こん、こん――――
また駄目か。
ごんごんごん――
「みーとーちゃん、あそびましょー!」
やはり広大なジャングルや迷宮区塔内部での戦闘の後では、ワームやワスプ、フレンジー・ボアが相手では、どうしてもつまらなさ――物足りなさを感じてしまう。
しかし、すぐ目の前でアイアン・サイズを軽やかに回転させるミトの姿に、どこか美しさのようなもの――
うっかりすると見蕩れて立ち尽くしてしまうほどの華やかさ。
その滑らかな剣技に惚れている、いつの間にかすっかり魅了されてしまっている。
ずっとこの戦闘が続けばいい――なんて、どうしようもない事を願ってしまうわけで……
「ちょっと!! ――スイッチ!」
「あ、はいはい――」
ノックバックでがら空きになった首筋に 《ソニック・リープ》 の一閃。
硬直中の俺に剣先を向けた瞬間――輝く高速のアイアン・サイズが追撃を加えると、哀れなコボルドは眩しく散った。
「お疲れ、ミト」
笑顔で右拳を差し出すものの、
「戦闘中に何でぼーっとしてるんだよ、シグレ!」
照れも恥じらいも一切隠さず――俺は思ったまま言い放つ。
「いや、だってさ、凄いから。綺麗なんだよ、ミト」
「…………」
それから 《はじまりの街》 の市場エリアに到着するまで、俺は何を言っても無視され続けた。
「おりゃぁ!!」
強引な反転によって急加速したサーフェス・スティンガーの剣尖が美しい黄緑に染まると同時――
ブウルルルゥと雄叫び――いまさら 《ナミング・インパクト》 を放とうとしたトーラスの太すぎる腕が弾けるように空を切った。
「せいっ――!」
とどめとなる 《スラント》 が盛り上がった背中の筋肉を一閃すると、薄暗い回廊をぱっと照らす眩い青。
そこにふわっと浮かび上がったシルエット――その影に俺は声を掛けた。
「こんばんは。おひさしぶり」
「おっス! すっかり夜勤シフトだナー、シグレ」
「…………まあ、そっちはあいつらに任せるとして、俺はボス戦に集中するよ」
「そうカ。で、その新しいグレーのコートはデバフ耐性高いのカ? いつもと違うから、最初は誰だか分からなかったゾ」
にやにやする情報屋に、苦笑いを浮かべると俺は、真新しいロングコートのフードを被りながら、
「ああ、それもあるけど、半分趣味だな。本当はグリーンとかカーキみたいなアースカラーがいいんだけどさ……あいつらと、かぶるのもなあ……」
「なるほどナ。オマエ、ベータの時もずっとあの色のレザーコートだったから、よっぽど気に入ってるんだナーって思ってたケド」
「……お前さあ、全部知っているくせにその話題……しばらく、そっとしといてくれよ……」
俺はうなだれながら、いやらしい鼠をちょっと睨む。
「にャハハハ。ゴメン、ゴメン。そうだナー、まあ、高く売れそうな情報でもないしナー」
……誰もいらねえし、買わねえだろ。そんなどうでもいい情報。
悪戯に笑いながら、くるりと背を向ける情報屋。
その小さな背中に――今、俺が最も知りたい情報を問う。
「それよりアルゴ、この世界の女の子って、クリスマスプレゼント……何が欲しいと思う?」
足を止め、呆れた顔だけをこちらに向けると、
「バカか、シグレ。そんなもんは、アッチと何も変わらないゾ……自分で考えるんだナ」
……それも、そうか。
「ああ、そうだな。ありがとう……あ、お前にはストラップレザーあげるから、イブの夜に着て見せてくれ」
すごく嫌そうな……じっとりとした視線が俺の眼球に突き刺さる。
「シグレ……おれッチがオンナのコって忘れてるだろ? この変態ヤロー」
「…………すんません」
日曜日。寒い夜。
「あははっ!! キリト、何だよ、それっ!?」
その姿は面白すぎた――まるでモブ兵士。
「俺だって好きでこんな格好、」
「なによ、せっかく選んであげたのに」
笑い転げる俺と焦りまくるキリトをぎろりと睨みつけるなり、ぷんぷん怒りながら東広場に向かうアスナ。
「あー、おもしろ。じゃあ、頑張って、キリト……ふふ、」
「ああ……じゃあ、また後でな」
背負ったタワーシールドをガンガン叩いて、アスナの背中を追う 《重戦士キリト》 を見送った。
「こんなことを頼めるのは、お前しかいないんだ――頼む、シグレ」
……はあ、そうっすか。めんどくせえなあ……でもなあ、しょうがないよなあ。
ふたりに紹介されたばかりの軟弱そうな青年は、俺達の前で深く頭を下げたままだ。
「まあ、いいけど……俺はやんないよ。いまさら岩とか殴りたくないし」
「それは構わない。それよりも、スキル取得後のトレーニングが重要だから……思いっきり鍛えてくれ」
ネズハの手に握られた、明らかにレアそうなアイテムに目を落とすと、
「はあ……了解、それは任せてくれ。とはいえ、ボス戦の空席確保、よろしくな」
一瞬で、 「マズい!」 そんな表情に変わったキリト。
――お前、それを全然考えていなかっただろ。馬鹿野郎。
呆れたように溜息を吐くアスナ。そして俺の目を真っ直ぐに見つめながら、
「わかった。そっちは私がやるから……ネズハさんのこと、よろしく」
「ああ、頼む」
そこでようやく頭を上げたネズハは……感動なのか、感謝なのかは分からないが、大粒の涙を流しながら俺の右手を素早く両手で握って、
「お願いします……シグレさん……」
「…………はい。こちらこそ。 ……それ、危ないから仕舞ってね」
ここで、俺は諦めた……しょうがなく笑って見せた。
「おらあ! へばってんじゃねえぞ、童貞野郎! 立ち上がって拳をぶつけろ――!!」
「はい、……おりゃあー!」
「バカ野郎――!! 気合を入れて殴れ。そんなカスパンチじゃ、いつまで経っても割れねえんだよ!! ふざけてんのか、てめえ!」
「……はい、おりゃあ!!」
「ごら、もっと腰入れろ! 殺したい奴の顔だと思って死ぬ気でぶん殴んだよ、ネズハ!」
馬鹿げたヒゲのせいで、すっかりマヌケ面になってしまった俺は、 《ネズえもん》 の隣で無意味に怒鳴り散らす。
「見てろ、ネズハ! こうやんだよ――おらあああ、死ね、カヤバ――――ッ!!」
「あ、……嘘、」
パキンと亀裂が…………お互い顔を見合わせた。
「……すごい……シグレさん、やっぱり、気合ですね。僕……感動、して……こんな、ことって……本当に……」
小刻みに震えているネズハの肩にそっと掌を置くと、
「ネズハ、結局最後は意思なんだよ……石だけに」
「…………」
冷たすぎる――風。
冬の訪れを感じながら、むかつくNPCに優しく顔面を拭いてもらう。
……失敗したなあ。頑張れ、ネズハ。そして、すまんかった。
(終わり)
おそろの白でも良かったのですが……汚れそうだな、と。
アルゴにアレを着用してもらうイベントが発生するかどうかは分かりません。(気分次第)
では、次回もお願い致します。