ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
第36話 クライブ
「えっと……それでぶたれたの?」
「まぁそうなる」
今日はクライブの日。そして待ち合わせの相手、紘翔が開口1番に聞いてきたことに答えた。質問はシンプル。なぜほっぺたが赤いのか。
いやな。これは事故であって、俺はあまり悪くないわけだ。部屋を片付けていなかったし、もっと余裕を持って起きればよかった。しかし、そう簡単にはうまくいかない。
少し時間を遡ろう。
旭日家 自室
「早くしないとぶつわよ」
俺にとっては開口1番の言葉が平手打ちの宣言。そもそも、朝、平手打ちをかましてこようとする奴がいるのだろうか。………いるんだよな。母さんも容赦なかったが、紗夜も同じくらい容赦がない。おそらく母さんの入れ知恵だろう。
「動きなさい」
いや、確かにせっかくの休みの日に起こしてくれと頼んで悪かったとは思う。今日はとうとうクライブの日だ。しかし、朝が少し早い。紘翔を待たせるわけにはいかないが、かと言って………。
「ぶつだけでは足りないということかしら?」
「なにをする気なんだ? と聞きたい所だが、想像もしたくないな」
「実際に体験した方がいいと思うけれど」
「起きるから勘弁してくれ」
一部の人間にはご褒美だろうが、俺からすると受ける必要のない痛みだ。知ってるか? 紗夜って意外と容赦ないんだからな?
「バンドの調子はどうなんだ?」
とりあえずベットから出て、窓の方まで移動した。軽く背伸びをしながらそんなことを聞いてみる。
「問題ないわ。もうすぐコンテストだからみんな気合いが入ってる」
「そうか。ならいい」
以前のように練習が出来ているなら、なんの問題もない。いろいろ問題があったからこそ、Roseliaの結束力が高まっていると信じたい。
「誰かと待ち合わせはしているの?」
「紘翔がもうすぐ来るはず」
「待たせないようにするのよ」
「わかってる」
とりあえず着替えて行くとするか。朝ご飯は家にあるパンを適当に持っていけばいいな。なければ買えばいいし。
まずは着替えないと話が始まらない。
「私はもう帰───ちょっと!!」
「なんだよ」
上着をベッドに脱ぎ捨てると、なぜか紗夜が怒った。服は着替えた後に畳む…はずだ。
「ど、ど……どうして脱いでるのよ!?」
「着替えないと出かけられないだろ?」
「私が出て行ってからでもいいでしょう?!」
なんでそんな恥ずかしがってるんだ? 逆の立場ならそうなるのもわかるが、今更幼なじみの上裸みたくらいで驚くことだろうか。
「早くしないと紘翔を待たせるからな」
「早く起きればこうはならなかったと思うのだけれど……」
そう言って後退りして行く紗夜。ふと足元をみると、床に無造作に置かれた教科書があった。このままだと足を滑らせ───
「だから毎日あれほど────きゃっ」
「紗夜……!」
なんとか倒れる前に受け止めることが出来た。格好も問題だが、1番の問題は顔が近いということだ。こんな顔が近いのは………あの時。
「早く服を着なさい!!」
その瞬間、部屋に頬を叩く綺麗な音が響いた。
「これに懲りたら早く起きなよ?」
「努力はするさ」
こんなにも信用のない努力はないと紗夜に言われてしまうことだろう。
「それに女の子の前で裸になるのもどうかと思う」
「幼なじみでもか?」
「(時々、夕くんが氷川さんに対する気持ちだわからない……)」
なぜか微妙な表情を浮かべている。
「逆の立場ならまだわかるが」
「デリカシーをもう少し持とうって話かな」
デリカシーか。紗夜が起こしに来る時は毎回きっちりしているから、朝急いで着替えるということはない。だが、日菜の時は違う。たまに一緒に寝ているし、なんだったら時間ギリギリに起こしに来たりするからな。どうしても間に合わない時は………。
『ゆーくん痩せた?』
『最近ちゃんとご飯食ってないからかもな』
『おねーちゃんに怒られるよ?」
『日菜が言わなければバレない』
『んー補償は出来ないかなー』
なんだったらジロジロ見てくるレベルだ。
「今日は他に誰か来るのかい?」
「どうだろうな。来たとしてもあまり人数は居ないと思う」
「蔵に入れる人も限られるしね」
「そうだな」
可能性としては香澄の妹の明日香とゆりさんか? あの人は部活とかもあるしどうだろう。俺としてはひな先輩さえ来なければ問題ない。あの人は悪い人ではないが、一緒に居ると本当に疲れる………。
「まぁ、誰が居てもなんとかなるだろう」
「君が言うと、そんな気がしてくるよ」
足掻いても変わることでもないからな。受け入れないといけない時は、そうするしかないのだから。
市ヶ谷家 敷地内
しばらく歩き市ヶ谷家にたどり着いた。もうすでに何人か来ているようで、敷地内から声が聞こえてくる。どうやら蔵の前で話しているようだ。
「あっ、来た来た。こんにちは、夕とそのお友達」
本当にゆり先輩が居た。まぁ気になるよな。
「こんにちは、ゆり先輩」
「こんにちは。それと初めまして、南雲紘翔です」
「うん。話はさっき聞いたよ」
もう来ているのはゆり先輩を含めて3人。1人はもちろんりみ。もう1人は。
「こんにちは、旭日先輩」
「こんにちは。元気そうだな、山吹」
「4日前に会ったばかりですよ」
「ああ…そうだったな」
そう言われてみれば一昨日の帰りにパンを買いに行ったな。それに加えてモカと美竹コンビに鉢合わせし、パンを1つあげた日だ。美竹は呆れた表情を浮かべていたっけか。物忘れが激しいわけではなく、出来事が多すぎるんだ。そこを忘れないでくれ。
「旭日先輩って、南雲さんと友達だったんですね」
「まぁな。知ってるのか?」
「はい。たまに来ますよ? お母さんの方が」
「なるほどな」
山吹はすごいな。たまに来る人までちゃんと覚えているんだから。お客さんにとってはそれが割と嬉しいはずだ。本当にしっかりしている子だな。
それでも……あの日のことは、まだ。気にしているのだろう。時折だが、悲しい笑顔を浮かべるんだ。山吹は。
「そろそろ香澄が来る頃か?」
「私もそんな気がします」
「じゃあお出迎えだな」
俺たちはおそらくもう来るであろう香澄を出迎えるために敷地外へと出た。
まさに俺の予想は大当たりだった。
「本当に来ましたね」
「香澄は遅刻ってイメージはないからな。むしろ早起きしすぎて怒られるくらいだと思う」
怒る相手は主に妹の明日香だろうけど。元気な姉を持つと苦労するよな。
俺たちの方へと向かってくる2人組。1人は香澄。もう1人はその妹─戸山明日香。姉とは違いすごくしっかりとした性格をしている。もちろん頭の良さも違う。真面目でいい子ってことだな。
「おはよう」
「さーやー!」
「わかったわかった……!」
大変だな、山吹も。すぐ香澄に抱きつかれて。俺だったら避けるか、頭を押さえるな。ところ構わず抱きついてくるんだ、香澄は。
「あっ、紹介するね。妹のあっちゃ───」
その直後。
「あーっ!」
「大丈夫?!」
香澄のギターケースのケースに限界が訪れた。しかし、それをものの見事にキャッチしてみせる明日香。さすが運動部だ。
「あっちゃん! ありがとう〜!」
本当にいちいち抱きつくやつだな。ひっつき虫みたいだ。
「ちょっとー! いつも姉がお世話になってます」
しっかりものだな〜という視線をみんな向けている。まぁ……そうなるだろうな。
「来た?」
「先輩?!」
「え?」
「水泳部の部長」
そういえばゆり先輩は水泳部の部長で、明日香は水泳部に入ってるって言ってたな。面識はありそうでなかったのか。当然と言えば当然だな。
ギターケースを袋から取り出して、あらためて背負いなおす香澄を見ていると、明日香が近寄ってきた。
「久しぶりですね、夕先輩」
「久しぶりだな。背、伸びたんじゃないか?」
「少しだけ…ですけど」
テスト期間はよく香澄の家に行ってたからな。主に俺と香澄の成績があまりよろしくなかったから。花女に入れてるってことは下手すると………。
「あの。そちらの方は」
「友達だ」
「南雲紘翔。よろしくね」
今日何回目の自己紹介だろうと思うのは俺だけではないはず。どんな相手でも臆せず行くところは本当にすごいと思う。人当たりがいいんだよな、紘翔は。
「戸山明日香です。よろしくお願いします」
「戸山さん…だと。同じになっちゃうね」
「姉妹兄弟ってそこが難儀だよな」
「確かに……そうだね」
「周りに姉妹やらが多すぎるんだよ」
戸山姉妹。牛込姉妹。氷川姉妹。宇田川姉妹。もう4組もいるんだぞ? 鋼太さん含めると5組か。まぁ多くても鋼太さんなら、戸山姉とか牛込姉と呼ぶんだろうな。
「香澄たちは花園さんがくるのを待つのか?」
「はい!」
「じゃあ俺たちは先に蔵に行ってるか」
「何か手伝うことがあるかもしれないしね」
花園さんが来たらそれはそれで大変そうだからな。俺は先に離脱しておきたい。なんて浅はかな考えはすぐに打ち砕かれるのであった。
「南雲先輩居ますし、旭日先輩は残ったらどうですか? そっちに人居すぎてもあれですし」
「確かに。その方がいいかもね」
「ゆり先輩……?」
「南雲君いるしこっちは大丈夫だから、ね?」
山吹沙綾という伏兵がいたことを忘れていた………。しかし、ゆり先輩からはなんなら悪意を感じない。これはこれでなにも反論出来ないやつか。困ったもんだ。
「わかりましたよ」
「やったー!」
「なにが嬉しいんだお前は」
時折理解できないところが香澄にはある。
「彼……か」
花園さんを待っている間に話題にあがった彼という存在。3人は付き合っている人を連れてくると予想しているらしい。が、俺は違う。これはあれだ。全く別のやつだと思う。
「先輩? 考え事、ですか?」
「いいや。彼というのは、たぶん男ではないと思ってな」
「あー私もなんとなくはそう思いますよ……」
「だよな。花園さんも香澄ばりにぶっ飛んでるところあるから」
そんな話をしていると、どうやらそのご本人が来たらしい。まず最初に駆け寄って行ったのは香澄だ。
「おたえ〜。ギターケースの袋破れちゃった〜!」
「私も朝……」
涙目で答える花園さん。同時に限界がくるとは……。
「一緒だ……!」
「仲良しだな……」
「本当にな」
それだけその袋を使っていたってことなのかもな。そもそも、重いギターを袋に入れるという考えが浅はかというか。袋破れた時のことを考えた方が良かったと思う。壊れたら大変だしな。
「あっ! りみ可愛い」
「えへへ…!」
「私も気合い入れてきた!」
「わかんねー……」
「ハムスターだ」
今度は俺に視線を向けてくる。なにも言わずに。
「おはようございます」
「おはよう……。挨拶に間はいらないだろ」
「私服の先輩、めずらしいと思って」
「普段は制服だしな」
「変わらずだらしないですね」
「否定はしない」
だらしないからお叱りを受けるわけで。服装を改めてもまた別の部分で怒られるから、もう諦めてるところはあるな。諦めが肝心な時もある。
「それなに? アンプ?」
花園さんが持っているカゴに視線を向ける一同。
「ううん。彼」
「えっ?」
まぁ人ではない……よな? な?
市ヶ谷家 蔵
「待てー!」
説明するとしよう。カゴの中はびっくりうさぎでしたとさ。まぁうさぎとは誰も予想は出来なかった……。問題はそこではなく、香澄が抱っこした直後逃げ出した。そして、蔵の方へと逃げんこんだわけだな。
説明雑すぎないか?
「えっ?!」
またまたナイスフォローの明日香。見事にうさぎをキャッチした。
「うさぎどこ?!」
「ここ」
抱っこするうさぎを俺たちの方へと向けてくれた。改めて見るとあれだ。うさぎだな。当たり前なんだが。
「よかった〜」
「いきなり離すなー!」
「本当だ。蔵の方だったから良かったが」
「ごめーん」
「オットアイのおっちゃんだよ」
「おっちゃん…」
「おたえ……」
なんだこのカオスな会話は………。この一瞬の会話に香澄たちらしさが詰まっていることに驚きだ。
「ライブは?」
「やります!」
ようやくライブの準備が始まった。座る場所がないということもあり、俺と紘翔は階段付近に居る。
おっちゃんはソファーに座る明日香の膝の上で大人しくしている。そこが気に入ったんだろうか。
準備が終わった香澄たちに視線を向けると緊張している様子だ。まぁ無理もない。初めてのライブな上に、ゆり先輩もいる。バンドを始めたきっかけのバンドのリーダーがいるわけだし。
「……ドキドキしてきた…!」
「私も…!」
「あれ?」
「手汗やばい……」
それぞれ心を落ち着けている。こういう時こそまずは落ち着くことが大事だ。無理なことは百も承知だが、パニックになってしまう人も中には居たからな。初めて紗夜のライブを見た時とはまた違う感じだ。
「こんにちは。戸山香澄です。クライブに来てくださってありがとうございます!」
全員が頭を下げて挨拶をする。すると………。
「有咲〜!」
「ばあちゃん?!」
「顔こわばってるぞー香澄」
「夕くん……」
いやな。こういう時こそヤジを飛ばすことがベストかと。
「今日はおたえと……沙綾、あっちゃん、ゆりさん、おばあちゃん、夕先輩、紘翔先輩をドキドキさせますっ! してくださったら嬉しいです!」
俺を含めて全員が拍手をする。いよいよ──始まる。
「いきます! 私の心はチョココロネ!」
ライブが始まった。緊張していた様子だが、練習の時よりも音があっている。それに………みんな楽しそうに演奏してるな。
花園さんが入るのかは別として、この先とんでもないことをする気がしてならない。大きな失敗ではなく。大きな成功。
香澄はいつもそうだ。やると言ったことは必ず叶えて来た。今回も、この先もきっと……。
ほんの一瞬同じような景色がフラッシュバックした。直後、演奏が終わり再び盛大な拍手が部屋に響いた。遅れて俺も拍手をする。
「やったー!!」
「マジやばかった! 本当にヤバかったって!」
「楽しかった!」
「うん!」
練習してきた甲斐があったと言うものだ。香澄1人だとギターパートが厳しかったが、花園さんというリードギターが居ることで以前に増して安定している。まぁそれだけではないが、総じて相乗効果というものだろう。
「勝負じゃなかったんですか?」
「そうみたい」
「そんなもの最初からなかった」
いつの間にか勝負というより一緒に演奏しようになっていたしな。最初の目的を忘れることなんてよくあることだよな? な?
「だって一緒に弾いた方がドキドキするから」
「ね! おたえ!」
「香澄! りみ! 有咲!」
3人に抱きつく花園さん。なんだかずっと一緒に居るみたいな感じだ。
これで4人か。Roseliaといい、香澄たちといいなぜこんなにも早くバンドが集まるのだろうか。運と呼ぶにはしっくりこない。奇跡と呼ぶには起きすぎている。だったら……。
「運命……か」
「運命?」
「香澄たちがこうして出会ったのも」
「確かに。最初から友達だったみたいな感じだもんね」
「そうだな。俺も同じことを思った」
4人。どうせなら後1人。ほしいところだな。残りの枠としてはドラムか。そんな人、近くには流石にいない。居てもすでにバンドを組んでいる。
………1人居た…。いや、その選択肢はないか。
ふと4人と話す山吹に視線を向けた。
ライブが終わり蔵の外へと移動してきた俺たち。各々話したい人と話している。俺は紘翔と共にその様子を眺めていた。
「今日は来れてよかったよ」
「そうか? ならいいが」
「君と居ると色んな人に出会えて面白い」
「気づけば人だらけだ。まだ居るって言ったら驚くか?」
「本当かい? 少し楽しみだよ」
さほど多くはないが今度紹介しよう。今考えると日菜にはまだ会わせてないな。仕事で時間がないのと、会わせたらそれはそれで面倒ごとになりそうだ。その点は紘翔なら上手くかわしてもくれそうだがな。
「さて、そろそろ帰るか」
「うん。この後どこかに寄っていく?」
「昼でも行くか」
「いいね」
今日はバイトもなければ、宿題もない……はず。あってもどうとでもなるか。
「俺たちは帰ります」
「夕先輩、紘翔先輩! 来てくれてありがとうございます! 次は文化祭でやるのでぜひ!」
「楽しみにしてる」
それだけ言い残して俺と紘翔は市ヶ谷家を後にした。
「そうだ。よくテレビとかで見るグータッチやらないか?」
「いいね。そういうの一度はやったみたかったんだ」
「じゃあ動作はどうするか……」
2人で話し合いながら歩くこと数分。とりあえず決めた動作でやってみる。
「水平にハイタッチを1回。今度は平を逆にしてもう1回」
「次はグータッチして」
「最後は強めにハイタッチだな」
「あとはこれを流れるように」
早速やってみた。最初だからまるで合わないと思っていたが、案外……合うらしい。まるでずっとやってきたかのような感覚で。
「こんなに合うもんなのか?」
「どうだろう。でも……悪くないね」
「だな。相棒」
何度でも思う。もっと早く。出会っていればよかったと。
最近いろんな設定を書きまくってます笑
割と設定固まったら書いてみたいのが3作品あります。1つは仮面ライダーセイバーとのクロスオーバー。もう1つはSAOとのクロスオーバーです。あと1つはSAOとのクロスオーバーにプラスして少し原作改変したものですね。
どれも気が向いたらって感じですね。
2022/7/1 追記
意外にも非日常投稿した方が読んでくれている人多いのでは?笑 と思いました。
皆さんはストーリーよりも日常を楽しみたい感じですかね? 試しにそのうち非日常の方を投稿しようと思います。
今回のバンドリのイベント見たら絶対書きたくなるのでその時まで見ないです笑