014 第三層 Part1
キリトからのメッセージによると、あのクエストに 《エルフ生存ルート》 が追加されていたようだ。
――ほおら、やっぱり。もう全然読めないじゃん。やんなくて良かった。
ということで、 【健闘を祈る!】 とだけ返信。
しかし、 【フィールドボス戦は来いよ】 ということなので、それまで俺はアルゴから頼まれた仕事を進めることにした。
「せああ――――ッ!」
コボルドを撃破して、
「うりゃあ――!」
ワスプを斬って、
「せいっ――!」 「おらあ――!!」
ずばーんとネペントを暴散させる。
「シグレ、これ、いつまでやるの……?」
「うーん……分からん」
俺達ふたりは第一層を隅々まで歩き回り、上層解放によって出現する新規クエストを探した。
だが、数日が経過してもそれは全く見つからず、多少のコルと経験値、無意味にアイテムとプレイヤースキルだけが溜まっていく。
さすがに二人とも飽きた……当然だが。
はじまりの街――
「いや、これは思ったよりも大変だなあ……引き受けなきゃよかった」
「でもアルゴさん、ベータの時はこれをひとりでやっていたんでしょ?」
「どうだかな? 互いに知らないだけでアルゴに協力している輩はかなりいるはず……多分」
「なるほどね。確かにひとりじゃ、効率悪すぎ」
「とはいえ、アイツは本当にワケ分かんないから。ある意味、最強のプレイヤーかもしれない」
「最強……ね」
……嘘だろ、本当だったのか。
レストランから出て西の市場エリアに足を運んだ俺達。
そこの片隅で一生懸命ハンマーを振る若い女性プレイヤー。
「あっ! ミトちゃん、こんちわー!」
瞬時に俺は隣を見た――ぺこりと頭を下げるミト。
……やべえ、知り合いだったのか。
即座に女性プレイヤーのほうへ視線を向ける。
だが、すでに、遅かった。
「うわあっ!? この前の嫌なやつだー!!」
……うへえ、すんません。
「へえー、ミトちゃんの知り合いだったとはねえー」
俺はすでに手遅れと知りながらも、一生懸命作り笑いを浮かべた。
「いやあ……本当にごめん。まさか、こんな可愛い女の子がスミスとは思いもよらず……」
思いっきりキツイ視線を隣から感じつつも、必死の弁解を試みた。
「あははー、確かにねー、あたしはあんたの好みじゃないけど、そりゃあ、かわいいからねえ」
「アハハ、アハハハ……はあ……」
……こいつ、むかつくな。
とはいえ、ミトの知り合いらしいので俺は必死で笑い続けた。
「そうだ! これ、強化してもらってもいい?」
俺は背中から鞘ごと 《サーフェス・スティンガー》 を外すと、カシャンと女性の前に置いた。
彼女は首を傾げながら剣を手にとってウインドウを開く。
「…………ちょっと、あんた……こんなバケモノ、どこで入手したの……?」
先ほどまでのにやけ顔が一変。縦筋がみえそうなほど、青ざめてうろたえる。
「リズ? それ、そんなに凄い剣なの?」
ミトも彼女の豹変ぶりに訝しげな表情を浮かべる。
「だって……試行回数、十三って、こんなの見たことないよ……」
「うそ…………」
俺は黙って強化素材をオブジェクト化する。
「ええっと、スピードと正確さで、素材は必要な分使っていいから。ああ、適当に三回ずつ。それに言い値でいいよ」
バラバラと大量の素材を彼女の前に積み上げると、俺はトレード操作を終えてにこっと笑った。
「あんたって……めちゃくちゃね。いやあ……ま、頑張ってみますか!」
「まいどありー! また、よろしくねー!」
……現金なものだな。
いつまでも手を振り続けるリズベットに俺とミトは何度か会釈をすると宿に向かう。
《サーフェス・スティンガー+5》 を背中に戻すと、
「それ、凄いね……ちょっと驚いた」
ミトはこちらに視線を向けずに呟いた。
「まあ、運が良かっただけだよ……ジャングルのワスプからドロップするなんて知らなかったし」
それからしばらく黙っていたミトだったが、常宿の入り口で俺の袖を引っ張ると、
「ねえ、シグレ……ちょっと聞きたいんだけど」
「ああ、何だよ」
俺は足を止めてミトを見つめる。
「誰にでも……あんなこと言ってるの?」
……あんなこと? どんなこと?
首を傾げた俺にすっと近寄るとミトは睨む。
「……かわいいとか」
……それを問う、あんたが可愛いよ。
俺は何とも言えない気持ちになってしまい……とにかく率直な言葉を搾り出した。
「まあ、冗談では言うけど……本気では言わないな」
「そう……じゃあ、また明日」
ぱっと袖から手を離すと、逃げるように宿に入る。
「ああ、また明日……」
その背中に動揺が乗った言葉を放った。
だが翌日――
【すぐに来い】
ということで、朝から第三層を疾走する羽目に。
「てめえ、邪魔すんじゃねえ――――!!」
そんな俺以外は全く理解不能な罵詈雑言を浴びせながら、一切連携など気にせず鬼のようにフィールドボスを斬り刻んだ。
「シグレ……なんか、今日、凄いな」
途中、若干引いていたように見えたキリトだったが、きっちりとLABは取っていた。
相変わらずアスナは不機嫌――しかし確実にその距離は縮まっていた。
……隠したって分かっちゃうんだよ? 何かあっただろ? 姫様。
「お疲れ! さくっと倒してきた」
すっかり疲れ果てた俺を見て、何故かミトは嬉しそうだった。
その翌日の早朝――再び俺はズムフトに呼び出される。
「……あのなあ、そいつは間違いなくPK野郎だよ。なんで、キリトに依頼された時点で連絡くれないんだよ」
「おれッチだって、いろいろあるんだヨ」
「それは……そうか。でも、ついにそんな奴ら、動き始めたか……予想通りとはいえ、めんどくせえな」
「オマエはどうするんダ? 別に新規クエの探索はやめちゃってもいいケド……まさか、またあっちに加担する気だったリ?」
「あのなあ……それはアホすぎるだろう。まかり間違ってクリアしちゃったらどうすんだよ? 間違いなく刑務所行きだぜ?」
「少しは賢くなったナ……ベータの頃から見違えるほど進化したもんダ」
「進化って……とにかく接触注意だぞ、アルゴ」
「オマエに言われるまでもないサ」
戻ってミトにクエストの探索終了を告げると、思いもよらない話を聞かされる。
俺達は転移門を潜り抜け、第二層の 《死に掛けた》 ジャングルに向かった。
谷を抜けて密林の入り口にさしかかると、ガズーンという激しい衝撃音。
「あれかな?」
「あれだね」
俺達はその音を目指して鬱蒼とした森林に駆け込んだ。
「とおりゃあ!」
そこにはカウに挑む……妙に小さすぎる変な体型の鎧騎士の姿。
しかし可哀想なほど鎧騎士は経験がとぼしいようで……大苦戦中であった。
……とはいえ、根性あるなあ。
俺は背中からサーフェス・スティンガーを抜くと、介入する機会をうかがった。
「いくら防御力が高いからって……」
鎧騎士の戦い方にミトは若干呆れている。
「わわっ、」
木の根に足を取られてタンブル――瞬間、地を蹴った。
「おらあ――――!」
緑の閃光が一閃。そのままの勢いで木の陰に隠れた。
ブルオォォとすっかりお馴染みの鳴き声を上げて、こちらに突進してくるウシ。
「馬鹿め!」
木を挟んで反対側からブーストされた 《バーチカル・アーク》 が広い身体にV字の軌跡を刻み込む。
カシャーンと硬質の破砕音が鳴り響くと、ミトは鎧騎士に手を差し伸べていた。
「大丈夫?」
ガシャガシャ音を立てながら重そうな身体を無理矢理起こすと慌てながら、かぽっとアーメットを外す。
……うそだろ、まじかよ。
「す、すいません、ミトさん。こんなところまで――――」
頑強な鋼のプレートアーマーの上に、こけしの頭が乗っている……
「ふ、ふふふ……まじかよ……ふふふ……」
必死で笑いを堪えた――だが、それはもう完全に、手遅れだった。
(終わり)
やっとリッちゃん登場で、筆者のテンションが……ごめんなさい。(前作参照)
どう考えても大型キャンペーン・クエストには参加しない主人公ですので、こんな感じになりました。
そんなわけで、この層はあっさり終了するかもしれません。
では、次回もお願い致します。