ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
第31話 道標
川沿いの道
ロビーを出た俺は手すりに肘を置いて川を眺めていた。
せっかく集まったのに。また紗夜は1人。挙句の果てに喧嘩までしたしな。普段だったらあんなこと絶対ないはずなのに。….…紗夜は見ていないようで見ていたんだな。俺と日菜のことを。
でも一度だって紗夜が日菜のことを話してきたことはない。俺はどうするのが正解だったんだろうか。あそこで冷たく突き放さずに”はいそうですね"って肯定してやればよかったのか?
Roseliaの崩壊。
紗夜との喧嘩。
「はぁー…….」
思わず重たいため息が出てくる。
明確な答えなんてない………それがとても。もどかしい。
「悩みごと?」
そう言って隣に現れたのは南雲だった。両手には缶コーヒー。片方は普通のコーヒー。もう片方はブラックのコーヒーだ。
「はい」
そう言とブラックの缶コーヒーを俺に渡してくれた。それを受け取り、今度は手すりに寄りかかるように体勢を変える。
「悪いな」
「僕でよかったら聞くけど。どうかな?」
缶コーヒーを開け、飲んでから答える。
「そうだな………紗夜と喧嘩? した。自分の思ったこと全部ぶちまけて」
南雲はあははと笑ってから「君たちも喧嘩するんだね」と言った。なんだかコイツと居ると調子狂うな………。それに喧嘩なんて今の一度もしたことがないんだ。
「氷川さんと喧嘩ってよくするの?」
「……するように見えるか?」
「見えない…かな」
喧嘩ってめんどくさいからな。疲れるし。前にも言ったけど女の人には口喧嘩は勝てない。それにその過程に行くまでに俺が折れて、謝る方が絶対に早いからな。
「なんだか羨ましいよ」
お世辞じゃない。本当に羨ましそうな表情を浮かべている。
「どこに魅力を感じたんだ?」
「幼なじみとかそこまで親しい友達って居ないから」
思えば南雲は基本1人でたまに誰かと話している程度だな。昼休みとかは……昼寝ばっかりでわからんが、誰かと一緒って言うのはあまり見ない。行き帰りはともかく普段の俺と同じだ。基本1人。
「僕には大切な人とか居ないからわからないけど。旭日君が喧嘩の中で自分の思いを伝えたのは、間違ってないと思う」
「結果がバンドの崩壊と喧嘩でもか?」
俺がそう言うと南雲は苦笑いを浮かべたから答える。
「それでいいとは思ってないんでしょ?」
見透かされているような気がしてならない。確かにいいとは思わないが、どうすればいいのかはまだわからない。でも紗夜が気持ちをぶつけてくれた今、前に進む時なのかもな。
「君ならなんとか出来そうな気がするよ」
「どうだかな。まぁ、なるようにしかならない……か」
さてと。いったい何をどうするのかをまずは考えないとな。あの様子だとあこと白金はダメか。紗夜も湊も。ってことは必然的に今井が残るわけだが、諦めてる可能性もある。正直諦めるてるはないと思うんだ。なんだかんだお節介を焼くタイプだし。
「打開策は見つかりそう?」
「さぁな」
ポケットから母さんの赤色のピックを取り出して、親指で弾いた。それをキャッチする。
「俺には血の繋がってない母親が居たんだ。去年の12月に亡くなったけど」
なぜか南雲には話したくなった。自分の過去のことを知ってほしくて。
そこから思い出話をする様に思い出を語っていった。
困っている人を見ると放っておけなくて。みんなから頼りにされる。そんな母さんを尊敬してた。まぁ……一度だってそのことを伝えたことはないが。
他にはギターが…音楽が大好きでさ。いつもほろ酔いで父さんと俺に音楽のこととか話してくれた。
それと昔結構やんちゃだったらしい。バレるのが嫌で隠してたけど、SPACEのオーナーから聞いてたから知ってる。
だから……いざ亡くなった時に、そんな母さんの代わりになりたかった。みんなの記憶から消したくなくて。でも….…俺なんかじゃ無理だ。そう決めつけたけど、やっぱり諦められなくて。居て当然だった人が居なくなって……わけわかんなくなって。逃げた。
「そこで出会った人にいろいろ聞いて。見て。やってみて。答えを出せた」
「どんな……答え?」
「代わりじゃない。俺に出来ることをしようって。簡単な答えだけど、それを見つけることが出来なかった」
今話すと長くなるからいつの日か話すが、あの出来事がなければ俺はここに居ない。ずっと迷っていたと思う。
「だから紗夜に伝えたこと自体を間違ってるとは思わない。ただ……もう少し違う伝え方もあたのかって」
「そっか。伝えるのって難しいもんね」
本当に難しい。言葉が少し違うだけで、伝わり方が変わってしまうのだから。
「でも、伝えないよりははるかにいいと、僕は思う。大切な人なら。なおさらね」
「そう…だな。南雲の言う通りかもな」
「友達や幼なじみを大切にする君らしいよ」
大切に……か。少ない友達や幼なじみだからこそ俺は今まで……。それに母さんにも言われてきたことだったし。
だったら最後まで信じることにしよう。紗夜のことを。伝えた言葉を。
だが今はもう少しだけRoseliaのことは考えたい。俺がどれだけ願おうとも、結局5人がまたRoseliaとして活動したいって思わない限りこの話の根本的な解決にはならない。
「そろそろ戻る。昔話に付き合わせて悪い。それとコーヒーありがとな」
「ううん。君の話を聞けてよかったよ。また何かあったら言って」
「じゃあその時は….…頼むな」
そう言ってからコーヒーをグッと飲みほしてからCiRCLEの方へと戻っていく。コーヒーがブラックな所、俺の好みを知っていたのだろうか。それともたまたまか。それは本人しかわからない。
それに……なんだろうな。最近話始めたのに、前から話していたような感覚。気が合うっていうのかな。
「(そういえばコーヒーはブラックで大丈夫だったみたいでよかった)」
──────☆
休憩から夕がロビーに戻ると、あまり見ない組み合わせの人達が居た。1人は海藤蒼真。そしてもう1人は。
「おーすっ、旭日。辛気臭い顔してどうした?」
「市野木さん良いところに。お願いなので消えてくれますか?」
「今日も冗談がヘビーだね……もうノックアウト寸前だよ….…」
今何か言いましたか? ばりのすまし顔の夕。いつも通りの日常だが、側からみればなんとも言えない状況だ。後輩に全く威厳がない先輩とそこそこ威厳がある先輩。
「匠には厳しいね、夕君は」
「優しくしてくれるのはまりなさんだけ。あぁ〜辛い」
「辛くてもなんでもいいんで、スタジオのレンタル時間過ぎてるって言いに行ってくださいよ」
そう言い残して夕はバックヤードの方へと行ってしまった。いつもなら自分で声をかけるはずなのにと思う2人だが、特に深く考えない為か、今のRoseliaの状態に気づくことはなかった。
スタジオ
「おーい。Roseliaさーん! レンタル時間過ぎてるよ〜って……リサちゃん1人?!」
夕の代わりに来たのは匠。部屋を開けて見ると、そこにはリサが1人だけ。いつもなら5人で練習しているはず。というよりもすでに片付けを終えて帰っている頃だ。
「あ……っ。え、もうそんな時間? すみません」
「リサちゃん、たしか今日は……バイトの日だっけ? 練習のあとにお疲れ様だねぇ」
なぜバイトの事を知っているのか。あまり深く考えないようにするリサ。この人はたまにどこで情報を得たのかわからない事を知っている時がある。
「あ……はは。そうですねっ。ま、まあRoseliaの活動と運営の為にもっ、がんばらないといけませんから〜……」
「そっか〜そうだよね〜。ところでリサちゃん。今度お茶しない?」
二言目にはこれだ。相変わらずナンパばかりだが、知らない人に声をかけているだけあってか。ずっと話しているといつの間にか話し込んでいることが多々ある。たくさん話題を持っているからだろう。
「お茶はまた今度でー……」
「そんな遠慮しなくていいのに。もちろんおれの奢りさ」
彼はまだ知らない。怒りの炎を目に宿して後ろに佇む1人の男を。
「じゃあその財布の中身からになるまで奢ってくださいよー。先輩……」
「あっはは〜。人はたまにジョークというものを言うのさ〜。あれー? 旭日、ちょっ!」
そんなことで彼を誤魔化せるのならいつもの倍、働くことはおそらくないだろう。もはやどちらが先輩となのかわからない。
─────☆
バイト終わり。俺はぼーっと歩きながら帰っていた。外はすっかり真っ暗で人通りも少ない。遅い時間に終わる時は基本自転車なんだが、ここ最近は歩きたい気分が多いんだ。
Bluetoothで繋がれたヘッドホンからはRoseliaの曲が流れている。ふと練習中のみんなの表情が浮かぶ。
楽しそうにドラムを叩くあこ。嬉しそうにキーボードを弾く白金。真剣な表情で歌う湊。その姿を見て嬉しそうに弾く今井。そして───時折笑顔を浮かべる紗夜。
正直こうなるとは予想できなかった。紗夜が練習中に笑顔を浮かべるようになるとは。人は人に常に影響を与え続ける。よく母さんが言ってたな。
ぼーっと考え事をしながら歩いてると、音楽が止まり着信音が流れる。ヘッドホンの通話ボタンを押して電話に出た。
「もしもし?」
『突然ごめんね、旭日君』
この声は今井か。珍しいこともあるもんだな。
「別に構わない。なにかあったのか?」
『….…うん。友希那と話してきたんだけどさ』
なるほどな。次の言葉はたぶん。
「本当によかったのかって?」
『すごいな〜旭日君は。エスパーみたい』
あの様子からしてたぶん俺と同じことを考えていたんだろう。たくさんある答えの中なから選んだのは…….。
ただ見守っていればいればいい。でも実際は正しい方へと導いてやるってことも大事。導くってよりかは一緒に考えて、その考えは違うとはっきり言ってやること。
俺の答えは今井とはまた違う答えだが、その気持ちはわかる。
「俺は紗夜に冷たい態度をとったこと。間違ったとは思わない。でも….…求めていた答えじゃなかった」
ほんの一瞬だけ寄り道をしてしまったが。俺は自分の道を進むことにしたよ。
「だから見守る。いつの日か…向き合うことを信じて」
『そっか。強いんだね、旭日君。アタシ迷ってばっかりでダメだな〜』
「俺はそんな強い人間じゃない。それに向き合うってそう簡単に出来ることじゃないんだ」
紗夜みたいにコンプレックスで向き合えないように。母さんのことを忘れたくて音楽から目を背けようとした俺のように。簡単に覚悟決めて向き合える人間なんてそう多くない。みんな迷うんだよ。大切な人を傷つけたくないなら尚更。
「だから向き合えたなら俺はそれでいいと思う。迷って考えて。相手の話を聞くことが大事だと思うんだ」
『….…なんかこの前冷たい態度とってた人の言葉とは思えないな〜』
「そう言う時もあるさ。お陰で理由はわかったからいいんだよ」
理由はどうあれあの態度は少し冷たかった感はあるな。別に突き放したいわけじゃないし、もう少し別の接し方も……。例えば優しくしてみるとか….…それは俺じゃない気がする。
『なんか元気出た! また相談してもいい?』
「こんな俺で良ければいつでも」
『ありがとう。優しいね、"夕君"は。じゃあね』
「おい、ちょっとま……」
電話が切れてしまった。最後のはどう考えてもおちょくってるだろ、今井のやつ。全く……安請け合いするのも俺の悪い癖だな。面倒ごとがやってくるのに、自分から拾いに行ってどうするよ。
それでも手を差し伸べるのはきっと母さんがそうしていたからだと思う。俺はどこまで行っても母さんの影響を強く受けるらしい。でも……悪い気はしないな。
また寄り道するかもしれない。それでも俺は……俺の想いを貫く。そう決めたんだ。
旭日家 自室 ベランダ
夜。バイトから帰った俺は何をするわけでもなくベッドでゴロゴロしていた。いつもはすぐに風呂入って、何かしているんだが、今日はそう言う気分でもない。
ふとベッドから起きてベランダへと足を運んだ。手すりに肘をついてぼーっと外を眺め始める。
諦めきれないという思いで今井が1人動いている。あこと白金も何かしらしてくれているみたいだ。
俺の方は………特に進展はない。そこまで時間は経ってないしな。
喧嘩…か。今までだって俺が口うるさく注意されることはあっても喧嘩まで発展するこはなかった。知ってるか? 女の人相手に口喧嘩は勝てないんだ。
今思い出しても背筋が凍りそうになる。母さんと父さんの口喧嘩。まぁ負けたのは父さんだけど。
「はぁー………」
思わず深いため息が漏れてしまった。
待つことしか出来ない。わかっているからこそ焦ったく思えてしまう。他に何か出来ることはないかと。思わずにはいられない。
こんな時母さんならどうするんだろう。ちゃんと相手に寄り添って考えるんだろうか。それとも思っていることを全部吐き出させるんだろうか。
そんなことを考えていると、ここ最近聞かなかった音が聞こえてくる。窓の開く音だ。紗夜の部屋へと視線を向けると、そこには少し気まづそうな表情を浮かべている彼女の姿があった。
「……私、あなたのことわかってなかった……」
わかってないなんてお互い様だ。一緒に居る期間が長くたって深い部分を知らないんだから。
「いいんだ。そんなことはお互い様だろ? ……あんな言い方して悪かった。ごめんな」
「(あんなことがあってもあなたは……いつも通り接してくれるのね)」
結局先にあんなこと言ったのは俺だからな。ここは素直に謝った。
「私の方こそ、ごめんなさい………」
沈黙がこの場を支配する。一応仲直りというのは出来たらしい。まだ心地いい沈黙ではないからか、思わず口を開いてしまう。
「気が向いたらでいい。日菜のことで何かあるなら相談してくれよ」
「日菜のことで………」
気づいてないわけないだろ。俺達は小さい頃からずっと一緒だったんだから。コンプレックスを感じてることも。唯一だったギターを真似されて憤りを感じてたことを知ってる。
「………それに母さんのことはもう大丈夫。俺は自分のすべきことをするだけだから。心配してくれてありがとな」
感謝の言葉を伝えたんだが対して返事はない。視線を向けると、紗夜は俯いていた。手すりを掴む右腕が震えている気がする。
「言えない……言えるわけ……ない」
「紗夜?」
俯いて表情は見えない。だが申し訳ないという思いはなんとなく伝ってくる。
なんで紗夜が悪いと思うんだ? 悪いのは……気を使わせてしまった俺なのに。ずっと母さんとのことと日菜のことで板挟みにしてしまったのに。
「ごめんなさい……私……あの時、部屋を……見てしまった……」
あの時? あの時って……なんだ?
すぐわかったはずなのに。気づかないフリをしようとしている。そんなこと……絶対にしてはいけない
「紗夜……もういいんだ。あの時のことは」
どれだけ物に当たろうが、自分を責めたって母さんが帰ってくるわけじゃないことくらいわかってた。それでもああしないとおかしくなりそうだったんだ。あまりにも無力な自分に。結局逃げ出してしまったが。
血の繋がりなんてどうでもいい。ただ悔しかったのは、病気のことをわかってあげられなかったことだけ。そして俺はいろんなことを学ぶことができた。
困っている人が居たら手を差し伸べたように。
人生という道で間違った道に進もうとする人に正しい道を示したように。
「今の俺がやりたいことは誰かを助けることなんだ。母さんがずっとそうしてきたように」
偽善って言われたっていい。らしくないこともわかってる。それでも───この信念を曲げたくないんだ。
「だから俺はいつまでも側に居る。頼りたい時に……都合よく使ってくれて構わない。少しずつでいい。前に進もう」
「(あなたは……強いのね。私は、自分のことでいっぱいで……だけど夕は違う。いつも気にかけてくれた)」
紗夜と日菜がわかり合うにはもう少し時間がかかるだろう。これは日菜が変わる変わらないの問題じゃないと、俺は思う。紗夜がどうやって自分として。どう日菜と向き合うのかを選ばないと意味がない。とっくに日菜は向き合おうとしているから。
今はそのことよりも大事なことがある。
「Roselia。本当になくなっていいのか?」
きっと今の紗夜なら。大丈夫。
「……良くない」
そう言うと口籠ってしまった。
「……さっき日菜に言われて気づいたの。演奏している自分が笑顔だなんて」
そのことやっぱり気づいてないのか。普段の練習見てない日菜が気づくってことはよっぽど変わったのか。それとも単によく紗夜のことを見ているのか。
「楽しいんだよ、きっと。あの5人で演奏するのが」
「……ええ」
Roseliaという存在がどれだけ紗夜に影響を与えたのかがよくわかる。今までの紗夜が演奏中、楽しそうにしているのを見るのはなかった。だけど今は違う。5人で演奏している時の紗夜はよく笑うようになった。
「Roseliaが解散なのは嫌。だけど湊さんの気持ちがわからない。本当にメンバーが誰でもよかったのかが」
そのことについては本人に聞かないとわからない。素直に話してくれるとは限らないけど。少なくとも今回の場合はしっかり伝えてくれないと変わらない。
何か通知が来たのか、紗夜がスマホの画面を見始めた。
「湊さんから……」
とうとう重たい腰を上げたか。決心がつくまで少し時間がかかったみたいだが、まぁ大丈夫だろう。
「もちろん行くんだろ?」
「そのつもりよ」
「そうこなくちゃ」
そう言い残して俺はベランダを出た。どうやら今井が何かしたらしい。もしくは湊が決心して話をしようと思ったのか。どちらにせよRoseliaがこのまま続くか、解散するかは今度の話し合いにかかっている。こればかりは5人の問題だ。俺が口を挟むのは違うよな。
アンケートは明日で終わりますが、もう一つアンケートあるので暇があったら答えてみてください。
2022/5/26
アンケート閉じました。思った以上に票があって作者は嬉しいです。ぜひ参考にします!