ガールズバンドに振り回される日常   作:レイハントン

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第40話 束の間の日常

第40話 束の間の日常

 

 CiRCLE ロビー

 

「聞いてよ旭日君!」

「な、なんだ急に」

 

 放課後のバイトをしている最中、ロビーに来るなりいきなり呼び止められた。この感じきっと嬉しいことがあったんだろうな。

 

「お、おはようございます!」

 

 少し遅れてやってきたのは真宗だ。コイツは萩野でも緊張する。天堂さん、鈴音、早乙女以外は比較的話しやすいと思うんだが……いかんせんまだ上手くいかない。

 

「お疲れさま、真宗君」

「今日は頑張れよ」

「が、頑張ります!」

「やる気だけは人1倍なんだけどな〜」

「大事なことだ」

 

 すぐサボりに行ってしまう人も居るわけだしな。

 

「それで話ってなんだ?」

「そうそう! この前、駅前のショッピングモールに行った時に居たの!」

「……誰が?」

「千聖ちゃん! 白鷺千聖ちゃんと丸山彩ちゃんがチケット手売りしてて!」

 

 あれを見ていたということは……。これは少しまずいかもしれない。

 

「その時ね。南雲君と旭日君見たんだけど……もしかして千聖ちゃんと……」

 

 ついに俺も人生の終点が見えてしまった。白鷺千聖の大ファンな萩野が俺たちの関係を知ってしまった今、生きて帰るという選択肢は残されていな───。

 

「彩ちゃん目当てで駅前に居たの?!」

「真宗、とりあえず手分けしてスタジオの清掃行くぞ」

「え? せ、先輩のお話は……」

「そうだよ! 急にどうでもよくなることなんてある?!」

 

 アホらしい。心配した俺がバカだった。そもそも萩野に知られても紹介してやればいいだけだ。そうすれば命が狙われる心配もない。待て、そもそもなぜ命を狙われるんだ?

 

「そういう時もある」

「旭日君はそういう時しかないよ?!」

「まぁそう怒るな。こっちはヒヤヒヤしていたところを救われたんだ」

「え? どういうこと?」

「なんでもない」

 

 1つ問題が解決…したのかはわからないが、今日は少し真面目に仕事をするとしよう。最近いろんなことがありすぎてぼーっとしている時間が多かったからな。

 

「今日は気分がいい。女性のお客さんの接客ノルマを5人にしよう」

「いつもは3人ですけど?!」

「5人までだったら罪を俺が被ろう。それを5回まで失敗出来ると思うか、5回も迷惑をかけてしまうと思うかは真宗次第だ」

「……っ! 頑張ります!」

 

 白鷺千聖……一緒に居ても居なくても警戒すべき人物の1人だな。こうして本人がこの場に居ないのに危うく被害を受けるところだった。……これに関しては悪いのは萩野か。

 

 そう言えばなぜ萩野が白鷺のファンなのかは聞いたことがなかったな。今度暇があれば聞いてみるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイト後、暗い夜道を歩く。

 

 今日の真宗は本当に頑張っていた。ノルマ5人を超えてなんと6人もの女性のお客さんの接客をした。スムーズに出来たものは1つもなかったが、経験ってことを考えれば大きいと思う。うち1人は上原たちだったが。

 

 いつもは10時までバイトをするんだがな。最近はシフトに毎日入ってる上に10時まで居るもんだから逆に減らされた。こっちとしては問題はないんだが。家に帰ってもやることは特にないしな。

 

 そういえば最近日菜と話してな───。

 

「ゆーくんだ! 今帰り?」

 

 噂をすればなんとやら。日菜が釣れた。

 

「そうだ。日菜も練習帰りか?」

「うん」

 

 片耳のイヤホンを外してから聴くと元気のいい返事が返ってくる。

 

「最近練習はどうだ?」

「すっごく楽しいよ。それに千聖ちゃんも練習に来るようになったんだ〜!」

「いったいどんな物で釣ったんだ?」

「釣ってないよー。千聖ちゃんに怒られるよ?」

 

 待て。俺がいつ日菜に白鷺とは知り合いだと伝えた? 全く身に覚えがない。あれか。白鷺が言ったんだな? そうとしか考えられない。

 

「白鷺から話を聞いたのか?」

「うん。一緒にお茶したって言ってたよ。面白い人だって」

 

 それはいったいどういった意味合いの面白いだろうな。まぁいい意味の面白いではなさそうだ。

 

「なんだか最近の千聖ちゃんは、私が知ってる千聖ちゃんじゃないことばっかりしてる気がする」

「それが人って生き物だからな。なにかのきっかけで変わるものさ」

 

 少しは"努力"というものを信じてみる気になったんだろう。本人に言ったらきっと怒られるんだろうけど、自分の考えは頑なに変えなさそうな人間に見えた。きっかけはやっぱり丸山彩という人間なんだろう。どこまで行っても自分を貫いて努力し続ける彼女に少しだけ考えが変わった……ってところか。

 

「おねーちゃんが言ってたんだけどね。他人のことをわかろうとするのが大事なんだって。だからもっとみんなのことを知りたい!」

「その場の言葉としては微妙にあってない気がするんだが……」

「えーー。そんなことないよー」

「まぁいいさ。時間はまだある。ゆっくり知っていければいいと思う」

 

 こうして話を聞くと改めて日菜も変わっていってることを実感する。以前は他人のことを知りたいなんて言葉は言っていなかった。パスパレという存在は紗夜にも、日菜にも。そして俺にも今後大きく影響してくる存在だと思う。現に紗夜には………。

 

「ゆーくん?」

「なんでもない」

「ゆーくんってたまに人の話聞かないで考えごとしてるよね」

「否定はしない。そういう性分なんだ」

「(こういうところは変わらないな~)

「どうした?にやにやして」

「ううん! なんでもない!」

 

 笑顔を浮かべてそういう日菜。なんだかはぐらかされている気もするが……まぁいいか。

 

「そうそう。彩ちゃんはねよく千聖ちゃんに言いくるめられてるよ」

「だろうな。丸山よりも白鷺の方が一枚上手な感じがする」

 

 白鷺とは揉めているらしい。正反対そうな2人だからな。仕方ないと思う。

 

 それこそ真宗、鈴音、早乙女の3人とまさに同じ。全員の意見が合うところなんて見たことがない。人は違うということを体現している3人だな。

 

「一枚どころじゃないと思うよ」

「そこは一枚にしておいてやれ」

 

 いざ真面目にライブのことを考えているとなるとメンバーとの意見の食い違いが……現に起きているわけだが。個人の確実なレベルアップか全体の確実なレベルアップ。どちらをとるのかは、意見が割れるだろう。どちらもとったのがRoseliaなんだが。

 

「なんにしても今度は大丈夫そうだな」

「うん! 私もそう思う!」

 

 あとは丸山の努力が今度こそ結果と結びついてくれることを祈るばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 CiRCLE ロビー

 

「本当にすいません!」

 

 俺は絶賛困っている。

 

 目の前には頭を下げて謝ってくれている奥沢さん。そして受付でそんな俺を見て冷たい視線を送る早乙女。そんな状況を心配そうにみる松原。

 

 ざっくり説明するとだな。ライブのオファーの件を断られたという話。別に気にすることはないんだ。こんな時の保険はちゃんと用意しているし。

 

「そんなに謝らなくても大丈夫だ。承諾する前だし」

「いえいえ。せっかくお話していただいたのに」

 

 頭を上げてからそう答える奥沢さん。

 

 言った通りだが"出演します"という承諾はまだしていない。出ませんか? としか聞いてないからな。本当に気にする必要はない。

 

「それよりも何か急いでいる用事があるんじゃないのか?」

「あ、そうでした!」

「こころがまた無茶なお願いをしてきた感じか」

「まぁ……そんなところです」

「今度はどんなお願いなんだ?」

「病院でライブが出来すると言い出して……」

 

 なぜ病院なのかはよくわからないが、これはまた大変なお願いごとだな。病院で楽器を鳴らすのはどう考えても無理な気がする。

 

「その…なんだ。頑張れよ」

「はい。ありがとうございます」

 

 CiRCLEを出て行く2人を見送り受付に戻る。すると冷たい視線を送っていた早乙女がスッと俺の隣に立った。

 

「手伝ってあげないんですね」

「バイト中だしな」

「バイトがなければ手伝いました?」

 

 いったいなにが気になっているんだろうな。

 

「……なにが言いたい?」

「Roseliaの時はいろいろ苦労しているように見えたので」

「そうでもない。ただ幼なじみと喧嘩しただけだ」

「幼なじみ……顔を合わせる度に注意されている方ですか?」

「そうなんだが……」

 

 どんな特定の仕方だ。というか注意されているところは割と見られているんだな。目につくような回数、俺は紗夜に注意されているってことか………。少しは治さないとこの先ヤバそうだ。

 

「そもそもRoseliaの時も俺はなにもしていない。少しだけ話を聞いただけだ」

「(そういうのを手伝っている……いいえ。気にかけていると言った方が正しいかしら。その言い方だと、今回も同じようなものですわね)」

「早乙女?」

「なんでもないですわ。それよりも、先程の方々が戻ってきたようです」

 

 入り口の方に視線を向けると奥沢さんと松原が戻ってきたようだ。

 

「どうだったんだ?」

「上の人に聞いてみると言われました」

「よく話が通ったな」

「事情を話したら聞いてくれて。それでも不安だけど」

 

 事情……今回はわけありって感じか。

 

「その事情というのは、なんでしょうか?」

「早乙女?」

「えっと……少し長くなりますよ?」

「大丈夫です。お客さんが来ても旭日さんが居るので」

「堂々とサボる宣言をするな」

 

 とりあえず2人の話を聞くことにした。

 

 

 

 

 

「というお話です……」

「そのあかりさんを笑顔にするために……。大変な挑戦ですね」

 

 交通事故で怪我をしたあかりという子を笑顔にしてあげたいらしい。交通事故がよほど怖かったんだろうな。リハビリしないと歩けない。わかっていても一歩前に踏み出せないほど。

 

 そういえば前に商店街を通った時、交通事故がどうとか八百屋の人と話したな。その被害者があかりらしい。

 

「こころらしい考えだな。そのうち鋼太さんも一枚噛んできそうな勢いだ」

「時すでに遅しってやつです」

 

 苦笑いを浮かべてそう答えた。つまりすでに鋼太さんがなにかしらしているのだろう。

 

「悪いな、引き止めて」

「ううん。またお話しよ」

「そうだな。大変だとは思うが、2人とも頑張れよ」

「ありがとうございます。失礼します」

 

 2人を見送り一息ついた。

 

「じゃあ俺はハロハピの代役を探してくるからロビーは頼む」

「わかりました」

 

 とりあえずAスタジオに行ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

CiRCLEロビー

 

 あれから数日経ったバイト終わり。

 

 ワイヤレスインターホンを返し忘れていた俺は紘翔と共にロビーに訪れていた。

 

「今日はなんだかあっという間だったね」

「そうだな」

 

 まさに紘翔の言う通りだ。メンバーがメンバーだったからか、比較的楽にバイトを終えることができた。狩場さんも居たことだし。

 

「2人とも、もう上がりか?」

 

 噂をすればなんとやら。

 

「はい。あとお願いします」

「気をつけて帰れよ」

「ありがとうございます」

 

 狩場さんは今日、夜中までだったな。終電間際までCiRCLEのスタジオ貸し出しをしているから残る人は大変だ。

 

「じゃあ帰ろうか」

「そうだな」

「外に居るの知り合いか?」

 

 そう言われて外に視線を向けると、おそらく俺と紘翔の帰りを待っているのであろう日菜の姿があった。

 

「そうですね。お先に失礼します」

「お先に失礼します」

「お疲れ」

 

 狩場さんに見送ってもらい俺と紘翔は急いでCiRCLEを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 すでに閉まっているカフェテリアに出ると俺たちに気づいた日菜が駆け寄ってきた。

 

「お疲れさま! 来ちゃった!」

「なにが来ちゃっただ。こんな時間に」

「2人が居るからいいかなーって」

「よくはないと思うけど、こんな時間に1人で返すのも良くないね」

 

 真っ直ぐ帰ればいいものを。まぁこういう時に来たってことは。

 

「今日は今日で、なにかあったみたいだな」

「さすがゆーくん。やっぱりわかっちゃう?」

「一段と楽しそうだなって思っただけだ」

 

 よっぽど話したかったからなのか。ただの気まぐれなのか。それは本人にしかわからないことだな。

 

「歩きながら話そう」

「うん!」

 

 

 

 

 

 と言った本人は蚊帳の外で2人の会話を聞いている。なんかアイドルっぽさの話をしているようだ。

 

「やっぱり彩ちゃんはキラキラしてるな〜って思ったの!」

 

 いったいどういうことだ。俺には今の言葉だけでは到底理解出来ないんだが。

 

「わかるかも。チケット配ってる時しか見たことはないけど、その時もなんだかキラキラしてて、アイドルって感じがしたよ」

 

 今のだけでそこまで理解出来たのか? 紘翔は日菜に対する異様な理解力があるな。俺にもその能力をわけてほしい。

 

「ゆーくんはどう思う?」

「どう思って言われてもな……」

 

 俺は最初に会った時の印象が強すぎてキラキラしているというよりは……あの時は別の意味でキラキラしていたな。話が逸れてしまったが、やっぱり印象はドジで少し頼りない感じだ。

 

 だが……一度決めたらどこまでもそれに向かって努力をしていける子なんだなって同時に思った。

 

「そうだな。ドジで頼りない感じもするが、5人の中では1番アイドルって感じがする」

「そっか〜。あたしはアイドルって感じしない?」

「日菜はどこまで行っても日菜だ。変わらない。それが良いところだと思う」

 

 同時に悪いところでもあるからまさに紙一重と言っていいだろう。

 

 そんなことよりもなぜキラキラしているだの、アイドルっぽさの話になったんだ?

 

「それで、この話の意図をそろそろ教えてくれるか?」

「えっとね。実は今日───」

 

 

 

 

 

 日菜から今日起きた出来事を聞いたが、なぜそんなに楽しそうなのかは俺では理解出来なかった。

 

 丸山は本番で歌わせてもらえないのにだ。

 

「事務所側にも事情があるとは思うけど、それはあんまりだと思うよ」

「まぁそうだよね。でも、これくらいのことで彩ちゃんは諦めるのかなって。あたしには想像出来ない」

 

 そのことには俺も同感だ。ここまで来て諦めて欲しくないという気持ちが大きいが、せっかく掴めたチャンスを無駄にするのはな。

 

 本番では録音って話はわかったが………納得はできない話だな。だがアイドルっぽいって話はいまだにわからない。

 

「麻弥ちゃんが言ってたんだけどね。自分を貫き通そうとする姿が、キラキラ輝いて見えたんですって」

 

 なるほどな。確かに……そう言われるとチケットをめげずに配っている姿が輝いて見えたという紘翔の話も頷ける。待て、紘翔はあの短い言葉から理解したのか? さすがとしか言いようがない。

 

「丸山は大丈夫そうだったか?」

「ん〜千聖ちゃんと話してから、ちょっとだけ元気出たみたいだけど」

「そうか。自分を見失っていなければ大丈夫だろう」

「そうだね」

 

 変わったのは果たしてどっちなんだろうな。今度、会った時に聞いてみるとしよう。

 

 そんなことを考えながら前を歩く2人の背中を眺める。ふと一瞬。同じような光景がフラッシュバックした。

 

 時々。忘れた頃にやってくるこれは……いったいなんなんだろうか。

 

 




2022/7/27 追記
リアルが忙しいので週1投稿ではなくなります。
月1更新はしたいと思います。
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