ガールズバンドに振り回される日常   作:レイハントン

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気が向いたので投稿しました。

もうすぐ卒業なんですね……。


第43話 諦めない

第43話 諦めない

 

花咲川女子学園前の通り

 

 紘翔とライブに出かけた日から数日の放課後。俺は特にやることがなく商店街をぶらついていた。あいにく紘翔は予定があるらしく一緒には居ない。……一緒に居てくれたらどれだけよかったことか。

 

「お願いします! 来てくれると"本当"に助かります!」

 

 なぜか俺はハロハピのメンバーに捕まっている。本当にどこをどうしたら後輩に頭下げられてお願いされる事があるんだろうか。

 

 今回はいったい何をするのか知らないが、とても不安そうな表情を松原が浮かべている。おそらくその元凶である3人はそっちのけで何かを話しているようだが? マイペースなんだか、バカなんだかよくわからない。

 

「待て。これからなにかしに行くのか?」

「この前話したあかりちゃんの所に行って、悟られないように好きなものを聞きます」

「聞きたい点がいくつかあるんだが……」

 

 こうなったら付いていくか。松原と奥沢さんがかわいそうに見えてきた。

 

「とりあえず歩きながら経緯を聞かせてくれ」

「ありがとうございます!」

 

 外に出るとこうなる運命なんだろうな。かと言って家にずっと引きこもっていると、『たまには外に出ろ』とお叱りを受けるし。八方塞がりとはまさにこのことだ。

 

「夕も来てくれるのね!」

「君が来てくれるのなら…心強い」

「これで百人力だねっ!」

「お前らの中で俺はいったいどんな存在だ」

 

 救世主じゃあるまいし。

 

「それじゃあ行きましょう!」

 

 3バカの後をついて行くように歩き始めると、2人が俺の隣に並んだ。

 

「頼んでおいてあれですけど……巻き込んでしまって本当にすみません」

「いいさ」

「今日は南雲君は居ないんだね」

「予定があると言っていた」

「そうなんですね」

 

 紘翔が居れば少しばかり気が楽だったんだが……居ない人に頼っても仕方ない。ここは出来ることをやるとしよう。

 

 そういえば病院でなんとかって言ってたような気もするな……昼休みに聞いたのはいいが、智紀が騒いでいてうまく聞き取れなかった。

 

「それで。あかりの件はまだ解決してないんだな?」

「うん。なかなか心を開いてくれなくて……」

「どんな子かはわからないが、大人数かつバカみたいに明るいのが3人居るとな。気が引ける」

「あははは……本当に先輩の言う通りですよね……」

「そこが良いところでもあり、今回の場合は欠点になってるわけか」

 

 明る過ぎるというのもそれはそれで問題になるとは………。話を聞いて見ないとわからないか。別の理由かもしれないし。決めるのは早いか。

 

「なんとかして笑ってくれるよう、いろいろやったんですけど」

「どの方法もダメか」

 

 ライブをしてもダメ。他には……漫才とかやってないよな? どのメンバーの組み合わせでも笑ってくれるとはとても思えないんだが………。

 

「ハロハピのライブは子供受けいいと思うんだが……それでもダメとなると」

「潮時なんじゃないかってこころには伝えたんですけど、ダメでした」

「こころはそう簡単に折れるとは思えない……というより笑わせるまでやめないだろう」

 

 奥沢さんと話している中、松原の表情がさっきと同じように暗いことに気づいた。なにか心当たりがありそうな気もするが。

 

「いろいろありまして、今から悟られないように好きなものを聞きに行こうってなりました」

「なぜ悟られないようになんだ?」

「それはですね」

 

 奥沢さんから作戦会議の内容を聞かせてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな。なぜ悟られないようにするかは微塵もわからないが、好きなものを聞き出したい理由はわかった」

 

 今も楽しそうに会話をしながら前を歩く3人の背中に視線を向ける。こころは普通に聞いてしまいそうだし、北沢は……意外と出来そうだな。瀬田は上手いこと聞きだけそうな気もするが、やはり心配だ。

 

「100%なんとか出来るわけじゃないと思うが、出来ることはするさ」

「はい。頼りにしてます」

 

 やれることをやるしかないよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院 病室

 

 来ておいてなんだが………俺は今、帰りたい衝動に駆られている。

 

「……ねえ、なんかみんな変だよ? 今日はなんで色々、あかりに聞くの?」

 

 質問ばかりしていたらそうなる。早くも悟られないようには無理な気がしてならない。

 

「べ、べべ別に? なっ、なにか聞き出そうなんてぜぜぜぜ全然っ、してないよーっ?」

 

 下手くそか。

 

「う、うん……っ。きょ、今日はいい天気だなーって」

 

 ま、松原……?

 

「今日、くもりだよ?」

 

 そうなんだよな。曇りなんだよな。

 

「みんな、あなたがどういう時に笑うのか知りたいだけモゴッ……!」

 

 今作戦を台無しにしようとした奴の口を塞いだのはミッシェルこと奥沢美咲。ナイスだ。

 

「こころ、あんたはこの作戦に向いてない。黙ってて」

 

 なにか言いたそうにしているこころの口から手をどけると、予想外のことを口に出した。

 

「どうして? あたし、ちゃんと遠回しに聞けてるわよ?」

「それを口に出してる時点で、アウトだってわかるまではダメです」

 

 こんなグダグダな感じでは無理か。さてと……どうしたものか。

 

「前も言ったけど、ほっといて」

「あかり……でも……」

 

 今までなにをしてきたらここまで言われるのかはわからないが、本人がそう言うのなら。しつこくするのもよくはない。

 

「そうか。わかった。では、あかり。君との最後の逢瀬の記念に、私からひとつ、言の葉を贈らせて貰えないかな」

「ことのは?」

 

 まぁ…そうだよな。

 

「シェイクスピア曰く、眼前の恐怖も、想像力の生みなす恐怖ほど、恐ろしくはない」

「想像力の……」

「恐怖……?」

 

 なにを言い出すのかと思ったが……あながち間違ってはいないと思う。

 

「それって、どういう意味?」

「(まあ、小さい子に、わかりやすく説明するのって難しいよね)」

「意味……?」

 

 一瞬瀬田の表情が変わった。

 

「意味は……つまり、……そういうこと、だよ」

「え? どういうこと?」

 

 小さい子に察してくれという方が無理か……。奥沢と松原はもう気づいているだろうか。瀬田が意味を知らないことを。

 

「だから、そういうこと、さ」

「そういうことだな」

「(え? もしかして薫さん、これ意味わかんないで言ってない? 旭日先輩も頷いてるけど大丈夫?)」

 

 なにかを察したのかミッシェルが俺の方に顔を向けてきた。俺は何も言わずに頷く。

 

 つまりそういうことだ。

 

「わかんないよーそれじゃあ」

「ふ……大人になれば……きっと…そうだね。君にもわかる」

「うーん。そうなのかなぁ?」

「大人って言っても看護師さんたちみたいな大人の人だから、気にすることはない」

 

 フォローになってない気もする。看護師さんは苦笑いだし。

 

「(絶対そうだ。わかんないで使ってるだけだこの人……)」

 

 大人ではないが、少なくとも高校生の俺でわからないんだ。大人になったところでわかるとは到底思えない。

 

「とにかく……あたし行く。もう変なこと聞きに来ないで。かんごしのおねえさーん……」

「ああ〜〜っ。ちょっと待って! じゃあ最後に一個だけ! いつも病室で何してんの?」

 

 その聞き方はうまい。本を読んでいるでも、アニメを観ているでも、何かを聞き出せればこっちのもんだ。

 

 しかし、あかりが話してくれる前に看護師さんが来てしまった。さっきまで居た人とは別の人だ。

 

「あかりちゃんお部屋に……戻るの?」

 

 俺の姿を見るなり少しだけ言葉を詰まらせた。この人……確か。

 

「お姉ちゃんたちとのお話、もういいの?」

「うん」

「あ、あかり……!」

「…….ジャー」

 

 小さい声でなにかを言ったような………。

 

「ハッピーレンジャー見る」

「あ、日曜の朝やってるやつ」

 

 日曜日の朝か。俺も昔そんなのを見ていた……記憶がない。昔から休みだろうと学校だろうと関係なく遅くまで寝ていたからな。休日はほとんど智紀と涼子に連れ出されていたし。

 

「ハロー、ハッピーワールド! の皆さん。いつも来てくれてありがとう。じゃあ行こうか、あかりちゃん」

「ね、ねぇっ、その何とかジャー、毎日見てるの?」

「……ん」

 

 ハロハピの面々に軽く会釈をする看護師さん。あの人は間違いない。母さんの担当だった看護師さんだ。会うのは亡くなって以来か……。

 

「行っちゃった……」

「旭日君? どうかしたの?」

「いや……なんでもない」

 

 今回はほとんどなにもしてやれなかったな。……せっかく頼ってくれたんだ。何か出来ることは……。

 

「ハッピーレンジャーなんじゃない? ……あかりの好きなものって」

「ええっ。そうなの!?」

「ミッシェルなぜわかるんだ? 超能力が使えるのか?」

 

 本当に……察しが悪いというか。バカというか。

 

「いや何となく察せないかな今の流れで。毎日見てるんでしょ。ハッピーレンジャー」

「奥沢さんの言う通りだが、確証がほしいな」

 

 そんな話をしていると。

 

「お姉ちゃんたち、ハッピーレンジャーの話してる?」

「あかりちゃん、好きだよね。退院したら、ヒーローショー観に行くって言ってたし」

 

 近くに居た男の子と女の子が教えてくれた。どうやら確実な情報に変わったらしい。

 

「ふふん。当たりじゃないのこれ」

「奥沢1人で来た方がよかったまであるな」

 

 4人に視線を向けるが、おそらくわかっていない3人と察した者が1人。松原はちゃんとわかっているんだな。

 

 子供たちの目線に合わせるために片膝をついた。

 

「いつもハッピーレンジャーを見ている時は楽しそうか?」

「うん! 普段あんまり話してくれないけど、ハッピーレンジャーの話はしてくれるよ」

「お兄ちゃんも好きなの?」

「そっちのお姉さんたちは好きかもな。教えてくれてありがとう」

 

 2人の頭の上に手を置いてから立ち上がった。

 

「悪いが松原は残ってくれるか? 帰りは俺が送っていくから」

「う、うん。私は構わないよ」

「どうして花音さんだけなんですか?」

「ちょっとな。3バカは頼んだぞ、奥沢さん」

 

 とりあえず4人だけを返して松原には残ってもらった。聞きたいこともあるしな。あかりに直接は確認出来なくても、確実にしておきたいことがある。松原のためにも。

 

 

 

 

 

 

 4人を見送った俺と松原はロビーの椅子に座っていた。さっきの看護師さんが戻ってくるまでの間だ。

 

「えっと……どうして私だけなの?」

「松原はなんとなく"理由"わかってるんじゃないのか? って思ってな」

「理由……?」

「あかりが歩こうとしない理由だ」

 

 そう言ってから横目で松原を見る。来る時に見せたあの表情。なんとなくわかっているんじゃないかって。

 

「100%わかってるわけじゃないよ? それでもいいなら……」

「構わない」

「前にみんなには少し言ったんだけどね。変わりたい、どうにかしたい、そう思ってても、動けないことがあるからって」

 

 変わりたい……どうにかしたい……か。俺の脳裏には紗夜の姿が浮かんでいた。まだその一歩は踏み出せてはいないが、少なくとも変わりたいと思っている内の1人だ。その気持ちがわかる松原もそうなんだろうな。

 

「なるほどな。だが……あかりに足りないもの。松原はもうわかってるんじゃないのか?」

 

 一瞬の間があったものの答えてくれた。

 

「………なんとなくは」

「自分と同じような感じだからこそ、わかった。あとは……道を示してあげればいい」

「道を? 私に出来るかな……?」

「私じゃない。私"たち"だろ? まだ確信を得ていないなら、得てからでも遅くはない。焦らずゆっくり考えればいいさ」

 

 なんでも1人で抱え込もうとするのはよくない。俺みたいにはなってほしくないからな。どうすればいいのかわからず、途方に暮れてしまった俺のようには。

 

 少しすると看護師さんが戻ってきたようだ。俺の姿を見るなり、会釈して歩み寄ってきてくれた。

 

 立ち上がって同じように会釈をする。

 

「久しぶりですね。元気そうで、なによりです」

「いちおうですが」

 

 元気そうというのは落ち込んではいなくてよかったという意味も含まれているんだろうな。………挨拶をしたくて残っていたわけではない。

 

「あかりちゃんのことで聞きたいことがあります」

「どんなこと?」

「足の怪我はもう治ってるんですか?」

「ええ。順調よ」

「そうですか。ありがとうございます」

 

 ということは。あとは勇気だけか。まぁ……普通怖いよな。こころや北沢たちのようにみんなが前向きに考えられるわけではない。

 

「他は大丈夫?」

「はい。俺たちはこれで」

「ちょっと待って! この後時間あるかな?」

「俺は大丈夫ですけど」

「私も大丈夫です」

「見せたいものがあるから着いてきて」

 

 そう言う看護師さんの後を着いていった。見せたいもの……全然予想がつかない。行ってみるしかないか。

 

 

 

 

 

 

 俺と松原は看護師さんと共にある病室へと訪れた。なぜ病院にグランドピアノがあるのかはよくわからないが、その周りに小さい子が集まって歌を歌っている。元アイドルと一緒に。

 

 そして奇遇と言うべきかなんというべきか。

 

「まさかこんな所で会うとはな」

「そうだね。松原さんが一緒なのは少し意外だけど」

 

 紘翔の用事とはこのことだったんだな。

 

「毎月何回かこうやってピアノを弾きに来てるんだよ」

「なるほどな。ピアノも出来て歌も上手い。さすが元アイドルだ」

「あはは。お母さんにそういう意識はないと思うけど」

 

 ピアノを弾きながら楽しそうに歌う紘翔の母親に少しだけ、母さんの面影を感じた。……生きていて、出会っていたら。きっと意気投合したんだろうな。

 

 というか元とはいえ芸能人の歌と演奏を生で聴いているのか。しかも伝説のアイドル(萩野情報)の。

 

 そんなことを考えながら演奏と歌を聴いていた時。看護師さんが口を開いた。

 

「旭日さんが考えた企画なのよ。歌の素晴らしさを伝えたいって」

「母さんらしい話です。自分が歌いたかっただけだと思いますけど」

「自分でも歌いたってよく言ってたのを覚えているわ」

「……そうですか」

 

 どこまで行っても母さんは変わらなかったんだな。

 

 こうして話を聞くたびに自分の心が締め付けられる思いをする。俺がもっと……ちゃんとしていれば。こんなことにはならなかったと。

 

 俺は……本当になにを───。

 

「今度は僕が弾いてくるから、よかったら聴いていって」

「そうさせてもらう」

 

 今度はお母さんの方ではなく紘翔がピアノを弾き始めた。そういえば初めて聴くんだよな。紘翔のピアノ。

 

 

 

 悔やんだって仕方ないことはわかってる。それでも考えられずにはいられない……俺はまだ一歩を踏み出しただけか。

 

 

 

 そんなことを考えながら紘翔の奏でる音を聞いていた。

 




果たして卒業まで書くことが出来るのか。
個人的には卒業式まで書きたいんですけど、接点がなさそうなのでキツイかもですね。

それではまた気が向いた時に。


2023/3/5追記
※ネタバレを含みます。





大学も"女子"なのですねバンドリさんや笑
徹底していらっしゃるところ、さすがです。
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