おそらく心の底からレベリングを楽しめたのは十歳頃までだったと記憶している。
無心で淡々と次から次と……
現在の俺は、 「レベリングが楽しいか?」 と問われたら、即答で 《否》 であろう。
――もう嫌だ。まじで、死ねる。
ぶんぶん飛び回るウインドワスプ――その駆除数は、いつのまにか百を超えていた。
「おっす、こっちに来てたのか」
草原にだらしなく仰向けに倒れている俺を覗き込むように見下ろすキリト。
「……お疲れ、キリト。これからワスプ狩りか?」
「ああ、レイピアの強化素材、どうしても欲しいって。めんどう、」
「はい?」
「「…………」」
その明らかに不服そうな声の主の方向へごろりと転がり視線を向ける。
深く被ったフードで表情は窺えないが……見えなくても理解出来た。
俺はのっそり立ち上がって、
「では、おふたりさん、頑張って」
ぼろぼろのレザーコートについた草をぱっぱと払うと、何食わぬ顔でその場から逃亡した。
ウルバスの街で買い物を済ませ、そのまま南東に。
最前線へ向かう途中何度も俺を闘牛士と勘違いした 《トレブリング・オックス》 や美味しい 《カウ》 に突進されるも、
「焼肉――――!」
とか、
「スキヤキ――――!」
などの、ふざけた掛け声と同時に剣を振るって暴散させた。
「ひとりでなにいっとんじゃ、ワレ……」
瞬間、焦る……ここにいるのは俺だけ、のはず……恥ずかしい。
帰り際、すっと近づいてきた――ディアベルに代わってリーダーを務めているらしい男に、気付かれないようそっと耳打ちをする男。
「明日の午前中、フィールドボス狩るから、良かったら手伝ってよ」
俺はその両手剣使いの誘いに無言で頷いた。
深夜一時半――ようやくアルゴからの返信が届く。
……やれやれ、今度は引きこもりかよ。
マロメの村一番の安宿を選んだせいか、ごろごろすると軋むベッドで……ごろごろした。
早朝五時、ウルバス到着。
キリトに 【ちょっと一層行って来る】 のメッセージを飛ばして、懐かしい転移門へ駆け込んだ。
「おお、ちゃんと転移した!」
よくよく考えてみれば、このゲームが始まってはじめての転移である。
そして、久しぶりの 《はじまりの街》 でもあった。
「じゃあ、行くか」
だが、俺はここで気付いてしまった。
――トールバーナって、迷宮区塔からのほうが近くないか?
がっくりと肩を落とす――とぼとぼ街壁を目指して歩きだす。
「おにーさん! ちょっと、ちょっと」
商業エリアもそろそろ終わりというところで、唐突に変な女の子に声を掛けられた。
俺がそいつに視線と向けると、 「うわっ」 と漏れる声。
……露骨に引かれた人間の気持ち。分かりますか、あんた?
「あ、ちょっと、メンテしたくない? それ、アニールブレードでしょ?」
その勧誘に足が止まる。
……まさか、こいつがやるわけないよな? と、いうことは、アレか。
俺は素早く振り返って、にこっと笑うと、
「ごめん。お前、タイプじゃないから。頑張って!」
そう告げた瞬間、くるりと背を向けて一気にダッシュした。
途中、ワスプやワームやコボルドを撃破しながら、ようやくトールバーナに到着。
すぐにアルゴに教えてもらった (当然買った) 三階建ての宿は見つかった。
素早く階段を駆け上がり、二階の一室のドアをノックした。
しかし、応答はない。
……居留守だな。めんどくせえ。
がんがんドアを叩きながら俺は大声で楽しそうに言ってみた。
「みーとーちゃん。あそびましょー!」
三度目の同じ台詞で勢い良くドアが開くと、一瞬で部屋に引きずり込まれる――
「シグレ……何のつもり?」
数秒ほど考えたものの、適切な回答が浮かばなかった為、適当に答えてみる。
「彼氏のつもり」
これが、良くなかった……
ブルモオオォォォォ――――!! の合図で土煙を上げながら突進する 《ブルバス・バウ》。
ウオォォッ!! と叫ぶ牛のようなタンク部隊。
……こりゃ、いい勝負だな。なにせリーダーの知性が牛以下だ。
困ったバウは悩んだ末に、こちら側への突進を選んだ。
ズガアァァァンと激突してタンクが押し込まれた瞬間、アニールブレードを加速させる。
……遅いよ、お前ら。
俺の剣尖が広すぎる脇腹を捕らえた瞬間、 「くっそ、」 背後から悔しそうな声。
バウの巨大な頭がこちらを向こうとする最中、ステップを速めて、さらに斬り込む――
「おらあっ――!!」
一瞬でV字の軌跡を描く 《バーチカル・アーク》 が首から前足辺りに決まった。
「キバちゃん、ハウル!」
その声に不快そうな表情を浮かべたが、キバオウは即座に指示を出した。
「バカッ、」
タンブルしたタンクの脇を擦り抜け、猛然と迫り来るバウ――
「回避しろ、全力で!」
視線を外さず高速のサイドステップを繰り返しながら叫んでみたものの、怯える両手剣使いは動かない。
「うわあぁあ、」
宙を舞いながら震える悲鳴――
「チッ――」
左足は勢い良く地を蹴った。
前傾――輝きを増すアニールブレード。
「うらぁ!」
ブルウオウ!! 短い悲鳴のような鳴き声と同時に、俺は 《レイジスパイク》 の硬直の最中、
「リンド、退避させろ!!」
……早く動けよ、コスプレ野郎。
「おらあああ、こいや、ウシィイ!」
ハウルというより……ただ、感情を発散しただけ。
しかし効果抜群――こちらに向いたバウの怪しく光る眼球が俺を睨んだ瞬間、アニールブレードを威嚇するようにぐるりと回転させた。
――やばい、マジ闘牛士の気分。これ、結構好きかも。
俺は右腕を思いっきり伸ばして剣先を上下に振ってみる。
……無意味だろ、これ。まあ、雰囲気はこんな感じだったはず。
効果があった――突進馬鹿は勢い良く突っ込んできた。
俺は剣先を下げて、その時を待つ。
バウの頭が下がり鋭い角を俺に突き刺さそうとした瞬間、限界まで屈曲した膝が反撥――緑色に輝く剣先が顔面を捉える。
角の隙間を縫うように跳び上がると、真下の首筋を目掛けて、
「うおおお――ッ!」
空中で回転しながら俺は剣を振り斬った――
ブルモオオォォォォ――――!! クリティカルの手応えを感じながら宙を遊ぶ。
――カッコいいじゃん、俺。
と、油断して着地に失敗。後方に一回転。
「痛ぁ……あ、?」
『おらあああ――!』
うつ伏せに倒れたまま目にした――キリト並みに強化したアニールブレードが輝きながら怒り狂ったバウを切り刻む。
――こいつ、総額いくらだよ……高級志向、か。面白いけど、ダセえな。
(終わり)
何故、前作に引き続きミトさんはこうなるのか……
誰か教えて欲しいです。ごめんなさい。
とはいえ、本日の思いつきですので……すいません。
では、次回もお願い致します。