SAO ‐Gravity‐   作:たかてつ

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009 第一層 Part9

――また、始まっちゃった。

 

やり場の無い感情を高ぶらせてC隊の男が発した暴論をきっかけに、馬鹿げた疑惑の声がボス部屋を飛び交う。

 

呆れた俺は、どしっと腰を下ろして胡坐をかいた。

 

……こいつらは本当に馬鹿なのか? 

 

不満を言えば、何かが、誰かが、相手が自分の思い通りにしてくれる――

 

そんなわけないだろ、アホ。

 

感情的になるのは一向にかまわないけれど、少しは足りない頭を使ってみてはいかがなものか――

 

まあ、中身が入っていれば、だが。

 

 

 

 

 

「――あいつだって元ベータテスターなんだから、タダで本当のことなんか教えるわけなかったんだ」

 

予想に反して押し黙ったままのキバオウの背後から、そんな馬鹿すぎる発言がキリトに投げつけられた。

 

……くだらねえ。無知にも程がある。いや、それとも……俺達を煽りたいのか?

 

ふと、隣のミトの表情を横目で……すっかり動揺してしまっている。

 

俺は小声で、 「おい、気にすんなよ」 と。

 

だが変化無し。この場の空気にのまれて思考の沼にハマったようだ。

 

……この程度で、女子に戻るなよ。

 

ほとほと困り果てた俺は 「よっこらしょ」 と立ち上がった。

 

 

 

 

「えいっ」

 

首筋のマントの隙間に素早く小瓶を押し込む。

 

「きゃっ、なんなの――!?」

 

驚いて仰け反ったミトに笑顔を見せながら、

 

「ふふっ、それ飲んどけ。最悪、殺し合いまでいくかもしれないから……」

 

「え、……あっ、うん」

 

ミトは何度か小さく頷くと回復ポーションの蓋を開ける。

 

『元ベータテスター、だって? ……』

 

これまで一度も聞いたことのないキリトの声に、俺はゆっくりと振り返った。

 

 

 

 

『――――ついてくるなら、初見のMobに殺される覚悟しとけよ』

 

そう言い残すとキリトは 《勇敢だった馬鹿ども》 に背を向け、アスナとエギルに一瞬だけ笑みを見せると歩き出す。

 

……格好つけすぎ。まあ、ドキドキだったろう。可哀想に。

 

俺は深く溜息を吐くと、 「じゃあ、殺されなかったら、またな」 とミトに告げて後を追う。

 

「シグレ……またね」

 

ミトは俯いたまま……だった。

 

エギルとアスナから何か言いたげな眼差しを向けられたが、小さく苦笑いを浮かべてその前を通り過ぎる。

 

「お疲れ様」

 

背後からの声を無視して玉座の前に進むと、ひとつ溜息をついて第二層に続く階段を目指した。

 

 

 

 

「お前はすぐに来る、と思ったよ」

 

第二層の雄大な景色の中、ぽつんとひとり座っているキリト。

 

連なる岩山の彼方の先を眺めたまま溜息混じりに笑う。

 

「殺される覚悟なんて、持ってないけどねえ」

 

嫌がらせのような冗談が口をついた。

 

互いに睨みあう――刹那、笑いあう。

 

 

 

 

ほどなく俺はゆっくり立ち上がって、

 

「じゃあ、悪いが転移門、よろしく」

 

その言葉に首を傾げる。

 

「お前、ウルバスに行かないのか?」

 

「ああ、ちょっと行きたい場所があるんで……まあ、 《ビーター様》 に荒らされる前に堪能しようかな、と」

 

俺の戯言に苦笑いを浮かべると、 「気をつけろよ」 と右拳を突き出した。

 

「お前も……あっ、多分あいつは追っかけてくるから、仲良くしろよ」

 

その拳をこんっと突いてにっこり。

 

キリトは勢いよく……うなだれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

切り立った岩場の道を数十分――

 

ベータと大して変わらないモンスターが時折POPするものの、適当に排除しながら俺は目的地を目指した。

 

「邪魔だ、雑魚が――――!」

 

などと口走りながら、 《ソニック・リープ》 を繰り出すものの、やはり孤独は感じてしまう。

 

おそらく現在この第二層に生きるプレイヤーは数人――

 

俺は一度でも致命的なミスを犯せば、誰の目に止まることも無く簡単に死ぬことになるだろう。

 

「……どうせ、死ぬ」

 

先刻のボス戦が脳裏を過ぎった。

 

死ぬどころか……これから先、いくつ命があっても足りない。

 

思い返せばベータテスト中、俺は何度も死んだ――その経験が現在まで俺を生かし続けている。

 

「馬鹿に言っても……なあ」

 

ディアベルは間違いなく元テスターだった。

 

それが、あのザマだ――当然あの結果はあいつの落ち度。

 

しかし、それは俺もキリトもアルゴも同じだろう。

 

このまま攻略を進めれば、いつか同様の局面は訪れるはずだ。

 

誰もが生きたいと望んでいる――だが、誰かが傷つき、死を覚悟しない限り、生きる望みは失われる。

 

――最低最悪の法則だ。あの野郎。

 

 

 

 

大きく息を吸い込んで、空の代わりの天井を見上げると一気に吐き出す。

 

「うわあああ――茅場、見てんのか、てめえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よおっ、久しぶり!! オマエもウルバスから出稼ぎに来たのか!? よしっ、一緒に頑張ろうな!!」

 

……それは、全く変わっていなかった。

 

俺を幼馴染と勘違いしているNPCの巨漢のおにーさんは、満面の笑みで肩をバシバシ叩くと頑丈そうなツルハシを手渡す。

 

「…………はい、頑張ります。」

 

それから間もなく……懐かしい、苦行のようなクエストが始まった。

 

「おりゃあっ!」

 

俺は無心でツルハシを岩盤に叩き込む。

 

「砕け散りやがれ!」

 

ただひたすらツルハシを振り下ろす。

 

「労働、最高!」

 

心を殺してツルハシを……

 

「…………」

 

ツルハシ…………

 

 

 

 

三日目の深夜――

 

「もう、死にたい……」

 

汗臭く、異様にむさくるしい男達の間で、俺はひっそりと静かに枕を濡らした。

 

寂しいのでアルゴにメッセージ――

 

【バカだナー】

 

……それだけだった。殺意をおぼえた。

 

 

 

 

早朝、ようやく苦行の末に掘り起こした指定アイテム 《牛角石》 を、相変わらずいつでも険しい表情を見せ続ける親方に手渡すと、 「良くやった」 の一言。

 

感動してちょっと泣きそうになる。

 

だが、親方のクエスト中の考え無しな言動に、まじでむかついていたわけだから、ツルハシでがつんと叩き殺そうか――

 

なんて思ったのも事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにが、何が起こった……」

 

先日命を賭けて共に戦った仲間が――狂ったような格好で揉め事を覗き見していた。

 

……どうした。誰かに騙されたのか? いや、あれが姫のセンス……違うな。元々持っていた感性が発露したとか……全く分からん。

 

その時、俺の脇をすたすたと横切るアスナらしきレイピアと赤ケープの女性。

 

――おい、無視すんなよ、こら。

 

とはいえ、所詮これはゲーム。

 

お互い都合の良い関係――利用したり、されたりする関係が心地よい。

 

俺は溜息を残して、踵を返した。

 

 

 

 

(終わり)




思いつきです。ごめんなさい。

ミトさんを正気に戻す為の方法として、最も手っ取り早い気がしたのです。

……すいません。


では、次回もお願い致します。
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