001 第一層 Part1
遠く聞こえる絶叫、その悲しみと憎悪に満ち溢れた罵詈雑言でさえ、どこか可笑しさが込み上げてくるのは異常だろうか。
――戻りたい場所があるだけ、感傷に浸れるだけ幸せ者だな。
現実と瓜二つな世界に囚われた――あの創造主が語った言葉が全て。
もう残された時間を、只好きなように生きればよい。
望んだように。願ったように。
二度と戻ることなんて、出来無いのだから――生きていても、死んでいても。
城壁を抜ける直前――ふいに背後から聞こえた。
「シグレ――ちょっとまって! …………まさか、ひとりで行く気なの!?」
肩で息する二人の女性は俺の目の前に滑り込むと、膝に手を突いて呼吸を整える。
「ああ、駄目か?」
「駄目って……さっきの茅場の話、聞いてなかったの? もう、このゲームは、」
「ああ、死ぬんだろ?」
今、呼び止めた 《男の容姿》 だったプレイヤーの脇を擦り抜けるように進む。
「駄目だよ、……ひとりじゃ、」
左腕を力強く掴んだ柔らかな温もりを、断ち切るように勢いよく払い除ける。
「どうせクリア出来ないよ。それにいつか……まあ、頑張って」
死が待つだけの圏外に向かって、乾いた地面を踏みつけた。
迫り来る牙――腕から伝わる違和感。
まるで血液のように弾ける光塊。
――何も変わらないじゃないか。
僅かに短くなった視界の緑色。
それがたとえ命の残数だったとしても、それを恐れる意味など、もはや無い。
――いずれ死ぬ。遠からず、絶対に。
モーションの直後、不自由に加速する身体――閃光が獰猛なモンスターを切り裂き、地面に叩きつける。
狂ったように鳴き叫び、俺を睨みつけながら起き上がったダイアーウルフ。大口から唾液を撒き散らせて俺の肉を喰らおうと跳びかかる。
躊躇無く首筋に剣先を振り下ろすと、拡散する鮮やかな光。
その瞬間、駆け抜ける少年――俺に脇目も振らず、ひたすら真っ直ぐ走り続ける。
背負った鞘にスモールソードが納まった瞬間、すでにその背中は小さくなっていた。
――急ぐ、か。まあ、それが正解なんだろう。
俺は小瓶を唇に当てると、数ヶ月前の記憶を辿る。
「そのまま、ってわけでもないだろうから……」
飲み干したポーションの瓶を草原に投げ捨てると、その後ろ姿は見えなくなった。
おそらくPOP数の限界を迎えた草原――辺りは夕闇に包まれる直前、といったところ。
それでも次のエリアを探して移動すべき、なのだろう。
しかし、どうやらそうは、いかせないようだ。
「こんばんわ。もうレベリングしてんすか? オニーサン、頑張りますね!」
ふたつの鋭い剣尖と槍の穂先が微かに輝く。
愚かだ――相手に目的を理解させるなんて。
走り出した俺を追う――
「逃げんな、てめえ!」
夜空に浮かぶ月と星。
その変わらないように感じる優しい光が道しるべとなり、たどり着いた目的の村。
ダイアーウルフの群れに恐れをなしたのか、愚か者達の影はいつの間にか消え去った。
――入手出来たのというのに……何かあったか?
俺の前に立つ焦燥した様子の少年に、何か掛ける言葉を探した。
「キリト、なのか?」
その問いに小さく頷くと、俯いたまま俺の横を通り過ぎようとした瞬間、
「シグレ、死ぬなよ」
振り返ると、何かを断ち切るように猛全と走り出した。
その小さな背中に向けて、
「ああ、お前も……」
無意識――冷え切った指先はスモールソードの柄に触れていた。
(終わり)
主人公は男性、名前はシグレ (SHIGURE) くん。
年齢は未成年。175cmくらい。
髪は長めで目は二重。カッコ良くも悪くもない。
一応βテスター、ミトさん・キリト君は、たまに会話する程度の間柄。
今作はちゃんと攻略する……予定。
お願いいたします。