ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
今回も例のごとく投稿できませんでした。
リアルが忙しいとなかなか……。
さて、今回はタイトル通りの話です。
それではどうぞ。
第16話 セッション
ということで、俺の目の前にはかなり怒ってる紗夜が居る。いつも以上に冷たい目。俺の能力に痛い視線への耐性はない。つまりゲームとかならガンガン体力を削られているわけだ。
湊たちよりも早くライブハウスに着いて入るなり、俺に向けられた冷たい視線は凍りつくようだった。確かに連絡しないこと嫌うのをわかっててしなかったのは俺の落ち度だ。
ただ今回だけは目を瞑ってほしい。いろいろあったんだ……。
「弁解の余地は?」
「あると思う?」
「厳しいな」
薄々気づいてはいたさ。でも、慈悲というのもあるだろ? いやむしろあってくれ。ないと死んでしまう。それに早く着替えないとバイトが……。
「少し遅れるの一言くらいあってもいいと思うのだけれど」
「それは……そうだな。だが人と話してる時にスマホを見る奴が居るか?」
「湊さんに断りを入れてからでも出来る。そう思うのは私だけかしら?」
グーの音も出ない……まさにその通りだ。だがあそこで紗夜にメールを返すからいいか? とも言いづらい……。どちらにせよ詰みだ。
「もう少しすればわかる。とりあえず説教なら帰ってからいくらでも受けるから今は勘弁してくれ」
「……わかったわ。湊さんは?」
わかっちゃうんだな。
「今日は湊さん御一行だ」
ふと後ろに振り返るとちょうど湊、今井、あこの3人がライブハウスへと入ってきた。入るなり1人だけテンションが上がってるのが居るな。
「懐かしいなぁ〜。このスタジオーって感じの空気。最後に入ったの中2の夏休みだっけ?」
「中1よ。忘れたの? 中2の時は、海にばかり行ってたじゃない」
海か……あまりいい思い出はないな。俺もよく日菜に連れられて行った記憶があるが、特に楽しい思い出はない。暑いし濡れるしでいい事ないだろ。
「えっ。海って友希那さんも行ったんですか? ま、まさかビーチでライブしたり……? 超カッコイイ……」
「そんなわけあるか」
「私は行ってない」
行ってないんかい。というツッコミをグッと堪えて口をつぐむ。ここ最近ツッコミをしたくてたまらない時があるんだが?
「湊さん、この人たちは?」
会話が終わると同時に紗夜が疑問をぶつけてくる。まぁ疑問の1つや2つ持つのもおかしくはない。だって一気に人が増えすぎだしな。
「あ、あいさつ遅れちゃってごめんね! アタシ今井リサ。友希那の幼なじみで、今日は見学に来ましたっ♪」
普通な感じの自己紹介を済ませる今井。そんな自己紹介俺にはなかった気がするんだが?
「宇田川あこですっ! 今日はドラムのオーディションをしてもらいに来ましたっ!」
「オーディション?」
紗夜の視線が俺に向むいた。とりあえず俺の意思ではないことを示すために首を左右に振る。
「ごめんなさい、リサが……あ、いいえ。私がその……彼女のテストを許したの」
「ということは……実力のある方なんですよね?」
少し威圧的な紗夜の態度にあこの生唾を飲み込む音がすぐ後ろでも聞こえた。ハードルが上がったわけだから当然だろう。ここで緊張しても仕方ない。
そっと肩を叩いて小さい声であこに言った。
「落ち着け。自信を持つんだ」
「はい……」
小さな返事が聞こえてきた。実力さえあればこのオーディションは通る。
「努力はしているらしいわ。勝手に練習時間を使ってごめんさない。5分で終わらせるから」
「いえ。湊さんの選出なら、私は構いません。……ただ少し……意外です」
俺だった場合はダメなわけかと思っていると、紗夜が一瞬口ごもった。
「あなたはどんな形であれ、音楽に私情を持ち込まない人だと思っていたから」
「その価値観はあなたと合致しているつもりよ。実力がなければ2人とも帰ってもらうから」
ん? 2人? まさか俺も入ってたりするのか? 手伝いの素質見る的な?
「はいっ、わかってますっ!」
「えっ、アタシも?」
あー、今井の方か。自分で言っててあれだが、手伝いの素質ってなんだ。
今井の場合は驚いても仕方のないことだ。一瞬やる気ないならお前もだぞ? みたいな表情をされた気がするが気のせいだろう。
「見学は終わり。紗夜の顔ならもう見たでしょ? ……リサ。昔、遊びで入ってた時とは違うの」
どこか申し訳なさそうに言う湊。幼なじみという関係からか、あまり今井に対して強めには言わない辺り気まずいんだろう。その気持ちは痛いほどわかる。
「……あっ。そ、そうだったね。あはは、ごめんごめん。その時はすぐ帰るって♪ なんかアタシ一瞬、昔に戻った気になっちゃったな〜」
寂しそうな表情を浮かべて話す今井。昔はこんな感じではなかったんだろう。もっと仲が良くてお互いを信頼してた感じで。
「リサ姉! あこ絶対、合格するように頑張るからっ!」
「ん。そうだね。よしっ、あこファイトっ!」
気合が入ったようで何よりだ。……このオーディションで決まる。このバンドの音楽性が。
話を済ませた俺たちはスタジオへとぞろぞろ入っていく。これはあこのオーディションだ。ドラムなどの準備は本人たちにやらせる。じゃあ俺はなにをするかって? 椅子を出してもろもろ準備を始める。
「旭日。いつものセッティングで頼めるかしら?」
「自分たちでやるんじゃなかったのか?」
「時間短縮よ。あなたの方が早い」
「……わかった」
手早くマイクとギター以外の調整をいつもと同じようにセッティングを始める。5分ってことは本当に1曲だけなんだろうな。
チラッとあこの様子を見ると手慣れた様子でドラムのセッティングをしていた。結構熱心な子だし、ある程度の実力があるなら普通に入れてもいいと思う。向上心ってのはやっぱり大事だ。
「出来ればベースも居ると、リズム隊として総合的な評価が出来るんだけど……」
「確かにな。他の所から連れてくるってわけにもいかない」
「そうね。こればかりは仕方ないわ。このまま……」
マイクのセッティングを終わらせ、ギターのセッティングをしながら話していると、意外な人物が名乗りを上げた。
「あ、あのさっ。アタシが弾いちゃダメかな?」
「リサ?」
「えっ、リサ姉ベーシストだったの?!」
マジか。ベースやってたとは意外だな。昔からギャルっぽくはなかったってことか? いや待て。今はそれどころの話じゃない。
この場で驚いているのは殆どの人だろう。あの湊も流石に驚いている。顔にはでてないのは俺と少しだけ意外って思っているであろう紗夜だけか。
「昔ちょっとやってたんだよね。誰もいないんでしょ? だったらアタシ弾くよ♪ 待ってて、ベース借りてくるから」
そう言うと今井はドアの方に向かって行った。本当にこの状況でやるとはな。メンタルが強いというかなんというか。今の周りのレベルに見合ってなければ浮くだけ。楽しみが1つ増えた。
俺は着替えるために事務所へと向かった。道中カタカタ震えていた真宗が居たのだが、大方俺に説教する紗夜を見て恐怖したんだろう。まぁ無理もない。俺も怖い。
ロビーの方を涼子と真宗に任せてスタジオに入る。少しすると借りてきたベースを持って今井が戻ってきた。戻ってくるなりセッティングを始めたから本当に最近までやっていたんだろうな。どうやるんだっけと止まるのはほんの一瞬。
「相当ビシバシ鍛えられてたんだな」
「まぁね〜。旭日君もでしょ?」
「俺は元から出来る」
「嘘〜。さすがだね」
それだけのために手伝いしてるようなもんだからな。SPACEでは頻繁にライブしてたからな。嫌でも覚える。覚えるまでが結構大変だったよ。オーナーの厳しいお言葉が飛んでくるしで。
「いいよ、準備オッケー☆」
考えごとをしているといつのまにか終わっていたようだ。とりあえず俺は湊たちから離れて椅子に座る。
この演奏は……録音しておくか。この先何かの役に立つかもしれないしな。
「湊さん。今井さんは経験者なんですか?」
「一応。譜面で一通り弾くことは、今でも出来ると思う」
「一通り……ね」
怪しい視線。ではなくその指で弾けるのか? という意味も込めた視線を今井に送る紗夜。ずいぶんこわーい視線を向けるものだ。背筋が凍るぞ。
「あっ、このネイル? 大丈夫、大丈夫! アタシ、指弾きはしないから」
察しがいいのか今井が反応した。
「ベースはスタジオの備品ですから、変な弾き方をして、楽器を痛めないでくださいね。私はあくまで宇田川さんのテストなら、問題はありません」
楽器が優先か。紗夜らしい。どんなに忙しくても自分のギターのメンテナンスは欠かしてないからな。忙しい時もいかに早く終わらせられるか工夫しながらやってからまず終わらないってことがない。
「壊したとしても旭日が居るから大丈夫よ」
「どう考えても大丈夫じゃないだろ」
全部俺に丸投げか。なんとか出来んでもないがめんどいからやめてくれ。怒られ役は慣れてるけども。
「それじゃ、いくわよ」
あこ。あとは全てを出し切るだけだぞ。悔いの残らないようにやりきるんだな。
曲が始まるのと同時に音の録音を開始した。最初はなんの変哲も無い始まり。むしろドラムとベースが居るお陰でいつもよりいい。
……おそらく本人たちが一番思っているだろう。いつもとはかなり違うことを。外から聴いている俺でさえその確かな違いに気づくのだから。
あれがしばらくやってない人間のベースの音だろうか。猛特訓をしてきたとはいえ初めてのセッションで出せる音なのだろうか。
見えない力に……引っ張られている?
この音はこの4人でなければ出せない音。
今心から思う。録音だけじなくて録画しておけばよかったと。
セッションが終わったが誰もすぐには言葉を発しなかった。無音に近い中、俺は録音を止めてさっきのセッションがちゃんと録れているかの確認作業に入る。
「あの……さっきからみんな、黙ってるけど……あこ……バンドに入れないんですか?」
悲しそうな表情を浮かべて言葉を並べるあこ。そういえば結果は言ってなかったな。
「そ…そうだったわね。ごめんなさい。いいわ、合格よ。紗夜、旭日の意見は?」
「問題ない」
「いえ。私も同意見です。ただ……」
その先の言葉を並べようとすると、急に叫び始める者が1人。
「いやったぁーーっ!!」
少し声が大きい。音が聞こえづらいじゃないか。
「それにしても、なんか、なんか、すごかった!!!! 初めて合わせたのに、勝手に体が動いて!!」
「アタシも……! あこもそう思ったんだ! なんか、なんかいい感じの演奏だったよねっ♪ ……てことは2人も?」
この感じはおそらく自分たちだけじゃないと察っしたのだろう。未だ不思議な感じの中に居る2人に話しかける今井。
「そうですね。夕、これは……」
「ああ。条件が揃わなければ出ないその瞬間だけの音……」
こんな身近に体験出来るとは思わなかった。しかも1回も合わせてないメンバーで出来たのが一番の驚いた部分だ。
「その場所、曲、楽器、機材、……メンバー。技術やコンディションではない、その時、その瞬間にしか揃い得ない条件下でだけ奏でられる『音』」
「バンドの……醍醐味とでも言うのかしら。ミュージシャンの誰もが体験できるものではない……」
醍醐味か。確かに紗夜の言う通りその他のバンドも同じ現象が起きてのかと言われれば違うと俺は思いたい。そこかしこで起きていたら奇跡とは言わないしな。
「雑誌のインタビューなどで見かけたことがあるけれど、まさか……」
「なっ、なんかそれってっ、……キセキみたいだねっ!」
「うん! マジック! って感じ♪」
まだ驚きを隠せていない紗夜とは違い興奮している2人はまた怒られそうな言葉を並べる。
「その言い方は肯定出来ないけれど……でも、そうね。皆さん、貴重な体験をありがとう。あとはベースとキーボードのメンバーさえいれば……」
ん? この際ベースを担当するメンバーが必要なのか?
1人そう思っているとあこが代わりに疑問をぶつけてくれた。
「え? ベースならここにリサ姉がいるじゃん!」
「いや、アタシは、その……ヘルプで弾いただけでー……」
渋っていると追い討ちをかけるように紗夜が口を開いた。
「今井さんは湊さんの幼なじみで、友達として、あくまで宇田川さんのオーディションに付き合うために、弾いただけ。そうですよね?」
ヘルプで弾いただけなのは確かだ。だがここで今井を蹴っていいのか?
ほんの少しだけ心配になったが、その心配もすぐに消えた。威圧的な紗夜に物怖じぜずあこが言葉を並べる。
「でもバンドメンバー探してるんだよね? こんないい演奏できたのになんでメンバーにしないの……?」
「…確かに。技術的にはまだ、メンバーとは認められないわ」
紗夜の代わりに今度は湊が答える。手強い2人だ。この2人を頷かせるのはなかなか辛い。
「あ……そ、そりゃそうだよね、あはは……」
明らかに落ち込んだ様子の彼女を救ったのはこれまた意外な人物だった。
「ただ……足りないところはあるけれど、確かに今のセッションはよかった。紗夜も、それは認めるでしょう?」
「私は……! 確かに今の楽曲だけに限れば、よかったですが……」
周りにも自分にも厳しいあの紗夜が認めるのならばもう断る理由は必要ない。入るという流れになった今最初に声をあげたのは。
「なら、バンド組もうよ! この4人で!」
「え? マジで?」
だろうな。驚くのも無理はない。
「そうね。……勝手に話を進めてごめんなさいね。旭日。あなたの意見を聞かせてほしい」
「俺はなにも異論を唱える気はない。このバンドにはあこと今井が必要だからな」
俺が何かをしているから声をかけなかったんだろうなと思いつつ、俺は言葉を並べていった。気遣いといえるのかわからないが、そういう所は俺的にはありがたい。
「さっきの演奏、録音してあるわね?」
「もちろんだ。……なぜ知ってる」
「なんとなくよ」
なんとなくでわかるものか? 普通。まぁいい。今のセッションはこの先きっと役に立つはずだ。
「素晴らしい演奏をしたとはいえブランクを感じる」
そう言ってから今井を見ると見事に視線を別の方向に逸らした。これから忙しくなりそうだな。
これであとは1人……か。
15話まできてやっと4人笑
5人になるのはいつになるのやら……。
毎度のようにお叱りを受ける主人公。しかしなおす気はないですね笑
そしてこれからフォローをしていくのは主人公に変わってリサ姉に。
次回は新キャラ再び……!
おそらくこれで全員かと……あとは増えてもその回のみや、たまに出てくる程度かと。
それではまた次回。