ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
いよいよ、複雑に絡み合うバンドストーリーがスタートしました。時系列結婚時間かけて考えましたが、間違っていることもあるかと思います。
さて今回はギスドリの開幕ですねー。
それではどうぞ。
第24話 すれ違い
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江戸川楽器店
晴れ間が広がる空の下でお店の前を清掃する神原大輝。夕と同じ高校の青年で、彼はこのお店のバイトだ。
掃除を終え、店内に戻ると今度はカウンターの方に向かう。レジが置いてある下の方に段ボール箱が1つ。開けてみると最近結成したアイドルバンドのチラシが入っていた。
「アイドルバンドね。….…今はアイドルもバンドをやる時代か」
そう言うと1枚取り出して、近くのボードに貼り付ける。続いて店内にはポスターを持ち帰れるよう、ある程度束にして置いていろんな場所に置きに行った。
一通り作業を止めて一息着くと、お店の扉が開いた。入り口とは少し離れている為か大輝はすぐに挨拶を交わさず、一旦戻っていく。
「(フェスの話題から……今日が初めての練習。あの子達、ちゃんと課題をクリアできているかしら)」
入り口付近に戻ると顔見知りだったようだ。
「氷川さん、いらっしゃい。この間のライブすごかったみたいですね。記事も載ってるみたいですけど、メンバーの皆、もう知ってます?」
そう言うと大輝はレジの近くに置いてあった雑誌の1ページを開いて紗夜に見せる。そこにはRoseliaの5人が映っていた。
「ああ……確かに、カメラを持った方が何人かいらしてましたね」
記事を見てからふと近くのボードに目が写った。そこには────
「そうそう。……って氷川さん? どうかしました? 写真写りは悪くないと思いますけど」
写真と本人を見比べながら言う大輝だが、紗夜はそんな彼に目もくれていない。
「……いえ、そこの……ポスター」
「ああ、これですか。なんかPastel*Palettesっていうバンド? グループ? みたいですよ。この前デビューした」
改めてポスターをまじまじ見ながら説明をする大輝。そのポスターを見ている紗夜が同様していることに気づかぬまま話を進める。
「アイドルだかバンドだかわからないですけど、面白いんですよ。……でもなんか、このギターの子、氷川さんに」
「わ……たし……練習がありますから…これで!」
そう言うと紗夜は神原楽器店をさっさと出て行ってしまった。少しばかり様子がおかしかったようにも見える。よくよくポスターを見てみると本当に似ているが、本人が行ってしまった為真相はわからない。
すると入り口のドアがまた開いた。
「いらっしゃい……って今度は憐歌かよ」
「大輝君。さっき氷川さんが出て行ったけど、何かあったの?」
「さぁなー。オレが聞きたいくらいだわ」
お店に入ろうとした直後。少し前にお店から出たのであろう紗夜に声をかけた憐歌だったが、見事にスルーされてしまったわけだ。
ふとボードに貼ってあるポスターに憐歌も目がいった。
「このポスターのギターの子」
「そうそう。氷川さんに似てね?」
「雰囲気ちょっと違うけど似てる。双子かな?」
考えても本人に聞かなければ答えは見つからない。
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CiRCLE ロビー
俺は今日も頑張っている。主にこんな人が居てさーという四十崎さんの愚痴を聞くのに。なんか話やすいからつい愚痴ってしまうと言ってた。
四十崎さんは結構モテる。美人だし、気が効くし、大人の魅力もある。だがいかせん猫が好きすぎて男なんか目もくれない。今は彼氏とかいらないだと。
会話を終えた俺は事務所からロビーに行くと、なんだか妙に嬉しそうな萩野がチラシを眺めていた。
「どうした? だらしない顔をして」
「だらしない顔なんてしてないよ〜。好きな女優さんがアイドルバンド始めたんだ〜」
「へーそうなのか」
アイドルバンドね。アイドル×バンドですか。なんでもバンドにすればいいわけじゃないと思う。それに女優がバンド。忙しそうだ。考えただけでも目を背けたくなる。
「あっ、この水色の子も可愛い」
特に興味もない俺は片手に持っていた今度のライブのリストを見始めた。
「今度のライブどうするか」
CiRCLEでのライブにひと枠だけ余ってるんだが、誰に出てもらおうか。無難にAfterglowでもいいんだけど、今はガルジャムで忙しいだろう。ライブの感じ的にはゴシック系? だからやっぱり………。
「まだひと枠決まらないの?」
「まぁな。普通にRoseliaでいいと思うか?」
「いいんじゃない?」
悩んでいると萩野が声をかけてきた。Roseliaが安定なんだが……今日の紗夜。様子がおかしかった気がするんだ。スタジオに入る前に少し話ただけだが、こういう時の勘って意外と当たったりするんだよな。悪い勘だけは。
「とりあえず聞いてくる」
「はーい」
ロビーを後にしてRoseliaが練習しているスタジオへと足を運んだ。
たぶん大丈夫だろう。
そんな軽い気持ちでスタジオのドアを開ける。
俺は紗夜の気持ちなんて全くわかっていなかった。
スタジオ
「湊、ライブの件で話が───」
「……っ! いい加減にしてよ!」
ドアを開けた瞬間。一瞬この場が静まり返った。
「お姉ちゃんお姉ちゃんってなんなのよ!」
急に聞こえてきた紗夜の怒鳴り声。今まで一緒に居たけど、こんな姿見たことがない。悪い勘ほど当たってしまうらしい。特に俺の場合は。
「憧れられる方がどれだけ負担に感じてるか……わかってないくせに!!! なんでも真似して! 自分の意志はないの?!」
その言葉をぶつける相手はあこじゃないだろ……紗夜。
「姉がすることが全てなら自分なんて要らないじゃない!!」
一度だって俺にも日菜にも……奥深くしまい込んだ思いは吐き出さなかった。気持ちを押し殺して胸の中にしまう。時折吐き出される言葉はここ最近全てあこに向いていた。
それも仕方ないこと。本当はそう簡単に片付けて良いわけがない。そんなことは、わかってる。わかってるけど………俺は何も出来なかった。どう接してやるのがいいのか。わからなかった。
紗夜は変わった。日菜と差を感じるようになった時と、母さんが亡くなった時。たぶん……紗夜は知ってるんだ。まだ日菜にすら打ち明けてない秘密を。
俺が母さんの……旭日陽子の息子じゃないことを。
本当の母親が別に居る。母さんが亡くなった上にそんことを聞かされれば………な。母親が別に居るという点は、特に気にしたことはない。
誰が産んでくれたとしても育ててくれたのは母さんなのは変わらない。俺は旭日陽子の息子。そう思えるようになるまで時間はかかったが。
そんな出来事の後に自分のことで迷惑をかけたくない。きっと紗夜は……そう思ったんだろう。
沈黙がこの場を支配する中、最初に口を開いたのは今井だった。
「それって、もしかしてヒナのこと………?」
「……日菜?」
復唱するように湊も口を開いた。紗夜とくれば日菜という名前の人物は1人しかいない。今井は知ってたんだな。日菜と紗夜が双子だってこと。学校離れてるとあんがい気づかないもんなんだよ。
「……っ!! ……私……」
「あこ……前にも言われたのに……。紗夜さん…ご、ごめん……なさい」
我に返ったがもう遅い。そして俺が居るということもまだ気づいてないだろう。いつもタイミングが悪い。
あこが何を言ったかはわからないけど本人に悪気があったとは思えない。それに誰が悪いとかこの問題には関係ないんだ。もっと早く俺が手を打っていれば。……いいや。遅かれ早かれこうなっていたのかもな。
「どんな事情があるか知らないけど、Roseliaに私情を持ち込まないで」
こんな状況でも湊友希那という人間は平常運転だ。むしろ頼もしいくらいに。
「それに紗夜。あなたは今日、演奏にも集中できていなかった。帰ってちょうだい」
「………返す言葉もないわ。お先に失礼します。迷惑かけて、ごめんなさい」
容赦ない言葉。それを今指摘することよりも俺が気になったのは、演奏に集中出来ていなかったことだ。
そんな時ふと萩野の呟いた言葉を思い出した。
『好きな女優がアイドルバンドやるんだよ〜』
『あっ、この水色の子も可愛い』
紗夜が急に取り乱すことなんて理由が絶対にあるはず。
1人片付けを始める紗夜。ギターをケースにしまいふと顔を上げると、ドア付近に居る俺にようやく気づいた。もちろん視線なんて合わせようとしない。そして何も言わずにスタジオを出て行ってしまった。
すれ違い際に聞こえてきた「ごめんなさい」は申し訳なさが詰まっていた。謝る必要なんて……ないのにな。
「あ……どうしよう? あこ、たぶん紗夜さんの嫌なこと、言っちゃったんだよね?」
「結果的にはな。でもああなったのも理由がある。今井は心当たりあるんだろ?」
俺がそう聞くと少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに話し始める。
「うん………うちの学校に紗夜の双子の妹が居るんだよ。氷川日菜。聞いたことない?」
「あ、ずっとテストで1位で有名な人……」
ずっとテストで1位。テストのことなんて聞かないからわからなかったが、ずっと1位なんだな。日菜らしい。昔からテストでは満点を取ってたのをよく覚えている。もちろん紗夜は少なからず比べられただろうな。時折俺にも向いたがそんなの気にもしなかった。
「休憩時間は終わりよ。何度も言うけど、Roseliaに"私情"は禁止。これ以上話したいなら、あなた達にも帰ってもらう」
そう言うと俺に視線を向けてきた。たぶんというか、早く出てってくれって意味なんだろう。まぁライブの件は話さないでおくとしても俺は湊に言いたいことがあるんだ。
なぜ湊の私情という言葉だけが引っかかるのだろう。
「なぜそこまで私情を持ち込まれるのを嫌がるんだ? 少なくとも何かしらの目的がなければ集まることはないだろ」
「……っ! 練習の妨げになるからよ」
妨げにか。確かに紗夜にバンド外の事情がなければこうはなっていなかったかもしれない。だが、少なくともその答えでは納得が出来ないのはなぜだろう。
「まぁいいさ。あこは今回のこと、気にするなよ。遅かれ早かれこうなってたんだ」
俺はそれだけ言い残してスタジオを後にしようとドアを開ける。その直後だった。
「紗夜のこと追いかけないの? 幼なじみなんでしょ?!」
気にしているのか、今井がそんなことを言った。
「今の紗夜に必要なのは俺じゃない。1人で考える時間だ」
今度こそスタジオを出る。
考える時間が欲しいのは俺の方だ。見守るだけじゃやっぱりダメなんだろうか……。だが、下手に干渉して事態をややこしくするのは避けたい。いったいどうすれば……。
ロビーに戻ると萩野が心配そうに入り口の方を眺めていた。
「氷川さん帰っちゃったよ?」
「ちょっと調子悪いんだと。大丈夫さ」
「なら…いいけど」
息を吐くように嘘をついて誤魔化した。
カウンターの上に置かれたチラシに目を向ける。そこには5人写っていて、何人か見知った顔が居た。4人も見たことがあるとは。世間も意外と狭いのかもな。
紗夜が取り乱したのも原因はこれなんだろう。
「日菜、どこまで紗夜を追いかけるんだ?」
ボソッと出た言葉に萩野は気づかない。
とっくに追い越してるんだ。後ろを見ないと気づけない。そういうところまで来てるんだよ、お前は。
氷川日菜という名前の右下にはGt.と書かれていた。にしても……丸山、日菜、若宮、喫茶店でよく見る人。
丸山に関しては花女に用があって言った時必ずと言っていいほど会う。というかぶつかる。そしてプリントをばら撒く。やっと……夢が叶ったんだな。
若宮は羽沢珈琲店でバイトしてる。モデルもやってるみたいだから、その延長線か。アイドルって感じはしなかったが。
喫茶店でよく見かける人は苦手そうな人だってことはよく覚えてる。よく水色の髪の子とお茶をしているな。
後1人は……誰だ? すごく見たことがあるんだが……ってよく見たら見覚えのある名前。大和麻弥。俺の知っている人と同一人物ならこれは大事だぞ?
「旭日君、やっぱりチラシ気になる?」
「なんとなくな。幼なじみ居るし」
「えー?! それどういう意味?!」
しまった。自分から墓穴を掘ってしまうとは情けない。
この後めっちゃくちゃめんどくさかったが、途中お客さんが来たことで難を逃れた。この瞬間はお客さんが神様に見えたよ。
CiRCLE ロビー
あれから時は過ぎてもうすぐRoseliaがスタジオから出てくる時間になった。紗夜のことが心配ではないと言えば嘘になる。だが、声をかけたところで……な気もしてしまう。もう少しだけ、様子を見るか? それとも……ダメだ。一度決めたことを曲げるのか?
「旭日、少しいいか?」
「はい。何かありました?」
ロビーでぼーっとしていると、狩場さんが現れた。
「この前言ってた調子の悪い機材のことだ」
「その件ですか。ステージの方です」
「ここは萩野に任せて一緒に来てくれ」
「わかりました」
先にステージに向かった狩場さんの背中を見送り、ロビーの仕事を代わりにやってもらうよう萩野に頼んでから、俺もステージへと向かった。
ライブ会場
いつもライブを行っているステージに入るとすでに狩場さんは調子の悪い機材の前に立っていた。このスタジオで調子の悪い機材はスピーカーだ。前から少し怪しいとは思っていたが、とうとうダメになってしまったらしい。その点の報告はまりなさんにはしてあった。
「外側に目立った傷とかはないな。やっぱり中身か」
「倉庫にいちおう予備はありますけど」
「予備と交換しておくか」
「わかりました」
予備を取りに行こうとステージを後にしようとした直後。
「まぁ待て。やることはわかったし、少しサボりに行かないか?」
「萩野と市野木さんにどやされますよ?」
「萩野はともかく、市野木に言われる筋合いはない」
ふっと笑ってからそう言う狩場さん。ここ最近一緒に仕事をする機会があったけど、こうして笑った顔は初めて見たな。俺と同じように仏頂面な人かと思ったが、少し違うらしい。
「とりあえず外に行こう」
狩場さんに連れられCiRCLEの外に出た。
川沿いの道
移動する途中で買ってもらった缶コーヒーを飲みながら夕日に照らされる川を眺める。その横でコーヒー片手にあまり人が通らないことをいいことに電子タバコを蒸す狩場さん。そんな狩場さんに視線を向ける。
「怒られますよ?」
「大丈夫だ。誰も見てない」
たまに人が通っているけどな。そんなこともお構いなしだ。
「怒られる……か。昔は居たな。こんなどうしようもないオレを怒ってくれた人が」
「そう…ですか」
居たってことは今は……。
「旭日と氷川さんはそういう関係なのか?」
「ただの幼なじみですよ。それ以上でも以下でもない」
「幼なじみか。湊さんと今井さんもそうだったか?」
「確かそうですね」
世の中幼なじみという存在? 組み合わせ? は意外と狭い範囲に存在するらしい。Afterglowの5人もそうだしな。
「オレも昔は居た。もう居ないけどな」
「亡くなられたんですか?」
「いや………離れていった」
タバコを蒸して空を仰ぐ狩場さんからはその言葉の通り、なんだか憎しみを含んだ怒りを感じた。きっと同じようなことになれば、俺も同じように自分を憎むんだろうな………今も似たようなものか。
「ふー………。旭日、君はオレと同じようにはなるなよ。ダメな大人からの忠告だが」
「狩場さんはダメなんかじゃないと思います」
「なぜそう思う?」
視線を狩場さんから川に戻してから答えた。
「市野木さんや早乙女にちゃんと注意出来ていますし、なによりこんな俺にも気にかけてくれています」
「バイトだからと言って差別はダメだろ? オレは……そんな大人にはなりたくない」
まただ。この人から一瞬憎しみのようなものを感じた。今は過去に踏み込む時ではない。でも……いずれ何かしらの力にはなれるといいな。
「そろそろ戻るか」
「そうですね。市野木さんたちにどやされそうですし」
俺たち2人はCiRCLEへと戻っていった。
ここの回は最初見た時は結構衝撃で、早く書いてみたい話の1つでした。この時から紗夜さんは荒れに荒れ始めたと思います。
そしてしれっとあらすじでも言ってる割と大事なことが笑 主人公の家族関係はどうなってゆくのやら。
次回はAfterglowのバンドストーリーも始まりますので、ぜひ読んでみてください。
ここから本当にギスドリなので、こういった話が苦手な方はブラウザバックしてください。
それではまた次回。