SAO ‐Gravity‐   作:たかてつ

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005 第一層 Part5

《トールバーナ》 の噴水広場。

 

ゲーム開始から約一ヶ月が経過した訳だが、最近はこの迷宮区塔に最も近い街でもそれなりの数のプレイヤーの姿が見受けられるようになった。

 

さらに本日はこれから 《第一層フロアボス攻略会議》 が行なわれる訳だから、腕に自信がある――アインクラッドからの脱出を目指す志ある勇敢なプレイヤーがこの時間、この街に集結するはずだ。

 

そんなわけで、周りの目が多少気になった。

 

「なあ、アルゴ? こういうの、あんまり好きじゃないんだけど……」

 

俺は隣で瞳をきらきらと輝かせながら、覗きに興じる絶壁少女……凄腕情報屋の鼠を駄目元で諌めてみた。

 

「…………」

 

無視――仕事中は私語を慎むスタイルらしい。

 

赤ケープの少女の隣にキリトが座った直後から、建物の影に隠れて俺達二人は広場のベンチに並んで座る初々しいカップル未満の男女の動向を観察し続けた。

 

――おい、キリト。もうちょっと良い物、用意出来なかったのか?

 

何となく隣を横目で……複雑な表情で見守るアルゴの、その柔らかそうな唇は、艶やかに若干湿っていた。

 

――みんな餓えてんだな、このゲームの女性って。

 

微妙な心境と状況に耐えられなくなって、無言で会議の会場を目指そうと踏み出した瞬間――

 

「オイ、何か奢ってから逃げてもいいんじゃないのカ?」

 

俺の目をじいっと、じとっと見つめる――相変わらずきらきらと輝く瞳と口元が、恐怖心をさらに倍増させた。

 

「…………はい。喜んで」

 

 

 

定刻――噴水広場から数分、野外演劇場といった感じの 《第一層フロアボス攻略会議》 会場には、ざっくり三十名ほどのプレーヤーが集まった。

 

見知らぬプレイヤーのほうが多いのだが、キリトはもちろん、キバオウ一味や迷宮区を我が物顔で闊歩していた青髪の一団、開始時間ぎりぎりになってようやく姿を現した困り者・サイズ使いのミト……

そこそこ俺が知った顔も並んだところで、場違い感も消え去って、一応の安堵を得た。

 

ちなみに、賢い俺は――最大限、気を使った場所に、座ってあげた。

 

「……後でなんか、奢れ」

 

ぼそっと呟いた俺の小声が耳に届いたのか、前に方に座る無骨なバトルアックスを背負ったスキンヘッドの 《ヤバそうな》 外国人が振り返って怪訝な表情を見せる。

 

ぺこぺこして……薄ら笑いで難を逃れた。日本語が通じたことが救いだった。

 

背後から、 「にゃハハ」 と満腹鼠の笑い声が聞こえた気がした。

 

 

 

「はーい! それじゃ、五分遅れだけど――――」

 

……やっぱり、あいつが仕切んのか。

 

偉そうな装備はともかく、わざわざ髪型髪色カスタマイズなんて、どうでもいいようなことに金と時間を費やした 《イケメン風》 が、さわやかアピール全開で議事を進行する。

 

俺はディアベルと名乗った男の話を聞き流しながら、ぐいっと仰け反ってアルゴに、

 

「お前、あれ、カッコいいと思うか?」

 

この場の空気を全く読まないアホな質問に、 「イヤー、どうかナー」 と苦笑いを浮かべるだけだった。

 

 

 

 

「今日、オレたちのパーティーが、あの塔の最上階へ続く階段を発見した――――」

 

一斉にどよめくプレイヤー達。俺も驚いた……とはいえ、何となくそんな気はしていた。

 

あの青髪の一団が浮かべる余裕の表情――あれは間違いなくここにいる誰よりも先行している、という自負からくるものだろう。

 

俺やキリトのような単身で迷宮区を攻略するプレイヤーには様々な制限、とりわけ自制心がどうしても働いてしまう。

 

何より予想外のトラブルが発生した場合――ひとりでは解決しようの無い事態が起きてしまえば、それは死に直結する。

 

とはいえ……多少の理由の違いはあれど、俺もキリトも集団行動が出来るほど素晴らしい人間性……性格に問題があるので、ギルドはおろかパーティーさえ組むのも困難を極めるだろう。

 

そのうえ、βテスターに対する風当たりの――

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 

ディアベルの大げさな演説を遮るキバオウの汚い声。

 

……ああ、何か始まっちゃったよ。

 

その後の展開は、黙して見守るこちら側をどきどきハラハラさせるものだった。

 

キバオウが甘ったれた理想論を熱弁する――それにムカついたのかは知らないが、俺の前に座っていたエギルと名乗った 《ヤバイヒト》 は颯爽と前に出ると、説得力を倍増させるバリトン声で圧倒的な現実論を淡々と述べて、甘ちゃんなキバちゃんをねじ伏せた。

 

そのあまりのキバオウのマヌケっぷり、可哀想な姿に俺が腹を抱えて笑っていると、かなり離れた対面の席からぷんぷん怒りながらしばらく睨んでいた。

 

ちなみに、あのガイドブックが無料とは、全く知らなかった。

 

振り返ると……鼠の姿は消えていた。

 

 

 

 

「で、どうなのよ。仲良くなれたかい? キリトくん」

 

トールバーナのNPCレストランで、周囲のにぎやかなプレイヤー達の会話に紛れるように小声で尋ねる。

 

他人の金でしっかりとデザートまで味わいやがったキリト (じゃんけんの勝者) は俺から視線を逸らすと、

 

「仲良くも何も……嫌われてるんじゃないかな、俺」

 

――ああ、本当に馬鹿だ、こいつ。なおかつ鈍感ときたか。

 

不用意な発言で明日から背後に気をつけながら生きるのも嫌なので、 「ふーん、そうか」 で終わらせた。

 

 

 

迷宮区最上階――

 

鈍く光る斧の切っ先が仰け反った俺の鼻先をかすめる。

 

「ふ、遅えよ――」

 

さらに加速に磨きをかけた 《スラント》 が直撃。緑色の身体を青い光が包み込むと、勢い良くガシャーンっと暴散する。

 

「「ぅぇーぃ」」

 

剣を鞘に収めると同時に、奥の方から複数の歓声が聞こえてきた。

 

――ついに発見、か?

 

俺は昨夜からの疲労も考慮して、ウインドウを開くとキリトに 【戻る。発見ぽいな】 メッセージを飛ばして、下り階段へ向かった。

 

 

 

 

(終わり)




第一回攻略会議ですが……

原作、アニメ、映画で設定がバラバラですよね。

話の流れは同じですけれど、描写が大変なエピソードでございました。

まあ、結局は、キバオウ、ですけど。


では、次回もお願いいたします。

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