ガールズバンドに振り回される日常   作:レイハントン

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第34話 消えた笑顔

第34話 消えた笑顔

 

 今日はRoseliaがバンド活動出来るのかどうか決まる日。湊が指定した時間はまだまだ先だ。今更俺がどうしようが変わらないのはわかってる。それでも少しだけソワソワしながらバイトをこなしていた。

 

 ロビーでスタジオの予約表を見ていると、海藤さんがやってきた。

 

「お疲れさまです、海藤さん」

「お疲れ、夕君。聞いたよ? この前珍しく午前のバイト休んだんだって?」

 

 この前の午前中といえば、羽沢のお見舞いに行った時か。急な事態だっとはいえいつも行っているお店のマスターの娘さんが倒れたからな。まぁ……あの時もいろいろあったな。

 

「お見舞いですよ。いつも行ってる喫茶店の子が倒れちゃったので」

「あれれー? 夕君の彼女ー?」

「違いますよ。それに恋愛なんて興味ないんで」

 

 隣でまたまた〜とか言ってる海藤さんを横目に予約表をもう一度見返す。この所、新しいバンドが増えたからな。特にぶっ飛んでるのがハロー、ハッピーワールド!だ。あのライブは別の意味で忘れられない。さすが弦巻こころだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもとあまり変わらないバイトの時間を過ごし、あっという間に午前が過ぎた。

 

「先に失礼するよ」

「お疲れ様です」

 

 午前中のシフトを終えた海藤さんを見送り、俺は1人ロビーで外を眺め始めた。

 

 海藤さんの代わりに来るのは涼子だから比較的楽だな。

 

 Roseliaがスタジオに入って数分。今頃いろいろ話し合いが続いてるんだろう。今回はスタジオに行く用事はないし、出てくるのを待つしかない。他人事みたいになってはしまうけど、大丈夫だろう。

 

 休日の日だからかカフェテリアにはたくさんのお客さんが居る。そのなかに紛れ込んでお茶をする輩はシフトに入ってないから、注意に行くこともない。つまりあれだな。暇ってことだ。

 

「この時間帯はいつもこうなの?」

 

 ぼーっと外を眺めていると、話しかけてきたのは南雲だった。俺が教育係だから仕方ないが、シフトはほとんど同じだな。

 

「いつもこうだな。夕方になればまた忙しくなるさ」

「そっか。こんな時間もなかなかいいもんだね」

「だろ?」

 

 今、ラウンジに今後のバンド活動について話しているのであろうお客さんが複数人だけ。スタジオは1つを除いて埋まっている。この暇な時間が、俺はなによりも好きだ。考え事をできるからな。もちろん忙しいのもそれはそれでいい。

 

「旭日君って意外と真面目だよね」

「意外とってなんだ……と言いたいが、学校だとぼーっとしてるか寝てるかだしな」

 

 そんなことをしてるから紗夜に怒られるんだよな。口うるさく言われているうちは心配されてるってことなんだろう。だが、このところはいろいろあってそうもいかないのが現実。

 

「僕よりは良いと思う。君はたくさん話せる人が居て、少し羨ましいよ」

「友達。なぜ作らない?」

「えっとね……実は友達作るの苦手で」

 

 あんまり人と関わりたくないタイプなのだろうか。それなのにCiRCLEでバイトは話が変わってくる。別の理由なのか?

 

「僕の母親は元々芸能人なんだ。DiVAの南雲亜愛梨。聞いたことくらいある?」

「芸能人。美人な人だとは思ったが、まさか芸能人だとは」

「本当に知らなかったんだね……」

「名前しか知らなかった」

「そ、そっか」

 

 親が元芸能人だと何が大変なんだろう。普通考えられるのはファンだったりするやつが会いたがる。後はいろいろ期待されるとかそのくらいか。よくわからないが。

 

「友達になりたいって言う人は大体お母さん目当てでね。それにいろいろプレッシャーで……」

「なるほどな。親が有名人っていうのも大変ってことはわかった」

 

 予想というか、まぁ当たってしまったわけだが。こんな状態で俺は違うから友達になろうなんて言ったって信じられるわけがない。今までだってそう言って近づいてくる奴が居たはずだし。だったら少しずつ。手探りで探していくしない…と思う。

 

「少なくともここで働いてる人はある意味変な人ばっかりだから気にしなくても良いと思うけどな」

 

 みんな良い人には変わりないんだけどな。ちょっと特殊過ぎてなんとも言えない。アイドルか……萩野は………いや大丈夫だろう。

 

「それだと君もそうなっちゃうよ?」

「そうだな。厄介ごとに巻き込まれるのに、自分から巻き込まれにいく変な奴だ」

 

 こればっかりは受け入れるしかないんだ。お節介でもバカ真面目でもなんでもいい。母さんの意思を俺は残したいんだ。なかなか上手くはいかないのが現状だがな……。

 

「君は不思議な人だね。最近話すようになったのに、昔から知ってるみたいな感じだ」

「なんだそれ……って言いたい所だが、俺もそんな気はする」

 

 不思議だ。もしかしたらなんらかの繋がりがあるのかもしれない。それがなんなのかはわからないが。そう思える程、南雲に感じるものがある。

 

「俺も友達を作るのは苦手……いや、作ろうとすらしなかった。1人で居るのが楽だったし」

 

 人と関わるのが本当にめんどくさかった。それでも。智紀と涼子はそんな俺でもいいと言ってくれた。他人にも。何もかも興味がなかった。そんな俺でも。

 

「信じられる友達が居るってなかなかいいもんだぞ」

「君が言うとなんだか説得力があるね」

「そうか?」

 

 だから今度は。俺の番だ。

 

「こんな俺でも出来るんだ。……紘翔」

「君となら。良い友達になれる気がするよ。夕くん」

 

 そう言うと紘翔は右手を差し出してきた。

 

 なんの迷いもなく俺はその手を握り返して、固い握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

「2人ともお疲れ様」

 

 ロビーで話し込んでいると、涼子が来たようだ。いつの間にかそんな時間になっていたらしい。

 

「南雲君は仕事慣れてきた?」

「うん。おかげさまで」

「慣れてもらわないとポンコツが多い時大変だからな」

 

 主に真宗と市野木さんだが。ポンコツと言うよりは、仕事が手につかない時が多いというか。いや紛れもないポンコツだな。

 

「そうだ。今のうちに楽器のメンテナンス教えるか」

「それがいいかもね。もうすぐしないといけなかったし」

 

 1部屋空いているしちょうどいい。涼子の言う通りもうすぐメンテナンスしないといけないから、当日バタバタしながら教えるのよりかは遥かにましだ。

 

「じゃあ行くか。……紘翔」

「……うん。夕くん」

 

 ちょっとだけ……距離が縮まった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 だがこの日1番驚いたのはふと家の話をしていたことだった。そして帰る方向どころか、俺の家の先の方から紘翔が来ていることに心底驚いたわけだ。いつもは先に帰るからな……。朝も俺より行くの早いみたいだし。

 

 

 

 

 

 

 

 バイト終わり。どこにも寄り道をせずに紘翔を乗せて真っ直ぐ帰宅。バイクから自転車に乗り換えて、目的地を定めずに走らせている。結局辿り着く場所は決まって来るんだが、そこにたどり着くまでの過程が違う。

 

 こうしてたまにサイクリングをしているのは、1人で考えたい時だ。ここ最近はいろんなことがあり過ぎた。紗夜には冷たくあたってしまったし。羽丘に行けば羽沢が倒れて、ちょっとした騒ぎになった。お見舞いに行けば俺が怒られるし。Roseliaはバラバラになるしで、あげればキリがない。

 

 高校生って多感な時期だからな。いろいろ問題が起きてもしょうがない。って言ってる俺も高校生なんだが……。

 

 母さんが生きていたら……もっと普通の生活だったんだろうか。学校で授業受けて。バイトして。友達と遊んで。めんどうごとを自分から引き受けるなんて絶対なかった。何かと理由をつけて、逃げて。その結果が今の紗夜と日菜なんだろう。

 

 俺の行動1つで変わるなんてたいそうなことは思わない。でも……少しくらいは何か違ったかもしれない。

 

 川沿いの道を走っているとスマホが震え始めた。たぶん電話だろうけど、相手は誰だ?

 

 自転車を道の端に停めてから電話に出た。

 

「もしもし……」

『もしもし。今、いいかしら?」

 

 一瞬スマホの画面を見ると相手は湊友希那だった。これまた珍しい相手からの電話だ。いったい俺になんの用事だろうか。悪いことをした覚えは全くないんだが。

 

「大丈夫だ。……何か用か?」

『今回のことであなたにも迷惑かけてしまったから。ごめんなさい』

 

 なんだ。そんなことでわざわざ電話してきたのか。迷惑っていう迷惑はなかった。タイミング悪く気まずい所に毎回現れてしまったのは俺の方だし。

 

「迷惑とは思ってない。タイミングが悪かったのは俺の方だ」

『なら…いいのだけれど』

 

 その電話をしてきたってことはRoseliaの活動は再開するっぽいな。紘翔にメンテナンスのやり方を教えていたら、いつの間にか帰ってたからな。結果を知ることができなかったし、ちょうどいい。

 

「話はそれだけか?」

『……1つだけ。聞きたいことがある』

「なんだ?」

『あなたのお母さんのことよ』

 

 結構ストレートに聞いてくるんだな。そう聞かれた方が俺は答えやすくていいんだが。……でもなぜ湊が俺の母さんのことを知りたがるんだろうか。……あ、あんなこと言っておいて気にならない方がおかしいよな。

 

「俺の母親は旭日陽子だけど、知ってるのか?」

『ええ。前にお父さんから話を聞いたことがあるわ』

「お父さん? どういうことだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 なるほどな。母さんと湊のお父さんには接点があったのか。言われてみれば俺がまだ音楽に興味がない時にテレビに出ていた人とセッションしたとかって話をしていたな。そこ相手が昔インディーズバンドをやっていた湊のお父さんとは。夢にも思わないだろそんな話。

 

『急な話でごめんなさい』

「いや。母さんのことを知れてよかった。ありがとな」

『お礼を言われることじゃないわ』

「礼を言うほどのことだ。またな」

 

 通話を切り、スマホをポケットにしまう。すっかり話し込んでしまったからだろう。辺りは暗い。俺は来た道を引き返し始めた。

 

 意外な接点に少し驚いた。正直母さんの交友関係をたどるとキリがない。SPACEのオーナーは昔の母さんはあんな風じゃなかったって言ってたけど、想像がつかない。バンド一色だったらしいな。……あの父親がよく落とせたな。

 

 世の中わからないもんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急ぎめに帰ってきた俺は自転車を駐輪場に止めてマンションの階段を上がっていく。今日も退屈じゃない1日だったな。他は何もないだろう。そう思った矢先。

 

「置いてくるだけなんだから、着いてこなくていいわよ」

「えー。たまにはいいじゃん〜」

 

 珍しいというか。なにをしてるんだというか。2人が一緒に居るのを久しぶりに見た気がする。とか言ってる場合ではない。ちょうど鉢合わせしてしまった。

 

「ゆーくんおかえり。寄り道してたの?」

「まぁな。2人は……ご飯持ってきてくれたんだな」

「たまには食べに来なさいってお母さんが言ってたわよ」

 

 紗夜からタッパーを受け取りながら返事をする。

 

 ここ最近はバイトやらで忙しかったからな。しばらく氷川家に行ってない。こうしてたまにご飯を作ってくれるだけでもありがたいことなのに、心配までかけてしまうとは。

 

「お父さんもゆーくん連れてこいって言ってた!」

「そ、そうか……近いうちに行く」

 

 おじさんのことはハッキリ言って苦手だ。行くと必ず怖い視線を感じるんだよ……まるでお前には紗夜と日菜は渡さないからなと言わんばかりの目。そう、おじさんは娘を溺愛しているのだ。とても困ったことに。

 

「日菜、帰るわよ」

「えー、せっかくだしお話していこうよ」

 

 いい機会か。2人にも話しておくとしよう。

 

「2人に話したいことがある。少しだけでいいから」

「ゆーくんもこう言ってるし。ね? おねーちゃん」

「……少しだけよ」

 

 たぶん紗夜はわかっていると思う。これから何を話すのか。今までなぜ話さなかったのかは、もうわかっている。俺も紗夜と同じで迷惑をかけたくなかったからだ。あんなこと言っておいて話さないわけにもいかないからな。

 

 紗夜と日菜を家に入れてリビングで改めて話すことにした。普段使わない部屋だからだろう。俺の部屋と違って綺麗だ。

 

「話ってなに?」

「母さんと俺のことだ」

 

 そこまで言えば察しがつくだろう。紗夜は気づいたみたいだ。

 

「俺は母さんとの血の繋がりがないんだ。別の母親が居る。それが誰かまではわからないが」

「それって……ゆーくんとおばさんが親子じゃないってこと、だよね?」

「簡単に言えばそうだな」

「そっか……」

 

 血は繋がってはいない。だけど養子って形で書類上は家族。父さんからそう聞いた。なぜそうなったのか、経緯は聞いてない。聞けば教えてくれるんだろうけど、正直今は知りたいとは思わないんだ。

 

 たとえ血が繋がっていなくたって。

 

「それでもゆーくんはゆーくんでしょ? あたしとおねーちゃんの幼なじみ」

 

 そう笑顔で告げる日菜。こうなるんだろうなとは思っていても、実際言われると少しばかり嬉しくなる。

 

 変わらず接してくれる日菜。気をまわしがちだけど、変わらず接しようとしてくれる紗夜。この事実を告げても変わらないものが、そこにはあった。もちろん変わったこともあるけど、それは良い方向にだ。

 

「俺は旭日陽子の息子だってことは変わらない」

 

 本当の親と向き合わないといけなくなったとしても。その事実だけは変えたくない。

 

「さてと。辛気臭い話は終わりにしよう。腹減ったし」

「うん! そうだっ! 見たいテレビあったんだ!」

 

 そう言うとテーブルに置いてあるリモコンを取ってテレビを見始める。帰ってから見ない辺り日菜らしい。

 

 紗夜達が持ってきてくれたおかずはまだ温かいからいいとして。炊飯器のご飯はレンジで温めないとか。

 

 台所に行ってご飯を用意していると、紗夜が何も言わず用意を手伝い始めた。

 

「また洗い物ためているのね」

「今度やろうと……」

「その言い訳は聞き飽きたわ」

 

 いつもの紗夜の小言。鬱陶しいはずの言葉なのに、なんだか今はホッとしている。あのまま紗夜が心を閉ざしてしまったらどうしようとも思った。でも、きっかけ1つで変わったんだ。

 

 何事もどう転ぶかわかんないな。意外と日菜と向き合えるのも早いのかも。

 

 再び訪れる沈黙。前みたいに俺から何か言うわけでもなく、紗夜が何か言うわけでもない。気が向いた方が話すいつもの沈黙。

 

「夕……日菜の件だけど。私はまだ、向き合える程心の準備が出来てない………だから」

 

 その言葉が出てきただけでも大きな成長だと俺は思う。以前なら一言も発しなかったからな。Roseliaという存在がすぐなからず影響しているのだろう。

 

「少しずつでいいと思う。何かあったら何度でも背中押してやる」

「あなたがそう言ってくれるなら……その時は頼りにするわ」

 

 変わったのはメンバーの間の関係だけじゃなく、俺と紗夜の関係も少しだけ変わった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

───────☆

 

「(夕は変わった。だから私も……)」

 

 変わってみせる。そう改めて誓う。

 

 ふと彼を見ると、洗った皿をタオルで拭いて元の位置に戻していた。普段ぼーっとしているような腑抜けた表情とは違い、いつもの無愛想な変化しない真顔。

 

 彼が変わったのは考え方や行動だけではない。それに気づいたのはここ最近。

 

「(あの日から……笑わなくなったわね)」

 

 声を出しながら笑っている姿を見たのは──いつだったろう。

 

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