ガールズバンドに振り回される日常   作:レイハントン

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第29話 努力の意味

第29話 努力の意味

 

「夕先輩?」

 

 この声は。

 

 声の主を確かめるために後ろに振り返った。

 

「この人が旭日夕先輩?」

「香澄と……君は誰だ?」

 

 去年のことを思い出していると、香澄とその友達? に出会った。こんな時間までいったい何をしていたんだろうか。補修か? 補修なのか?

 

 それに隣の茶髪ストーレートロングの子は誰だ? 俺の勘が危険だと言っている。

 

「えっと……あの…! 走りながら話しませんか?!」

「なんでそうなるんだよ。慌ててどうした?」

「今から有咲の家行くんです!」

 

 なんだかよくわからないが、急いでいるようだし行かせてやるか。俺はそろそろ帰りたい。

 

「そうかじゃあまた今───」

「行きましょう」

「ん? どこに?」

 

 なぜか俺は香澄の友達に引っ張られて走り始めた。こうなると着いていくしか方法がないんだが、それよりもまずは入館証を返したい。でないと怒られる。

 

 

 

 

 

 

 帰り道

 

「それでこんな急いで市ヶ谷さんの家に向かっていると」

「そんなところです」

 

 香澄の友達。花園たえと話しながら市ヶ谷家に走っていた。

 

 どうやら香澄は最近花園さんと一緒に行動していることが多いらしい。理由はギター仲間だから。しかも2人揃って家庭科の課題が終わらず、放課後一緒にギターケースの袋を作っていた。だいぶツッコミどころが満載だが今はいいか。

 

 そして最近練習にすら来ない香澄に嫌気がさした市ヶ谷さんが痺れを切らし、怒られたと。香澄はよくも悪くも正直だからな。それと2つのタスクをこなすのが苦手だ。

 

 しばらく走り、ようやく市ヶ谷家にたどり着いた。蔵へと先に行ってしまった香澄を見送り、俺は花園さんと2人で門付近に立ち止まった。

 

「香澄の事情はわかった。君はなんで俺を知っているんだ?」

「陽子先生とオーナーから聞きました。あと凛々子さんから」

 

 つまり……母さんとオーナーはSPACEのか。凛々子さんの名前も出ているし。でもなんでSPACEの話が出てくる?

 

「君はSPACEでライブをしたことがあるのか?」

「ないです。いつか出たいとは思いますけど」

「そうか……じゃあオーナーとの接点は?」

「バイトしてます。それで聞きました」

 

 なるほどな。俺が辞めた後に入った子か。そういえば前にグリグリのライブを見に行った時に見かけたような……そうじゃないような。

 

 オーナーの件はわかったが、母さんを知っているのは花女に通っているからだろうな。

 

「先輩はギターやらないんですか?」

 

 またギターの話か。

 

「……今はやらない。母さんの音楽とはまだ向き合えない」

「そうですか。……すごく綺麗な音だったり、熱い情熱を感じる音でした」

「聴いたことがあるのか?」

「一度だけですけど」

 

 確かに花園さんの言う通りだ。母さんの音は綺麗だったり、暑い情熱を感じる音だった。弾く曲によって変わるんだ。歌い方も。

 

 途方もない練習から産まれた音を。俺が弾いていいわけがない。どんなことがあっても、向き合おうとしない今の俺には。

 

「母さんのギター。いつ聴いたんだ?」

「去年の文化祭です。軽音部の人と一緒に弾いているのを見ました……。すごくドキドキして、今でも忘れられません」

 

 あの時の母さんは本当に楽しそうだったな。家に帰ってきてもずっとライブの話をしていて。お酒を飲んでいないのにテンション高かったのを今でも鮮明に覚えている。

 

「そろそろ俺は帰る。香澄には帰ったって言っておいてくれるか?」

「わかりました。……少しだけでも、話せてよかったです」

「そうか。俺も母さんの音を覚えていてくれている人に会えてよかった」

 

 それだけ言い残して俺は市ヶ谷家を後にした。

 

 花園たえ。とても不思議な感じの子だったな。なんていうか……捉えどころのない感じというのだろう。

 

 俺はまだ知らない。あれは氷山の一角にも過ぎないことを。

 

 

 

 

 

 

 CiRCLE ロビー

 

 次の日の放課後。

 

「スタジオ空いたから一旦清掃してきてもらえるか?」

「わかった。次のお客さんはすぐ入らないよね?」

「そうだ。急がなくても大丈夫だ」

「了解。行ってくるね」

 

 スタジオの清掃へと向かう南雲を見送り、受付で一息つく。教えたりするのは全然構わないんだが、いかんせん真宗という最大最強の後輩がいるせいで上手くいかない部分が多い。もうすでに外で鈴音にスパルタ指導をされている真っ最中だが……。

 

「あのっ……旭日さん」

 

 1人受付に立っていると以前聞いた覚えのある声が聞こえてきた。その声の主は。

 

「君はこの前駅に居たというより……こころのバンドの人」

「はい。松原花音です。美咲ちゃんからお話聞いてて、それで」

「タメで構わない。同い年だし。もしかして話って母さんのことか?」

「そうです……あっ、そうだよ」

 

 この子も母さんとの繋がりがあるようだが、どんな話をしていたのかはわからない。いろんな生徒が居るからよっぽど記憶に残らない限りはわからない。

 

「陽子先生にはたくさんお世話になったんだ。特に教室の場所教えてもらったりとかで……」

「教室の場所……?」

 

 苦笑いをしながらそう言った松原だが、いったいどういう意味なのだろうか。

 

「私ね。よく道に迷っちゃうから」

「……思い出した。確かそんな話を母さんがしていた気がする」

「本当? えへへ、少し恥ずかしいな」

 

 あれは確か………。

 

 

 

 

 

 

 

 去年の出来事。

 

「かぁぁ〜。疲れた時はビールだよね〜」

「おっさんみたいだな」

 

 ソファーに寄りかかってテレビを見ていると、いつも夕食を食べている足の高いテーブルでビールを飲む母さんの声が聞こえてきた。仕事終わりの1杯はいつもこんな感じだ。

 

「夕も私の年になればわかるわよ〜」

「俺は付き合い以外じゃ飲まない」

「じゃあ母さんに付き合いなさい」

 

 いつも話し相手になってるだろ。見ろ、何かつまめる物を作ってる父さんが悲しそうな顔で作ってるぞ。

 

「あなたも早くしてよね〜」

「はい、ただいま!!」

 

 急に元気になったよ。わかりやすいなーホントこの父親は。

 

 言うまでもなく父さんは母さんにデレッデレだ。気持ち悪いほどに。なんでこの2人が結婚したのか未だに分からない。家のパワーバランス100で例えたら母さん70。俺20。父さん10程度だな。

 

「そうそう。今日面白い生徒に会ったのよ」

「いつも面白い生徒見つけてくるじゃん」

「何百人って居るんだから当たり前でしょ?」

 

 あんたは1年生の学年主任なんだから、2年、3年は知らなくてもおかしいことはないんだが? 前は2年生の担任も3年の担任もやってたって言ってたっけ。

 

「夕は高校入って2ヶ月経つけど、校舎の中覚えてる?」

「まぁ一応……それが関係あるのか?」

「なんとなくは覚えてる感じよね。今日会った子はね───」

 

 

 

 

 

 その時の話が今話している子のことだったとは。

 

「道に迷ってた私のことをよく教室まで連れて行ってくれたり。他の生徒に道案内頼んでくれたり。感謝してもしきれないくらいだよ」

「そうか。ならよかった」

「いつかお話出来たら、またしたいな」

「機会があれば構わない」

 

 その時はまた違った話を松原から聞ければいいな。こうして少しずつ母さんのことを知っていこうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 旭日家 自室

 

 今日も疲れた……。主に真宗のフォローをしながら南雲に教えるのが。というかメンバーが悪かった気がしてならない。俺、南雲、真宗、鈴音、早乙女。な? おかしいだろ?

 

 真宗と鈴音はやっぱり喧嘩するし。早乙女は気が付いたらお茶してるし。南雲は……指示をよく聞いて仕事してくれるな。早く一人前になってもらうとしよう。そうしないと問題児の面倒を見れないからな。

 

 ベッドに寝転がりながら今日のことを思い出していると、インターホンが鳴った。こんな時間に誰だろうか。いや……おそらくだが。

 

 ベッドから起き上がって玄関の方へと向かい、鍵を開ける。扉を開くと予想通り。

 

「どうかしたのか? 日菜」

「うん…おねーちゃんがね」

「また何か言われたって感じ……でもなさそうだな」

 

 落ち込んでる。というよりは心配そうな表情だ。それも無理はない。ここ最近の紗夜はどこかイラついている。と、言っても原因は1つしか思い当たらないんだが。

 

「とりあえず入れよ。立って話すのもなんだし」

 

 日菜を家の中に入れてから、自分の部屋に戻っていく。ベッドにダイブというわけにもいかず、とりあえずゲーミングチェアに座った。

 

「お邪魔しまーす。ってゆーくんの部屋、相変わらずだね」

 

 汚いって言いたいんだろう? グーの音も出ないからやめてくれ。確かにあちこちに参考書が置いてあるし、鞄は下に置きっぱなし。さらにはゴミ袋ももうすぐいっぱいだ。めんどくさいからと言って大きい袋にしたけど結局あんまり意味ないな。

 

「掃除はまた今度やるさ……それよりも紗夜がどうかしたのか?」

「調子悪そうだったから声かけたんだけど、追い出されちゃって……」

 

 調子が悪いか。それはどっちの意味なのだろうか。ギターのか。それとも体調なのか。おそらくは……前者だろうな。少なくともあんなことがあったんだ。だからと言ってどうすることも出来ないのもまた事実。

 

「ほっとけ……とは言わないけど、あんまり心配するな。紗夜もいろいろ大変なんだ」

「なんか…ゆーくん変わったよね」

 

 そう言いながら俺のベッドに座る日菜。俺からすればあんまりなんだが。変わる変わらないの話をすれば、相変わらず日菜は日菜だ。パスパレの仕事も楽しいみたいだしな。……丸山、大丈夫なのだろうか。日菜にいじり倒されてなければいいが。

 

「前ならめんどくさいとか、なんで俺がとか、めんどくさそうな顔してたのに」

「……そうだな」

 

 俺はただ……母さんの残したものを守りたかっただけだ。血の繋がりがない代わりに。少しでも母さんの思いや行動を残したかった。意外と自分ではわからないものなのかもな。もちろん紗夜も同様だ。

 

「いつまでも子供じゃいられないからな」

「そっか〜。でも、あたしは今のゆーくんの方が好きだよ? るんってくる!」

「なんだそれ。……まぁせいぜい頑張るよ」

 

 日菜がギターを始めたことで確実に紗夜は変わった。悪い方にとは言い切れないが、良い方とも言えない。紗夜のことだ。負けたくないから無理してでも練習してるんだろうな。

 

「日菜もパスパレの仕事頑張れよ。話なら聞いてやるから」

「ホント!? じゃあね〜」

 

 しまった……まさか今から始めるとは予測出来なかった。まあ、いいか。仕事の話やメンバーの話をこんなに楽しそうに話すんだからな。

 

 

 

 

 

 

 日菜が話し始めてから30分が経った頃。

 

「珍しくずっと話聞いてくれるね」

「いつもは聞いてないみたいな言い方するな」

「本当に聞いてるの?」

「聞いてる聞いてる。丸山をいじるのが楽しいって話だろ?」

「ピンポイント過ぎるよー」

 

 話を聞いている限り大丈夫ではなさそうだな。時折羽沢珈琲店に居合わせる若宮からも話を聞いたりするが、上手くフォローしてくれる大和が居るからだろうな。なんだかんだいい雰囲気なのか?

 

「楽しそうだな。4人で居ることがほとんどみたいだが」

「そうそう。千聖ちゃんだけ居ないことが多くて」

 

 個人の仕事が忙しいんだろう。元とはいえ子役だし、普通に芸能人だし。何をしているのかはよくわからんが。テレビには疎くてな。パソコンでいろいろ解決してしまうことがほとんどだし。

 

「この間もね。スタッフの人と話しててさ」

 

 この前のライブの件で文句でも言いに行ってたんだろうか。それとも別の用事か。

 

「なんか千聖ちゃんはパスパレじゃない別の選択肢を探してるんじゃないかなーって思ったんだよね」

 

 別の選択肢か。子供の頃からずっと芸能界に居るんだよな。今回みたいなことは悪影響でしかない。そう考えると脱退という選択肢もあるか。

 

「少なくとも日菜にはそう見えたんだろ? だったらその線もあるんじゃないか?」

「やっぱりそうなのかなー」

 

 日菜は勘が鋭いからな。それに加えて予想外な行動までするもんだから、普通の考えは通用しない。厄介な相手に捕まったな。

 

「日菜はどうするんだ? このまま続けるのか?」

「飽きたらやめようかなーって思ってる」

「そうか。日菜らしい」

「うん! でも今はまだ続けるよ。大っきいところでライブしたいし! その時はまたゆーくん呼ぶからね」

 

 また関係者席か……居心地がいいような悪いような。でも友達なのは確かなことだし、そうビクビクするものでもないか。……萩野にはバレないようにしないと殺されそうだ。

 

「……いつか。おねーちゃんにも、見てもらいたな」

「……そうだな。俺も紗夜と2人がいい」

「ゆーくんってそういうとこあるよね」

「どういうところだ?」

 

 全く身に覚えはないんだが? そんなことを言われるような発言をした覚えはない。

 

「ふーん。まぁいいけど」

 

 いったいなにがいいんだ……。

 

 たまに日菜の考えが読めない。

 




こんばんは。レイハントンです。

今回はアンケート出したのでその告知です。
実は前からあの時の約束のifストーリーを書いていたのですが、読みたいって方は居るのかなぁと思った次第です。

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