

なん....だと? 

ショコラ.....お前というやつはなんて気が利くんだ。これほどの量のお笑いグッズがあれば、雪平を笑わせるものが一つぐらいあるはず。これは.....キタかもしれない。

 

「GJだ! ショコラ!」

 

こうして、俺たちは期待してショコラが持ち帰ったグッズを見たのだが――――

 

「.....やっぱ、そうだよな」

 

俺たちは、期待しすぎたようだった。

 

ショコラが買ってきたものには、いまいちこれだというものが無かった。入っていたのは、漫画や笑い袋など、どうも普通なものばかり。常人ならそれでいいだろうが、あの雪平が相手だと普通なのではダメだ。

 

「何かないのか、何か!」

 

一応一通りは見たが、何か見逃しているということを信じて、俺はもう一度探す。(ちなみに甘草は諦めている)

すると、さっきは気付かなかった一冊の分厚い本が目に入った。

 

「これは.....?」

 

俺は急いでタイトルを見る。

 

『女の子の笑顔をゲットする十の方法 ~これで君もエロエロキングだ~』

 

.....い、いや待て。タイトルはこんなんだが、中身は以外としっかりしたものかもしれない。何も見ないで放り出すのは早計だろう。

俺は1ページ目の目次と思われる部分をめくる。

 

≪始めに。これを読んでいるそこの貴方! よくこんなタイトルの本を買いましたね~。はっきり言って、お金の無駄ですよ(笑) そしてこの本を読むこと、時間の無駄ですよ(笑)

まあ、それでもいいと言うなら読んでみてください。きっと、絶望すると思います。

 

.....あと、もしこの本を読んで不満がある方は、すぐに連絡ください。悪口は罵倒などは、私の大好物ですから。≫

 

「.....」

 

俺は黙って、それを閉じた。

.....分かったことと言えば、これを書いた作者がドMだということだけだった。くそどうでもいい。

 

「はあー。やっぱりだめかあ.....」

 

残念だが、ショコラが買ってきたものは、戦力外通告を余儀なくされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、俺たちは雪平笑わせる方法を一つも思い浮かばないまま、五月八日の朝を迎えてしまった。

甘草と二人で学校に向かいながら、何かないかと考えるものの、やはり雪平を笑わせる方法は思いつかない。一応ショコラから貰ったグッズを持ってきてはいるが、当てにはならない。

 

「くそ.....どうする? 甘草」

 

「うーん.....こうなったら、もう数を重ねるしかないな」

 

「数を重ねるとは?」

 

「雪平が笑うまで、ひたすら一発ギャグを披露するんだ。もうそれぐらいしかないだろ?」

 

それは.....無謀だ。あいつが芸人でもない俺たちの一発ギャグで、笑うわけがない。何度もスベったという事実が、自分を傷つけるだけだ。

 

「.....それは止めた方がいいと思うが」

 

「でも、何もしないよりかはましだろ? 俺には、これ以外に雪平を笑わせる方法は多分思いつかないだろうし。それに一発ギャグでスベったぐらい、今までの俺が負った傷に比べりゃ大したことない」

 

なんだ.....甘草のくせに、ちょっとカッコいいじゃねえか。

 

「だから、南雲は俺が一発ギャグで時間を稼いでる間に、何かあいつが笑う方法を考えてくれ」

 

なんでまた、ちょっとカッコいいんだよ。.....あ、もしかして―――

 

「その無駄にカッコいい台詞、選択肢に言わされてるのか?」

 

「違うわ! 自分の言葉じゃ!」

 

甘草に対してかなり失礼なことを言いながら、俺たちは学校へ向かっていく。

制限時間は今日の放課後まで。それまでに、何か雪平が笑ういい方法が思い浮かべばいいが.....

 

 

 

 

扉を開け、俺と甘草は教室に入る。やはりこの前のせいか周りの視線が少し痛いが、気にしない。

窓側には、いつものように無表情で外の景色を眺めている雪平の姿があった。

 

「とりあえず、挨拶ぐらいはしようか」

 

甘草の言葉に従い、俺たちは雪平に近寄っていく。すると、雪平は気配に気付いたのか突然振り返った。

 

「あら、甘草くんに南雲くん。おはヨーグルト」

 

.....なんでこいつはそんなしょーもないことが言えるのか。しかも朝っぱらから。

まあ、それもこの甘草のツッコミの前座でしかない。ほんと、こいつらの掛け合いは何度見てもおもしろ―――

 

「おいおい、それはモウ古いんじゃないか.....モウ」

 

.....ツッコミでは.....ない?

なるほど、ここでツッコまなかったことが、お前が今日一発ギャグで雪平を笑わせるという決意の現れということか。

しかし.....お前にはボケのセンスはないな。

 

「それはちょっとないと思うわ」

 

おお雪平さん容赦ねえ.....。まあ、さっきのお前の挨拶もないと思うが。

 

「甘草君は、乳製品のヨーグルトと、牛の鳴き声をかけたわけよね」

 

「冷静に解説すんのやめてもらえませんかね!」

 

「しかも、ちょっと分かりづらいと思ったのか、最後にもう一回言うという、実に痛々しい努力をしているわ」

 

「お前ひでえな!」

 

結局ツッコんでるな、こいつ。

まあ、やはり甘草にはツッコミのほうがお似合いなようだ。ボケるよりかは絶対面白い。

でも.....今回は雪平を笑わせるために、こいつは一発ギャグを何度もやると言っていた。今のボケを見る限り、何度もスベるに決まっている。できるだけ甘草の傷が深くなる前に、なんとか方法を見つけないと.....

 

 

 

 

 

「もういい.....止めろ、甘草」

 

結局、甘草は何度も雪平に一発ギャグを披露し、全てスベっていた。放課後になってもまだボケ続ける甘草を、今は必死に止めているところだ。

 

「あら、なかなか熱い友情で結ばれてるのね、貴方たちって。ホモ?」

 

あまりに玉砕されすぎてテンション駄々下がりの甘草に向かって、そう言い放つ雪平。

もう止めて! とっくに彼のツッコむ気力はゼロよ!

 

「俺たちはホモじゃない。絶対だ」

 

「そう.....じゃ悪いんだけど私、この後行くところがあるから」

 

甘草とは違いツッコミが下手糞な俺を横目に、雪平は鞄を持って歩いていってしまう。

まずい.....雪平が学校から出たら終わりだ。なんとしても帰らせるのは阻止しないと。

俺が雪平を追いかけようと、立ち上がったときだった。

 

「南雲! 俺はあいつを学校から出さないように時間を稼ぐから、お前は後ろから追いかけてきてくれ! 全てをお前に託す!」

 

俺が返事をする前に、甘草は雪平を追いかけて行ってしまった。

 

「.....」

 

おかげで、教室に取り残させる俺。

 

「.....あいつ、全てを俺に任せやがったな」

 

くそ.....一応はお前に届いてる『ミッション』だろうが。何で俺がやらなきゃいけないんだよ。

しかも、俺にもあの雪平を笑わせる方法なんて思いついてなんかいないのに。

 

「とりあえず、追いかけるしかないか」

 

そう決めた俺は、急いで教室を飛び出す。左に向かって甘草が走っていったのは分かったので、その方向に俺も走っていく。

その間も、俺は雪平をどう笑わせるか考えていた。

 

(今と違い、中学の頃はあいつも笑っていたはずだ。そのとき、何を言ったら雪平って笑ったのか.....ダメだ、まったく思いだせん。)

 

昔の記憶を思い出しながら甘草が行った方向に向かっていると、俺は分かれ道にたどり着く。

真っ直ぐ行くか、階段で上に行くか、それとも下か。

さすがに分からなかったので、俺はとりあえず甘草からの連絡を待つことにした。

 

(確か、雪平ってベタな笑いが凄く好きだったような.....。でも、ベタな笑いって具体的にどんなんだよ。まさか、バナナの皮を踏んで滑る、なんてものじゃないだろうしな.....)

 

待っている間も必死に考えていると、ポケットにある携帯が震えた。甘草によると、どうやら雪平は屋上にいるらしい。

俺は屋上を目指し、階段を上っていった。

 

生徒の侵入を阻む赤コーンと、黒と黄の二色のバーを乗り越え、屋上にへと続く扉の前にたどり着く。

だが、実際ここまで来てしまったものの、やはり俺には雪平を笑わせる方法は頭に浮かんでいないままだった。

 

「.....アドリブで何とかするか」

 

絶対に何とかなるわけないのだが、考えても仕方なかった。俺は奇跡が起こることを信じて、その扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上からの見晴らしは、想像以上に絶景だった。ここからは無駄にでかい校庭に加え、街の様子まで見渡せる。ぜひとも、今度授業を抜け出して昼寝してみたいと思ったほどだ。

 

まるで展望台のような、そんな屋上に、二人の人間の姿があった。一人は校庭に寝そべっていて、もう一人はそいつを心配そうに見つめている。

 

「甘草くん.....ちょっとやりすぎちゃったけど、大丈夫かな.....」

 

いつもの言動からは想像もできないような、優しい口調だった。

 

「雪.....平?」

 

「.....え?」

 

思わず口に出してしまったせいか、ばっちりと雪平と目線が合ってしまった。

 

「ああぁぁ.....まさか、南雲くんにまで見られちゃうなんて.....」

 

がっくりとうなだれたかと思うと、雪平はすぐ目つきを変え、此方に歩いてくる。

 

「ごめんね、南雲くん」

 

「え? 雪平?」

 

彼女は俺の目の前まで来ると、突如腕を振り上げた。

 

「うりゃあああああ!」

 

「わっ!」

 

突然迫ってきた彼女の右腕を間一髪で俺は避ける。だが、彼女はがむしゃらに腕を振り回してきた。

 

「忘れてええええ!」

 

叫びながら暴れ続ける雪平を、俺は彼女の腕を掴んで何とか抑え込む。

 

「お、落ち着け! 雪平!」

 

「はあ.....はあ.....」

 

荒い呼吸をしながらも、彼女の腕から力が抜けていく。ふう.....いきなり殴りかかってくるなよな。ちょっと怖かったぞ。

 

「大丈夫か.....?」

 

「うう.....南雲くんに知られちゃったあ.....」

 

涙目になりながら、雪平はその場に崩れ落ちた。

 

そんな雪平の姿は、学校で見せる姿からはほど遠かった。涙を溜めているその瞳も、頬を赤く染めた表情も、『お断り5』である彼女からは想像もつかない。むしろ、今の彼女の姿は中学校の頃の姿に近かった。

 

「.....ほら」

 

彼女と目線が合うように、俺もしゃがみ込む。そしてポケットからハンカチを取り出し、雪平に差し出してやる。

 

「.....」

 

雪平は黙ったまま、それを受け取った。

 

「答えたくないなら答えなくていいから、質問していいか?」

 

彼女は首を縦に振る。

 

「今の姿は、本来のお前の姿か?」

 

雪平は黙ったまま、何も答えない。やはり、この質問は野暮だったかと少し後悔したとき、彼女は小さな声で言った。

 

「うん.....そう。笑っちゃうでしょ?」

 

今の自分をあざ笑うかのように、彼女は話す。その姿は、いつも毒舌を吐きまくっている彼女にしてはあまりに弱弱しかった。

 

「.....なんで笑わなきゃいけないんだよ」

 

「だって、いつもの私はこんなんじゃないし.....」

 

「いいじゃないかよ。今のお前の姿、俺は可愛いと思うぜ」

 

「か、かわっ!?」

 

俺の言葉を聞いて、これ以上にないくらい顔を真っ赤にする雪平。やはり、今の彼女は昔のように初心であった。

中学校のときから何も変わっていなかった彼女を見て、俺は少し安心した。

 

「どうして、本当の自分を隠すんだ?」

 

「.....だって、甘草くんに本当の自分を見られるの、恥ずかしい......」

 

「へー。クラスの皆じゃなくて、甘草になんだ」

 

「あ.....」

 

しまったあ.....と嘆きながら、再び顔を赤くする雪平。別に、俺はそんなことを聞くつもりはなかったのだが。

でも、まさか甘草に恋してるとはな.....さすがに驚いたわ。

 

「か、勘違いしないでよ! 私は別に、甘草くんが好きとかじゃないから!」

 

苦しい言い訳だった。まあ、そんな自分を認められないのも、分からんことはないが。

必死に言う彼女に、俺は優しく声をかけてやった。

 

「分かってるよ。.....まあ、お前が甘草のことを好きかどうかは知らないが、もし良ければ協力してやらんこともないぞ?」

 

「協力?」

 

首を傾げる雪平に、俺は分かりやすく教えてやる。

 

「お前が甘草に本当の自分が見せられるようになるよう、手伝うってことだ。お前とは中学校からの付き合いだし、互いのことも少しぐらいは知ってるだろうしさ」

 

「.....本当に、いいの? そんなこと言われたら、私は遠慮なく南雲くんを頼っちゃうよ?」

 

「ああ、もちろん」

 

「ありがとう!」

 

俺の両手を握りながら、雪平は嬉しそうな表情でそう言った。.....さ、少し露骨だが成功するかな? この作戦。

 

「あー、その代わりと言っちゃあなんだが.....一つ俺の素朴な願いを聞いてくれないか?」

 

「私ができる範囲でなら、いいけど?」

 

「.....笑ってくれないか」

 

その言葉を言った途端、雪平に疑り深い目線を送られてしまった。まあ、突然笑えなんて言われたら誰だってそんな反応をするだろう。

だが、暫くして彼女はクスっと笑うと―――

 

「これでいい?」

 

ニコッと、笑ってくれた。そのときの雪平は、今まで見た中で一番可愛かったに違いなかった。

 

「あ、ありがと」

 

そのときの彼女はあまりに可愛くて、俺は彼女を直視することができなかった。

と、その直後、ポケットの携帯が振動する。タイミング的に、『ミッション』達成の連絡だろう。ちょっと無理やりではあったが、無事こなすことができたみたいだった。

 

「.....じゃ、俺はそろそろ行くわ」

 

「え? もう帰っちゃうの?」

 

だって二人きりを邪魔しちゃあいけないだろ? とか言ったら、また顔を真っ赤にして怒るだろうから止めておく。

 

「俺はこの後用事あるからな。だから、甘草のこと任せるぞ」

 

「あ、うん.....分かった」

 

.....ってか、あまり見てなかったけど、なんで甘草は倒れているんだ? 俺がここに来る前、甘草と一体何があったんだよ.....ま、後で本人から直接聞けばいいか。

 

「じゃ、またな」

 

「うん、また」

 

俺は雪平に別れを告げ、階段に続く扉へ向かって歩いていく。屋上から去る寸前、俺は最後に雪平の方向に振り返った。

 

雪平は優しげな表情で、倒れている甘草を見守っていた。そんな彼女に、『お断り5』であるいつもの面影はない。

いつかは、甘草が見ている前でその表情ができならいいのになと考えながら、俺は扉を閉めた。

 

 

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