ガールズバンドに振り回される日常   作:レイハントン

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第33話 進むためには───

第33話 進むためには───

 

 朝

 

 今日も朝からバイト……と言いたいが、この日は午前中に用事が出来た。突発的なことで他のバイトメンバーに迷惑をかけてしまうが、そこは目を瞑ってほしい。

 

 自転車で向かっているのは病院。一昨日過労で倒れた羽沢のお見舞いに向かっている。一応現場に居合わせたからな。それに日頃通っている羽沢珈琲店のオーナーの娘さんだ。行かないわけにはいかない。

 

 体調に関しては少し心配だが、看護師さんの大したことはないって言葉を信じることにした。お見舞いの品は2、3日なら持っていかなくても大丈夫だろう。長期間の入院ならまた話は変わってくるが。

 

 病院……。

 

 面会時間も限られている。出来る限り急いで病院へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 病院 病室

 

 受付で羽沢の居る病室を教えてもらい、扉を開けて中へと入った。

 

「元気そうだな」

「旭日先輩、来てくれたんですね」

 

 思った以上に元気そうだ。倒れた時とは違って顔色もいい。これじゃあ退屈かもな。

 

「巴たちはまだ来てないんだな」

「はい。もうすぐ来ると思いますよ」

「そうか。やることなくて退屈じゃないか?」

「えっと……少しだけ」

 

 苦笑いを浮かべながらそう答える羽沢。ベッドの横に置いてある椅子に腰をかけてから鞄から数冊小説を取り出した。

 

「趣味に合うかはわからないが、気が向いたら読んでみてくれ」

「ありがとうございます! せっかくなので読んでみますね!」

 

 と言っても俺からのおすすめではなく、3度の飯より本が好きな従兄弟からのおすすめだ。何十冊って紹介してくるもんだから俺の記憶に1番残ったものを買って持ってきたわけだ。電話で話したんだが、1時間くらい引っ張られた………。

 

「あっ、この小説気になってたんですよ」

「そうなのか? ならよかった」

「でも珍しいですね。旭日先輩って本読むんですか?」

「それは本が好きな従兄弟からのおすすめだ」

「そうなんですね。ありがとうございます」

 

 本バカもたまには役に立つんだな。まぁそのうち紹介するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく羽沢と話していると、ノックの音が聞こえてきた。すぐにドアが開いて現れたのは上原達。どうやらお見舞いに来たようだな。俺の方が一足早かった。

 

「つぐー調子どうって…旭日先輩も来てたんですね!」

「まぁな。2人もお見舞いか?」

「そうです」

 

 来たのは2人だけのようだ。他の2人は……。

 

「ひまりちゃん、巴ちゃん! 来てくれたんだね」

 

 2人の姿を見るなり、笑顔を浮かべる羽沢。どこか申し訳なさそう笑顔ではなく、心の底から嬉しそうな笑顔だ。

 

「よっ。顔色、思ったよりいいな」

「うん。もうほとんどよくなったの。疲れで熱が出ただけみたい。……みんなには迷惑かけちゃって、ごめんね」

「迷惑なんて、そんな訳ないじゃん! つぐがよくなってよかったよー!」

 

 1番心配していたであろう上原がそんなことを言う。倒れた日の晩は眠れなかったんじゃないかって勝手に思っている。

 

「ああ。ほんと、生徒会室で倒れてるのを見た時はどうなるかと思ったぜ」

「え、えへへ……。もう無理はしません! でも、あの時2人が来てくれて本当によかったよ。旭日先輩には感謝してもしきれないくらいです」

「気にするなって言っても無理があるな。たまたま居合わせてよかった」

「本当に尊敬しますよ、旭日先輩」

 

 この子達はひたすらに良い後輩だ。こんなにも先輩を敬ってくれるとは………。どこぞの厨二病な中学生と後先考えずに突き進む奴とは大違いで、人は本当に違うんだなと思い知らされる。

 

「そういえば、蘭ちゃんとモカちゃんはどうしてるの?」

「あー、それは……」

 

 その微妙な表情。まだ解決はしてないか。

 

「……つぐに隠してても、仕方ないか。実は……」

 

 なにがあったのか事の経緯を羽沢に話始める巴。喧嘩した所にちょうど居合わせてしまったが、改めて聞くと少し信じられない。あの仲良し5人が喧嘩するようには見えなかったからな。

 

「……そっか。そんなことがあったんだね」

 

 自分の居ないところであった出来事はそれはそれで辛いところだろう。寝て起きたら喧嘩していたなんて普通は嫌だしな。

 

「蘭のことが心配だったとはいえ、アタシも感情をぶつけすぎた。蘭には本当に申し訳ないことをしたよ。……って、今みたいに、蘭にもうまく謝れればいいんだけどな」

 

 本当に申し訳なさそうな表情を浮かべて言う巴。そう言えたら苦労はしない。そこまで考えているのに空回ってしまうのはやはり……。

 

「前にも言ったと思うが、俺は伝えてよかったと思う。思っているだけじゃ、相手には伝わらない。テレパシーで伝えるなんて出来やしないんだ」

 

 そんなことが出来れば言葉なんていらない。

 

「蘭ちゃんも、きっともう一度話せばわかってくれるよ」

「……だと、いいんだけど」

「……やっぱり、5人全員揃ってないとちょっと寂しいね」

 

 ずっと一緒にいるとそう感じるものなんだな。紗夜と日菜とはずっと一緒に居るのは事実だが、適切な距離感だったというか。なんというか。お互いにそこまで踏み込んではいない。

 

「私達、みんなで一緒にいられるようにって、バンドはじめたのに……」

「……だな」

 

 バンドを始めた理由は一緒に居られるようにか。なんともAfterglowらしい。

 

「きっかけはなんだったんだ? バンドを始めた」

「そもそものきっかけは、中2の頃、クラス替えで蘭だけが別のクラスになったことです。それが原因で蘭は、授業に出ずに屋上で過ごすようになって……」

 

 美竹には悪いとは思うが簡単に想像出来てしまうな。ちょうど思春期だろうし、ずっと一緒に居ることを考えると仕方ないことか。

 

「どうしたら前みたいにみんな一緒の時間を作れるかな? って考えた時に、つぐが『バンドやろうよ!』って言ったんです」

「あの時は、突然何を言うんだって思ったけどな」

「あ、あはは……」

 

 苦笑いを浮かべる羽沢だが、少し意外だな。ってきり上原辺りが何かに影響されてバンドやろうと言ったものだと思ってた。そうか……羽沢なんだな。

 

「けど、バンドを組み始めてから蘭は、授業に出るようになりました。屋上は…蘭だけじゃなくて、アタシら5人の拠点みたいになって」

「うん、そうだったね」

 

 なにも言わず話す2人の言葉に耳を傾ける。

 

「結成してすぐの頃に屋上で見た夕焼けがチョーキレイで、それでバンド名を夕焼けって意味の『Afterglow』にしたんですよ」

「英和辞書で片っ端からそれっぽい単語調べたっけ」

「そうそう! なんか、思い出すと笑える……!」

 

 楽しそうに話す3人を見ると、今までの思い出は本当に楽しいものなんだとわかる。どう感じるかはやっぱり人それぞれだからな。俺みたいに表情の変化がない奴は特に。

 

「ふふっ。バンドをはじめたての頃は、わからないことばっかりだったけど……それも楽しかったよね。みんなで一緒に考えて、いろんな事、経験して……」

「どれも大事な思い出だな」

「はい…!」

 

 笑顔で答える羽沢。

 

 最初はなにをやっていけばいいのかわからないものだ。それを楽しいと思えることはすごく大事なのだろう。

 

「……蘭は、今、バンド楽しいのかな」

「……え?」

 

 ふと上原がそんなことを言った。

 

「最近、バンドしてる時の蘭、つらそうな顔ばかりしてる気がするの。演奏も歌も、調子悪そうだし……」

「……もしかして蘭、バンドと家のことで、板挟みになってるのかな」

 

 全員暗い表情を浮かべている。少なくともなにか悩みがあるのは確実だろう。ここ最近電話をしによくロビーに訪れることが増えたからな。時折大きな声を上げていることもあった。

 

「バンドが……バンドがもし、蘭ちゃんを苦しめるものになっているんだとしたら、もう、やめたほうがいいのかな……」

「そんな……!」

 

 驚いた表情を浮かべる上原。話が少し急展開な気もする。なにもやめるまではいかなくていいと思う。ライブに出れば目当てで来てくれるお客さんだってたくさんいるんだ。誰かの力になっている。

 

「バンドは、すごく楽しいよ。みんなと一緒に演奏するのもすごく好きだけど……でも、つらい思いをしてる友達のことを放ってはおけないよ……」

 

 脳裏に浮かぶ母さんの言葉。

 

『クラスの子が最近元気ない? アンタにしては珍しいことを言うのね。……気になるなら放っておかないで手を差し伸べてあげたらどう? 辛い思いをしているかもしれないし。しない後悔より、する後悔よ』

 

 涼子からの相談ごとをそのまま母さんに伝えた時に言われたことだ。羽沢も同じ気持ちなんだろうな。優しい羽沢らしい。

 

「アタシもこれ以上蘭をつらい気持ちにさせたくはない。アタシ自身、この間の事で蘭につらい顔をさせてるから……。もう、同じことはしたくない」

 

 こちらも巴らしい真っ直ぐな気持ちだ。そして2人からそんな風に思ってもらえる美竹はとても幸せだと思う。

 

 だけど……。

 

「ひまり、どう思う?」

「さみしいけど……でも、これが蘭のためになるのなら、お休みしたほうがいいのかな」

 

 悲しそうな表情を浮かべる上原。そんな彼女を見ている中、脳裏に浮かんだのは、普段なら絶対に見せない怒った表情の紗夜。

 

「蘭自身が落ち着いたら、またバンドをやればいい。ガルジャムだって、きっとまた出る機会があるはずだ。今は、蘭のことを1番に考えよう」

「うん、そうだね」

 

 本当に……いいのか?

 

『あなたはまた何も言ってくれないのね! 日菜には何か言って、私には何も言ってくれないじゃない!!』

 

 そして紗夜が大きな声を上げた時の言葉を思い出した。

 

「それが美竹のためになるのか?」

 

 彼女のためを思っての発言だとは思う。だが、バンドと家柄の板挟みが辛いと本人の口からは聞いていない。美竹が思っていても口に出さないってタイプかもしれないが……。

 

「ちゃんと本人の口から聞いた方がいいと思う。わかっているつもりは……時にわかっていない時よりも残酷だ」

「蘭ちゃんから直接…ですか」

 

 今の現状それが出来たら苦労しないのは間違いない。わかった上で俺はこんな提案をしている。紗夜と言い合いをして思った。本当の思いを聞きたい時は喧嘩をした方が近道と。

 

「巴たちの考えを伝えた上でちゃんと聞いてあげるといい」

「それでも……言ってくれない時は」

「そうだな……切り口を変えてみるしかない。具体的な方法は伝えることは出来ないが、1つではないさ」

 

 俺の場合は紗夜との口喧嘩だった。普段は紗夜に対する焦ったい気持ちはぶつけないが、ああいった口喧嘩をしたからこそ、伝えられたのかもしれない。………そう信じたい。

 

「根拠はない。でも3人を信じている。話してみるといい」

「はい……! 旭日先輩にはいつも助けられてばかりですね」

「困った時はお互い様……だろ?」

「陽子さんもよく言ってましたね」

 

 Afterglowのメンバーは母さんと面識があるからな。俺にはない思い出があるんだろう。いつか……聞けるといいな。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく話していると、病室の扉が開いた。ようやく来たようだな。今回の主役とも言うべき人間が。

 

「つぐ〜来たよ〜」

「モカちゃん! それに、蘭ちゃんも!」

「お〜。ゆー先輩も来てたんですな〜」

「まぁな。相変わらず呑気だな」

 

 その緩い話し方で話を聞いていると眠くなってくる。学校の授業と同じ類だ。

 

「蘭……」

「巴……」

 

 なんだか気まずい雰囲気が漂っているな。

 

「俺は失礼する。羽沢、無理はするなよ」

「あ、はい。本当にありがとうございます」

「じゃあな」

 

 上手く伝えられるかどうかはわからない。だが、伝えなければ一生このままかもしれないとわかっているのなら。きっとこの5人はまた一緒に歩んでいけるはずだ。

 

 Roseliaだってきっと………な。

 

 そんな思いを胸に、静かに病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 病院 通路

 

 羽沢のお見舞いのことで忘れようとしていたが、どうにも忘れられないらしい。お前の罪なのだから忘れてはならないという神の意思か。それとも……忘却してはいけない記憶なのか。

 

 邪魔にならないよう窓際の方に立ち、外を眺める。

 

 今でも鮮明に覚えている。母さんが亡くなった日のことを。悔しさ。怒り。悲しみ。色んな感情が俺の中で渦巻いていた。中でも1番大きかったのは………怒りだ。なんでもっと早く気づいてあげられなかったのかって。

 

 結局よくわからなくなって、俺は家を飛び出した。

 

「旭日くん?」

 

 現実に引き戻したのは最近ではすっかり聴き慣れた声。

 

「南雲か……隣の人は」

 

 ふと視線が隣に居る美人の女性に移った。この人はもしかして……。

 

「お母さんだよ」

「紘翔がいつもお世話になってます」

 

 南雲のお母さんか。それにしても美人な人だな。本人と同じ髪の色。少しだけ薄い気もするが、なによりも澄んだ青色の瞳はどちらも同じらしい。雰囲気もどことなく似ている。

 

「お友達?」

「え、あっ……」

「そうです。バイト先も同じで、いつも助けられています」

 

 決して嘘を言っているわけではない。前者も後者も。

 

「そうなのね。お友達が居て安心したわ。この子いつも出かけたりしないから心配してたのよ」

「お母さん、そんなこと言わなくていいよ……!」

 

 なんか意外な一面が見れたな。普段はもっとこう……落ち着いた感じで居るし。だからこうして照れている一面がなんだが新鮮に感じる。

 

 なんて考えていると、南雲のお母さんがじっと俺のことを見つめてくる。・・・何か気に触るような態度だったか?

 

「お母さん、どうかしたの?」

「ううん。じっと見てごめんなさいね。知り合いに雰囲気似ている気がしただけよ」

「そう……ですか。俺はこれで失礼します」

 

 とりあえずこの場を後にした俺は出入り口の方へと歩き始めた。知り合いに雰囲気が似ているという言葉は少し引っかかったが、今考えるべきことではない。

 

 




なんだかんだ後輩思いな主人公。

2022/6/10 追記
現在のアンケート結果に作者は少し驚いてます笑
作者的にはギスドリ書いている方が楽しいのですが、明るい話が好きという方のためにも非日常書いていこうと思います。
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