出来ちゃうから――出来ない理由が理解出来ないんだな、こいつ。
優秀なプレイヤーは指導者としても優秀である。
否――そうとは限らない。
びっくりするほど、ミトは教えるのがヘタクソだった。
《トレンブリング・カウ》 を相手に悪戦苦闘する 《フルプレこけし》 ことリーテンに細かくアレコレ指示を出すミト。
しかし、それはリーテンの頭上に次々と疑問符が追加されるだけで、全く彼女の戦闘技術に反映されることはなかった。
こんな得体の知れない俺にでさえ、あんなに笑い転げてしまって失礼だった馬鹿な俺にでさえ、笑顔で握手を求めるほど礼儀正しいお嬢さんなのだから――単純にこれまでの、このゲームが始まってから知り合った人間達が馬鹿だった……これまで周囲の環境に恵まれなかっただけなのだろう。
「リッちゃん、ちょっといいか?」
その馴れ馴れしい呼び方にご機嫌斜め真っ最中のミトは不満げ。
それに怯えながらも俺はいくつか簡単なアドバイスをリーテンに。
その直後、疑問符が消え去ったリーテンはがつんがつんとロングメイスで殴りまくり、ブルゥゥゥと鳴いてカウは粉々に散った。
「シグレさん、私、やりました! ありがとうございます!!」
満面の笑顔でガシャンガシャンと飛び跳ねるとフルプレこけしは、ガチャガチャと重そうな鎧を鳴らして駆け寄ってくるなり、俺の右手をがっちりと両手で握ってぶんぶんしながら謝辞を述べた。
その大きな瞳はきらきらと輝き、出来ればあまり近づけてほしくないほどに眩しい。
「お、おう……良かったね」
……これで、鼻の下が伸びなければ、きっとそいつは男子ではないだろう。
「……不満だから」
あれから全く口をきいてくれなくなってしまったミトが、ようやく言葉を発したのは三日後の現在。
「不満……か」
「何故、あんな素質の無い子に親身になって……もう、いいけど」
……そこまでハッキリいうか。よっぽどだな。
俺はエール酒を一口飲むと、
「あのなあ、才能なんてもんは、何時どういうふうに目覚めるか、誰にも分からんもんだぜ……」
窓の外の雑踏を眺めるミト。
「そう。じゃあシグレはあの子の才能を開花させてあげたい、なんて思っていたりするわけ? 偉いね……」
……めんどくせえな。嫉妬しちゃうから止めてほしいって言えよ、馬鹿。
俺はこめかみを掻きながら俯いて、
「そんな気持ちは微塵もないよ。そもそもリズベットに頼まれたのはミトだろ?」
フードの奥から横目で睨まれる。
「そうね……だから、あんまり、」
「ミトはさあ、こう言っちゃ悪いけど……誰かに何かを教えたりするタイプじゃないんだよ。教わるほうが優秀ならいいんだろうけれど」
その瞬間、明らかに表情が変わった。
「…………」
「お前、きっと優秀とされるような奴らから、何でもできる子、みたいに思われてるだろ?」
「……何、それ?」
どうやら図星のようだ。
「何となくだけど、ミトの周りが優秀すぎるというか、本当に馬鹿な奴と接したことがあまりないっていうか……でもそれってさ、俺からすると、物凄い可哀想なことなんだよ」
「どういう意味?」
――ミトさん、眼光が鋭すぎて怖いんだけど。
「いや、単純にさ、出来ないことが許されない……ようは 《失敗しない奴》 扱いされちゃうだろ? 人間である以上、そんなわけないのに……その影響で今度は自分自身を許せなくなったり、」
その瞬間、俺は言葉を失った――
数日後――主街区ズムフト。
「へええ……まあ、いいや。分かった、ありがとう」
キリトからエルフクエストのあらましを聞いた俺は、ところどころ説明が足りない部分をスルーすることにして、適当に納得したふりをした。
「まあ、シグレも迷宮区、大変だったんだろ? お疲れ」
「ああ、笑ったぜ。なにせ、あの二大バカギルドが俺をスカウトしようと必死に……入るわけないんだけどなあ」
「ははは……そりゃ、めんどうだったな」
乾いた笑いとほぼ同時にアスナが戻ってきた。
「やっぱり、いないね。それとなく聞いてみたけど、来てないみたい」
「そうか……」
……来るわけないだろ。そんなお馬鹿さんだったら、計画的PKなんて出来ませんよ。
キリトの命を狙った 《モルテ》 という男は、この会場に姿を現さなかった。
しかし、いずれ違うかたちで俺達の前に現れるのは確実だろう。さて……
『はい、それじゃあ――――』
――うるせえな。そこまで前任者を真似るのか。
コスプレリーダーが喚き出したので、俺は一旦それについての考えることを止めざるえなかった。
エルフ野営地近くの深い森の中――
「まさか、ベータと同じパターンとは……随分、余裕だな」
唐突な声にも関わらず、男達はゆっくりとこちらに振り向いた。
「いよお、シグレェ……そろそろ来る頃だと思ってたぜ」
「びっくりびっくりー、さすがですねぇー、こっちの動き、見事に的中しちゃいますかぁー、シグレさん!」
相変わらずのふざけた態度。
「ふっ……お前だせえな。狙った獲物は百発百中なんて、ぬかしてなかったか?」
「いえいえぇー、そんなカッコいいこと、自分言いましたっけぇー。まぁー、今年はあっちい夏でしたからねぇー。きっとおバカになっちゃってたんっすよぉー」
その返答に、適当に笑ってみせると俺は彼らに背中を向ける。
「おい、これからてめえはどうするんだ?」
「前と同じだ……好きにやるさ」
風音に消えそうな小声で、俺は振り返らずに答えた。
「いやあー、相変わらずカッコいいっすねぇー、シグレさん! さすが 《死剣》 の異名は伊達じゃないっつーか。憧れちゃうなー」
「てめえも異名が欲しいなら 《マヌケ》 ってのはどうだ?」
「いやいやぁー、そりゃちょっとヒドイっすよぉー」
どうでもいい馬鹿げたやりとりが聞こえなくなった頃、
「その、だせえ呼び方、まじでやめてくんないかな……」
ぽつりと残した苦情は、深い森の暗闇に消えていった。
(終わり)
べただなあと思いつつ、何も思いつかなかったわけです。ごめんなさい。
しかし彼らのネーミングセンスを考えれば妥当かと。
とにかく、リッちゃん登場で筆者、テンション暴上がりでございました。
では、次回もお願い致します。