SAO ‐Gravity‐   作:たかてつ

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003 第一層 Part3

後悔、後に立たず――

 

「馬鹿は、俺も同じだったな……」

 

数秒で湧き上がった十体以上のコボルト系モンスター。

 

単調な攻撃パターンとはいえ、その鈍い銀色の斧の直撃を受け続ければ、一分と持たずにゼロになるだろう。

 

取り残された――いや、置き去りにされた。

 

こんな簡単な 《M P K》 も見抜けなかったなんて――

 

 

 

 

ホルンカからメダイに向かう途中の深い森。

 

その奥にひっそりと佇む大木の樹洞から続くダンジョンに、単身――無謀に挑んでみた俺。

 

「良かったらマッピング、協力してくれませんか?」

 

そんな嘘がきっかけだ。

 

フィールドボスを倒した事に気を良くしていたのだろう。

 

二つ返事で了承し、七人で二手に分かれ探索する途中、大げさに宝箱が配置された部屋を発見。

 

「やったぜ! ちょうど四つあるじゃん。お前ら、こっちに来て良かったなー!」

 

満面の笑みをこちらに見せて勢い良く走り出したアックス使い。

 

それを止める理由が口から放たれる前に、俺の背後にいた片手、そして両手剣使いは……躊躇無くどんと俺の背中を強烈に押した。

 

 

 

 

「うわあああ――やめてくれええ!」

 

カーソルが変色したことをキッカケにみるみる青ざめていく。

 

恐怖からだろう。絶望的に振り回す彼のウッドメイスは全く当たらない。

 

「チッ―――」

 

閃光終わりの拘束から解放された瞬間、俺は左脚に力を込める。

 

――助けられるの、待ってんなよ。

 

疾駆したまま、強く握る右手を高速で振りかぶった。

 

無言の 《スラント》 が緑色の小柄な背中を鋭く切り裂く。

 

二体のコボルトが振り返る寸前、強引に急加速させたアニールブレードを横一閃――発光した剣先は首と顔面を正確にえぐった。

 

刹那、斜め後ろからの気配に振り向き様、剣尖を下げる。

 

瞬時にしゃがみこんで跳躍。三体の輪から抜け出す。

 

「今だ、逃げろ!」

 

――早く動け、馬鹿。

 

「……あ、ああ」

 

震える身体を必死で動かすマヌケ野郎。

 

……さあ、残り四体、どうする?

 

緊張によってこわばる腕。すくみそうになる脚。

 

取り残された孤独……否が応でも脳裏を過ぎる死の光景。

 

このゲームでは死なばもろとも、はありえない。

 

ひとつ溜息を吐くと、剣尖を向ける。

 

「簡単には殺されない……殺してやるよ」

 

 

 

 

すでに数分、いや十分以上経過しているのかも、しれない。

 

度重なる回避とカウンターで、すでに残りは一体となった。

 

あと僅か――だが、ここまでの必死の攻防を嘲笑う赤いカーソル。

 

次に致命的な一閃を受ければ、俺はここで死ぬのだろう。

 

――馬鹿正直に振り抜いてくれよ。

 

眼前の歪んだ表情に祈るように、俺は剣を構えた。

 

踏み込んだ瞬間、頭上に迫る絶対的な死の鋭利。

 

「うぉおああ!!」

 

俺は極限まで加速した上半身の捻りのままにアニールブレードを叩き込んだ。

 

目の前の青い光が、ゆっくりと薄れていく……そのまま、ふわりと前に倒れ込む身体。

 

足元で、がしゃあんと爆散したコボルトの残片が、まるで雪のように静かに降り注いだ。

 

「…………ツイてたな」

 

うつ伏せのままで、かろうじてまだ動く人差し指を振り続ける。

 

 

 

 

分岐で合流すると、俺を見捨てた運のいいマヌケ野郎はひたすら頭を下げる。

 

「大丈夫……逃げろって言ったのは俺だから」

 

怒鳴りつける気力は、微塵も残っていなかった。

 

ただ、流石にこれ以上は関わりたくなかったので、俺は足早にダンジョンの出入り口を目指した。

 

 

 

 

差し込む日差しに命を感じる。

 

「あったかいなあ……」

 

我ながらどうしようもない発言と思い、苦笑いを浮かべながら鬱蒼とした道を行く。

 

しばらくすると、見覚えのある大鎌を担いだ女性プレイヤーがひとり。

 

「お、まだ生きてたのか! 良かったよ」

 

そんな俺の戯言を無視すると、生気無く俯いたままで、見知らぬ人のようにすれ違おうとするミトを横目で追った。

 

――片割れは、駄目だったか。

 

「宝箱の部屋、危ないからな!」

 

命がけで入手した忠告は届いたのか、振り返らずに彼女は小さく頷いた。

 

 

 

メダイのNPC食堂――

 

「だから、言っただろ――――あんなβになかったダンジョン、やめとけって」

 

忙しそうに骨付き肉を喰らうキリトに若干引きながらも、俺はカップを手に黙って頷く。

 

「アルゴがわざわざ警告してたんだから……まあ、無事で良かったよ。お疲れ」

 

キリトがNPC店員のほうに振り向いた瞬間、テーブルに並んだ小瓶を素早く掴むと皿に数滴。

 

即座に戻し、 「あ、すいません」 と席を立つ俺。

 

……うるせえな、説教される筋合いなんて無いんだよ。

 

NPC店員に適当な言葉をかけながら、にやにやと様子を……あれ? こいつ、激辛体性、凄い高い?

 

首を傾げながら席へ戻った俺に、新たな骨付き肉を握り締めたキリトは、

 

「シグレ……俺、大丈夫なんだよ。いや、むしろ好きなくらいだ」

 

冷え切った眼差しを一閃……俺は無表情のままテーブルに当たるほど、軽過ぎた頭を深く下げた。

 

 

 

 

食べ盛りなのか、見ているだけで胸焼けするほどアレコレ平らげて満足そうなキリトが唐突に切り出した。

 

「そろそろトールバーナを目指そうかと思ってる」

 

「……いよいよ、迷宮区か。死ぬ気しか、しないな」

 

自虐的な発言が気に障ったのか、怪訝な表情を浮かべるキリト。

 

俺はそれを上目で見ながら、

 

「お前は、まだまだ上げてから挑む気なんだろ? その間に鈍感な奴から死んでいくんじゃねえの?」

 

「せめて……ニ連撃。それからなら、何とかなるだろ……」

 

同様の考え――おそらくそこが最低限の条件となるはずだ。

 

「キリト、もし俺達以外のテスターが全滅してたら……あ、そういえばもうひとり、いた……とりあえず、ほとんど残っていなかったら、もうその段階で、ほぼ詰み、かもしれないだろ?」

 

無言で小さく頷くキリト。

 

「だから……まあ、気が早いかもしれないけれど、ギルドも考えてはいたほうが、いいかもな……」

 

首を横に振る――気持ちは理解出来る。

 

「シグレ……もう、前とは違う。でも、やっぱり俺はひとりで……いや、とりあえず考えてみるよ」

 

真剣な眼差しがぶつかり、一呼吸おいて二人同時に頷いた瞬間、

 

「おいっス、ちょうどそんな話を持ってきたところダ!」

 

緊迫した空気は軽やかに崩壊――にやにやした小柄な 《鼠》 が、音も無く着席していた。

 

――怖ぇよ。アルゴ。

 

 

 

(終わり)




βテスターって本当に可哀想。

はじめて原作を読んだ際、その早期退場者の多さにびびりました。

経験というものは良くも悪くも……

では、次回もお願いいたします。
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