ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
第30話 冷たい言葉
CiRCLE ロビー
今日もバイトだ。働き者だろ? やはりバイトは欠かせない。そんなことを言い始めたらいよいよ終わりか。
そんなことを考えながら、いつも通り外を眺めながらぼーっとしていた。
「おつかれさま」
南雲がロビーに来たようだ。
「お疲れ。スタジオの掃除終わったのか?」
「うん。他に何かやることはある?」
「そうだな。まりなさんに聞いてみてくれるか? それでもなければ、受付をしてもらう」
「わかったよ」
そう言うとまりなさんを探しに事務所の方へと行った。
本当に真面目でよく働いてくれる。どっかのサボりたがり達とは大違いだ。とは言え、このまま成長して俺がお払い箱になるのも困るな。
そんな事を考えながら、外を眺める。
あれから数分後。南雲はどうやらやることがあるらしい。戻ってこないからな。
そして、なぜかロビーに今井が居る。しんどそうな顔を浮かべて。ちなみに今日もRoseliaのバンド練習があるわけだが。
「旭日……君。助けて……」
おそらく。と言うより、紗夜のことだろう。お怒りの中、個人練をしている姿が恐ろしくてしゃあないってところか。まぁ無理もない。なぜかって? 今の紗夜は時間を1分足りとも無駄にしたくないわけで。
「3人来ない……気まず過ぎてスタジオに居れないよ〜」
「頑張れ今井。お前なら出来るぞー」
「それ全然応援してないやつじゃん……」
そう言われてもな。なんとかしてやりたいのは山々なんだが。いかせん紗夜とは冷戦状態でな。なかなか心を開いてくれないんだよ。
そもそも今まで遅刻がなかったのに3人も遅刻してるんだ? あこと白金はともかく、湊まで遅刻だもんな。何かあったんだろう。
「……この前のことでまだ気まずい感じ?」
「まぁな。……昔からあまりそういう相談なかったしな」
「そっか。いろいろあるんだね」
昔から紗夜はあまり相談事はしてこなかった。母さんとの関係を知ってからはなおさら。実際どうしたらいいか、まだ迷ってしまうところがある。何も言わないでやるののがいいのか。それとも多少強引でも相談させるのがいいのか。
「旭日君ってさ。昔からそんな感じなの?」
「目が死んでるってことか?」
「違う違う! こう……なんて言うんだろう。誰かのために何かをしてあげること…かな」
「いいや、昔は違った。今よりもっと人にも…自分にも興味がなかった」
よく言えば気にしない性格。悪く言えば無関心。今の生活が保たれるなら、多少悪く言われようが何も気にしない。だから……紗夜のことも。母さんのことも。気づけなかったんだろうな。
「そうなんだ。今はそんな風には見えないよ?」
「今は……な」
先のことなんてわからないもんだよ。
「アタシ、そろそろ戻るね」
「ああ。気まずいとは思うけど、頑張れよ」
「うん! ありがとう」
スタジオに戻っていく今井を見送り、俺はカフェテラスの方を眺め始める。
母さんならどうしたんだろう。
結局15分遅れと、30分遅れで湊とあこ、白金が到着した。何があったかは聞かなかったが、たぶん紗夜は相当お怒りだろう。
CiRCLE ロビー
「あ、そうだ。夕君、夕君」
「なんですか?」
スタジオの予約リストを見ていると、海藤さんが何かを思い出したように声をかけてきた。こういう時の海藤さんってだいたい問題持ってくるんだよな………。
「この前友希那ちゃんが練習後にスカウトされてたんだよ」
「スカウト? モデルとかですか?」
「あははっ。スタイルいいし、美人だしそっちだったら面白かったかもね」
ということは音楽関係ということしか残らない気がするんですけど? でもモデルとしてスカウトされてるのはそれはそれで面白いな。音楽以外興味ないのでとか言って断ってそう。
「音楽関係の人がフェスに出ないかって」
「フェス。それってFUTURE WARLD FES.ですか?」
「そうじゃないかな?」
思ってもない話だけどそんな話今の湊には関係ないだろ。Roseliaとして出る気だから、その人も無駄足だったな。
「でも本人保留にしてたんだよー」
「え? 断ってないんですか?」
「うん。なんか渋ってる感じ? かな」
いったいなんのつもりだ? 初めて出たライブの後に紗夜から聞いた話だとRoseliaでコンテスト受けるって話したくせに。
若干のもやもやを感じつつも、まだ保留にしてるだけマシかと自分の中で落とし込む。
「でも技術力のあるメンバーも向こうで集めたみたいだけど、さすがにねー」
その言葉がもやもやを加速させた。まだ本当かどうかはわからない。ただ相手の話を飲めば、集めたメンバーの意味なんて───。
「今受けたら集めたメンバー意味なくなっちゃうし」
「そう……ですね」
紗夜の時間はどうなる。あこと燐子のコンテストにRoseliaで出たいって意思はどうなる。そばで支えたいって今井の気持ちはどうなる。
「もやもやするのでちょっと話聞いてきます」
「熱心だね」
「Roselia居なくなったらお客さん減っちゃいますよ?」
「それは困るな。まりなさんが」
海藤さん。あとはオーナーも困ると思う。俺も当てがひとつ減って困る……。
練習しているであろうスタジオにノックもせずにドアを開けた。
「ちょっと話が───」
「………っ。私達とコンテストになんか出場せずに、自分1人本番のステージに立てればいい、そういうことですか?」
怒りに近い紗夜の声。ここ最近ずっと苛立っているからなのかはわからない。口調が荒くなった紗夜の言葉。その言葉だけでだいたい察せれるほど条件が揃ってしまっている。
そして視線が俺の方へと向いた。
「今の話、本当なのか?」
「……っ! ……私……は」
「……否定しないんですね。だったら……」
否定の言葉があればどれだけ安心できたか勘違いでしたで終わればどれだけ楽で、笑い話に出来たか。
慌てた様子で今井が話に割って入る。
「ちょ、ちょっと待って! そう言ったわけじゃないじゃん! 友希那の言い分も、ね」
言ったわけではない。ずっと無言なのがその答えと言っても過言ではないのが心苦しい所だ。
彼女の名前を呼ぶが答えが返ってくることはなかった。
「……っ、ちょっと、なにか…!」
「"私達なら、音楽の頂点を目指せる"なんて言って、"自分たちの音楽を"なんて、メンバーをたきつけて……」
あの時。どっちの言葉からも俺は嘘偽りを感じなかった。でも今は。
「……っ。フェスに出られれば、なんでも、誰でもよかった。……そういうことじゃないですか!!」
「……え。それじゃあ……あこたち、そのためだけに、集められたってこと?」
「……あこちゃん、なにも、そうとは……」
否定がない以上そうとし受け取れない。全員出るためだけのメンバーということになってしまう。そうだとしたら、今までの言葉はあまりにも残酷すぎる。
「あこ達の技術を認めてくれたのも……Roseliaに全部かけるって話も、みんな……嘘だったの…? ───っ!!!」
「あこちゃん……待って、どこに……」
「ちょっ、ふたりとも……!」
崩壊は加速していく。
1人スタジオを飛び出してしまったあこ。彼女を追いかけて白金も出て行ってしまう。残ったのは俺を含めて4人。
「湊さん。私は本当に、あなたの信念を尊敬していました。だからこそ、私も………とても失望したわ」
「紗夜。お願い、少し待ってよ。友希那の話を……。旭日君からもおね───」
「夕は関係ない!! 答えないことが最大の答えだわ!!」
悪い今井。その願いは俺には叶えられそうにない。今止めても。この状況は何ら変わりないからだ。それどころか余計に悪化する気さえする。
「じゃあ、これから先、アタシ達、どうするつもり……?」
「あなたと湊さんは"幼なじみ"。何も変わらないでしょうね」
「そういうことじゃなくて───」
今井の言葉が紗夜に届くことはなかった。きっと彼女が言いたかったのはRoseliaとしてどうするのかなのだろう。冷静さがない今の紗夜には言ってもわからない。
「私はまた時間を無駄にしたことで、少し苛立っているの! 申し訳ないけれど、失礼するわ」
そう言うと紗夜も1人帰る支度をして出て行こうとする。それでも言葉をかけなかった。どの言葉をかけても今、冷静話が出来るとは到底思えないからだ。それにここまで関係が崩壊するなんて予想外だしな。
思わずため息が漏れた。
─────☆
すれ違い、ドアの前で立ち止まる紗夜。そして。
「……っ! あなたはまた傍観しているだけで何も言わないのね!! 日菜には何かを言って!」
振り返ってさっきよりも大きな声で叫ぶ。それでも彼が驚くことはなかった。それどころかいつもと変わりない無愛想な表情で答える。あまりに変わらない表情に少し冷たささえ感じるほど。
「今冷静に話し合えるとは到底思えない。違うか?」
「ちょっと2人ともこんな時に────」
ただでさえ悪い状況なのに喧嘩を始めてしまう2人。止めようとリサが口を開くもお構いなしに続けてしまう。
「何も言わない? 言ったところでこの状況が変わるとは思えない。それと……日菜の話は関係ないだろう?」
「そうだけれど……」
今なら紗夜の気持ちがわかるちょうどいい機会なのかもしれない。
「いつも相談とかしてこないだろ」
「……っ! あなたにだけは迷惑をかけたくないだけよ……!!」
「いつ俺が迷惑をかけるなって言った? 勝手に気を使ってるのは"どっちも"だろ?」
核心を突いたのか。紗夜の様子が少しだけ変わった。その変化を彼が見逃すことはない。
「勝手に…? それはどういう……意味?」
今でも鮮明に覚えている。
『夕……実は。母さんとは────』
とぼける紗夜だが、頭の中にはあの日。夕の父親が彼に重大なことを告げた瞬間。そして……。
『なにが……人をよく見ている…だ。1番近くに居た人さえ………見れてないくせにっ!!』
部屋を覗いた時、そんなことを言いながらベッドに横たわる夕の姿が。目の位置に腕を置いていて表情は読めない。
ふと机に視線を向けた時、大きなヒビが入るパソコンのモニターが視界に入った。何度殴ったんだろう。ヒビは複数だ。
そして夕は……1ヶ月間姿を消した。たった1枚の紙切れを残して。
「……俺が母さんと血が繋がってないこと、あの時聞いてたんだろ?」
その言葉に驚いた表情を紗夜が浮かべた。どうやら本当らしい。
「母さんが死んだうえに血の繋がりもない。精神的に来てるなんて思ったのか? だから気をつかわなきゃって。迷惑かけないようにって」
今までそんなことを一言たりとも言わなかったからか、紗夜が言い返してくることはなかった。
昔の彼と今の彼は確かに違う。それでも思い出してしまう。夕日に照らされた彼の頬を伝う止まらない涙を。一度だってそんな姿を見せたことがなかった。どんなに酷いことを言われても聞き流して終わっていたのに。
そう……日菜にビンタをした男の子を押し倒した時に怒られても変わらず聞き流していた。
「さっきも言ったが、勝手に気を使ってるのなんてお互い様だろ?」
表情1つ変えずに言い放つ。いつにも増して冷たい雰囲気で。
「それに。言ったってお前は言わない。いつもそうだ。少しは頭冷やしてきたらどうだ? 話はそれからだ」
今までにない冷たい声色で紗夜に言いつけた。最低なことをしてるってわかっている。だが今の気持ちはちゃんと伝えないとダメな気がしてやまない。彼女の気持ちを聞くために。
何も言わずに紗夜はスタジオを出て行ってしまった。
─────☆
俺の言葉は届いたのだろうか。届いたとしても、紗夜を傷つけたのは間違いない。それでも俺は………。
ため息を吐き出してから脱線した話を元に戻す。紗夜のことはとりあえず後回しだ。バイトすっぽかすわけにもいかないからな。
「それよりも、さっきの話だ」
「そうだ。友希那っ。ねえ、今の話、全部本当なの?」
認めたくないのはわかる。今の状況がどれだけ嘘だったらよかったかなんて誰もが思うことだ。
「本当だったら、なに?」
今井の求めていた答えとは真逆の答えが返ってくる。
「…な、なにって……。このままじゃRoseliaは…それでいいの?」
必死の問いかけも今の湊友希那には届かない。嫌だなんてこの際言えないだろ。自分のしてしまったことを考えると。
「(いいんだったら、この前あんな顔、してないはずだよね……!?)」
今井の必死の問いかけにも湊は反応は示さない。
「ねぇ、本当はメンバーになにか言いたいことがあるんじゃ……」
「知らない……!」
「友希那……?」
今確かに……いや。間違いない。今井の言葉に反応した。何かを隠すように誤魔化してはいるが。でもなんだ? 何に反応したんだ?
「(……自分でもどうしたらいいのか、わからない……)」
考えても答えなんて出るはずもない。俺は湊友希那ではないから。
「私は……っ、お父さんの為にフェスに出るの! 昔からそれだけって、言ってきたでしょ!」
「……友希那」
ふと湊の言葉と紗夜の言葉が重なった。フェスの為。いつしかそれは呪いのようにまとわりついて。離さない。
「帰るわ」
「か、帰ってどうするつもり……?」
「フェスに向けた準備をするだけよ」
「友希那……っ!」
結局止められなかった。なにもかも。俺はまた紗夜の居場所を守ってやれなかった。それどころか……突き放すようなことまで言って傷つけて。
「悪かった……」
それだけ言い残してスタジオを出て行った。
CiRCLE ロビー
「みんな帰っちゃったけど、何かあったの?」
ロビーに戻ると海藤さんが入り口の方を眺めてそう言った。
「なんかもう。その、いろいろあって」
「珍しくイラついてるね。夕君らしくもない」
らしくない……海藤さん。俺らしいってなんですかね。それにイラついているのは紗夜のことじゃない。湊のことだろう。ただのメンバー集め……か。
「すいません。休憩行ってきます」
それだけ言い残して俺はロビーを後にした。
ギスドリ回でした。
次回はきっと良くなります……たぶん。
もしかして皆さん自分の書くギスドリ好きだったりします……?笑
2022/5/20 追記
アンケートは5月26日に閉じます。