三回目にして、最後の第一層攻略会議――
欠伸をしながら野外劇場に入ると、凄腕情報屋の姿は無く、さらに死神は目も合わせてくれず……
挙句の果てに俺のパーティーメンバーはキバオウにいじめられていた。
……めんどくせえ、暴力だな。
無音で背後から忍び寄り、汚い茶色のトゲトゲ頭を思いっきりバシンと平手で叩く。
「なにすんじゃ、ワレッ!!」
「全部バラすぞ、ボケ!」
にこにこしながら暴言を吐くと、キバオウは引きつった顔面を頑張って動かして、
「ええか、今日はずっと後ろに引っ込んどれよ。ジブンらはわいのパーティーの、」
「うるせえよ、せえぜえ死なないように逃げまわっとけ、バカ」
それはもうぷんぷんどころではない――
浮き出た血管が破裂してキラキラ舞い散るほどに怒り狂った表情で、 「フンッ」 くるりと振り返ると肩を揺らしながらキバオウ一味が待つほうへずかずかと戻っていった。
「……何だったの、あれ」
「さ、さあ……ソロプレイヤーは調子乗んなってことかな……」
「ほっとけ。むかつくだけだし……」
横目でキリトのアニールブレードを確認してから、
「良かったよ、売ってなくて……ここに集まってる連中、気をつけたほうがいいぞ」
キリトは怪訝な表情を浮かべる。
「俺とアルゴからの忠告……まあ、気にしなくてもいいけど……」
『みんな、いきなりだけど――ありがとう! ――――』
本当にいきなりディアベルが大声で喚き始めた。
やれやれと俺は首を振りながら二人の後ろの席に移動する。
「こういうことをやりたくないから、ひとりでゲームしてるんだけどなあ……」
樹下の下、子供のように笑いながら楽しそうに歩き続ける一団。
とはいえ、ぼっちの俺はほぼ最後尾――後ろは、キリトとアスナがひそひそ話に夢中。
……めんどくせえ。誰か 《回廊結晶》 持ってないのかよ。
前方に目を向けると、イケメン風軍団の後ろをひとり歩くミトの姿。
――気まずいしなあ、行けないよな。
己の度胸の無さとあまりの退屈さに、がっくりと肩を落とした。
午後十二時半、巨大な二枚扉の前に到着。
キリトは緊張した面持ちでアスナと最終確認。
それが終わると、こちらに歩み寄り小声で、
「とにかくシグレは俺達のサポートを頼む。危ないと思ったら、すかさず動いてくれ」
「了解。さすがリーダー、分かってる。俺は遊撃係しか無理っす」
そう言って俺が笑うと、キリトもようやく笑みを見せた。
「βと全く同じ、ではないだろうな……」
「ああ……」
ボス部屋の二枚扉に視線を向けると、キリトの表情は一気に引き締まった。
突入からおそらく数十分。
ここまでの戦闘の感想――ただ、びっくり。
あまりにも順調すぎて驚いた。
そして、お姫さまの実力に驚いた。
予定通りに――β通りに湧き出るセンチネルをキリトとアスナは見事なスイッチで潰しまくる。
俺はふたりのPOTローテの合間にちょこちょこ剣を振る程度。
とにかく、アスナの高速かつ正確無比な 《リニアー》 が凄すぎて、俺もキリトも感嘆するばかりだった。
まれにキバオウ率いるE隊等、困っていそうなところへお邪魔したが……邪魔者扱いを受けるだけなので黙って下がった。
そのうえ、キリトとアスナはセンチネルを倒すたびに、 「グッジョブ」 なんて言っちゃって……もうすっかり二人の世界。
「やり辛え……俺、参加しなくても良かったんじゃねえか」
そんなボヤキが口から飛び出した時だった。
――何話してんだ、あいつ。
キリトの背後から何事かを伝えるキバオウ。
奴が前線に戻るとキリトの表情が曇った。
「余計な……」
俺はキリトの方へ……だが、アスナの方へダッシュするキリトを見て冷めた。
……うん、それが正解。
「わりい、POTだ。頼む!」
知らない顔の両手剣使いの声。
「はいよ!」
俺は右足を強く蹴り出して、アニールブレードの剣尖をセンチネルに向けた。
俺の斬撃がセンチネルを暴散させたと同時に、キリトの悲鳴のような絶叫が耳に届く。
「……下がれ!! 全力で――――」
瞬間、その意味が理解出来なかった。
轟音――――強烈な振動と発光に驚愕する。
「何だ!!」
反射的に視線をコボルト王に向けた。
……まじか、よ。
一時的行動不能状態に陥ったC隊の面々。
そして、情報とは違う 《太刀》 を手に吼えるコボルト王。
即座に振り返り、 「何だ、あれは!?」 キリトに叫ぶ。
「追撃が……」
その言葉と同時に振り返ると、エギルが援護に動いた。
「くそッ――――」
瞬間、駆け出す。
「ウグルオッ――!!」
耳を劈く獣人の叫びも構わず突き進む。
だが、足を止めた。
幾度と無く描かれる赤い閃光――浮き上がり、何度も斬り刻まれるディアベル。
「あっ、」
まるで塵屑のように俺達の頭上を通過する身体。
それを無意識に目で追った。
キリトの側に落ちた――それから間もなく、ディアベルだった青い光の結晶は、崩れて暴散して消えた。
うわあああ、という悲鳴が部屋中に反響する――そこにいる誰もが立ち尽くしていた。
……もう、知るか。
俺は右足に力を込める――刹那、視界の端に白い影。
――これで、びびるような奴じゃないよな。
全速力のダッシュで白い影を追う。
「せああっ!!」
高速で回転するアイアン・サイズ――
コボルト王の太刀を弾き飛ばすと俺の名を叫ぶ。
「シグレ、スイッチ!」
俺は一気に前傾、 《レイジスパイク》 をさらにブーストさせた。
「おらあああ――」
薄く青い閃光が切り裂くと同時に迫る緑色の刃。
「あっぶね、」
かろうじて回避。
「下がって!」
交錯する太刀とサイズが激しいライトエフェクトを散らす。
……ふたりじゃ無理だろ。
しゃがみこんだままで、俺はあらん限りの大声で叫んだ――
「おらあ、ボンクラども! オンナコドモに戦わせてんじゃねえぞ! クズ野郎か、お前らわあ――――!!」
戦意喪失のC隊は一瞬きょとん。そこから一斉に憤怒の表情。
――育ちの悪い、口の悪い友達が多くて良かった。こんなところで役立つとは……サンキュー。
回転が止まった瞬間、ほんの僅かに微笑みを見せる。
……おっ、ちょっと可愛いかも。
「スイッチ!」
怒声のような要請――間髪入れずにアニールブレードを加速させる。
俺が待ち望んでいたソードスキル 《ソニック・リープ》。
肩に担いだ剣身がさらに加速――地を蹴り跳ぶ。
「グルゥウ!!」
「黙れ――――!!」
鮮やかな黄緑色が巨体を切り裂く。
「スイッチ!」
直撃する閃光と化したアイアン・サイズ。
俺達を薙ぎ払うように振り切られた赤く輝く太刀。
「やば、」 「くっ、」
急激に減少するカーソル――二人とも変色する。
「「うおりゃあああ」」
ようやく加勢したC隊のプレイヤー達が絶叫と共に斬り掛かった。
「下がれ、ミト!」
だが、首を横に振る。
強情にも程がある。相変わらず嬉しいほどに馬鹿だ、こいつ。
その時、俺の眼が捕らえた――コボルト王に迫るふたりの剣士。
……ようやく来たか。待ってたぜ、ラスト・アタッカー。
(終わり)
何となくです。本日の 《思いつき》 です。
ブラッキー、というよりはラストアタッカー、じゃないかと。(ビーターがしっくり)
攻略組とか攻略集団とかフロントランナー……みたいなものです。ごめんなさい。
では、次回もお願い致します。