ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
第27話 山積みの問題
花咲川高校 教室
放課後。人がほとんど居ない教室でぼーっと天井を眺めていた。
今日はバイトもない。Roseliaの練習はあるみたいだが、お呼びでないから関係ない。智紀は部活。涼子はバイト。憐歌からも特に誘いはない。葵刃は今日も逃げ回ってる。
ってことは今日は何もない。たまにはこんな日も悪くない。ということで羽沢珈琲店にでも行って読書かネットサーフィンをするか。
少しワクワクしながら帰り支度を始める。今日は少し奮発して高めのコーヒーでも飲んでみるか。それとも甘さ控えめのスイーツでも────。
「ちょうどよかった。旭日君に頼みたいことが………」
現れたのは山梨先生。母さんとの教員仲間の1人だ。
終わった。俺の楽しい計画が。
「そんなに絶望しないで。まだ希望はあるから」
「どんな希望ですかそれは….…」
まぁこの時間に来たということはいつものお願いだろう。渡しに羽丘、もしくは花女に行くだけだから問題無いか。ちゃっちゃと終わらせてのんびりしよう。
「いつものお願い出来るかな? 今日は羽丘なんだけど」
そう言うといつもの封筒とクリアファイルを渡された。中身はわからないが。
「花女なら渋るところですが、羽丘なら行きます」
「またまた冗談ばっかり〜」
割と冗談ではないんですよ先生。
「とりあえず行ってきます」
「うん。お願いね」
教室から出て行く先生を見送り、帰り支度を済ませた。俺はその足で羽丘に向かった。今日は誰がいるのかな。
羽丘に着いた俺はいつもの学園に入る手続きを済ませて校内へと足を踏み入れていた。何度も来ているから手続きがだんだん適当になっている気がする。最初はいろいろ書かされたはずなんだが……。花女も同じような感じになりつつある。
つまり俺は出入りしすぎているのかもな。と言っても部活動の交流で花高の部活は来ている。花女は運動系。羽丘は文化系が多いな。花女には葵刃の母親が特別顧問で行ってるから自然とそうなるだろう。さすが全ての武術で世界を取った人物。
通路を歩いていると時折羽丘の生徒とすれ違う。大抵は会釈もないんだが、知り合いだとな。
「やあ。旭日君じゃないか」
「瀬田か。久しぶりだな」
今日1人目の知り合いは瀬田薫。演劇部に所属する2年生。同い年だな。演技が上手いからか。はたまたかっこいいからか。おそらく両方。女子にめちゃくちゃモテる。
女子の方がモテるとか男からしたら結構痛いところか。俺にとっては犬派か猫派くらいどうでもいいことだから別にいいが。
「演劇部の方はどうなんだ?」
「なんの問題もないさ。近々大きな大道具が必要になるみたいだよ」
じゃあ近いうちに一瞬駆り出されそうだな。人手が足りなければの話だが。
俺は人手が足りない時、演劇部の手伝いをしている。最初は柳瀬先生から頼まれたのが初めてだったが、ここで出会った瀬田ともう1人と連絡先を交換してからはたまに呼ばれるようになった。
「人手が足りなくなった時は呼んでくれ」
「頼りにしているよ」
こうして普通に話している時はいいんだけどな。たまに理解不能なことを言い始めるんだ。儚いとか、シェイクスピアがどうとか。シェイクスピアのことも儚いとかもよくわからないから非常に困る。
「そうだ。俺も次のライブ、楽しみにしてるからな」
「ああ。任せてくれ」
ハロー、ハッピーワールド!のギターを担当しているのがこの瀬田薫なんだ。どうやって了承してもらったのかはわからないが、さすがこころだ。こんな人気者を普通引き入れようとは思わない。
「それじゃあこれで失礼するよ」
「またな」
瀬田と別れて職員室へと向かった。
今日はシェイクスピアがどうとかなかったな。
職員室
瀬田と話した後、誰とも会う事なく職員室へとたどり着いた。柳瀬先生の元まで行き、持ってきた資料を確認してもらった。
「確認は終わった。毎回すまないな」
「いえ。理由はわかっているので」
文句を言いつつも来るのは、心配をかけたくないからなんだろう。母さんの家によく飲みに来ていた3人だしな。少なからず面識はあるし、いろいろ教えてもらったのは事実だ。
「相変わらず授業はぼーっと聞いているようだが?」
「……そういう時もありますよ」
「都合悪いといつもそうだな、君は。聞いていない割にはそこそこ点数取るのだから、真面目に勉強したらいいのに」
ここにも紗夜と同じようなことを言ってくる人が……。まだ言い方が柔らかいからマシか。紗夜は呆れると説教始まるしな。
「勉強以外に興味があるものがあるので今は……」
「最近2年の湊と今井と中等部の宇田川と一緒に居るところを見かけたが、まさか」
「いやそういうことではなくてですね。その3人と幼なじみと花女の生徒でバンド組んでるんですよ。その手伝い的な」
「人は変わるものだな。あれほどバンドや音楽に興味を示さなかった君が」
「なかったわけじゃないんですけど……」
母さんの前で音楽の話をすると本当に止まらないからしなかっただけなんて言えない。酔ってる時なんて持論語り始めて本当に手が付けられなかったし。酔い潰れて寝るのを待つしかないという地獄だったな。
「まあ構わないさ」
そこまで深く追求はなかった。
「……夕。1つ頼まれてくれるか?」
「なんですか?」
美奈川先生とは違って変なことは頼んでこないだろう。あの人は普通に変なことを頼んでくるし。
「羽沢つぐみとは面識があると思う。最近無理しているようだから、今日は帰るように伝えておいてくれるか? 私はまだ仕事が山ほどあって行けないので頼みたい」
「わかりました」
「助かるよ」
俺もこの前、CiRCLEのラウンジ話していた様子を見て気になっていたところだ。この前からずいぶん無理をしているようだしな。さすがにあの4人が放っておくわけないと思って何も言わなかったんだが、少し事情が違うらしい。
何事もないといいが……。
生徒会室
来たはいいものの。まだ会議中か。入るのはよしておこう。
会議をしている教室から見えない位置で会議が終わるのを待つことにした。
「あれ? 旭日先輩じゃないですか」
待っていると、現れたのはアフグロの2人。
「巴と……上原か」
「なんで私の時だけ微妙な表情なんですか?!」
「してないしてない」
言いがかりもいいところだ。別にいつもテンション高めに絡んでくるからめんどくさいんだよなと思っただけであって。
「今日は何しに来たんですか?」
「いつものやつと、少し羽沢の様子を───」
そこまで言った直後。生徒会室から大きな声が聞こえてきた。その瞬間。ろくでもないことがふと浮かんでくる。
すぐにドアを開けて中に入ると、横向きの体勢で床に倒れ込む羽沢と突然のことに動揺している生徒会の面々の姿があった。
俺は考えるよりも先に体が動いていた。それは巴も同じらしい。
「……っ! つぐ! おい、つぐみ!!!」
「つぐ……?」
リュックを近くの机に無造作に置いてから、すぐに羽沢の元へと駆けよる。こうなると一刻を争う。
「羽沢! 大丈夫か?! 返事をしろ!」
軽く肩を叩きながら声をかけても目を覚ます様子はない。次は頬を口元まで近づけて呼吸の確認。その次は脈があるか確認をする。
「ひまり、救急車! 早くっ!!」
「………っ」
突然のことに上原は反応出来ていないようだ。
「早く!!」
「……っ! は、はい!」
ようやく状況を飲み込めたのか、返事をしてすぐに救急車を呼ぶためにスマホを出した。
「蘭達はもうスタジオか……? アイツらにも連絡しないと……っ!」
「そんなことは後でいい! 巴は誰でもいいから先生呼んでこい!」
「わ、わかりました!」
意外と冷静で居るんだな。巴は。おっと……今はそんなことを考えてる場合じゃない。最善を尽くすんだ。意識はないが、呼吸はある。まずは体勢を変えておかないとか……!
「そこの人…! 人が集まってきたら羽沢が見えないようにしてください! そこの人は上原と一緒に下に行って、救急隊の人が来たら連れてきてください!」
羽沢の体勢を変えながら、それぞれ指示を飛ばして先生が来るまで羽沢に声をかけ続けた。
まさかこんな場面にまた遭遇するとは。母さんには感謝しても仕切れないな。お陰で冷静でいられる。
病院 病室
その後はとりあえずスムーズにことが運んだ。案の定何があったのか見に来た生徒が大勢居たものだから、見えないように囲んでくれたのは大変ありがたかった。
到着した救急車には柳瀬先生が乗り、居てもたっても居られない2人は走って病院へと向かった。放っておけなかった俺も着いて行き、今は病室に居る。
もう落ち着いているが、さっきまで2人の顔には心配の2文字が浮き上がってくるんじゃないかってくらい羽沢を心配していた。
結果から言うと過労。頑張り過ぎたんだろうな。大丈夫。そう言う子はまず大丈夫ないことはわかっていたことなのに。誰かが言うだろうという思いで見過ごしてしまった。無理に良い言い方をすればそれだけ羽沢のことを心配している人が居るということになる。……気休めだがな。
「先生も大丈夫って言ってたし、そろそろ帰るか」
「そうですね……」
最後にベッドで眠る羽沢の顔を見てから2人は入り口の方へと歩いた。俺もその後を追うように歩く。
「じゃ、アタシ達はこれで失礼します。あとは、よろしくお願いします」
入り口のドアを開け、病室を出てから挨拶をする巴。
「ええ。ありがとうね。そっちの男の子も」
「俺は別に……。やるべきことをしただけですから」
「簡単に出来ることじゃないわよ」
「そう…ですか。ではこれで」
病室を後にした俺たち3人は、受付付近で一旦一息ついた。
「倒れた時はどうなるかと思ったけど、たいしたことなくてよかったな。2、3日休めばよくなるって言ってたし」
「うん……」
医者じゃない俺たちは何がどうなってるのかはわからないからな。いざ大丈夫と言われると、安心するものだ。
「ひまり?」
「私、つぐが倒れてるの見た時に……頭の中が真っ白になっちゃって……。巴に救急車! って言われてやっとハッとしたの」
ふと倒れた時のことを思い出し、そういえばそうだったなと振り返る。
「ホント、テンパっちゃって、私。ダメだよね……もっとしっかりしなきゃ。つぐ、最近見るからに疲れてたんだし、もっとちゃんと休むように言えばよかった……」
「今回の失敗を次に活かせばいいさ。失敗から学ぶことができるのが人だ」
落ち込む上原の頭に手をおいてそう言った。受け売りだが、その教えがあったからこそ今の俺が居る。
「アタシはあの時、隣にひまりがいてくれてよかったって思ってるよ。旭日先輩はそれ以上に」
多少なりとも役に立てたならよかった。
「1人だったら不安で何も出来なかったと思う。けど、ひまりが…旭日先輩がいたから、ああやって対処できたんだ」
ああいった状況で近くに見知った人が居るというのは、すごく心強いものだ。それを1年前に知った。
「ひまりはよーく知ってると思うけどさ、アタシだってそんなに強くないんだぜ? だから、ひまりばっかり自分を責めたりしないでくれ」
「責めたっていいことはないしな。辛い現実を自分から辛くする必要はない」
俺がそう言うと巴は上原のほっぺたを軽くひっぱり始めた。それにしてもよく伸び……やめておこう。
「……ほら、笑顔笑顔」
「ひゃ、ひゃう〜〜! と、ともえぇ〜〜ほっぺひっぱるのやめてぇ〜」
すぐに手を引っ込める。全然何言ってるかわからなかったな。
「ははっ。悪い悪い。ひまりには落ち込んだ顔してほしくないんだよ」
「怒った顔はいいわけ〜!?」
「怒った顔はまあ、面白いしいいかなって……」
「も〜! 巴のばかー!」
いろいろあったが今は大丈夫そうでよかった。そのうち羽沢のご両親も来るだろうし、俺たちは引き上げるとしよう。さてと………この後どうするか。