ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
すいません。今回はドラム担当の話ではなくあのSPACEで起きたキラキラ星事件の話でした。果たして主人公はどのようにして関わっていくのか……。
それではどうぞ。
第14話 SPACE
次の日。ライブハウスSPACEに向かう道中。
今日はグリグリのライブの日だ。ということでバイトは休み。毎回来てと言ってくれているんだ。行かないという選択肢はない。
修学旅行から帰ってきてすぐにライブとは。ゆりさんもすごいことをする。俺はそんなこと出来ないな。
せっかくグリグリのライブだと言うのに天気は雨。傘を持っていかないといけないから少々めんどくさい。少し遠いしバイクで行くって手もあるんだが、雨の日は出来るだけ乗らないようにしている。危ないし。
ライブが始まるのは17時ごろ。1時間前に来ていれば間違いない。うっかり昼寝して遅れるという可能性がなきにしもあらずだし。
SPACEまでの道のりを歩き、ようやくたどり着いた。すると。
「あれ? 夕先輩?!」
「香澄と市ヶ谷さんか。2人もライブ見にきたのか?」
「はい! グリグリを見に来ました!」
「私は香澄の付き添いです」
すっかり仲良しになったな。いろいろ苦労はしているだろうけど……。まぁその分香澄と居ると飽きないっていうのだけは利点だからな。いい意味でも、悪い意味でも。
3人で中には入ると、受付にはオーナーが座っていた。
「こんにちは。オーナー」
「夕かい。久しぶりだね」
「はい。相変わらずお元気そうで」
「どういう意味だい?」
そのまんまの意味なんだが。別に年寄り扱いではない。
ここにオーナーが居るということはスタジオには璃々子さんと他のスタッフさんが居るんだろうな。
「こんにちは。ライブ見に来ました。高校生です」
「1人600円」
「この前もらったんですけど」
なぜか香澄の話はスルー。まぁ以前のチケットはな。
「ドリンクチケット。あっちで好きなもの頼みな」
「えっ?!」
「前の使わなかったんですけど」
「残念だけど当日限りだ」
そういうことだ。ライブハウスとか、ライブで買えるドリンク代って結構高いイメージだよな。某なんとかランドとかなんとかスタジオの中で買えるものも同じくらいか。あとは登山出来る山にある自販機とか。
「夕、教育がなってないんじゃないかい?」
「これがこの2人の持ち味なので。多めに見てください」
「……そうかい」
いつもならもっと言ってくるのに。珍しいこともあるもんだ。
受付を後にした俺たちは一旦空いているテーブルの方へと向かった。ふと市ヶ谷さんに視線を向けると、なんだか申し訳なさそうな感じを出していた。
「気にするな。ああは言ってるが、優しい人だから」
「本当ですか……?」
「注意受けるのも先輩の役目だからな」
知り合ってあまり時間が経ってるわけじゃないのに、後輩扱いするのは少しまずかっただろうか。学校は違えど、香澄の友達だしいいかと思ったんだが。
それぞれ飲み物を買って、テーブルに着くやいなや、香澄がカバンをあさりペンライトを2つ取り出した。ライブには大事なものだな。
「じゃーん! 待ってきた?」
「振らないし」
「えー? 貸そっか?」
そんな話をしていると。
「「お?」」
スタジオの方からギターの音と「ギターOKです」という言葉が聞こえてきた。ライブ前の最終チェックだろうな。当然だがバンドによって変わってくるからしっかりメモしておかないと詰む。
「チェックか」
「いえーい!」
「はえーよ」
適切かつ迅速な市ヶ谷さんのツッコミ。慣れていると見るしかないな。これは。普段もこんな感じなんだろう……きっと。
2人が会話しているのをよそに各バンドのチェックの音を聞いていると、なかなかゆり先輩たちの番が来ないことに気づいた。確かもう帰ってきているはずだと思ったんだが。
結局ゆり先輩たちのチェックはなく、ライブが始まってしまった。俺はここのスタッフじゃないし、どうすること出来ない。信じて待つことくらい……か。
「ありがとうー!」
「いえーい!!」
気づけばあっというまにグリグリの出番まで回ってきてしまった。ライブというのは早いものだな。
「いえーい!」
「はいはい」
「いえーい」
「先輩、そんなキャラでしたっけ……?」
「ライブだからな」
いつもの舞台袖から見る癖でな。つい楽しむということを忘れてしまう。もうすぐ終わる頃か。次のバンドの準備は出来てるかなんて気にしてしまう。
それにな。他に気になることがたくさんある。
「りみりんどうしたんだろうね。次グリグリだよ?」
「姉ちゃんのところにでも居んじゃねぇの?」
「うーん」
さっきからというか。ここに来てからりみの姿を見ていない。たぶん楽屋にでも居るんだと思うけど、ずっと居るという点に引っかかる。もしかすると……。
「あれ?」
「違くね?」
どうやら嫌な予感が当たってしまったようだ。
「マジ?!」
さっきまで出演していたバンドの人たちだろう。話を聞くなり「すみません!」と言いながらライブ会場を後にした。たぶんというか、グリグリが来ていない。いや……なんらかの理由で遅れているんだろう。忘れているなんてことは絶対ないだろうし。
すると香澄もライブ会場を出て行ってしまう。
「ちょっ香澄?!」
「全く……」
仕方なく俺と市ヶ谷さんも香澄の後を追いかけた。
「出来るだけ引っ張ってもらえる?」
「わかりました。やってみます!」
楽屋の方へと来た俺たち。やけに忙しなくスタッフと出演者が動いているのがわかる。
入り口付近で心配そうな表情を浮かべるりみの姿があった。
「りみりん!」
「あっ、香澄ちゃん。お姉ちゃんたち、まだ来てなくて……」
「えっ?」
だからこんなに忙しなく動いてるわけか。グリグリが来るまでの時間稼ぎ。一度出たバンドが出て来ればお客さんに不審感が出てくるところだが、そこは出演者がなんとかしてくれるだろう。
「昨日まで修学旅行で、台風で飛行機遅れてこっち向かってるけど、ライブにはもう!」
「来るまで待つのは?」
「いや、それは……」
そんなことをあの人が許すわけがない。おそらく時間を引っ張ることさえ完全に納得はしていなさそうだし。
「ダメ! なにがあろうとお客さんを待たせるのはダメ。穴を開けたら二度とうちの敷居は跨がせないよ」
確かにライブハウスはバンドの為にも存在する。でもやっぱり聴きに来てくれるお客さんが1番大事なんだ。出演者が居ないと話にならないが、結局来てくれるお客さんが居ないともっと話にならない。
「出来るだけ時間、伸ばしてみるから」
りみの肩を叩きながら出演者の人が言うと、舞台の方へと向かっていった。その返答にくらい返事を返すが、それも仕方ないことだろう。さっきあんなことを言われたんだからな。
「やばくね?」
「やばいな。でも、どうすることも出来ない」
時間がだけがどんどん過ぎていく。1バンドの演奏がまた1つ。確実に終わっていく。流石に何度も出るということは出来ない。時間稼ぎも限度があるだろうし。
邪魔にならないようはじの方で壁に寄りかかって様子を浮かべていると、ちょうど見知ったスタッフの人が入ってきた。
「旭日君?! 来てたんだ?」
「はい。こんな状況で申し訳ないです」
「ううん。……間に合うかわからないけど、頑張るから待ってて」
結局間に合うことを祈るしか。今は出来ないか。
結果から言うと、間に合わなかった。時間稼ぎも限界だったしな。
「ほーら片付け!」
「マジなんなの?」
「邪魔」
悔しい気持ちはわかる。でもそれが現実なんだ。まぁもう少し出来たこともあるだろうけど、今の立場を考えるとな。どうしようもない。
ギターが弾ければ……舞台に飛び出して行くことが。出来たんだろうか。
そんなことを考えていると、香澄がじっと舞台を見ているのに気づいた。
「香澄。バカなことは……」
そこまで言ったところで言葉を止めてしまった。
なぜ止めなかったんだろう。少しでも時間を稼げればという到底叶うはずもない賭けに縋りたかったのか。それとも……こんな状況でもどうにかしたいという香澄の思いを邪魔したくなかったのか。
違う……香澄は今。俺が出来ないことをしようとしているんだ。それを止めたくなかった。
余程緊張しているんだろう。手と足が同時に出てしまう程。それでも確実に一歩。また一歩と、歩みを進めていく。
そして───舞台に出てしまった。その姿を静かに舞台袖から見守る。いったい何をするのかと思えば、小さな声でキラキラ星を歌い始めた。
だがお客さんは香澄に釘付けだ。
「ちょっと……! なにやってんだよ! 先輩も止めてください!」
「無理だ。ああなったら止められない」
一度これだと思ったら、どこまでも。潔いいくらいに真っ直ぐ突き進むからな。
すると香澄は歌いながらステージにあった何かを取って舞台袖にやってくる。迷いなく市ヶ谷さんの手に何かを持たせてから引っ張っていった。
「はぁ? カスタネッ….…おわっ?! 先輩助け──」
「頑張れ、市ヶ谷さん。君なら出来る」
どうやらカスタネットらしい。
舞台に立つというのは緊張してしまうものだ。お客さんに見られて固まってしまった。それでも香澄は歌い続ける。その精神力は凄まじい。
「なぜ…止めないんですか?」
「それはこっちのセリフだ。あんたこそ、なぜ止めなかったんだい? わかっていただろう?」
オーナーにはバレていたか。
「俺は……賭けてみたかったんです。香澄の行動で未来が変わるところに」
「変わったね。まるで陽子みたいだ」
「それはどういう……」
前に母さんは言ったらしい。
『じゃあ遅れてるバンドが来るまで、私たちがお客さんを楽しませます。いつ来るんだろう……なんて思う暇がないくらいに!』
昔から。そういうところは変わらないらしい。
香澄たちの頑張りは本当に素晴らしいものだと思う。だが、時間稼ぎにはやはり限度はつきもの。必ず終わりが来てしまう。しかし、今度はまた別の人が舞台へと足を踏み入れた。
あれだけ緊張や失敗を怖がっていたのに。感化されてなのか……りみがいつの間にか持ってたベースと共に。
「オーナー、これ以上は……」
今自分が出来ることは。
「止めないでください。これは……あの3人がいろんな思いを背負って選んだ道なんです。責任は俺が取ります。呼び込みでも、手伝いでも……バイト代なんてどうでいいです。だからあの3人を……止めないであげてください」
深々と頭を下げてながら言葉を並べる。諦めなければきっと……。
3度目のキラキラ星の演奏が終わり、4度目に入ろうとした直後。
「お待たせー!」
香澄たちの行動は無駄にならなかった。本当にギリギリだったが、間に合ったようだ。
楽屋
ライブ後。無事成功とは言い難いものの。お客さんは満足してくれたようで。まぁ結果的にはOKということだな。あくまで結果的だが。
「みなさん、本当にごめんなさい……!」
「私達も勝手にステージに上がって……ごめんなさい!」
どちらも申し訳なさそうな表情を浮かべて謝る。信じたのは俺だが、もう少し反省してくれ、香澄よ。
「オーナー、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。あの、私達……」
穴を開けかけたのだから当然だろう。
「……客が満足して帰ったならそれでいい。けど、次はないよ。気をつけな」
「オーナー……!」
どうやら許してくれるようだ。だが崖っぷちなのは変わりないか。今回はイレギュラーだったから。なんて言ってもダメだろうな。修学旅行後、沖縄という点を考えたら出ないという選択肢もあったし。
「ゆりさん達、許してもらえてよかったね!」
「うん……」
喜んでいるのも束の間。香澄たちの元にスタッフが歩みよる。
「ちょっとあなた達、もう二度とあんなことしちゃダメだよ!」
「わあ! ご、ごめんなさい!」
「結果的にグリグリのステージができて、お客さんが喜んでくれたからよかったけど、ダメなものはダメ! わかった?!」
怒られて当然なんだが……止めなかった俺も同罪だろう。だからこのことに関しては注意が出来ん。さて、どうしたものか……。
「は、はい! もうしません!」
「あと、旭日君にちゃんとお礼言うんだよ? 止めないでくれって庇ってくれたんだから」
「えっ? そうなんですか?」
「余計なこと言わないでくださいよ……」
「えー? かっこよかったよ」
あの時出来ることはそれくらいだったからな。楽器が演奏出来るわけでも、舞台の上に立つことが出来たわけでもない。今回は上手くいい方後に繋がってくれたからよかった。
香澄、市ヶ谷さん、りみの3人は楽屋の外へと出した。これからお説教タイムだろうな。
「間に合わなかったらどうする気だったんだい?」
意外にもお説教っていう感じではなかった。
「そうですね……さっきも言いましたけど、また働きますよ?」
「そんなのごめんだね。……次はないよ。しっかり言い聞かせておきな」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げながらお礼を言う。次はない……俺も出禁寸前ってわけか。
SPACEを後にした俺たち4人。雨はすっかりあがり、雲の間から星が見える。今日はヒヤヒヤする1日だったな。
「よぉーし! 次は文化祭だー!」
「はぁぁー?!」
今回のことでより一層バンド活動をしたくなったのだろう。昔から事あるごとにこうやって大きな声を出していたな。香澄は。
きっとこの先。まだまだ苦労する部分はたくさんあるだろう。けど……負けずに頑張ってほしいもんだ。
今回もメインヒロイン不在ということです笑
そして着々とポピパが動き始めていますね。主人公は相変わらず巻き込まれていますが笑
今度こそ次回はドラム担当の話です。
今回キャラクター紹介を更新しておきました。
主に主人公のみですが、私服や制服の着方等が記載されています。
今回もお気に入り登録等ありがとうございます!
それではまた次回。