ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
いよいよ序章と言う名の日常編が終わります。
今回も新キャラが3人ほど出てきますが、この先関わってくる人物ですので、なんとなくこんなキャラいたな〜くらいな感覚で覚えてもらえると嬉しいです。
それではどうぞ。
第10話 神は才能を2つはくれない
ある日の放課後。帰り道である人物に捕まった。その子は唐突に現れ、眩しい程の笑顔を浮かべてこう言ったのだ。
「夕! 久しぶりね!」
名前は
「久しぶりだな。楽しいこと探しは捗ってるか?」
「もちろん! 夕も一緒にどうかしら」
「そう…だな」
たまには会いに行くとするか。あの人に。
1人歩いていくこころの背中を追いかける。
「
「最近見てないわ」
ということは。また研究室に篭っているんだろうな。今度はいったい何を発明しようとしているんだか……。出会った時はエンジンを小型化して空を飛ぼうとしてたな。発明バカと言っても差し支えないだろう。
「夕様お久しぶりですね」
「急に後ろに気配なく現れないでくれます?」
弦巻家は早乙女家と並ぶ財閥。そうともなれば執事やボディーガードくらい普通に居る。なんだったら家にメイドも居るな。
そして俺の背後に音、気配なく現れたのはこころの執事─
「今日、明日はバイトがないようなのでこころ様を差し向けてみました」
「サラッと人のスケジュール把握しないでください」
同じように気配なく現れたのはさっきの黒服のリーダー─
「お元気そうでなによりです」
「まぁ……以前よりかはって感じですよ」
「真希那さんも相変わらず無理難題を処理ですか?」
「いえ。こころ様のおっしゃることは無理難題などでは。全て容易いことです」
その日に海外行きたいなんて無理難題を解決出来るほど世の中都合よく出来てない気がするんだが……。
そんな都合の良い世界を鋼太さんが受け入れるはずもないか。全て思い通りにいくのなら、それほどつまらない人生はないなんて言う人だからな。
「雅仁さんはなんで居るんですか?」
「今日は用事がないので付きまとっています」
「それはそれでどうかと思いますけど……」
「今日だけで写真50程撮りました」
「お兄さま! 仕事中に……私は70枚ほどです」
注意するのかと思ったら写真の話始めたんだが? しかも50枚とかどんだけ撮るんだよ。毎日見れるんだからそんなに撮らなくても……な?
「今日は寄り道して帰りましょう!」
「寄り道もいいけど、今日は鋼太さんに会いたいから、まっすぐ帰らないか?」
「そうね……兄さんの顔も見てみたいわね」
こころの寄り道はだんだん寄り道のレベルじゃなくなるからな。こうして軌道修正してやらないとめんどうごとになる。
ちなみに後ろに居た2人は一瞬でどこかに去った。隠れて見守るのが仕事らしいからな。見守る……ね。さっき散々写真の話してたような。
何回か帰り道から脱線しかけたが、なんとか弦巻家にたどり着いた。大豪邸という言葉がこれほどまでに似合う家はそうないだろう。
勝手に開く門をくぐって敷地内に入る。ここらから玄関までが長い。もういっそのことゴルフ場とか走るやつ用意した方がいいのでは? と思う。まぁ車も入れるからその方が早いか。
なんて考えながらふと空を見上げて立ち止まった。
そこには鳥と呼ぶには大きくて、飛行機というには小さすぎるものが浮いていた。俺の目が腐っていなければおそらく"人が"飛んでいるのだろう。
いつから人は飛ぶことが出来たのだろうか。空から落ちることは出来ても飛ぶことは……な。
「久しぶりだなー!」
いや全く聞こえないんだが……。おそらくあれが今日会いにきた人物だろうな。いつか空を飛ぶ発明をするとは言っていたが、本当に完成させるとは、思いもしなかった。
降りてくるまでに紹介しておこう。あの人は
鋼太さんとは母さんが亡くなった後に出会った。自分を見失った俺にたくさんのことを見せて、教えてくれたいわば恩人。たくさん鋼太さんの言葉は覚えているが、特に印象に残っているのは。
『神は才能を2つはくれない。俺は1つのことを突き詰めても飽きない才能しか持ち合わせてない』
俺には。なんの才能があるのだろうか。
「よっと……待たせて悪いな」
背中にエンジンのようなものを背負った鋼太さんがようやく降りてきた。
「元気そうでなにより」
「鋼太さんも相わらずですね。とうとう飛べるものを作って」
「いやーそれがまだまだでさ。これ以上小型化すると出力安定しないし、課題だらけだよ」
それ以上小型化してどうするんですか……。浮いているように見せたいとかそんなところだろうか。そうなったらもはや革命だよな。
「積もる話もあるだろうし。中に入るか」
「そうですね」
「……雰囲気変わったな、夕」
そう笑顔を浮かべて言う鋼太さん。
少なくとも変われたのは。
「鋼太さんのおかげですよ」
「俺はただいろんなもん見せてやっただけさ」
それが今の俺を作ったんですよ。どうしようもなく、やる気のない旭日夕という人間を。少しばかり考えるようにしてくれたのは。
鋼太さんと過ごした日のことはその時が来たら話そう。
鋼太さんと話をした次の日。
今日も1日頑張った。6時間中、3時間も起きていたな。数学、現代国語、体育、美術、HR、化学。ん? 体育はノーカン? そんなの知るか。起きていたら起きていたに入るんだ。
昨日に引き続き今日もバイトはない。どこかに行こうとも思ったが、あいにく雨が降りそうだったからな。しばらく学校で智樹に捕まり、アップに付き合わされていた。帰宅部にやらせることじゃない。
そうしたら雨が降ってきてしまったというな。幸いぐーたらで怠惰な性格がここぞとばかりに発揮した。なんと教室のベランダにある、傘置き場に旭日と書いてある傘があるではないか。
紗夜に怒られそうな展開だが、今回ばかりは助かった。きっと許してくれるだろう。根拠はない。
忘れ物というのもたまには役に立つものだ。
商店街を抜けて歩いていると前から見知った人物が2人。平行に走ってくるのが見えた。傘を差さずに、なにやら荷物を抱えているようだ。
「夕先輩?!」
「いったいどういう状況だ?」
2人の後を小走りで追いかける。ついでに傘を差してあげた。
「ギターケース落としちゃって……それで」
「楽器店に運んでるんです」
「なるほどな。江戸川楽器店まであともう少しだ。頑張れ」
ここまで傘を差さずによくきたもんだ。よっぽど焦っていだんだろうな。ケース落をとしてしまって。おそらくよっぽどケースがポンコツじゃない限り、ギター本体は大丈夫だろうが。見てみないとわからないか。
走ること数分。江戸川楽器店にたどり着いた俺たちは、早速中に入った。ここは知り合いが2人バイトをしている。その1人が居るようだ。ぬいぐるみで遊んでいる店員さんが。
「いらっしゃー」
「こんにちは。リィ先輩」
「旭日君?」
グリグリのリィ先輩。いつもひな先輩から俺を守ってくれるとてもとても優しい先輩だ。
「はぁ……はぁ。落としちゃって……修理お願い出来ますか?」
香澄がそう言うと俺達の前に来てリィ先輩は言った。両手を腰に当てて堂々と。
「任せてー!」
頼りになりそうな予感。
「店長ー」
そうでもなかった。まぁそうだよな……なんとなくわかってたさ。
テーブルに向き合うように座る2人。俺は香澄の後ろに立って、タオルで髪やら服を拭いている。
修理する間になんと優しいリィ先輩は俺、香澄、市ヶ谷さんにタオルを貸してくれた。2人と比べれば、さほど濡れていないがありがたい。
なんだか2人の間には重い空気が流れているようだ。
「ごめん……」
すると香澄が謝った。だいぶ落ち込んでる様子で。ということはギターケースを落としたのは香澄ってことか。
「大丈夫でしょ」
そう市ヶ谷さんが言うと1人泣き始める。なぜそこまで責任を感じているんだろうか。持ち主が怒っている様子はないし。というかさっきからずっとスマホいじってばっかりだな。
「泣くな香澄。まだ治らないって決まったわけじゃないだろ?」
頭を撫でると、「はい……」と言って涙を拭う。ここまで弱っている様子の香澄を見るのは初めてかもしれない。いつもはワイワイしてる奴だからな。
「そんな高い位置から落としたのか?」
「いえ。そこまで高くはなかったです」
「……弦が切れちゃった…」
「なら、ヘッドが折れてなきゃ大丈夫だ」
「そうなんですか?!」
勢いよく今度は立ち上がって後ろに振り返った。忙しい奴だ。泣いたり驚いたり。ギターが戻ってきたら次は喜ぶんだろう。まぁ忙しい奴だが、この裏表がない感じが香澄のいいところだな。
するとギターの修理が終わり、リィ先輩と店長さんが戻ってきた。
「おまたせー」
「はっ……!」
修理に出した赤いギター。確か名前はランダムスターだったか….…? それは綺麗に直っていた。
「完璧」
すると香澄は立ち上がり泣きながらヨタヨタとギターに近づいていった。我が子が帰ってきたのかのように。
「良かった~! 良かった~! ごめんね! ごめんね~!」
なぜここまでそのギターに執着しているのかがわからない。ランダムスターがよっぽど好きなんだろうという答えにしか辿りつかないんだが?
実際そうなのだろう。持ち主ではないのに。
「ネッグ反ってたから直しておいたよー。ケースはもうダメ」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
ネッグも反ってたんだな。まぁケースの具合からしてもうダメなのは明白だった。取手が取れていたのを見ると、だいぶ傷んでいたのか。
「いくらですか?」
「基本調整、学割で3000円」
指を3本立ててそう言うリィ先輩。そしてこういう場合誰が払うのが正解なんだろうか。
「私払うよ!」
「金は大丈夫なのか?」
「大丈夫です!」
結局香澄が全額支払った。なかったら俺が立て替えておこうと思ったのだが、この場はキチンと払えたようだ。
いきなり来たのにしっかり対応してくれたし、やはりこのお店はいいな。紗夜も道具を買いに来ているところだし。
江戸川楽器店をあとにした俺達は夕焼け空の下を市ヶ谷家に向かって歩いていた。外はすでに雨がやんでいて、そこら辺に水たまりが出来ていた。夕日が反射してなかなか綺麗な光景が視界に映る。
ランダムスターは香澄が大事に両手で持ち運び、俺は壊れたギターケースを市ヶ谷の代わりに持っている。
「良かった~」
本当に嬉しそうだな。香澄は。
それにしてもランダムスターって結構レアなやつじゃなかったか? バイト先の雑誌を適当に読んでいた時に見た気がする。何10万って価格で取引されるはず。これはさっきの楽器店でバイトをしている同級生の話がソースだ。
なんて考えているとふと市ヶ谷さんが口を開いた。
「……持って帰れば?」
「え?」
「出品取り下げたから」
出品って……もともと売るつもりだったのか? それをわかっていても払ったんだな、香澄は。壊した責任。ではないんだろうな。
「なんで?」
「大事にする?」
「する!」
香澄の言葉に返事ではなく、逆に聞き返す市ヶ谷さんだが。香澄は笑顔で答えた。きっと大事にしてくれるだろう。そう思ったのか。
「よし。540円」
「え?」
「オクーの取り下げ手数料。30万はおまけしといてやる」
「うん!」
……30万? 高校生の口からとんでもない数字が聞こえてきたんだが? 実際聞くととんでもないな。ランダムスター。
そして香澄は元気良く答えたものの……。
「あと300円しかない……」
さっき3000円のが響いてるんだろう。お小遣い制の家では大変厳しい値段だからな。3000円って。
「やっぱ売る!」
「ダメ~!」
売るとは言ったものの、笑顔を浮かべているあたり本気ではないだろう。……なんだろうな。2人を昔の紗夜と日菜に重ねてしまう。
そんな2人の様子を見ていると、後ろに振り返った香澄と目が合う。
「夕先輩なんだか嬉しそう」
「香澄もちゃんと友達作れるんだなって思ってな」
「母親が我が子を見るような目、してますよ? 先輩」
「実際そうなのかもな」
俺はそう言うと財布をカバンから取り出した。小銭を漁りちょうど540円を見つけ、市ヶ谷さんに差し出す。
「取り下げ料」
「いえ、そんな! 先輩からはもらえません」
「なら香澄の代わりに立て替える。今度返してもらえば構わないし」
それでも頑なに受け取ろうとしない。お、これはもしかすると、デレという部分を見られる瞬間なのか? そんなことを考えていると。
「ご…540円くらい……どうってことないんで、大丈夫です」
「そうか? ならいいんだが」
なんか無理矢理黙らせたみたいで悪いな。別にそういった意図があったわけじゃないんだが。君は…優しいんだな。
「じゃあ今度何かお土産持ってくる」
「わーい!」
「香澄には初心者でも出来るギターの教科者な」
「えー?! 食べ物じゃないんですかー?!」
なんですぐ食べ物に行き着くんだこいつは……。餌付けし過ぎたか? 今思えば智紀と涼子の3人で出かけた時は俺たちがお金出してたからな。昼飯とかおやつとか。
というか教科書の方が絶対いいだろ。教える人誰も居ないんだから。
しばらく歩き市ヶ谷さん家の蔵に着いた。中に入ると市ヶ谷さんのおばあちゃんが片付いた中の様子を見ていた。以前来た時に帰る前に挨拶だけしたから一応顔見知りだ。
それにしても……前と比べるとかなりスッキリした様子。2人で頑張ったんだな。結構な量あったろうに。
「ばあちゃん……」
「綺麗になったね~。約束通りここは有咲の部屋にして」
市ヶ谷さんのおばあちゃんは「はい」と言って鍵を渡した。次は入り口から見て、右の床が一部だけ色が違う所に移動してフタを持ち上げる。
「え?」
上におばあちゃんを残して、下に降りると地下室の割には綺麗な部屋が広がっていた。右側にテーブルがあって、緑色のソファーもある。以前も使っていたのだろうか。
「ええっと」
階段を降りてすぐのところにある機材の前に市ヶ谷さんはしゃがみこんだ。これはスピーカーだな。しかも年代ものっぽそう。後で写真撮らせてもらえるか交渉するか。
すると今度はシールドを香澄に「刺して」と言って渡す。それをランダムスターのボディの下の方に刺しこんだ。
市ヶ谷さんが頷くとボタンを押してOFFからONに切り替えた。香澄は少し緊張した様子でゆっくり弦に触れて弾く。
いつも聞くギターの音が部屋に響いた。そんな事よりもちゃんと音がなったことにビックリしているんだろうか。
「凄い……。凄い! 凄い! 凄い!」
「はいはい」
「凄い! 鳴った!」
まるで話を聞く気もなく同じ感想をひたすら話す。こういう時の香澄はなかなか話を聞いてくれないが、とても楽しそうで、嬉しそうだ。
「香澄!」
名前を呼ばれると一旦話すのを止め、市ヶ谷さんの方を見た。俺は構わず機材を眺める。おそらく市ヶ谷さんの顔は赤くなっていることだろう。
「こ、ここで練習すれば?」
「え?」
「ただし! …ご、ご飯……」
「え?」
「い、嫌ならいいけど!」
すると香澄は嬉しそうに市ヶ谷さんに飛びついた。ホント、人によく抱きつくよな。中学生の頃からなんら変わりない姿に呆れ半分、安心半分ってところか。香澄はどこに居ても香澄のようだ。
「市ヶ谷さん。これからもどうしようもないくらいのバカ一直線の奴をよろしくな」
「夕先輩ひどい!」
「褒めてるんだよ」
その誰に対しても変わらず接するところは戸山香澄という人間を表していると言ってもいい。どこまでも真っ直ぐで。迷いがない。
だからこそ。あまり楽しくなかった中学が楽しく思えることが出来たんだろう。
そんなことを考えながら2人を眺める。俺の視線は香澄の持つ赤いギターに向いていた。帰ったらメンテナンスしないとな。
「そうだ! 夕先輩ってギター弾けますか?」
「……弾けない」
「そうですかー。残念」
平気な顔をして嘘を吐いた。酷いことだとはわかっていても。取り繕う気にもならない。
本当はたまに……弾いているのに。それを言えない理由が俺を縛りつける。
よくよく考えたら今回もヒロイン不在笑
早く話を進めてデレた紗夜さんも書きたいな〜と思う一方、たまに見せるデレもいいなと思ってしまう。どちらも捨てがたい……。
実はギターを弾ける主人公。これは後々大事になってきます。ちなみに知っているのは紗夜さんと主人公の家族だけです。
次回はいよいよRoseliaのバンドストーリー前半開始。といきたいところでしたが、主人公の補足も含めて第0話を投稿します。
高評価、お気に入り登録してくださった方ありがとうございます!
作者の趣味全開な作品ですが、気に入ってくれる方が居るのなら嬉しい限りです。
それでは。