ガールズバンドに振り回される日常 作:レイハントン
第38話 FUTURE WARLD FES.
CiRCLE ロビー
Roseliaとしての練習が再開してから早くも数日が過ぎていた。その間にもいろいろあって、時が流れるのはあっという間だったな。
紗夜たちはいつにも増して厳しい練習を重ねているらしく、練習後の今井とあこはへばっている。白金も疲れた様子は見せて居ないが、来た時よりかはぐったりしているな。残りの2人はわかるだろ?
「今日も延長かな?」
「だろうな。もうすぐフェスだし」
ロビーでぼーっと外を眺めていると、予約リストを眺めていた紘翔が声をかけてきた。
ここ最近思ったことなんだが、仲良くなって素が出てきたんだろう。意外と細いことを注意してきて口うるさい。まるで紗夜みたいに。
「相変わらず気の抜けた顔でぼーっと外を眺めているのね」
そうそうこう言う風に。
「・・・人にはぼーっとする時間も必要なんだよ」
なんで居るんだ? 練習は? つうかなんでこんなタイミングの悪い時にいつも遭遇するんだろうか……。もはや才能なのでは?
「お疲れ様、氷川さん。休憩?」
「ええ。少し外の空気を吸ってこようと思ったので」
こうして2人が話してるの新鮮だな。たまに話してるのは見るんだが。改めて考えると紘翔が入ってからまだRoseliaとの絡みを俺は見ていない。俺が居ない所で意外と話してるのか?
「おっ、今日もこの2人なんだねー」
今度は今井が現れた。まだへばっている様子はない。これからなんだろうな。大変なのは。
「もしかして、南雲君が旭日君のお目付役?」
「あはは。夕くんが僕の教育係なんだ」
「なるほど。悪い所ばかり学んじゃダメだからね〜」
どうも俺はサボりキャラが定着しているらしい。見てない所では結構働いてるんだからな? 主にメンバーが個性的の時だけだが。あえて挙げるなら市野木さん、早乙女、真宗。
「でもこうして見ると南雲先輩の方が、出来る感じだなぁ〜」
「おい、あこ。人を見た目で判断するのは良くないぞ」
「そ……そうだよ、あこちゃん。旭日さんも……頑張ってると……思うよ」
思うって白金……。そこは頑張ってるだけで良かったんだぞ。思うじゃ全くフォローになっていない。むしろ怪しさが高まったぞ。
「ライブの時はしっかりしてるのだから、普段からやればいいのよ」
「あのな湊……人をダメ人間みたいに言ってるが、俺は個性的なメンバーのお目付役なんだ。だから頑張ってる」
揃いも揃って人を毎回ダメ人間いじり。本心じゃないにしても、このいじりはいい加減飽きた。まぁ若干一名だけ本心な気もしなくはないんだが。
呆れてため息を吐き出すと、なぜが紘翔がくすくす笑っていた。
「ごめん。いじられてる夕くんがなんか新鮮で」
「お前な。弁解するの大変なんだぞ?」
「大丈夫大丈夫。旭日君の頑張りは知ってるから」
今更フォロー入れても遅いからな、今井。見ろ、湊と紗夜に関してはフォローする気なんてサラサラない。俺はマゾじゃないからどれだけいじめても喜ばんぞ。
「それよりも休憩早く行ってきたらどうだ?」
「そうね。お邪魔したわ」
「南雲さん、夕をお願いします」
頼まんでも今日はサボらないから。
「うん。任せて」
「おいおい」
任されるんじゃないよ。
嵐が去って行くように5人はCiRCLEを一旦出て行った。意外にも紘翔はRoseliaと結構話すらしい。紗夜に俺を任される程に信頼があるようだ。……解せん。
紗夜と紘翔は気が合うのかもな。主に俺に対するおせっかいだが。
みんなには自分が芸能人の息子だとは伝えたのだろうか。仮に伝えたとしてもあの5人の態度が変わるとは思えない。
「真剣な顔してどうしたの?」
「いや……なんでもない。紘翔も休憩行ったらどうだ?」
「ん〜。そうしようかな」
ここで俺が行ったら面倒なことになりそうだ。またサボってるだの、本当に休憩なのか? だの聞いてくるに違いない。
俺は一旦休憩のためにロビーを離れる紘翔を見送り、仕事に戻った。
旭日家 自室
バイト終わり。いつものようにベランダで空を眺めていた。明日はRoseliaがコンテストに出る日。だから早く寝て、寝坊しないようにしないといけないんだが。
全く眠くない。それどころか逆に目が冴えてきた。明日のことを考えれば考えるほど、不安になる。コンテストに受かって夢が叶った時、Roseliaはどうなるんだろうか。解散という言葉が頭の中にチラつく。
それがなかったらどうなるんだ。音楽の頂点って言うくらいだし、今度は世界とか言い出しそうだな。それともメジャーデビューか。でも湊はメジャーを毛嫌いしていたよな。
なににしても、この先のことはいくら考えてもわからない。決めるのは俺じゃないのにこんなにも考えてしまうのは、やはりRoseliaの将来が楽しみなんだろう。
何が起こって。
何に影響を与えて。
どう変わっていくのだろう。
ふと手に持っていたスマホに通知が届く。その通知は俺、智紀、涼子の3人のグループに新たに紘翔を加えたグループに来ているようだ。バイトが一緒になったこととか割と智紀には話していたからな。受け入れが早いようだ。
『よろしくな!話は夕から聞いてる』
『珍しいことだよ?夕君から仲良くなったなんて聞くの』
『そうなの?』
『気が合う奴なんてそうそう居ないだろ』
『出た』
『いつもそう言ってるよね』
『まぁ仲良くしてやってくれよ!』
お前達は俺の保護者か何かか? 人をコミュ症みたいに言いやがって。あながち間違っていないのがまた腹が立つところだな。
『明日駅前に集合?』
『夕君が起きれるなら』
『朝じゃないから平気だ。紘翔の家近いから一緒に行くし』
『なぬっ?!』
『じゃあ寝てたら叩き起こしてでも連れてきてね』
『任せて』
任せてじゃないんだ、紘翔。言っておくが朝じゃなければ気合いで起きれる。いやこれは真面目に。
明日は遅れるわけにはいかないからな。そんなことをしたら最後だ。
ベランダで1人連絡を取っていると、いつもの音が聞こえてきた。一応ベランダに出てきた相手を確認する。
「明日は大丈夫そうか?」
「そう見えるかしら?」
「いいや……いよいよだもんな。ずっと目指してたフェスよ予選」
緊張あるいはワクワクがないわけがない。明日は紗夜が………いや。紗夜たちが目指しているFUTURE WARLD FES.の予選。これに通ればフェスに出れる。目標が叶うんだ。
「夕は緊張することはある?」
「俺だって人間だ。ある」
「例えば…?」
「氷川家に夜ご飯を食べにいく時」
「真面目に答えて」
いや、おじさんの視線。言葉1つ1つから感じ取れる。娘に変なことをしてみろ? 命の補償はないからな? と。こっちとしては平手打ちをされたりしてるんだがな……。
「大真面目だって。それ以外なんて……大したことじゃない。生きるか死ぬかの瀬戸際以上に緊張なんてない」
「……っ! ごめんなさい……」
そんな雰囲気にするつもりはなかっただが。悪いことをしてしまった。
「謝るのはこっちだ。気にしてないと言えば嘘になるが、今は振り返ってる場合じゃない」
「(本当に……変わったわね。良い意味でも。悪い意味でも。でもそれは……ある意味変われるという証拠)」
急に黙り込んでしまった。気にするなという方が無理だったか。
「紗夜?」
「いいえ。なんでもないわ」
「なら…いいが」
「もう少し練習するから。また」
「こん詰めすぎるなよ」
「わかっているわ」
部屋へと戻っていく紗夜の後ろ姿を眺める。何度その背中を見送っただろう。そう思うほどここで話した回数が多い。
明日はちゃんと起きないとな。
マンションの前
朝。なんとか起きることが出来た。
マンションの敷地を出てすぐの壁に寄りかかって待っていた。いつも紘翔を待っている場所だ。
結局あれから考えごとばかりしていてすぐには眠れなかった。それでも起きることが出来たのは、少しばかり楽しみだったからだろう。
「おはよう、夕くん」
「おはよう。時間通りだな」
「君の方こそ」
「なんとかな。とりあえず行くか」
智紀と涼子と待ち合わせをしている駅の方へと歩き始めた。
「よく寝坊しなかったね」
「今回はな。紗夜たちになにされるかわかったもんじゃない」
「あはは。ちょっと怖そうだね」
「ちょっとじゃないだろ」
紗夜にはお小言をたくさんもらうんだろうが、湊はなにをしてくるか本当にわからない。辛辣な言葉を浴びせられそうだ。そんなものは一部の人しか喜ばない。
「夕くんはペンライト持ってきた?」
「俺が振るような人に見えるか?」
「見えないけど……いちおう持ってきてるかなって」
「いちおうな」
ショルダーバックに2本ほど詰め込んできたが、おそらく振ることはないだろう。いつもの癖でぼーっと眺めることになりそうだ。その方が集中して聴くことも出来るしな。
「紘翔はライブに行くのは初めてか?」
「ううん。姫さん……馴染みのある名前だと東雲早希さんのライブには何回かお母さんと行ったことがあるよ」
「元々一緒に活動してたもんな。関係者席か?」
「そうそう。バレないかひやひやするよ」
引退したとはいえDiVAが2人揃っていたらそうなる。今は活動を控えているとはいえ、日菜も芸能人ということは変わりない。一緒に出かけたりするのも苦労しそうだ。
「そうだ。話は変わるんだけど、1つ聞いてもいいかい?」
「なんだ?」
「氷川さんって双子だったりする?」
そうか。まだ紘翔には話していなかったな。
「妹が居る。それがどうかしたのか?」
「君と仲良くなる前、家の前で生徒手帳拾って渡したんだけど、もしかしたらと思って」
「生徒手帳……。日菜がそんなことを言ってたが、拾ってくれたのは紘翔か」
以前日菜が生徒手帳を落としたという話をしてくれた。まさか落としたことすらわからなかったと言ってた時はいよいよ心配したな。拾ってくれたのが紘翔だったからよかったものの。他の人だったらどうなっていたか。
「迷惑かけたな」
「ううん。すごい元気な子だよね」
「あれでも同じ年なんだけどな」
「良いことだと、僕は思うけど?」
「ないよりはマシか。俺みたいに」
「君は表情がないだけだと思うけど……」
まさかそんな接点があったとは。……紗夜のことはそのうち気づく時が来るだろうな。話すのはその時にしよう。
駅前
「おーす、2人とも」
待ち合わせの時間前に2人は来ていた。まぁ当たり前なんだが。
「ボールは一緒じゃないのか?」
「普通一緒じゃねぇだろ。オレをなんだと思ってるんだよ」
「「サッカーバカ」」
駅に着くなり俺と涼子からいじられる智紀。こうして休日に一緒にでかけるのはなんだか新鮮な気分だ。
「ひでーよコイツら。助けてくれー紘翔」
「あはは…。楽しそうでいいと思うよ?」
「いつまでもふざけてないで行くぞ」
「混みそうだしね」
1いじりをしてから行くのがお決まりみたいなもんだ。
早速移動を始めるとなにやら後ろで智紀が紘翔に泣きついている。
「いつもこんな扱いだからよー。毎晩枕を濡らしてるんだぜ?」
「そ、そうなの?」
「嘘をつくな」
「布団入ったらすぐ寝てるくせに」
「部活で疲れるんだからしょうがないだろ?!」
この通りしょうもないやりとりをしながら改札を抜けてホームへと向かった。休日だからか人が多い。乗る時は少し窮屈になりそうだな。あのぎゅうぎゅうな感じはあまり好きではない。
「予選通るかな?」
ホームで電車が来るのを待っていると、涼子がそんなことを聞いてきた。
「どうだろうな。実際に弾いている側でもないし、たくさんバンドを見てきたわけでもないからわからない。だが、1つ言えることはある」
「どんなこと?」
「予選を通ってもおかしくはない実力だってことだ」
実際通ってしまえばいいんだろう……。やはりその先が不安になる。目標がなくなった時、あの5人はどうするんだ? 解散か。
それとも目標がないまま突き進むか。それを決めるのは俺ではないから、なんとも言えないが………。
少なくとも紗夜は………。
「あ、今紗夜ちゃんのこと考えた?」
「んなわけあるか。通るかの話になんで紗夜が出てくるんだ」
「当てずっぽうじゃ無理か〜」
外れてはないが俺の方が1枚上手だった。紗夜のことを考えてる時に癖でもあるんだろうか………。
「紗夜ちゃんだけってわけじゃないけど、みんな緊張してるよね。本当に大きいフェスだし」
「良い緊張にするか、悪い緊張にするかは本人次第だからな。まぁ心配しなくても大丈夫だろう」
「そうだね。今のRoseliaなら」
涼子の言う通り。今のRoseliaなら……きっと。
フェス予選会場
「割と人いるのな」
「迷子になるなよ?」
「この人の数で迷子にはならないだろ」
会場に着いたはいいが智紀の言う通り。割と人が多い。普通にプロも出るんだから当たり前と言えば当たり前なんだが………。
「夕くん、ぼーっとしてると迷子になるよ?」
「悪い。そんなつもりじゃなかったんだが」
この後、4人揃った状態で会場内に入り、自分の席に着くことができた。
そして始まるまで静かに待った。
─────☆
ざわつく会場の中で、旭日夕は1人ステージをぼーっと眺めていた。やはり舞台袖とは違う。向こうから見る客席もより違う。CiRCLEとは違ってお客さんの数も。
普段のライブとは1番違うのはやはり緊張感だろう。予選に通れば夢だったFUTURE WARLD FES.に出場。晴れて夢が叶う。
先のことを考えてもしょうがないはずなのに。なぜこんなにも考えしまうんだろうか。
予選が始まり数バンドが演奏したあと。
「次……だね」
「ああ。泣いても笑っても今年の挑戦はこの1回きりだ」
ステージにRoseliaが現れると会場がざわつく。夕は何も手に持たず腕を組んでじっとステージを見る。
そして夢への挑戦が今───始まった。
今までにない5人の音に夕は目が離せなかった。
ライブを舞台袖から見ることがほとんどだからか。この大勢の観客の中に混じって見るというのはとても新鮮に感じる。と同時に少し遠い存在になってしまったようにも感じていた。
一瞬。ほんの一瞬だけ同じような光景が頭の中に映し出される。気になるようなレベルじゃなかったからか。特に気にすることなくライブを見続ける。
もしかすると本当に夢が叶うのかもしれない。日菜に負けないために目標としてきた夢に手を───。
『結局バレたが、どうするんだ? ギター、続けるのか?』
『ええ。まだ日菜が真似をすると決まったわけではないわ。それに………夢があるの』
『夢?』
『FUTURE WARLD FES.。これに出て見返す。負けないために』
『その夢で本当に………いや。頑張らないとな』
あの時。その先の言葉を伝えていれば。変わったんだろうか。日菜に対する気持ちが叶えたい夢への考え方が。
いいのか? 見返すためだけにFUTURE WARLD FES.に出るって思いで。
「夕くん? どうかしたの?」
「いや…いつもと違う感じだなって」
「いつもは舞台袖だもんね」
「ああ」
いつからだろうか。咄嗟に嘘をつくことに慣れてしまったのは。
ライブ終了後。
夕達は結果の紙が張り出されているボードの近くに居た。どんなバンドが通過したのか気になる人達がざわざわと騒いでいる。自分の好きなバンドが通っている人は喜び。逆に落ちた人は落ち込んでいる。1番悔しいのは本人達だろうが、応援している方もなかなか辛いものがある。
「いい演奏だったんだけどね」
「何がダメだったんだろう」
メインステージに立てるバンド名にRoseliaはなかった。入賞筆頭候補と言われていただけあって驚いている人達も多い。
その人混みを眺める2人の女性。1人は壁によりかかり腕を組んでいる長い黒髪のポニーテール。さらにキャップを被っている。もう1人はオフィスカジュアルの服装の女性で、ただ立っているだけだ。
「Roselia落ちましたね」
「想定の範囲内だわ。落とした審査員とは気が合うかもね」
「どういう意味でしょうか」
夕も同じように人混みを眺めいるだけで口を開かない。
「夕くんはどうしてだと思う?」
「さぁな。でも……今回はよかったんじゃないか?」
「え?! それってどういう……」
予想外にも落ちた方がよかったと言い始めた。ふざけている様子はない。むしろ真剣な目で紘翔たちに向けて話している。
「個人的なエゴだけど、入賞してメインステージよりも。優勝してメインステージに立ってほしいからな」
「入賞でメインに立たせるよりも、優勝でメインに立たせてあげたいと私は思った」
彼。そして彼女らしい答えに各々も納得した様子。確かに入賞で立つメインステージよりも、優勝で立つメインステージの方が彼女達にとっても嬉しいだろう。今回のライブにはそれだけ大きな可能性を感じたという事だ。少なくともそう思う人は2人ではない。フェスの審査員も同じなのだろう。
「そろそろ帰ろう。腹減ったし」
「そうだね。帰りにファミレス寄る?」
「ファミレスか〜。僕あんまり行ったことないんだ」
「じゃあファミレスだなっ! なに食おっかな〜」
「程々にしておけよ。いつも4品くらい頼んでるだから」
そう言うと夕たちは出口の方へと歩き始めた。その直後。ボードの前に居た人たちがざわざわ騒ぎ始めたが、特に気にも止めないで歩く夕。少しだけ気になったのだろう。紘翔だけは後ろをチラッとだけ見た。
「(あの人はもしかして………姫さん? でもどうしてここに)」
考えてもわからない疑問を頭の片隅にしまい。再び前を見る紘翔。人混みの中心に居たのは間違いなく元DiVAの東雲早希─本名は小鳥遊姫。
また彼女も紘翔の後ろ姿と、その前を歩く青年の背中を目で追っていた。不思議とあの青年を見てしまう。
「(紘翔…? 亜愛理から聞いていた通り、友達と一緒のようね)」
視線を外すと、小鳥遊姫は取り囲むファン達の間を抜けて反対方向へと歩みを進めた。
旭日家 自室 ベランダ
夜中。ベランダの手すりに寄りかかって俺は空を眺めていた。正直言うと眠れないんだ。別に少し食べ過ぎて、帰って来て速攻寝落ちしたわけじゃないからな。さっきまで寝てたわけじゃ……….俺はいったい誰に言い訳してるんだろう。
今日のライブは今まで聴いた中で最高のもの。それでも俺はフェスに落ちて少し安心してしまっている。
最低なのはわかってる。それでも………紗夜達には優勝してメインステージに立ってほしいんだ。あの5人でしか出せない音で。来年には。
紗夜の夢が。叶うといいな。
俺は……夢なんてあっただろうか。
いくら考えても答えなんて出やしない。少なくとも日菜と分かり合ってほしいとは思う。以前のように….…俺はその時………どうしてるんだろうな。
ぼーっと空を眺めていると、静かに窓が開く音が聞こえてきた。
「……夕? こんな時間にどうしたのよ」
「それはこっちのセリフだ……お互い眠れないんだな」
小さな声で話しかけてきた紗夜。たまにこうして夜中に外に出ることがあるが、今日はかなり珍しいパターンだ。もう12時過ぎなのにこうして話してるんだからな。
「……感想。ずいぶん少ないのね」
「いや、あれだ。語彙力なくなるくらい、いい演奏だったってことだ」
「そのいい演奏でも……フェスには出られなかった」
気にしてないわけないよな。審査員に何を言われたかまではわからない。でも納得のいく答えはもらったんだろう。なんでメインステージに立てなかったのか。理由も含めて。
納得いかない理由だったらもう少し怒ってるだろうしな。特に湊辺りが。俺に八つ当たりをしかねないからな。本当に。
「来年こそは……だな」
「ええ。もうこんな思いはしたくないもの」
先は長いようで短い。毎日充実していれば1年なんてあっという間だろう。でも、何を学んで進んで行くかによってフェスに出られるかどうかは変わってくると思う。なんとなく過ごしていたら無理だろうな。
今までのRoseliaを見ているとそんなことはない。結成したばかりだというのに、練習量はかなりのものだし。
「あなたは……なんのために私達を手伝っているの?」
「なんのために……か」
「(少なくとも私は……日菜に負けないため。湊さんや今井さん達だって。何かあるはず)」
なんで手伝ってるんだろうな。頼まれたから? 最初はそうだった。でも今は……。
「理由は特にないな。それに手伝いって言うほどのこともしてないし」
「そう……あなたらしい。いえ、おばさんらしい考えね」
全部を真似するわけじゃない。少なくとも母さんが今まで貫いてきた想いを、ちゃんと残したい。それが……恩返しになるかはわからないけど。
「フェスのことだけじゃない。日菜のとも……少しずつ向き合わないとな」
「ええ……どう足掻いても私は日菜の姉ということは変わらないもの」
「それを言ったら俺も変わらない。2人の幼なじみってことは」
「知らない人の方が多いと思うけれど」
実際そうなんだよな。学校も違う。帰りもバラバラなことがほとんど。休日もそこまで一緒に出かけたりはしない。話したとしても驚かれることの方が多いし。
それに……よく言われる。美人と可愛い幼なじみでいいなって。
「(夕と幼なじみだって言うと、だいたいの人が驚くけれど……みんなそれだけ。知られてほしい気持ちと…知られてほしくない気持ちが……私の中にはある。もしかしたらそのうち……)」
お互い話さない無言の時間。特に気まずいともなんとも思わない。むしろ心地いい時間だ。
「さてと。あんまり夜風に当たると冷えるし、そろそろ戻るか」
「ええ。おやすみなさい」
「おやすみ。また紗夜の音、聴かせてくれ」
そうだ。もう1つ言い忘れていたことがあった。
「それと……むすっとしてるより、笑ってる方がいいと思う」
それだけ言って俺はあくびをしながら部屋に戻って行った。明日はバイトないし、これは昼までコースだな。
そして紗夜がしばらくベランダに居たことは知る由もない。
「いつも不意なんだから……」
意外と非日常を投稿した方が伸びたりします?笑
紗夜さんとのイチャイチャなんてほぼ書けていないので、なんとなくは察してます笑
そのうち非日常の方を投稿出来たらと思います。